巻頭エッセイ/心に響く、海  「老漁師の姿と海の魅力」
  『ボーティフィールド』 編集長・谷俊哉
キャビンの書棚 海のアウトロー「海賊」の海事史
船厨 酒編「波間を草原に見立てて<ズブロフカ>」
ボーティングチップス 天を観て気を望む術「観天望気」
YAMAHA NEWS  海の思い出アルバム2003/水辺の風景画コンテスト/
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  もう20年以上も前のことだが、旅先でひとりの漁師のおじいちゃんに出会った。北海道の余市からさらに積丹岬の方に向かった先の小さな漁村。撮影旅行中で、港の横の浜でテントを張って野宿をしていた時のことだった。明け方にガタガタという物音で目がさめ、テントの中から覗いて見ると、おじいちゃんとおばあちゃんがちょうどフネを海に降ろしている。
 フネが戻ってきた時に、写真でも撮らせてもらおうと近づいてみると、船板の上にはウニがいっぱい。それをおばあちゃんが手際よく砂浜に立てた日除けの下に運んで行き、カラを割って中の卵巣を取り出していく。ウニ漁をしているんだ。そう思いながら写真を撮っていると、おばあちゃんが「食べてみるかい」と、カラの上だけをくり抜いたようにきれいに割ったウニを1個差し出してくれた。さらに「やってみるかい」といって、カラの割り方やスプーンみたいなものを使って卵巣の取り出し方を教えてくれるおばあちゃん。
 翌日も同じ時間にガタガタとテントの横でフネを降ろす音。そしてまた翌日も。気が付くともう1週間以上もそこでウニ漁を手伝っていた。
 しかしウニ漁といっても、おじいちゃんは83歳。もう目もあまり見えないし、足も不自由。それでも海に出るのが楽しくて毎日漁に出ていくんだと、日に焼けたしわだらけの顔をほころばせながらいう。もちろん採ったウニも漁協におろすのではなく、自分たちの食べる分と都会に出ていっている息子たちに送るだけしか採らない。
 一緒にフネに乗ってウニを採りに出かけることはなかったが、いろんなことを教えてくれた。ウニはどの岩に着いているかで味が違うという。海藻の種類が微妙に違うからだ。また海中の中を筒で覗きながら足で櫓を漕いでウニを採る方法も見せてくれた。
 この時の出会いが、私に海と付き合っていく素晴らしさを教えてくれたのかも知れない。今にして思えば、そんな気がする。帰る日の朝、おじいちゃんとおばあちゃんの家で朝食をごちそうになった。別れ際に「少しだけど」といって分けてくれた「ウニの塩づけ」の味が今も忘れられない。
谷俊哉●たにとしや
1957年石川県生まれ。日本大学芸術学部写真学科中退。ヨット専門誌などの編集部を経て、「月刊ボートナウ」、「月刊ボートプラス」の創刊編集長など、マリン関係の新雑誌の創刊、および単行本等をプロデュース。現在は「月刊ボーティフィールド」の編集長およびブロードバンド放送「ボーティズTV」のプロデュサーとして「新しいボーティングメディア」の準備を進めている。



「図説 海賊大全」
編者/デイヴィッド・コーディングリ
監修・訳者/増田義郎
訳者/竹内和世
発行/東洋書林
定価:¥4,500 (税別)
 編者であるコーディングリは海賊の発生の理由について「財宝」と「自由」の二つを上げた。
 スペインの征服者たちは中南米のアステカやインカ帝国の莫大な金を発見したが、そのため東カリブ海は二世紀に渡って海賊の独壇場となる。また中世の船乗りの多くは残忍で加虐的な船長の下でひどい扱いを受けていたが、こうした抑圧から逃れるため、船乗りたちは反逆するか船を乗っ取るなどして海賊を旗揚げした。コックや医師など特別な技能を有する者はしばしば誘拐されてきた者たちだったが、基本的には当時の一般の商船に比べると、はなはだ民主的な社会が海賊船にはあったらしい。
 また、海賊行為が国家の承認のもと行われていた時代もあった。
 「海賊」とは何なのか。彼らの夢と現実、そして歴史上果たした役割を本書は浮き彫りにしていく。
 コーディングリは最終章の枕に「今日の海賊は、それが海で起こったということだけが違う窃盗、強盗にすぎない」と、J.Vaggによる一文を引用した。K-45などの自動小銃で武装した今日の海賊には、宝の山を求め一攫千金を狙うなどといった夢やロマンを追い求める姿は皆無である。だから奴らは航海中の小さなヨットや外洋レース艇でさえ襲う。ロマンチストな夢見る海の仲間が、偉大な自然の力によってでも準備不足によるものでもなく、これらの卑劣な力によって命を落とすことが少なからず、起こっている。
 安易に海賊を礼賛しているのではないことを付け加えておこう。




  居ながらにして世界の酒が楽しめる、酒飲みにはうれしい時代。「世界の名酒事典」など眺めながら、ボーティングの後の特別なひととききの酒を選ぶ。
 火照ったからだと心にはスピリッツ、それも爽やか系の酒がいい。面倒なレシピがない方がもっとよろしい。ゲストの人魚さまたちにも受けたほうがもっともっとよろしい。そこで個性的でチャーミングな「ズブロフカ」はいかが。洒飲みはお国の酒の自慢話になると声高になるものだが、声高になるのはポーランドの人。この酒が男たちを陽気にさせるのだろうか。値段も1000円程度とお安い。ズプロフカ草、野牛が好んで食べるからパイソングラスともいう草の茎が一瓶に一本入っている(テキーラに入っているサボテンの芋虫ちゃんは、人魚さまにはちょっとね)。
 この香りがいい。同じ香り高い酒でも、バーボンの甘く濃厚な香りとは対照的な爽やかな草原の香り。味わいはほんのり甘く爽やかで、火の酒ウォッカがベースとは思えない。波間を風と雲が渡る草原に見たてての一杯で、海と陸をひとりじめ(ふたりじめのほうがいいか)。
 個性的な酒なので、カクテルベースというより、トニックウォーターかクラブソーダで割るのがいいかな。オレンジビターなど、ちょっと苦味を加えれば、より大人の味に。






 夏のクルージング。沖にもくもくとたつ入道雲が気持ちよい。江戸の方言では板東太郎、関西方面では丹波太郎などと呼ばれる。九州では筑紫二郎、比古太郎、さらにたこ入道、仁王雲など、様々な呼び名があり、愛される雲の一つである。
 しかし、入道雲が発達するとその底部では、激しい雷光、雷鳴、落雷をもたらし、そのうち大粒の雨や雹、突風を伴う場合もある。雲を眺めて浮かれるばかりでは芸がない。空を眺めつつも、天候の変化や風の変化に気を配りながらラットを握りたいものだ。
「観天望気」。山や海で遊ぶ際の入門書にはかなり高い確率で掲載されている。文字通り、「天を観て気を望む」術であるが、思いの外役に立つ。明日は晴れ、明後日は雨、などといった天気はテレビやラジオで十分だが、「午後から風が強まりそうだ」とか「まもなく雷が来そうだから」などの予測が立てらると、出港の判断材料にもなるので一つや二つ、覚えておきたい。また、その地方の地形などの特徴によってうまれた独特な観天望気も多く、マリーナ近くの地元の方に教えてもらっておくと役立つものが多い。
 たとえば、相模湾の場合、
● 富士山に笠雲がかかるのは時化の前兆
● 東風が吹くと明日は曇りか雨
● 山の雲が一気に消えると風が強くなる
など。
 また、全国共通、一般的なものには
● うろこ雲が出ると翌日は雨
● 朝焼けになると雨、夕焼けは晴
● 日傘、月傘が出ると翌日は雨
● 星が激しくまばたくと風が強くなる
などがある。

 さて、皆さんの地元にはどんな観天望気があるのだろう。編集部まで是非教えてください。
機会があればまとめてこの項でご紹介させて頂きます。
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【編集航記】
北欧のフィンランドは、国民のボートの所有率がことのほか高い。夏は極端に短いが、人々はその短い夏を思いっきり楽しんでいる。冬には氷で覆われてしまう首都・ヘルシンキの港はこの季節、とびっきりの笑顔を乗せたプレジャーボートがひっきりなしに行き来することになる。日本列島の今年は梅雨明けがたいそう遅れ、夏も短くなりそうだが、皆さんの予定はどうだろう。● 『SALTY LIFE』編集部(ま)

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