ずっと走り続けていきたい道が、ある。

開発者インタビュー ライダーの感性に響くバイク造りと電子制御技術の融合

1996年ヤマハ発動機入社。クルーザー系、2000年~2007年型のYZF-R1、大型スクーターの車体設計を担当したのち、FJR1300AS/Aのプロジェクトリーダーを担当。

スポーツツアラーカテゴリーの先駆者

スポーツツアラーカテゴリーの先駆者
2000年のドイツ/インターモトショーでデビューし、翌2001年にヨーロッパで発売したFJR1300は、「ヨーロッパ横断ツアラー」として二人乗りで10日間のべ3,000kmのツーリングに対応できるシルキーかつトルクフルなエンジン特性、長距離高速巡航性能、快適性能を持ちながら、俊敏な運動性能を併せ持つキャラクターによって「スポーツツアラー」という新しいカデゴリーを造り上げました。そして、ヨーロッパのライダーたちから熱い支持を受け、10万台に迫る累計販売台数(2012年度までの累計販売台数)となっています。2013年モデルとして欧州に導入した新しいFJR1300A/ASのコンセプトは『ダイナミックツーリング』。快適性とバイクを操る楽しさ。FJRのコアとなる、そのふたつの要素をさらに広げ、ダイナミックなツーリングが楽しめるマシンに進化させました。進化のポイントは基本性能の向上と、電子制御技術を採用することにより快適性や操る楽しさをさらに引き上げたことにあります。この「FJR1300AS」および「FJR1300A」を、ついに日本のバイクファンの皆様に紹介させていただく時がきました。

高い基本性能とさらなる熟成

高い基本性能とさらなる熟成
開発にあたり先ず考えたのは基本性能の向上でした。しかし新型FJRではフレームやエンジンなど、マシンの基本骨格については大きな変更を加えていません。初代デビュー後、ABSを追加搭載、外観を一新し「ユニファイドブレーキシステム」を採用、「YCC-S(ヤマハ電子制御シフト)」を搭載するなど、先輩技術者が作りこみ、進化・熟成を進めてきたFJRです。今回検討を進めるほどにその完成度の高さに驚きました。そして、そのバランスを維持しながら、さらに熟成を進めることでステップアップしていこうと決断しました。エンジンは燃料供給系から排気系まで総合的に最適化を図りました。具体的にはダイレクトイグニッションや放熱性に優れるライナーレス直メッキシリンダー、フリクションロスを低減する低張力ピストンリングなどを採用しています。また、エキゾーストパイプの管長や触媒位置、またエアファンネル形状の変更により、優れたトルク特性と出力特性を引き出しています。またサスペンションの内部構造の見直しとセッティングを施し、新たに採用したラジアルタイヤの性能や特性と合わせ、ツーリングモデルとしての安定感と、スポーツモデルとしての軽快感を併せ持つFJRらしいハンドリングを磨き上げ、造り込んでいきました。フロントカウルの形状変更にともない、その空力特性にも徹底的にこだわりました。ツアラー目線で考えると、カウルを大きくしてプロテクション性能を高めていくこともできますが、それではFJRらしさであるスポーツ的要素、軽快感に悪影響を及ぼしてしまいます。このプロテクション性能と軽快感のバランスを造り上げるのにとても苦労しました。カウルは風を逃がすだけではなく、適度に走行風を取り入れて居住空間の風圧をコントロールすることが大切です。今回はスクリーン下側のアッパーカウル中央にエアインテークを設けることで、その風圧をコントロール。快適な居住空間を造り上げることができました。

ライダーの感性に呼応する電子制御

ライダーの感性に呼応する電子制御
「FJR1300AS」および「FJR1300A」には、ヤマハが持つ最新の電子制御技術を多数採用しました。しかし、ライディングにおける主役はライダーであることには変わりありません。その「ライダーの感性」に対するマシンの呼応を、アナログの領域より高い次元で実現するのが電子制御と考えています。例えば、スロットルバルブ駆動にはYCC-T(ヤマハ電子制御スロットル)を採用しています。これによって、吸入空気量をよりキメ細かく調整することが可能となり、スムーズなスロットルレスポンスと力強さを兼ね備えた、優れたドライバビリティ引き出しています。また、電子制御で可能になった選択機能は「シンプルに使える」ことを意識しました。エンジン特性を選べる「D-MODE」は“Tモード”と“Sモード”の2種類とし、それぞれのモードのキャラクターをしっかりと作り込みました。滑らかな発進性を実現する「トラクション・コントロール・システム」はON/OFFの選択のみとしています。1300ASモデルに採用した「電動調整サスペンション」は“1人乗り”“1人乗り+荷物”“2人乗り”“2人乗り+荷物”の4つのサスペンションセットがあり、走行条件変化や好みによって各セットから“ソフト”“スタンダード”“ハード”の減衰力セッティングを選ぶことができます。さらに細かく調整したいライダーのために、ここからさらに減衰力を微調整することも可能です。このサスペンション調整のほかに、電動調整スクリーンやグリップウォーマーの調整、オド・トリップなどの表示切替などの操作は、左ハンドルにある“多機能ハンドルスイッチ”に集約し、メーターパネル右側に配置した“ドットマトリックスディスプレイ”と合わせ、直感的に操作できるようにしました。そのためにはディスプレイするグラフィックはどうあるべきか。ライダー目線でしっかりと造り込みました。

電子制御技術を多数採用すれば、エンジン特性やサスペンションセッティングなど、事細かに“オススメセット”を造ることや、微調整機能を持つことができます。しかしバイクにできることとライダーがそれを使えること、そしてライダーが楽しめることとは別の話だと思います。できることが沢山あるなら、それらをすべて折り込んでおけば良いじゃないかという議論もありました。しかし、それは機能を複雑にし、複雑な機能はいずれ使わなくなるとも考えられます。私たちがFJRで目指したのは、ツーリングの中で積極的に使えて楽しみの幅を広げてくれる機能、それを容易に体感できるというものです。ここは、本当に深く議論をしました。その結果、多機能でありながらも可能な限りシンプルに使える造り込みをしました。ライダーが使う、と言うところで言えばASモデルに採用している「YCC-S(ヤマハ電子制御シフト)」の操作フィーリングについても深く議論しました。「YCC-S」の採用によりクラッチレバーは無く、クラッチ操作は電子制御でおこないます。街中を走るような微少なアクセル開度でシフトチェンジを行うと、ほとんどショックを感じません。ただ、ワインディングや高速道路など、積極的にアクセルを開けてバイクを操っている場合は、シフト操作時の挙動、とくにシフトアップ時の挙動をあえて残しています。シームレスな加速の究極は、無段階変速のCVTです。しかしそれでは、FJRらしくありません。シフトアップ時にその挙動を感じることで「ダイナミックな操作感」を感じ、バイク特有の、加速のリズムを作って楽しむことができる。そう考えました。また、シフトチェンジの操作は、技術的にはハンドルスイッチのボタンだけでもよく、シフトペダルを取り払うことができるのですが、FJRではバイクらしい操作性を重視して、シフトペダルでもできるようにしています。

FJRらしいクリアな表情と機能を追求したカタチ

FJRらしいクリアな表情と機能を追求したカタチ
FJRは初代からフロント周りとリア周りで、表情を変えています。フロント周りはカウルがあり、その形状はデザインだけでなくウインドプロテクション性能に大きく影響を及ぼすパートです。今回、このカウル形状を一新しました。FJRは初代モデルから電動で調整が可能なスクリーンを持ち、そのメリットを活かしたデザインを採用していました。それはスポーツ走行性能とウインドプロテクション性能の両立です。スポーティで軽快なハンドリングを実現するためにはカウルを低く抑えたい。でもツーリングに有利な高いウインドプロテクション性能を得るためにはカウルを立てて大きくしたい。このふたつの要件は相反するのが一般的です。しかし電動調整スクリーンを採用することでヘッドライト位置を下げ、カウル位置を低く保ちながら、必要なときだけスクリーンを立ててウインドプロテクション効果を高めることができるんです。新型FJRはその基本的な機能を継承しながらボリューム感を抑え、「ダイナミックツーリング」コンセプトを具現化するデザインとしました。そのカタチはアグレッシブさを強調したシャープなイメージとしながら、プロテクション効果も高めました。膝周りには可動パネルを設けていて、カウル下側のウインドプロテクションを調整することができるようにもしています。同時にカウル表面に装着用ボルトが出ない、フラッグシップモデルのFJRにふさわしいクリーンで上質なボディ面を目指しました。そのためにカウルを構成するパーツの形状や合わせ面をしっかりと造り込み、アッパーカウルを一体成型したのもそのためです。一方、リア周りはツアラーとして装着率の高いパニアケースの装着を考慮し、グラブバーやステーを活かした機能的なスタイルとしています。もちろんパニアケースを装着してもしなくても、どちらも格好いい後ろ姿をしっかりと造り込んでいます。

使える機能。広がる世界

使える機能。広がる世界
「FJR1300AS」および「FJR1300A」はヤマハの最新の電子制御技術を存分に投入し開発しました。電子制御技術を駆使したフィーチャーはただ動けば良いというものではなく、それが動いたときにライダーがどう感じるかという感性の造り込みを徹底しました。それはスクリーンが動く速度、トラクションコントロールはどう効けば良いのか、Dモードの種類とそれぞれのドライバビリティはどうあるべきか…などなど、その項目は多岐にわたりました。その結果、走行性能も快適性能も格段の進化を遂げ、「ライダーの感性に響くバイクを創る」という、ヤマハの企業風土を色濃く反映したプロダクトとなりました。Tモード選び、スクリーンを高くして、クルーズコントロールを使って高速道路を快適に長距離移動。旅先のワインディングに入ったらスクリーンを下げ、Sモードを選び、電動調整サスペンションのセッティングをハードにして積極的に走ってみる。これはFJRの楽しみ方「ダイナミックツーリング」のひとつです。皆さんのバイクライフに合わせて、FJRを使い込んでいただければと思います。
YCC-Sとは機構でもあり概念でもあります
YCC-Sは私たちヤマハにより2006年に世界で初めて市販2輪車に搭載された機構で、一般的にはAMT(Automated manual transmission)と呼ばれる分類に入ります。
既存のエンジン・トランスミッションをそのままに、人が行なっていたクラッチ、シフト操作を2台の電子制御アクチュエータが受け持つという、単純ながらしかし極めて奥の深いシステムです。ごまかしの効かないシンプルさ故に、人と機械(=モーターサイクル)はどう関わり合うべきかを常に問われるシステムでもあります。この様な背景から私たちはYCC-Sを機構という枠を超え概念として扱っています。
YCC-Sのもたらすもの
YCC-Sによって私たちが目指すもの、それは「人が操る」という事の探求と実現です。変速をもっと楽しく安定して楽しめたとしたら、FJRの持つ大排気量モーターサイクルの魅力はよりはっきり感じ取れる事が出来るでしょう。その為に機械側の変速動作が早過ぎても遅すぎても、変速ショックが大き過ぎても小さ過ぎてもいけません。様々なシチュエーションで人と機械の絶妙な関係を追及した結果、YCC-Sモデルならではの走りを実感していただけるものになったと確信しています。
挑戦は続きます
YCC-Sは私たちヤマハが新しく2輪の世界に持ち込んだ技術であると同時に、私たちからのメッセージでもあります。モーターサイクルの持つ能動的な魅力をいかなる状況においても安定して楽しんでいただける事を目指し、私たちは挑戦を続けます。
         

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