イラスト・高橋唯美
巻頭エッセイ/『心に響く、海』『プロセーラーの役目』
  フリーライター・市川和彦
船厨「牡蛎のミルクシチュー」
キャビンの書棚「深海のパイロット・六五〇〇mの海底に何を見たか」
ボーティングチップス海の冬服対決
YAMAHA NEWS 2004年ヤマハニューモデル情報/浜の風景画コンテスト入選作品が決定/ボート免許ステップアップ受講インターネット申込 受付中/ヤマハマリンカレンダー「SEA SCAPE」2004発売中
 
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市川和彦●いちかわかずひこ
 1989年の夏、崩壊寸前のソビエト連邦ハバロフスクへ新潟から空路で入った。ナホトカから室蘭までの外洋ヨットレースを取材するためである。このレースは、国の体制を超えて日ソ両国のセーラーたちが力を合わせて企画したもので、80年代に入ってすでに何度か実施されていた。初回のレースでは、銃を持った警備員に日本の選手たちが監視されたと聞いたが、私が訪れたこのときは、もうそんな光景を目にすることはなく、ハンガリーやニュージーランドからの遠征組もエントリーしていたため国際色も豊かだった。
 私は、ソ連の参加艇に同乗取材することになり、サハリンからやって来たという40フィートのヨットのチームを紹介された。チームの面々は、みな同じ漁業公社の職員で、普段は公社内のヨットクラブで余暇を楽しんでいるという。ヨットもクラブの持ち物だったが、いかんせん艤装がお粗末だった。我々が舫いに使う三撚りロープをハリヤード(セールを吊るロープ)に使っているのだから始末に悪い。セールを揚げても風圧でロープが緩んでくるので、レースの最中も1日に何度かは詰め直す必要があった。
 それでも、彼らは勝負を諦めなかった。ロールコール(定時無線連絡)で他艇の動きをしっかり把握し、常に風を読みながらベストと思われるコースを選んでいく。聞けば、カムチャッカ周辺までクルージングに出向くこともあるそうで、みんな外洋の経験は豊富そうだった。
 そんななか、1人だけほとんど操船に参加しない若者がいた。大きな寸胴鍋を抱えてトランサムに陣取り、ひたすらジャガイモの皮をむいていたかと思えば、1時間ぐらいギャレーにこもったりもする。三度三度、しっかり料理したものをクルーに食べさせる、それが彼の役割だったのである。
 新人のクラブ員ゆえ、そんなことをさせられているのだろうと気の毒に感じながらも、彼の料理は最高だった。とりわけ思い出に残るのは、ボルシチのような具沢山の暖かいスープだ。当時のソ連のレストランは最悪で、どこに行っても味気ない料理ばかり出されていたので閉口していたが、彼のスープは別物だった。たぶん、これがロシアの家庭料理の味だったに違いない。国の体制が崩壊していくなか、レストランのような表の場では、おざなりにされていた本物の味に出合った気分がした。また、ヨットの上では手作りの食事がとにかく美味いし、活力の源になる。とかくレトルト食品などに頼りがちな我々だが、彼の国の人たちは、辛いことが多い洋上の生活で何が大切なのかを良く心得ているようだった。
 無事、フィニッシュしたとき、ほとんど操船できなかった彼を慰めようとしたら、「ボクは、彼らをサポートするために乗り込んだのだから、気にしないでくれ」と言い返されてしまった。なんと、彼は下っ端のクラブ員ではなく、公社に雇われてヨットの維持管理を任されているプロセーラーだったのである。
市川和彦●いちかわかずひこ

1955年生まれ。ボート・ヨット雑誌「KAZI」編集部を経て、1990年にフリーのエディター、ライターとして独立。「KAZI」、「ボート倶楽部」など雑誌への執筆をはじめ、最近では水辺教育の取材にも力を入れている。著書に、「はじめての外洋ヨット」、「買う前に知っておきたい、外洋ヨットの知恵」(いずれも舵社発行)がある。



「牡蛎のミルクシチュー」
●材料(4人分):生牡蛎20個ほど(レモン汁で洗う)、にんにく大2片(みじん切り)、玉葱1/2(みじん切り)、バター300g、牛乳500cc、生クリーム100cc、パセリ少々(みじん切り)、塩(小さじ1弱)、胡椒(適宜)、小麦粉(大さじ1~2 ※とろみを付ける場合は2~3に増やす)

1)熱した鍋にバターを溶かし、中火でにんにく、玉葱を焦がさないように炒める。とろみをつける場合は小麦粉を大さじ1~3を好みで加えて炒める。

2)1)に生牡蠣を加え、表面に火が入ったら牛乳を加え、中火で煮る。

3)牛乳が沸騰してきたら生クリームを加え、塩、胡椒で味を調え、パセリのみじん切りをちらす(生クリームが無ければ牛乳だけでも良い)。

 牡蛎の季節である。西洋では「月の名に『r』のつかない時期には牡蛎を食べるな」といわれる。一般的にこの時期(5~8月)は産卵期にあたって味が落ちること、そして痛みやすいことも理由だろう。牡蛎はやはり季節感あふれる冬の食材なのである。
 北はノルウェーから南はニュージーランドに至るまで、世界各地で養殖されていることからも、牡蛎が多くの人々に愛されている貝であることがわかる。日本では17世紀に小林五郎左衛門なる人物が広島で地蒔き式の養殖を始めたのが最初らしい。現在の吊り下げ式の養殖技術は大正時代になって考案され、結果、その生産量が飛躍的に伸び、旨い牡蛎を手軽に口にすることができるようになったわけである。この養殖方法の考案者は堀重蔵さんと妹尾秀実という。感謝だ。
 牡蛎に関わる人物としてもう一人、名をあげておきたいのが気仙沼で現在も牡蛎養殖を営む畠山重篤さん。畠山さんは漁業者の立場で海と川の関係に目をとめ、「森は海の恋人」をテーマに気仙沼に流れ込む河川の上流域で植林活動を行っている。栄養分の豊富な豊饒の海は森が生み出すのである。畠山さんの地道なこの活動はムーブメントとなり全国に広がりつつある。
 さて、そんな人々の努力に敬意と感謝の念を抱きつつ新鮮な牡蛎をいかに食すか。牡蛎は生に限る。異論はない。それだけでなく新鮮な魚介類に火を通すことを嫌う人は多い。気持ちは充分わかるが、生で最高の味を放つ新鮮な食材を料理に使うのはこれまた贅沢の極み。というわけで、ダッチオーブンでミルクシチューを作ってみた。簡単で暖かみのある料理。濃厚な牡蛎の風味が冬のキャビンに暖かさを増すことだろう。




「深海のパイロット・六五〇〇mの海底に何を見たか」
 著者/藤崎慎吾 田代省三 藤岡換太郎
 発行/光文社
 定価:¥850(税別)
 星空を眺めながら星座を探したことがあるように、宇宙への想いというテーマは話題になりやすい。それは、スペースシャトルであったりH2Aのロケットであったり、向井さんや毛利さんといった日本人パイロットの方々の活躍でもあったり。他方、いつも人々の身近な存在である海への関心はお世辞にも高いとは言えない。日本で海が話題になるといえば海難事故や捕鯨の問題など、どこか暗いムードに包まれていて、夢や希望といったSF映画の代表的なテーマとは正反対に位置している。
 ところが、海のスペースシャトルとも言える深海調査においては日本の科学的な貢献は世界でもトップレベルにあるという。全世界の宇宙飛行士280人に対して日本人はわずか8人だか、深海調査船の場合、パイロットが全世界で40人しか存在しないのにもかかわらず、そのうちの半数は日本人で占められている。
 本著「深海のパイロット」は、これら深海調査に関わる人々にスポットを当てた数少ない物語である。日本の深海調査の礎となった「しんかい2000」とそのスタッフ。世界で最深の調査が可能な「しんかい6000」の船体解説からパイロットの体験談。巻末には宇宙と深海の両方を往来した毛利衛氏の印象など、さまざまなエピソードが綴られている。





 一昔前までは、フィッシャーマンズセーターは海の男の冬の制服ともいえる存在だった。アラン諸島の漁師たちが着ていたというアイルランド生まれのこのセーターは、ごっつい縄目模様の編み目が特徴だ。油抜きをしていない毛糸で編まれていたため、ある程度の防水性を備え、抜群の保温能力があったのだ。「荒波に立ち向かう漁師たちの妻や母たちが、夫や息子の安全な航海を祈りつつ、心をこめて編み上げていたのだ」という蘊蓄を先輩のセーラーから聞かされて、そのセーターの暖かさが余計に増したものだった。フィッシャーマンズセーターはラム酒と並んで、海の男の心と体を温める最良のツールであったのだ。
 フィッシャーマンズセーターを語る際、どうしても過去形にならざるを得ないのは、近頃「フリース」と呼ばれる化学繊維の台頭によって、フィッシャーマンズセーターが海の現場で片隅に追いやられているのが現状だからだ。
 今から約20年ほど前にパタゴニアがシンチラという素材名でフリースのジャケットを発売した時にはまだ、それほど普及するとは思われなかった。その後、ノースフェイスやヘリーハンセンなどのアウトドアブランドが同様の素材でジャケットを作ったが、やはりあくまでもマニアックで高価なアウトドア・ウェアであった。が、ここ数年で、量販ブランドが格安のフリースジャケットを扱ったことで、この素材は一気に「お茶の間」にまで浸透してしまった。
 フリースとは、もともと「羊毛」を指す言葉だが、いまでは非常に細かいダクロンをパイル編みした素材、またそれに類似した素材全般を指すようになっている。起毛しているお陰で大量の空気を繊維に蓄えるから保温力に優れている。また速乾性に優れ、濡れてもその保温力が低下しない。それでいて安価となれば、フィッシャーマンズセーターの実用品としての立場は弱くなる。
 これがまた厄介なところで、フィッシャーマンズセーターは着るものを選ぶ。ただし「自分には似合わない」と自覚している人に出会ったことはないのだが。やはりあの独特の「風合い」は棄てがたい。



2004年ヤマハニューモデル情報
ボート、船外機、マリンジェット等、2004年に向けたヤマハのラインナップがサイト内にて更新されています。
浜の風景画コンテスト入選作品が決定
(財)日本マリンスポーツ普及教育振興財団(JMPF)が主催する児童・幼児を対象とした 『水辺の風景画コンテスト』の審査が行われ入選作品が決定しました。
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ヤマハボート免許教室では2級や2級5トン限定免許あるいは1級5トン限定免許をお持ちの方に、「ステップアップコース」をご用意。基本講習よりもリーズナブル&短期間で1ランク上の免許を取得できます。
ヤマハマリンカレンダー「SEA SCAPE」2004発売中
「海の上に身を置くことの幸福感」をテーマに制作されたヤマハのマリンカレンダー「SEA SCAPE」が発売中です。
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【編集航記】
台風で中止になったシーバストーナメントのリベンジに燃え、某マリーナ主催のトーナメントに参戦。しかし、予想外の苦戦を強いられ、数を揃えることもできなかった。●これから海はますます寒くなっていくが、知る限り、太平洋岸では冬でも十分に海で遊べる。良く晴れた風のない冬の休日、ボートのデッキで昼寝する気持ちよさを知ってますか? ● 『SALTY LIFE』編集部(ま)

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