FJR1300AS 開発ストーリー

›› プロローグ ‹‹
ツーリングカテゴリーの最高峰モデルが
さらに先進性を極めた

このたびヤマハ・ツーリングカテゴリーの最高峰モデルである「FJR1300A/AS」をマイナーチェンジしました。2001年の欧州デビュー以来、FJRはシルキーでトルクフルなエンジン特性と長距離高速巡航性能、そして高い快適性能と俊敏な運動性能によって“スポーツツアラー”という新しいカデゴリーを造り上げ、牽引し続けています。そして2013年の大幅なマイナーチェンジとときを同じくして日本での販売がスタート。そのマイナーチェンジではエンジンやフレームといった車体のコアとなる部分はその基本骨格を受け継ぎましたが、一方で最先端の電子制御技術を駆使し、快適性とバイクを操る楽しさという、FJRの核となる部分を大幅に進化させました。

開発コンセプトは『頂点スポーツツアラー、FJRブランド熟成~より楽しく、より快適に~』。その主たるディテールが6速トランスミッション化であり、灯火器類のフルLED化であり、コーナーリングライトの採用なのです。

前回のモデルチェンジから3年が経過したことで、この歳月によって進化した新しい技術や、それを実現するためのさまざまなソリューションを合わせ、貪欲にFJRを進化させました。じつはヤマハのなかでFJRは、最新技術を積極的に盛り込み、ツーリング領域でユーザーメリットとしてその先進性を具現化する最高峰モデルに位置づけています。同様に、スポーツライディングの領域で先進性を具現化するのが、2015年の鈴鹿8時間耐久ロードレースで19年ぶりにヤマハにタイトルをもたらしたスーパースポーツモデル「YZF-R1/R1M」です。

FJR1300A/ASとYZF-R1/R1M。ヤマハのラインナップのなかでは対極に位置しているように見えるのは、目指している山の頂が違うから。しかしヤマハらしくありながら、その未来を見据えて先頭を走るその姿や心意気は同じなのです。

それでは、新しい「FJR1300A/AS」を紹介しましょう。

›› 6速トランスミッションおよびA&Sクラッチの採用 ‹‹
快適性とスポーツ性を高める
6速トランスミッションとA&Sクラッチ

「FJR1300A/AS」では、あらたに6速トランスミッションを採用しました。デビューより我々は、FJRは5速トランスミッションでも、快適性とスポーツ性の両立を実現できていると自負していました。しかしより高い快適性を求めるお客様からの要望に応えるとともに、新技術も取り入れ小型で軽量なトランスミッションを目指し、6速化を実現しました。

その鍵となったのが「セパレートドッグ構造のトランスミッション」です。シフトチェンジをしたとき、トランスミッションは歯車の組み合わせを変えることで変速します。そのため各歯車にはクラッチの役割を果たす“ドッグ”と呼ばれる凹凸(おうとつ)を持っています。今まではその凹凸が歯車と一体化した“ドッグ一体ギア”をシフト操作で移動する構造を採用していました。しかしこのFJRでは、歯車とドッグをそれぞれ別体にした“セパレートドッグ構造”を採用。多数の歯車が重なり合うトランスミッションで個々の部品をシンプルに、そして軽量にしています。

また“セパレートドッグ構造”としたことで各速の歯車に、回転方向に対して歯が傾斜した歯車/ヘリカルギアも採用。斜めの歯によって、歯が噛み合ったときの接触面積を大きく取ることができ、歯車を薄くすることができるのです。したがって6速化に伴い歯車を1枚追加しても、トランスミッションとしては従来の5速と変わらない幅に収めています。それによってクランクケースも従来のまま。小加工のみで6速トランスミッションを搭載しています。また“セパレートドッグ構造”としたことで、従来の“ドッグ一体ギア”より小さくて軽い“ドッグ”の移動だけでシフトチェンジが可能になるためシフト操作が軽くなっています。

しかし、ただ1速加えただけのオーバードライブとしての6速ではなく、FJRのコンセプトが生きる“使える6速”を目指し、1速から6速までの各ギア比を設定しました。高速巡航時にエンジン回転を低く抑え燃費を稼ぐことを目的とするのではなく、巡航域からでもライダーの意思とアクセル操作に合わせてしっかりと加速する。それこそが“使える6速”なのです。欧州は日本に比べてライダーの体格が大きく、また二人乗りや荷物の積載重量が重いうえにスピードレンジも高い。FJRはそんな使い方でもスポーツツアラーとしての性格をしっかりと感じ取れなければならないのです。また日本では速度域も積載重量も低い傾向にあり、高速道路走行時などではエンジン回転数がわずかに低くなりますが、そこでも私たちがイメージしたスポーツツアラーとしてのFJRを、しっかりと感じて頂けると確信しています。

快適性とスポーツ性を両立させるためには、あらたに採用したA&S(アシスト&スリッパー)クラッチも貢献しています。このクラッチは内部に斜めに噛み合うカムを設けていて、加速時にはエンジンの回転トルクでその斜めのカムがクラッチプレートの圧着力を強める方向にアシストします。これによりクラッチスプリングの反力を弱めることが可能となり、クラッチレバー操作が軽くなりました。減速時は逆にリヤタイヤからのバックトルクでクラッチの圧着力を減らす方向にカムが作用し、半クラッチに近い状態を造り出します。このためシフトダウン時など過度なエンジンブレーキが掛かったときにも車体挙動を抑えた滑らかな減速が可能になっています。この機構はYZF-R1/R1M、そしてXSR900にも搭載されていますが、FJRにはその特性に合わせて専用セッティングを施し装備しています。

›› LEDヘッドライト&コーナーリングライト ‹‹
夜のライディングをサポートする
LEDヘッドライトとコーナーリングライト

「FJR1300A/AS」は、本モデルチェンジでヘッドライトをLED化。またすべての灯火類をLED化し、それにより灯火類の消費電力は、LED化以前に比べ60%も低減。電子制御技術の装備に加え、電力を必要とするアクセサリー類の充実などで消費電力が高まるなか、おおきなメリットを得ることができました。

しかしヘッドライトのLED化は想像していたよりもずっと大変な作業でした。その理由はLEDの指向性の強さでした。照射範囲が狭いだけでなく、照射範囲の境界線がハッキリとしているのもLEDの特徴。照射エリアとそうでない部分とのコントラストが強く、照射できない部分が一段と暗く見えるのです。そのコントラストを中和し、また照射範囲を広げるためにリフレクターを徹底的に造り込みました。いや、今までに無いほど作り替えました。その甲斐あって、LEDの特徴である明るさと、バルブライトの配光の良さを両立させたヘッドライトができたと自負しています。

また「FJR1300AS」には、国内メーカーがラインナップするモデルとしては初めて“コーナーリングライト”を装備しました。バイクはコーナーで車体が傾くと光源が倒れ、進行方向のイン側が見えづらくなります。それを補正するのがコーナーリングライト。車体の傾きに合わせて従来では光が届かない方向を照らし、ライダーの視界をサポートする機構です。

コーナーリングライトは左右ふたつに分かれたヘッドライトの上側に、左右それぞれ三灯を配置。車速やバンク角などに応じて、三つのライトがヘッドライト照射範囲を補足します。あるバンク角を境に、スイッチをON/OFFするように三つのコーナーリングライトが点灯と消灯を繰り返すのではなく、三つのコーナーリングライトを無段階で調光。分かりやすく言えば、ジンワリと明るくなったり暗くなったりを繰り返すのです。スイッチを操作するかのようにコーナーリングライトが点滅すると、それはライダーにとって使える機能では無くなってしまいます。ライダーが違和感を感じない、可能な限り自然なシステム作動を追求しました。

そのシステム作動を可能にしたのがIMU(Inertial Measurement Unit/イナーシャル・メジャーメント・ユニット)を含む電子制御システムです。「IMU」は走行中の車両の“前後/左右/上下”の3軸方向の加速度と、“ピッチ/ロール/ヨー”の3軸方向の角速度を検出し、その情報を瞬時に演算フィードバックする6軸センサー。スーパースポーツモデル「YZF-R1/R1M」にも搭載され、スポーツライディングに特化した、その先進的な電子制御技術を支えています。

「FJR1300AS」では、その「IMU」からの信号をヘッドライトに配置したコーナーリングライト専用の制御ユニットで受け制御しています。深夜のワインディングはもちろんですが、市街地や高速道路でもその効果を感じて頂けます。このコーナーリングライトは、実走し人間の目で確認しながら造り込むしか方法が無く、今までにないほど夜間にテストコースを走り込みました。LEDヘッドライトを装備したこともあり、その明るさや配光とのバランス調整に大いに苦労しました。

›› デザイン ‹‹
最高峰モデルに相応しい
装備とデザインを追求

新たにLEDヘッドライトを採用しましたが、ヘッドライトレンズやカウルは前モデルから変更していません。そのことがLEDヘッドライトの配光を決めるときの制約となってしまったのですが……しかしLEDヘッドライトの採用で、フロント周りの印象は大きく変わりました。リフレクターなどの造り込みにより、より精悍になったのです。またコーナーリングライトを搭載する「1300AS」と搭載しない「1300A」では、ヘッドライト上側のエクステンションラインを変更し、異なる印象を造り上げています。

テールライト周りもデザインを変更しました。通常、テール周りにLEDを採用すると小型化する傾向にありますが、FJRは逆に、少し大型化しました。またテールレンズ外側のアウターレンスのほかに、二枚のインナーレンズを使い、光帯のカタチや配置、光らせ方にもこだわりました。FJRに追い抜かれたときの、去り際の印象は非常に重要です。そこでフラッシャーライトが点灯したときのFJRらしいダイナミック感を演出したかったこと。そしてヤマハ・ツーリングカテゴリーの最高峰モデルらしい後ろ姿を演出するために立体感のあるテールライトを目指したからです。

またメーター周りにも小変更を加えています。スピード計や燃料計、走行モードなどを表示する中央の液晶ディスプレイは表示画面のデザインを変更。針式のエンジン回転計は文字盤のデザインや数字の書体なども変更しています。そしてメーター類をカバーしているレンズにも変更を加えました。FJRのメーターはレンズ面が大きく、景色や光りが映り込みやすいのです。そこでレンズ表面にシボを入れ、照り返しや映り込みを抑えることでメーターの視認性を向上させています。シボが大きかったり多すぎたりすると、メーターやディスプレイがぼやけて見えてしまうので、その加減を調整しながら詳細を決定しました。

新しい試みとしては、ライディングウエアブランドが開発した着用型エアバッグシステムの、車体側センサーを搭載できるようにスペースや配線を確保しています。欧州では、そのライディングウエアブランドの一部販売店でセンサー取付を行うことができます。着用型エアバッグは欧州での着用率が加速度的に増えています。我々はアクシデントを回避するために電子制御技術を駆使し、車体側でさまざまな制御を行っています。しかし着用型エアバッグは、起きてしまったアクシデントに対して、そのインパクトの軽減を試みるもの。今後はそういったライディングギアメーカーとの協力によって、安全性や快適性を高めていく可能性も少なくありません。そう言う意味でも、「FJR1300A/AS」は初めてそういったシステムにアプローチした車両でもあるのです。

›› エピローグ ‹‹
ライダーの感性に呼応する電子制御

「FJR1300A/AS」には、ヤマハが持つ最新の電子制御技術を多数採用しています。スムーズさと力強さを兼ね備えた、優れたドライバビリティを引き出す「YCC-T(ヤマハ電子制御スロットル)」。“Tモード”と“Sモード”の2種類のエンジン特性を選べる「D-MODE(ドライブモード)」。滑らかな発進性を実現する「TCS(トラクション・コントロール・システム)」。ABSにくわえ、リヤブレーキを操作したとき、液圧がある一定の圧力以上になるとフロントブレーキが効く連動ブレーキシステム「ユニファイドブレーキシステム」。1300ASモデルに採用した「電動調整サスペンション」は“一人乗り/一人乗り+荷物/二人乗り/二人乗り+荷物”の四つのサスペンションセットがあり、さらに走行条件変化や好みによって各セットから“ソフト/スタンダード/ハード”の減衰力セッティングを選ぶことができます。また同じく1300ASモデルに採用している「YCC-S(ヤマハ電子制御シフト)」はクラッチ操作を必要とせず、左ハンドルスイッチの周りボタン操作かシフトペダルを操作することでライダーが積極的にシフト操作を行うことができると同時に、減速時は車体の状態を各センサーが検知し自動的にシフトダウン。停止間際になると1速までシフトダウンし再加速を容易に、かつスムーズに行います。もちろんライダーが自分の意志でシフトダウンすることも可能です。

先にも述べたとおり「FJR1300A/AS」は、さまざまな最新技術を積極的に盛り込み、ツーリング領域でユーザーメリットとしてその先進性を具現化する最高峰モデルに位置づけています。しかし、ライディングにおける主役はライダーであることに変わりありません。その“ライダーの感性”に対するマシンの呼応を、アナログの領域より高い次元で実現するのが電子制御であると考えています。

今回のモデルチェンジにより「FJR1300A/AS」は、その領域をさらに広げたと自負しています。