ジョニー・マンデルは、元々ジャズのトランペット、トロンボーン奏者であったが、映画「いそしぎ」の主題歌「THE SHADOW OF YOUR SMILE」の作曲家としての方が有名だろうか。そんなマンデルの最大の功労は、ビル・エヴァンスが残した一枚のアルバム「I WILL SAY GOODBYE」の3曲目に収められた「SEASCAPE」を書いたことだと、勝手に思っている。
多くの人が海にある役割を望むが、この曲を弾きながら、ビル・エヴァンスは何を海に求めただろう。
青い空、真っ白な入道雲、輝く太陽、空飛ぶ鳥、沖を通るヨット、白いウェーキを描くボート、、、こうした海のイメージはこの曲からは思い浮かばない。
誰もいない海岸にたたずむ。北から運ばれる冷たい風が、顔に当たる。鉛色の空から時折陽が差すものの、その光は決して暖かくはならず、むしろ、心細さを増幅させるだけだ。
けれども、そうした時間の連続の中から、海は人に語りかける。海とはそんな存在だ。表面的な美しさを越えた神秘性や人の心を包み込むような神々しさ、そんな海の深い存在感を、この曲を海で聞くと得ることができる。
「I WILL SAY GOODBYE」
BILL EVANS TRIO
Bill Evans, piano
Eddie Gomez, bass
Elliot Zigmund, drums
【編集航記】
11月最後の日に、クリスマスに華やぐ街を歩いたら、見当違いの騒ぎに少々嫌気がさした。
今回、「キャビンの棚」でご紹介した「I WILL SAY GOODBYE」に収められた「SEASCAPE」は、今年の春に亡くなった私の尊敬するグラフィックデザイナーが好きで、仕事中に水割りを飲りながらよくかけていた曲だ。ビル・エヴァンスのピアノと同じく、彼の仕事は耽美主義的だったことを思い出す。
今年も残り1ヶ月、忙しいけれど、あと一回は海に行きたい。「SEASCAPE」をかけながら、海と船がつくる時間の美しさに思いっきり浸ってやろう。(ま)
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