イラスト・高橋唯美
巻頭エッセイ/『心に響く、海』美しい水面に自ら波を描く』
  「オーシャンライフ」編集長・野村敦
船厨漁師が教えてくれた「烏賊の沖漬け」
キャビンの書棚多くの文人に影響を与えた釣り人のバイブル「釣魚大全」
ボーティングチップス釣りにタグ&リリースを取り入れ、面白く
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「オーシャンライフ」編集長●野村敦
 鏡のような水面、そこに映る上下対称の風景。まったくの無風、水面にも流れや波は見られない。こんな美しい水面はそうそう出会えるものではない。せいぜい1年に1度くらいだろうか。しかしその鏡のような水面にみずから波紋を起こして進んでいく。この瞬間がたまらなく感動的である。これはボートの話ではない、ボートで引っ張られ、そう、ウェイクボードをしている時の話だ。ボートの曳き波を離れて、大きく外に飛び出す。そして目の前の鏡のような水面の上を滑っていく。まったく手つかずの水面を自分のボードによって切り裂いていく。つかのまの自分だけの世界。別に派手なトリックができるわけではない、私はこれを体感したくてウェイクボードをしているような気がする。
 昨年5月に始めたウェイクボードだが、今ではすっかり趣味になっている。もともとは取材に行ったついでに始めたのがきっかけだった。仕事と趣味とが両立というよりも、仕事と趣味との境があいまいといった方が表現としては正しい。最近はますますその傾向が強くウェイクボードの取材となると喜び勇んで、ワクワクしながら出かけている。よく仕事が遊びみたいでうらやましいと言われるが、確かにそう思う時もある。その反面、本当に遊びで来ている時もどこかで仕事を考えているというのは悲しい性である。とはいえ、仕事であろうと遊びであろうと、ウェイクボードをすること自体は楽しいし、そこで出会える新しい仲間たちとの交流も、ふだんでは味わえない楽しみの一つになっている。
 雑誌を創る、編集という仕事をしていると、どうしてもデスクワークが多くなる。遊びの雑誌を創っているのにもかかわらず、遊ぶという行為そのものから遠ざからざるをえない日常がある。これではいけないと思うのだけれど、なかなかそうもいかないのが現状だ。かつては私も、仕事と趣味との境目はある程度、明確であった。当時は趣味にとる時間がなくて、常日ごろから、もっと遊ばなければ、と戒めていた。人よりも遊ばなければ、人に遊びについて訴えることはできないと思うからである。
 現在は、ウェイクボードという仕事と趣味を媒介するような「趣味」ができた。そのおかげで、雑誌に対するスタンスもかなり変わったし、いろいろな面で成長させてもらったと思っている。そして何よりも私自身、かなり遊んでいると思う。極力、週に1回は滑りに行くように心がけているほどだから。ただ〆切りが近くなれば、そうも言っていられなくなるが、実際に行けないまでも、この「趣味」があるおかげで、雑誌創りもより楽しくなっているのもまた事実だ。雑誌のおかげで海と知りあえ、さらにウェイクボードという新しい趣味まで手に入れることができた。このことに強く感謝しているし、これからも続けていきたいと思っている。
野村敦●のむらあつし

1970年東京都生まれ。オーシャンライフ編集部を経てフリーランスのライターに。各種雑誌、インターネットなどで執筆活動を行う。2003年2月より オーシャンライフ誌に戻り、同誌編集長に就任。現在に至る。



「烏賊の沖漬け」
●沖漬けにした烏賊を一杯ずつラップにくるんで冷凍する、というのは船頭の奥さんが教えてくれた保存方法である。
●それを頃合いを見計らって冷凍庫から出して、シャーベット状の状態で腑も一緒に輪切りにする。絶妙な食感と味わい。いつまでも風味豊かな烏賊を食することができる。

 テレビなどでも良く紹介されることから、豪快な本マグロの延縄漁というと、本州最北の大間岬が有名だ。しかしほぼ同じ漁場で、北海道を母港とする40隻の船団が許可を受け、6月から12月の間、マグロ漁を行っているのをご存知だろうか。
 函館からほど近い恵山町にも海峡を漁場とするマグロ延縄漁の漁船がある。そんなマグロ漁師の一人にこの烏賊の沖漬けをごちそうになった。
 もともと一月に最低1本上がれば「まあ良し」とする博打のような漁なのだが、案の定、筆者が乗船したその日は一本もかからず、手ぶらで港に戻ることになった。気の良い船頭は、せっかく来たのだからとマグロの餌として生け簀を泳いでいた烏賊を土産に持たせてくれた。餌といっても北海道有数の烏賊釣り漁場で捕れたばかりの新鮮で身もたっぷりの鯣である。
 デッキの上に大きな樽を置くと船頭はおもむろに醤油瓶を取り出し、どぼどぼと注ぎ、刻んだ唐辛子をそこに振った。元気に泳ぐ生け簀の烏賊を網ですくうと、できあがったばかりの醤油のプールに次々と放り込む。烏賊は「ブッシュウ~!」と妙な音を発し、飲み込んだ醤油と墨を懸命にはき出しながらのたうち回る。ちょっと可哀想に思えたが、見事な醤油の風味がデッキの上を漂いはじめ、食欲が残酷という概念を跡形もなく打ち消す。
 いただいた烏賊はさまざまな食べ方を試した。初日の新鮮なうちは、そのまま刺身のように食べた。腑を溶き、それを身に絡めて口に放り込んだときの幸福感。そのまま炒めてもいける。ダッチオーブンで炊き込みご飯にしても素晴らしかった。




「釣魚大全」
 原作/I・ウォルトン
 訳者/立松和平
 発行/小学館
 定価:¥1,600 (税別)
 「釣魚大全」を改めて読み直し、親しみのある独特の仰々しさを何かで体験したことがあると思い巡らせていたら、ジョン・バニヤンが著したキリスト教信仰の古典「天路歴程」であった。戯曲様式の文体もどこかしら通じるものがある。思えばいずれも17世紀の英国で書かれ、読み継がれている古典である。
 「釣魚大全」の著者・アイザック・ウォルトンもキリスト教を信仰していた。文中にも聖書の引用が多く見られる。彼が巻頭言に使った「シモン・ペテロが『私は釣りに出かけます』と言うと、彼らは『私たちも一緒に参りましょう』と言った」は聖書の中のヨハネによる福音書の一節である。この聖句を引用しつつ神様の導きなのだと言いながら、日曜日の礼拝を休んで嬉しそうに釣りに出かけている不良クリスチャンを筆者は知っているが、考えてみれば「釣魚大全」が4つの世紀を経てなお、世界中の人々から愛され、「釣り人の聖書」と謳われ読まれ続けている事実に、どこか通じるエピソードのような気もする。
 本書の解説によると、著者のウォルトンは鉄で財をなした成功者であったが、妻や子供を早く亡くし、家庭には恵まれなかった。その中で彼は「釣り」を求め、人生の中心に据えた。釣りの方法や料理の方法、そして独自の深遠な釣り哲学をユーモアたっぷりに交えて説く古典。そして日本では、この書に大いに影響を受けた井伏鱒二が「川釣り」を記し、本書を絶賛した開高健は「私の釣魚大全」を記した。一筋縄ではいかない賢人や文豪を屈服させ、釣りを信仰の域までに昇華せしめるのか。まさに「聖書」である。
 立松和平氏による訳が読みやすい。





 先に申し上げると、ソルティライフは釣った魚を食べることを否定するつもりは毛頭無い。むしろ大好きである。しかし、タグ&リリースの面白さも叉十分に理解する立場である。
 キャッチ&リリースやタグ&リリースを「自己満足」だと見る向きもあるが、それはそれでよい。リリースすることで釣りの面白さが増せばそれに越したことはないのだから。それによく勘違いされるのはタグ&リリースは単なる浅はかなエコムーブメントではなく、魚釣りを面白くするための、つまり魚のためではなく、ある意味釣り人のためのプログラムなのである。日本ではすでに20年前からスタートしている。
 タグ&リリースとは、釣った魚に標識(タグ)を打って放流(リリース)し、その魚の回遊ルートや成長の過程を研究する資料にすること。タグを打った魚を再補することで移動や分布、成長といった魚の生態を知ることができ、将来、その魚の資源保全を果たすための有力な基礎データとなるかもしれないというものだ。夢のような楽しいプログラムではないか。自分が一度釣って放流した魚が次にどこで釣られるか、それを知ることができるなんてわくわくする。
 リリースする際の最低限のポイントは元気な状態で放すこと。針を飲み込んでしまった魚や長くデッキ上に放っておかれたような弱った魚を海に戻すのは、ゴミを捨てるのと同じこと。それなら持ち帰って食べた方がよろしい。



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【編集航記】
10月の最終日曜日に予定されていた今年の東京ベイ・シーバス・フェスティバルは、気まぐれな台風のために残念ながら中止となった。長年に渡って行われているこの大会はいち早くバーブレスフックの使用をルール化するなど先進性に富んだトーナメントとして知られる。記録魚の可能性のあるもの以外はオールタグ&リリースで、釣果はすべて自己申告と言うのも大会を面白くしている要素だ。来年は20回記念大会ということでパワーアップするそうだ。楽しみにしたい。(編集部・ま)

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