イラスト・高橋唯美

巻頭エッセイ/『心に響く、海』海で出会えた人々…。

  フリーライター・塩澤朋子
船厨スズキ目アジ科ブリ属を食す
キャビンの書棚「復讐する海・捕鯨船エセックス号の悲劇」
ボーティングチップスロープワークひとつでゲストを不安にする
YAMAHA NEWS 「第43回東京国際ボートショー」開幕、ほか
 
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フリーライター ● 塩澤朋子
 多島海が好きだ。その魅力は何といっても幾重にも重なる島影のグラデーション、刻々と変化する光と踊る海面……。南半球ニュージーランドの大都市オークランドから北へ200km余り、大好きな一帯がある。その名も『ベイ・オブ・アイランズ』。空から見るとよくぞその名をつけたり、無数の島々が点在する。リゾート地として知られた『パイヒア』から対岸の旧い風情の町『ラッセル』までフェリーでいく。対岸といっても突き出た半島の小さな湾の中を渡るだけだから眼と鼻の先、だが嬉しい事に21世紀になっても橋をかける様子がない。この箱庭のような湾の中を、フェリーで殆ど人間が歩くような速度で海を渡る。

 楽しみなのは、あらゆるクラスのボート、ヨットの品評会が見られることだ。バウがすとんと落ちたようなクラシックな形の小さな木造のボートから、近頃ではメガヨットまで勝手に品定めする。どんなに旧くても現役、手入れが行き届いていて気持ちが良い。内陸に造船には最適といわれたカウリの森があるからだろうか、この周りには規模こそ小さいのだが昔からの造船所が多い。カウリは無作為に伐採を続けたために絶滅の危機にあったのだが、今では保護区で守られている世界的にも貴重な樹木である。このニュージーランド固有のカウリで造られた船は博物館に飾られていてもおかしくないのだ。

 『アルマ・G』。かつてヘミングウェイでさえもその釣行に嫉妬したという1920年代から活躍した大衆小説家『ゼン・グレイ』が、この辺りで使用していた伝説のボート。カウリの木がふんだんに使われた、今では稀少なものだ。20世紀初頭の造りだから、エンジンや装備こそオリジナルなものでは無いが、数々の大物を釣り上げた逸話を持つ憧れのボート。友人のゲビン・クロスは名うてのキャプテンで、この辺りの海を隅々まで知っている。鯛釣りに行くだけでも、彼と一緒に『アルマ・G』に乗るのは楽しかった。彼の海と自然への知識は相当なものだったから。ゼン・グレイ気取って、ラッセル・ワーフから沖へちょうど9哩の尖った岩礁『ナイン・ピン』まで行ってみる。いつも魚山で海面が盛り上がり、カモメの群れが空を埋める。キャビンの中に転がっていた見覚えのあるボロボロの水色の表紙、釣り人のバイブル、ゼンがこの『ベイ・オブ・アイランズ』での釣り三昧の日々を描いた『アングラーズ、エルドラド』にも登場する、つとに知られたスポットである。その彼が家を建て直す為、愛艇を手放した。だがその後全く元気を無くしてしまった。彼のフィッシングタンクにはいつも海からの恵みで一杯であった。伊勢海老、雲丹、シマアジ、マッスル貝…。私はもうその恩恵には与れなくなってしまった。

 3年前に高齢で亡くなったゲビンの父上は常々「この辺じゃ一昔前まで魚の背中を歩いて島々を渡ったものさ」とこともなげに言う。ゲビンは囁いた。「親父はそう長くは無いから早くその当時の話を聞いておいた方がいいよ」と。だが間に合わなかった。80歳近いゲビンのママも筋金入りのアングラー。この辺りではシスターだってマーリンを釣る。「飢えるという事は、レイジーだという事よ…」マオリの老婦人が言う。「海に行きゃあ魚だって海老だって貝だって何でもある、海から獲れたものはミネラルが一杯だよ」どこかで聞いた事のある台詞…。そうだ、瀬戸内海の海辺の町で魚を売っていたお婆ちゃんの台詞。美味しい干物をくれたっけ。多島海ということは魚影も濃いということか。私は多島海の美しさに惹かれていたのか、それとも…。ゲビンはどうにも我慢できず、ボートを手に入れるそうだ。どうやら私はまた、多島海を満喫できる?!

 

塩澤朋子●しおざわともこ

東京都杉並区生まれ。フォトウェーブ主宰。出版社を経て、ビデオ・映像制作会社の企画・商品開発及びプロデューサーに。現在はフリーランスとして、プロデューサーとライターの2足のワラジをはく。ここ10年は1年の半分以上を国内外を取材で飛び回り、雑誌、新聞などにコラムや記事を書く傍ら、TV番組、ビデオクリップ、プロモーションビデオ等の制作も数多く手がける。特技は、ドアを外したヘリコプターでも荒れた海でも寝られること。



「カンパチ」
●まるまる一本のカンパチを手に入れた。さあ、どうしよう。刺身に塩焼き、照り焼き、煮付けとなんでもできる。刺身にした後、あら煮にするのもいい。今回は半分を刺身にして、残りをぶつ切りにして塩をまぶし、ダッチオーブンで蒸し焼きにしてみた。とろけるような肉質。良い塩を使うのが決め手だ。

 さて、問題です。
 アカバナ、オオイナ、イナダ 、カンパチ、ツバス、ハマチ、ヒラマサ、メジロ、ブリ 、モジャコ、ワカシ、ワラサ。50音順に並べたこれらのスズキ目アジ科の魚を三種類にグループ分けしてください。

 これに当たり前のように答えることができたら、まずまずの魚通ではないだろうか。
 まずひとつは、ヒラマサ。そしてアカバナとカンパチ。残りはすべて唯一の出世魚ブリの地方名も含めた呼び名でモジャコ、ワカシ、ワラサ、イナダ、ブリ、ツバス、ハマチ、メジロ、オオイナ。
 いずれも姿が似ていて日本中の暖流系にいる回遊魚。ゲームフィッシュとしても、食卓でも人気がある。地方によって様々な呼び名があり、さらにブリのように出世魚でこれだけ名前が変わるものだからよく混同される。たとえば一般的にモジャコといえばブリの稚魚を指すが、地方によってはイナダの稚魚のことをそう呼ぶので、ますます混乱する。
 好みはあろうが、ゲームフィッシュとして魅力的なのはヒラマサだろうか。ガツンとヒットするや否や水中を猛ダッシュで疾走することからスプリンターの異名も持ち、アングラーを魅了する。体長1.5m、重量は35kgにまで成長する。獰猛でルアーにも果敢にアタックしてくるのでジギングやトローリングでもいいし、カッタクリも面白い。これも好みによろうが、味は淡泊なので、脂ののったブリに軍配が上がるだろうか。今はまさに寒鰤の旬。1メートルを超える寒鰤は本当に美味い。
 一方、カンパチはかつて「マグロに飽きた通の食べる魚」 と言わていたこともある。2m近くになる大物も時にお目見えするが、大きくなると毒を持つケースもあるので避けたい。食べ頃はやはり2~3kgクラス。これも美味。

 坊主で港に戻り、後片づけをしていたら、隣の船がジギングで釣ったといって魚をくれた。さて、問題です。この魚はこれはブリ?それともヒラマサ? 体高のある、太くて短いカンパチでした。




「復讐する海・捕鯨船エセックス号の悲劇」

 著者/ナサニエル・フィルブリック
訳者/相原真理子
発行/集英社
定価:2,415円
 つい先日手に入れた「復讐する海・捕鯨船エセックス号の悲劇」は、19世紀で最も有名になった捕鯨船ピークォド号とエイハブ船長、そしてモービーディックの戦いを描いた『白鯨』の原体験の話である。エセックス号はメルヴィルのピークォド号であり、最後となった航海では21人が乗り込み、ひとりの脱船を除いた20名がモービーディックの行動を目の当たりにする。『白鯨』はピークォド号が沈没して幕引きとなるが、エセックス号では沈没した後、ホエールボートで8300kmあまりの航海を余儀なくされ救助者は8名。当時は最も悲惨な捕鯨として多くの船乗りの間で語り継がれたという。
 これまでのエセックス号の話は、そのほとんどが一等航海士であったオウェン・チェイスが書いた「捕鯨船エセックス号の難破」を元に作られているが、本書は当時キャビンボーイとして乗り組んでいたトマス・ニカーソンが残した回顧録を元に数多の記述と照らし合わせ、エセックス号の最後の航海を蘇らせた作品である。
 これまでにも海は多くの物語を育んできた。それら多くの先達の遺産があるからこそ、我々は教訓として海の恵みを享受することができる。小説を上回る史実は少ないが、エセックス号に起きた事件は数少ないその史実として挙げられるだろう。
 限りある時間の中で海と関わるとき、自然と対峙する心構えがいかに辛く大切なものであるか。過去に想いを馳ながらも帆を緩めることなく進んだ彼らの人生が鯨の息吹と共に伝わってきた。





 ゲストとしてボートに乗せてもらうときなど、オーナーの稚拙なロープワークを見て緊張度が高まってしまうというのは、笑い話ではない。
 30フィートクラスのセイリングクルーザーで通常使われるロープ(予備は除く)の長さはすべて合わせると300mになるという。このことだけでも船乗りにとってロープワークがいかに大切かが想像できる。そしてあらゆる場面を想定してその時に適ったロープワークができるというのは優れた船乗りの証でもある。
 船の上で使われるロープワークの基本は「結びやすく、ほどきやすい」(ほどきやすいというのはほどけやすいということではない)。そして基本としてロープの先に結び目を作る「ノット」、マストなどにロープを結ぶ「ヒッチ」、ロープとロープを結び「ベンド」の三種類からなる。
 ロープの結び方はそれだけで図鑑ができるほど種類があるが(4000種はあるといわれる)、もっとも基本的な結び方として「ボーラインノット」「エイトノット」「シートベンド」「ダブルシートベンド」「クラブヒッチ」「クリート結び」の6種類を覚えておけば、ゲストの前で恥をかくことはない。
 あるオールドセーラーはよくキャビンの中で酒を飲みながら、いつもロープをいじっていた。また仲間とどれだけロープワークを知っているかを競っていたりもした。こんな潮気をぜひ取り入れたいものだ。



「第43回東京国際ボートショー」開幕
2月5日から8日に渡って開催される東京国際ボートショー。ヤマハブースでは「海、とびきりの週末」をテーマに2004年のニューモデルを中心にしたボートや、マリンジェットなどを展示しています。ぜひご来場ください。またスペシャルサイトをオープンし、みどころ案内や会場の様子をレポートします。
ヤマハ発動機(株)ラグビー部ジュビロ マイクロソフトカップ参戦!!
ヤマハが企業活動の一環として支援するヤマハラグビーチーム(愛称:ジュビロ)が、この度、2月8日から開幕する「マイクロソフトカップ」に出場します。1回戦は2月8日、秩父宮ラグビー場で強豪チーム東芝府中を対戦相手に14時キックオフ。ジュビロに熱い声援をお願いいたします。尚、ソルティライフ読者の方には、割引価格でのご観戦もご案内させていただきます。ラグビー専用スタジアムで迫力ある熱い闘いをご観戦ください。


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【編集航記】
間もなく東京国際ボートショーが始まります。残念ながらここ数年、イベントそのものは縮小規模ですが、それでも、国内外のボートが一堂に会するイベントとしては国内最大だし、毎年楽しみです。ヤマハからは気になるボートが参考出品されますからご期待ください。ぜひお出かけを。会場は今年から幕張メッセに変わりました。お間違え無いよう、、、。(編集部・ま)

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