イラスト・高橋唯美

巻頭エッセイ/『心に響く、海』マイアミのセイルフィッシュ

  イラストレーター・高橋唯美
船厨季節を味わう江戸前の春告魚
キャビンのレコード棚「メンデルゾーン序曲集」
ボーティングチップス海図が読めますか
YAMAHA NEWS 「第19回大阪国際ボートショー」開幕、ほか
 
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イラストレーター ● 高橋唯美
 1980年、生まれて初めて訪れたマイアミの印象は、そう多くは無かった。
チャーターした54ftのボートでの釣りは陸の景色がはっきり分かる程度の距離でもカツオやワフーが釣れるんだっていうことと、コンポーズブルーの明るい輝きを放っている海が綺麗というものだった。当時の僕は、ここマイアミでボートショウをやっている事すら知らず、車の免許も取り消し中で行動の幅に限度があったせいもあり、それ以上の思い出はなかった。
ボートショウといえば、洋の東西を問わず多くが寒い時期にインドア中心に開催される。東京ボートショウもそうだ。
 故・大西JGFA会長が勧めるままに、87年に観に行ったマイアミボートショウは、東京ボートショウの少し後、2月の中旬という寒い時期の開催は他と変わらないが、世界的に有名な避寒地だけに、溢れる日差しの中でインドア、屋外、そしてフローティング展示されていた。盛大で豪華で陽気なショウに僕は完全にハマッてしまった。
 それからはほぼ毎年脚を運んでいるが、この十数年間で、マイアミの空気はすっかり変わってしまった。
 その当時はリタイアした老人達が、寒さから逃れてホテルに長期滞在することが主体の観光地だったから、街のあちこちに流れる空気は、まるで60年代の古き良きアメリカ的に豊かなノンビリとしたものだった。
 しかし、ここ数年、ホテルの塗り替え、建て替えがすすみ、オープンカフェテラス、クラブなどがオープン、若者向けの街に姿を変え、それと前後して、キューバや中南米から移り住んだ人々で街は占領されてしまった感がある。街の殆どの場所で耳にする言葉はスペイン語で、ここがアメリカの1つの州であることさえ怪しげな印象なのである。
 そんな街の様相の変化とは関係なく、今も当時と変わらないものもある。インターコースタル・ウォーターウェイの枝葉の水面では、マナティやトビエイや沢山のペリカンの姿を見ることが出来るし、ボートやヨットでいけるレストランの数は星の数ほど散在している。枝葉の水路から、一歩外海に出れば大西洋。マイアミの南西にあるキーウェストまでのキーズ(島々)の間は、メキシコ湾流と混ざり合い、世界的に名の知られた釣りの名所が点在する。
 しかし僕がマイアミを好きなのはそれ以外のところにある。数年前、取材でカイトフィッシング大会に出るボートに同乗したときのことだった。まぁ、キャプテンの腕も良いのだろうが、セイルフィッシュがバンバン釣れたのだ。さすがに鯵、鯖のようではないが、食いが良い時のハマチみたいな釣れ方だった。その時に何にショックを受けたのかといえば、沢山のセイルフィッシュが釣れた場所だった。淡い黄色やピンク色したホテル群の窓の形が分かるような岸からの距離、熱海だったらホテルや旅館のネオンが読めるような距離だったことだった。そして羨ましいことに、その大会は16回目として今年も開催されている。
高橋唯美●たかはしただみ

68年「平凡パンチ」誌にクルマのイラストを描き始める。翌69年「舵」誌にヨットのイラストを描き始めたのを皮きりに、ヤマハ、ニッポンチャレンジ(92年オフィシャルイラストレーター)、釣り誌などマリン関連を中心に多方面で活躍し今日に至る。都内に17フィートのボート、千葉県・館山に26フィートのセイリングクルーザー、沖縄・西表島に17フィートのボートを所有し、仕事にプライベートに海を満喫している。



「メバルといえば煮付け」
煮付けといっても様々。ここでは、なるべくシンプル、江戸前にならって下町風の味付けをご紹介。春の味をご堪能あれ。

材料:メバル2尾、
煮汁:砂糖小さじ1/2、酒大さじ1、みりん大さじ2、醤油大さじ2、水1・1/2カップ

1)メバルの鱗を丁寧に取り、腑を取り除いて水で洗う。
2)平鍋に煮汁を合わせ、メバルを重ならないように納める。姿煮にする場合は、型が崩れないよう冷たい煮汁から弱火で徐々に煮始めると良い。
3)20分ほど弱火で煮てから中火にして、煮汁をすくいかけながらさらに6~7分煮る。
4)少し冷ましてから皿に盛ってできあがり。

 元々「江戸前」とは文字通り江戸の目の前の場所のことだったが、いつしか、江戸の目の前の海で捕れる魚介を言うようになった。東京湾というと汚染された海を思い浮かべる御仁が多いようだが、多くの川が流れ込む江戸前の海は、元来、栄養分豊かな豊穣の海である。今でも穴子や蝦蛄、鱸、鰯など、東京湾の名産は多く、通には人気だ。
 そんな江戸前の魚たちの中で春告魚として愛されているのがメバルである。目が大きいことから一般的には眼張、または目張と書く。
 さて、春告魚といえば、その昔、いや、今でも、多くの人はニシンを指す。しかし、今ではすっかり捕れない魚、幻の魚になってしまい、とても春を告げる魚とはいえなくなってしまった。
 その点、眼張は北海道から九州に至るまで、日本中で釣れている(今のところは)。特に江戸前では、夜、ちょっとした防波堤から小さなルアーを泳がせると、果敢にアタックしてくる、貴重なゲームフィッシュなのである。
 さて、この眼張、大きいものでは30cmほどにまで成長するらしいが、今のところ、そんな有り難い眼張にはお目にかかったことはない。ちなみに、孵化後1年で9cm、2年で13cm、19cmになるのには5年かかるという。自ずとお持ち帰りのサイズは分かってくる。意味無く釣り上げて殺戮し、数年後には幻の春告魚なんて言われることのないようにしたいものである。





「メンデルゾーン序曲集」
 航海とはどんなに小さなデイクルージングであっても、港に帰り着いたとき、それがひとつの充実したドラマになっていたことに気づく。その中で、とりわけ印象深いドラマを上質な音楽で飾ってみると、実に生き生き、あの航海が記憶のスクリーンに映し出されて楽しい。メンデルスゾーンがゲーテの詩に寄せた「海上の凪と成功した航海」は、その最たるものといえよう。
 この曲を聴くたびに、僕には少年の日のディンギーでの初めてのクルージングが、ありありと思い出される。
 木管と弦のみによって静かに広がる序奏部。詩によれば“風が凪いで、波ひとつ立たず静けさに覆われた”早朝の海のイメージは、初めてのクルージングへの憧れと不安を抱いて海を見つめる少年を優しく包み込む。やがて陽が昇り、朝靄の向こうに水平線が見えはじめる。小さな波をいくつも越えて、小さなボートは湾の外へ向かう。
 やがてフルートのソロが風を呼んで、艇は軽快に海原を滑りはじめる。バウが波を切り、水しぶきが頬に心地よい。高揚する少年の心。軽快なアレグロ主部の詩の直訳は“霧が晴れ、空は晴れわたる。風の神(アイキロス)は固く締めた紐を弛める。急げ、急げ。波は分かれ、遠くのものが近づいてくる。もう陸が見えたぞ”。
 少年の小さなディンギーは巨大なクリッパーになって、波から波へ矢のようにとぶ。
 フィナーレ。ティンパニーの連打とファンファーレ。賑やかな湾内に帰り着いたとき、だれも迎えてくれているわけでもないのに、行き交うボートが、みな少年の小さな航海の成功を祝してくれているように思えて、喜びがこみあげてくる。そして満ちたりた優しいエンディング。
 すでにメンデルスゾーンの交響曲全集を録音しているアヴァドが、19歳の天才少年の曲の舵を取り、ぼくの少年時代のクルージングの思い出を飾ってくれる……。(K.H)





 道路に地図があるように、海には海図(チャート)がある。車にカーナビが積んであるように、ボートにはGPSが搭載されている。彼女とのドライブの計画を立てるのに、道路地図を見ながら心ときめかせるように、海でもクルージングの計画は海図を見て、夢を膨らませる。しかし、海図にはやはり道路地図とは異なる、特別な存在感があるといわざるを得ない。
 海図には様々な情報が盛り込まれており、これを読み込んで行くには、慣れと知識も必要である。海図は読みものであって、単なる位置情報を知るツールではないのである。
 一面に小さな数字が書き込まれているが、この多くは水深を表している。その他、底質、海岸の地形、暗礁、洗岩、航路標識、灯台の名称とその灯質、潮の方向やその速さなど、航海する者にとって、いずれも必要な情報ばかりであり、しかもそれは、GPSだけでは知ることのできないものだ。
 航海計画を立てるときは、海図にラムラインを引き、進路を決め、距離を計算し、さらに潮の速さを考慮しながら出港時間を決める。途中、避難することのできる港をチェックするのも海図に頼る。海図と沖から見た陸の景色を照らし合わせることができたら、まずまずの海図の読み手だ。
 濃い鉛筆で引かれたラムラインが錯綜する海図はシーマンにとって、ログブックと同じ意味を持つ。その一本一本から、彼の日の航海を思い起こすことができるのだ。



「第19回大阪国際ボートショー」開幕
3月5日から7日までの3日間にわたって大阪国際ボートショーが開催中です。ヤマハブースでは東京と同じく「海、とびきりの週末」をテーマに2004年のニューモデルを中心にしたボートや、マリンジェットなどを展示しています。ぜひご来場ください。
「YF-23SP」新発売
YF-23のウェーブスラスターブレードによる風流れ抑止性能や優れた乗り心地、広いアフトデッキといった特長をそのまま生かし、ハードトップを取り付けないオープンコンソールのスポーティなフィッシングボート「YF-23SP」が新発売。東京国際ボートショーでも注目されました。


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【編集航記】
あるパーティーで堀江謙一さんと同席する機会に恵まれた。私が見た銀幕の中のマーメイド号のスキッパーは、湘南育ちのタフガイだったが、こうして本物の「堀江謙一」を目の前にすると、映画スターとはまた違った圧倒的な存在感と潮気を放つ人なのだと気づく。月並みな言い方だが、穏やかな笑顔の中に筋の通った厳しさが見え隠れする。自然の極限とその優しさをも知っている人の顔。今年の秋、40年前の「太平洋ひとりぼっち」の航海を再現するのだという。良い航海を祈りたい。(編集部・ま)

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