巻頭エッセイ/心に響く、海  「朽ち果てたヨットの記憶」
  『KAZI』編集長 田久保雅己
船厨 「カツオのマヨネーズ丼」
キャビンの書棚 「海の名前」
ボーティングチップス 夏の海、足元を決めるのは。
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 遠浅の海岸はアサリやハマグリなど貝類の宝庫だった。母は暗いうちから私を背中におぶって、季節の貝を拾い集めることが仕事の一部だった。籐の篭いっぱいに貝を詰めると、私を下ろし、その篭をいくつも重ねて前屈みになるほど背負い、国鉄に揺られ、秋葉原あたりへ街頭売りに出ていた。
 そういうわけで遠浅の浜は、私の庭であり遊び場でもあった。
 あるとき、一人で浜に出た。
 記憶の周囲はうっすらとグラデーションがかかっているのだが、その中心にある場面はモノクロ映画のような動きを伴って、私の脳裏に鮮明に残っている。
 目の前に広がる遠浅の海は、干潮のため、子どもの視線で見渡す限り泥の海であった。所々に黒く汚れた竹の杭が刺さっていて、けっして美しいとは言い難い光景だった。といっても、あの頃は、いわゆる青く澄みわたった海を見たことがなかったのだから、比較のしようもなかったのだが・・・。
 その日、私は海水との切れ目の泥の上に、マストを傾け、斜めに横たわっている舟を見つけた。子供の私にはそれがとてつもなく大きく見えた。恐る恐る、その舟に足を向けた。
 近づくほどに胸がドキドキしてきた。今思えば、20フィートに満たない小さなクルーザー型ヨットであった。何の知識もない少年はコクピットへ、そおっと身を入れた。心臓の鼓動は絶頂に達していた。キャビンへの入り口から中へ、抜き足差し足で入っていく。ガタン! と自分の体重で舟が傾き、心臓が飛び出しそうになる。
 簀の子を張った床にかがみ、気持ちがやっと落ち着いた。転がっているアルミの食器や箸が生活を感じさせる。壊れたハッチから船内に日が差し込む。
 「なんと居心地のいい空間なんだろう」
 裏山で基地遊びをしていた少年は、この海の上に浮かぶ小さな空間に感激していた。この舟でどんな海を走るんだろう。この狭い部屋でご飯を食べたり、寝たりするのかな。現実の舟を見ながら、撫でながら、夢を見た。日が暮れる寸前まで舟の中で夢を見ていた。
 翌日、舟に行ったかどうかは記憶が薄れているが、次に行ったときには跡形もなかった。以来、私はあの感動を忘れていた。このモノクロ映像が蘇ったのは、大学のヨット部に入った頃だったように記憶している。
●田久保雅己(たくぼまさみ)略歴
1953年6月18日、千葉県津田沼に生まれ、東京育ち。明治学院大学時代はヨット部に所属、主将として、クルーザーのスキッパーとして、神奈川県諸磯をベースにクルージングやレースで活躍。卒業後はヨット・ボート専門出版社(株)舵社に勤務。以来、26年間、雑誌『KAZI』を中心とした出版業務に従事、現在は常務取締役編集長。取材活動を通じて訪問した国は20カ国以上におよび、内外のマリン事情に精通。KAZI誌のみならず他誌にも執筆。プレジャーボート関連ラジオ・テレビ出演のほか、各地で講演も行っている。



「カツオのマヨネーズ丼」
材料:カツオ適量、きゅうり1本、レタス3~4枚、たまねぎ1個、マヨネーズ適量、醤油適量、ご飯
作り方
1) カツオ(さしみ用半身の分量が目安)は蒸し器で10分程蒸す。柔らかく蒸すのがポイント。
2) レタスときゅうりは千切りにする。たまねぎは薄くスライスし水にさらす。
3) 蒸し上がったカツオをさまし、一口大に手でほぐす。
4) 丼にご飯をもり、2のレタス、きゅうり、たまねぎをのせカツオを真ん中にこんもりと盛り付ける。
5) マヨネーズに醤油をまぜ、適量を全体にかけ、細切りのりをかざる。

 関東では初夏の訪れと共に黒潮に乗ってやってくるカツオ。良く釣れるし、引き味もまずまず。何しろうまいから、人気の釣魚の一つに数えられるだろう。古くは日本書紀や万葉集にも登場しているほど、日本人とは馴染みも深い。
 図鑑によると大きいもので体長90cmとあった。編集子の個人的な釣り体験でいうと、これまでに見たもっとも大きなカツオは自身がメキシコのカンクン沖(カリブ海)で釣ったカツオであった。80cmはあったろうか、デッキに上がった瞬間、こんなでかいカツオは見たことがないと興奮したのを覚えている。港に戻って、すぐさま日本料理屋に持っていき、刺身にしてもらったが、これもまた、それまで食した中でで一番うまかったカツオであったと記憶に残っている。カジキは釣れなかったが、大いに満足したものだ。
 新鮮な魚というと「刺身以外ではもったいない」という感覚が働きがちだが、うまい魚はどのように調理しても新鮮さを失った魚とは比べものにならないほどの味を放つもの。また黒潮が洗う太平洋岸では釣れるときは本当に良く釣れる魚だ。だからこそ刺身以外の料理方法を覚えておきたい。ということでご紹介するのは「カツオのマヨネーズ丼」。



「海の名前」
文・写真/中村庸夫
発行/東京書籍
定価:¥2,500 (税別)
 「海の名前」約700語を集めた辞典であり、その名前に基づいて、著者が撮影した写真を再整理した写真集。美しく神秘的でドラマチックな海の表情と、それらに添えられた海の名前とどこか淡々とした解説の組み合わせが効いている。ささやかな知的欲求を満たしてくれる、そして本当の海好きにしか楽しむことができない、そんな本だと思う。
 「海は水の色、空の色、太陽の光、反射、海底の色、その深さや海中地形によって質感までも変わる。(中略)写真を見直し、出会った時を思い出し、海の名前を考えていたら、海の星、地球が見えてきた」(筆者後書きより)。なるほど、海に限らず、目に見える自然のすべては、二度と同じ表情をたたえることはない。それを考えると、人は、海に通った数の分、海の表情を知ることになる。だから海通いがやめられない。
 著者の中村庸夫氏は帆船や豪華客船の写真で名高いが、文字通り七つの海を旅し、それらの海で釣りをし、世界のシーフードを食べ歩くというように、人生の大半を「海で楽しむ」ことに費やしている見事な人だ。その感性にあやかりたいとも思わされる。


 今から25年からほど前、日本に「プレッピー」や「アイビー」が流行った頃、おしゃれに敏感な多くの人々は夏、素足にトップサイダーのデッキシューズを履いていた。メンズクラブやポパイ、ホットドッグプレスといったファッション誌に登場するアメリカの大学生たちの、ボタンダウンシャツとチノパンにモカシンのデッキシューズというシンプルな出で立ちは、とてもかっこよく見た。しかし、元々はこのシューズ、フネで履くことを前提に開発されたものである。トップサイダーのモカシンを履いてヨットいう乗り物に乗っている人々が実在し、その履き物の素晴らしさを真の意味で知っているのは、その一部の人種だけなのだという事実は、自分自身がヨットに乗るようになってから知った。

 カミソリで無数の切れ込みを入れたようなあの独特のソールを持ったデッキシューズは1935年に発売されたものだ。最初の製品はキャンバスオックスフォードのデッキシューズである。創業者のポール・スペリーが、氷の上を滑らずに走り回る犬を見て、その足の裏を参考にして考案したのがスペリー・ソールといわれる。現在でも多くのデッキシューズが同様のソールを採用していることからも、その効果のほどが伺える。本当に滑りにくいのである。
 夏ぐらいは裸足でボートに乗りたいという気持ちははわからなくもないが、人の足の裏は犬とは異なり残念ながら良く滑る。尻餅をついたり、あちこちに足の小指をぶつけて悲鳴を上げるのがオチだろうからやめた方がよい。釣りをするならなおさら裸足は危険である。
 トップサイダーに限らず、多くのメーカーから素晴らしいボートシューズが発売されている。ほとんどのノンスリップタイプのソールは信頼できるので、足にフィットする専用のシューズを選びたい。お洒落に気を遣いつつ。(編集部)



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【編集航記】
先日、カナダ・バンクーバー島の北部、キャンベルリバーでサーモンフィッシングを体験する機会に恵まれた。しかし、6月中旬とはいえ、セーターにオイルスキンが欠かせない。鼻水をすすりながら「夏でも冬支度」という海での教えを身をもって体験した。日本に帰れば「沖縄で梅雨明け」の報。初夏のフィヨルドの海も素晴らしかったが、沖縄の青い空、白い雲、燦々と輝く太陽を思い、真夏の訪れを待ちこがれた。● 『SALTY LIFE』編集部(ま)

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