巻頭エッセイ/『心に響く、海』 『世界の海への夢』
  フォトジャーナリスト・残間正之
船厨 秋の味覚選手権・三陸代表「秋刀魚」
キャビンの書棚 北と南の果ての、けがれのない美しさ「北極 南極」
ボーティングチップス自分の身を守る「着衣水泳」と「ライフジャケット」
YAMAHA NEWS 海の思い出アルバム2003/水辺の風景画コンテスト/
  秋のニューモデル展示会
9月の壁紙 『Salty Life』読者限定壁紙カレンダー

 イギリスのサウスエンドで新聞紙にくるまれたフィッシュ&チップスを頬張っていたときのこと。「船旅に興味はないか?」と、浮浪者よりちょっと増しな身なりの老人に声をかけられた。イギリス各地を歩き回って半月ほど。そろそろドーバー海峡を渡る潮時かな~なんて考えていたボクは、深く考えもせずにザックを背負って老人のあとに続いた。
 「あれが連れ合いのマーサーだよ」と、紹介してくれたのは、老人同様、かなりくたびれた木造船。道々聞いた話では、奥さんを亡くした後、イギリスを始めとして、ヨーロッパ各地の運河の旅を楽しんでいるという。
 身なりは別として、老人は悪い人には思えず、船も古いとはいえデッキは綺麗に磨かれ気品すら漂っている。どうせさしたる目的もない貧乏旅行。とりあえずザックをキャビンに放り込んだ。
  テムズ川河口部を後にした老朽船はフランスの海岸部を目指す。エンジン音と振動はかなりの物だが、船足は極端に遅く、今なら最新のホバークラフトで1時間ほどの距離を、丸一日かけてやっと渡りきった。その間、ボクに与えられた仕事はビールを飲みながら貧乏旅行のエピソードを身振り手振りで披露したり、老キャプテンのちょっと退屈な昔話を聞くこと……。
 ユニオンジャックを誇らしげに掲げた老朽船は、ベルギーの海岸をトレースして、なんとかオランダの港町ハーグに到着。そこからは蜘蛛の巣状に張りめぐらされた水路を抜けて北部レーワルデンまで運河の旅である。それまではさして仕事も無く退屈な船旅だったが、運河に入ると状況は一転。水門を通過するたびに、本当に通り抜けられるんだろうかと肝を冷やし、運河沿いにお洒落なカフェーやレストランを見つけると着岸作業であたふた。なにせ、それまでに乗った船と言えば、津軽海峡を渡る青函連絡船と漁船だけ。舫結びすら知らないにわかクルーなのである。
 それにしても運河の旅は驚くほどにスローペース。水門の注水と開門待ち、開脚橋の開閉待ち、大型船の交差待ち……。走っているより、待っている時間がはるかに多い。だがしかし、世界各地から集まった運河フリークにとって、待ち時間は情報交換の為に必要不可欠。まして、1ヶ月、2ヶ月なんてのはざらで、中には家財道具を満載し、半年以上運河を彷徨っている船も少なくない。我が老キャプテンは2ヶ月間の予定だと言うが、いくら三食昼寝付きでも2ヶ月は退屈。で、結局2週間弱で老キャプテンに別れを告げ、陸路、中近東へと旅立った。
 ……あれから20数年。その時の体験は今でも脳裏に強く焼き付いている。そして、あの老キャプテンのように時間など気にせず世界の海を駆け巡ってみたい、という夢も日々心の片隅で疼いている。ま、あくまでも「世界の珍魚怪魚を釣り上げる!」という現在の夢が叶えられてからの話だが……。
残間正之●ざんままさゆき
北海道生まれ。フォトジャーナリスト。辺境の民族取材のかたわら世界60ヶ国以上で釣り糸を垂れる。フライ&ルアーフィッシング歴30年、カヌー歴25年。ボートやアウトドア雑誌に海外のレポートを発表するほか、FMラジオの釣り情報なども担当。主な著書に「だからロッドを抱えて旅に出る」「世界釣魚放浪記」などがある。



秋刀魚といえば
塩焼きが定番
生の秋刀魚を二つに切り分け、強めに塩をふりかける。しばらくおいた後に、串に刺して焼き上げる。脂が適当に落ち、焦げ目が付いたら食べ頃。秋刀魚は生焼けでもまずいし、焼きすぎてもいけない。炭火焼きがもてはやされる理由はここにある。煙を立てて薫蒸するのである。


 もう幾分前の話になるが、骨のない魚、というのをニュース番組で取り上げていた。捕った魚を加工工場に持ち運び、そこで一本一本、ピンセットで骨を抜き取りパッキングした後、出荷するのである。若いママさんが「子供に食べさせるのに良いワ」とスーパーで骨抜きにされた魚を喜んで買い込んでいる姿を見て、少々不気味に思ったものだ。だが、それは魚ではない。加工食品だ。「目黒の秋刀魚」という江戸落語がある。
 殿様が当時、下賎な魚とされていた秋刀魚をワケあって鷹狩りに出かけた先の目黒の農家で食した。初めて食べたその秋刀魚のうまいこと。で、その殿様、城に戻ってからも秋刀魚のことが忘れられない。最初は殿様が秋刀魚を食べるなどもってのほかと、拒んでいた侍従たちも、殿様の熱意に打たれて秋刀魚を御膳に出すのだが、気づかいすぎて骨は抜くわ、十分に蒸して脂は抜くわで、せっかくの秋刀魚が台無しに。そうとも知らずに殿様は、その秋刀魚を食すのだが、、、。
 「これが秋刀魚か?もっと焦げていて香ばしかったはずだが。これはどこの秋刀魚じゃ?」
 「日本橋より取り寄せた最高級の 秋刀魚にござる」
 「ん~。それはいかん、やっぱり秋刀魚は目黒にかぎるの」
 ご存じない方もいるかもしれないのでご説明すると、目黒は山の手であって海のないところである。
 今だって秋刀魚は大衆魚だ。一尾100円で買えるときだってある。しかし、これがすこぶる美味い。秋刀魚に骨抜きがあるかどうかは知らぬが、秋刀魚はやはり取れ立てを焼くのが一番。できたら炭火で焼きたい。
 とにかく秋刀魚の季節である。今年もお盆明けには気仙沼漁港で大漁の秋刀魚が水揚げされた。ちなみに気仙沼では95年から「目黒の秋刀魚は気仙沼産に限る」と、目黒で行われている秋刀魚祭りに取れたての新鮮な秋刀魚を提供していると聞く。これも粋な話である。
 秋刀魚は北海道沖で群れを作っていた若魚が、8月になって本州東岸沖を成長しながら南下してくる。10月の房総沖の秋刀魚がもっとも脂がのっているが、秋刀魚自体の味は北に行くほど美味いというのが定説。三陸沖が美味な訳はここにある。ちなみに尾の付け根が黄みがかっている秋刀魚は健康で栄養状態の良い魚。この手の秋刀魚は肝が滅法美味い。




  「北極 南極」
  著者/森 吉高
  発行/東邦出版
  定価:¥1,800 (税別)
 駆け足で去っていった夏だから、残暑もまた楽しい。キリキリ冷やしたジンをグラスの鋭く尖った氷にそそぐ。グラスの中の氷山。開くのは氷の世界、森吉高写真集「北極 南極」。
 ページを繰るごとに広がる北と南の果てのパノラマは、地球のかけがえのない、けがれのない美しさに溢れている。宇宙の片隅の小さな惑星としての、大きな青く輝く生命の揺り籠としての二つの美しさ。
 小惑星の氷の海の硬質な美しさは、母なる太陽の光がつくるもの。切り取られた色彩の無限の階調ワンカットごとに、反射し浸透する光が感じられる。その温度まで。
 厳しい自然に健気に生きるホッキョクグマ、ペンギン、白イルカたちの愛らしい姿からは、地球という巨大だが脆い生命体を思う。冷たい、深い紺碧の海、氷雪藻で赤く染まった大理石のような氷河は、いのちで溢れかえっている。珪藻・動物プランクトン・オキアミ・小魚という食物連鎖の上に、ペンギンたちが、ひょこひょこ歩き、すいすい泳ぐ。アザラシがひょうきんな顔で寝そべる。ホッキョクグマの親子がたわむれる。極地にも一瞬の夏がある。短いがゆえに、より美しく輝く夏。白い大地は緑に染まり、カリブーやムース大鹿が走る。
 温暖化により氷河が溶けはじめ、オゾンホールも大きくなっているという。この写真集の美しいカットの全てが、環境問題を通して我々とつながっていることも忘れてはならない。






 オイルスキン(合羽)にマリンブーツを履き、海に落ちるとどうなるか試したことがある(命綱をつけてだ)。はっきり言って危険です。泳ごうと思うが、身体が思うように動かない。危うくおぼれかけた。オイルスキンでなくとも、服を着たまま水に落ちることの恐ろしさはよく知られるところだ。川や海でおぼれた人を助けようと飛び込み、二重水難が起こるのもそのことが原因の一つとしてあげられよう。
 服を着たまま落水すると体を動かすのは相当に困難である。長ズボンをはいていると足もほとんど動かない。直立姿勢になると身体と服の隙間にあった空気が一気に抜け、身体が重くなる。助けを呼ぼうとあわてて手を上に上げたりすると、ますます沈んでゆく。落水してから10秒ほどで窒息に至る。
 そこで注目されているのが「着衣水泳」である。水泳といってもスイスイ泳ぐのではなく、まず落水したら仰向けになって、浮く技術である。呼吸のできる状態を確保した後は、ゆっくりと移動する。それが着衣水泳の教えるところ。靴を脱げ、服は脱げといわれるが、着衣水泳ではこれらは大切な浮具の一つとなることもあるという。だから、もしも落水したら、競泳選手より着衣水泳を知っている人の方が助かる見込みは高いかもしれないのだ。
 ボーターやセイラーなら、ライフジャケット身につけることも習慣にしたい。ボート乗りにライフジャケットを着せるなら、海水浴客にもライフジャケットを着せればいいという皮肉を聞かされたことがある。それにも一理あって、ボートに乗っているより海水浴や川遊びの方がよほど危険であるし、水難者は多い。ボーターを脅すつもりは毛頭ない。
 ボート先進国などと言われる国ほどライフジャケットに対する意識は高く、またベテランのシーマンほど、落水の恐ろしさを知り、そしてライフジャケットを「格好良く」着こなしている。
 今年は冷夏だったこともあり、水難事故が例年に比べかなり減少したと聞く。遊ぶ機会が少なかったから事故が少ないというのも寂しい気がするが、犠牲者が少なかったことはほっとさせる。


   
   

締め切り目前「海の思い出アルバム2003」
海というフィールドが与えてくれる、かけがえのない時間や感動、そして美しい風景。 あなたの海での素敵な思い出の写真をエピソードを添えてお送りください。締め切りは9月10日(消印または送信)、目前です。
『水辺の風景画コンテスト』作品募集
(財)日本マリンスポーツ普及教育振興財団(JMPF)が主催する児童・幼児を対象とした 『水辺の風景画コンテスト』が作品を募集中です。
秋はニューモデル展示会の季節
10月より各地でニューモデルを中心とした展示会や試乗会が開催されます。イベント情報コーナーのチェックをおすすめします。


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【編集航記】
関東地方はいったいいつが夏だったのかよくわからなかった。ただ、私達は、ボートという乗り物によって一年中の海を楽しむことができる。雪の積るマリーナのボートの上で鍋パーティーを開くのを楽しみにしている北国のボートオーナに出会ったこともある。秋が訪れる。今度の日曜日には海辺で秋刀魚でも焼きにいこう。● 『SALTY LIFE』編集部(ま)

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