ソルティライフ ソルティライフ
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イラスト・高橋唯美
A Happy New Year 2006
感動の海 僕のヒーロー
キャビンの棚 航海者の心を妖しい歌声で奪う/ドビュッシー「夜想曲」“雲”“祭り”“シレーヌ”
船厨 海賊に思いを馳せつつ、豪快に「鯛飯」
海の博物誌 回遊魚のスピードの秘密は
YAMAHA NEWS 「東京国際ボートショー2006」スペシャルサイト公開/「ネットTV」更新/季刊誌「キャプテンズワールド」のご案内/「マリーナ百景」更新
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感動の海
 ある年の12月、ニューサウス・ウェールズの州都、シドニーから車を走らせ、スワンシーという小さな町のビーチを訪れた。南半球のオーストラリアでは、12月といえば夏の始まりだが、この日の海岸は強い風が吹き渡り、とても寒かった。ビーチにいる人びとはウインドブレーカーを身につけ、フードを頭までしっかりとかぶっている。そして海を見つめていた。視線の先には、高い波と格闘しながら、サーフレスキューの競技に取り組む男女の姿がある。この日、この海岸ではオーストラリア各地のサーフクラブのメンバーが集まっての競技会が行われていた。こうした大会が、シーズン中は毎週のように各地のビーチで開催されているという。
 競技者は筋骨隆々の若者だけでなく、小柄な女性や初老とおぼしき男性の姿も見える。そして、真剣さの中にも、楽しんでいる様子がうかがえる。
 アイアンマン・レース、ラン・スイム・ラン、パドルボート・レースなどの競技が次から次へと行われていたが、なかでも「サーフボート」という競技種目は圧巻だった。4人の漕ぎ手と1人の舵取りの5名が乗り組むボートで、大波を乗り越え沖に打たれたマークを回航し、追手でサーフィングしながら、ゴールのビーチを目指す。波がブレイクする付近では、バウが波につっこみ、スターンを持ち上げられて、そのまま倒れるシーンもしばしば目にした。バランスを取るには相当な技術を要するようだ。
 大会関係者に話を聞くと、この競技、もともとは漁船による救助活動がベースなのだそうだ。沖で海難が発生したら、海辺に住む漁師たちが、浜に置いてあるボートで駆けつけた。そんな海の男同士の互助意識がサーフレスキューの原点にある。その意識は全国に広がり、海辺にはヨットクラブと同じようにサーフクラブが生まれていった。
 1907年にこれらサーフクラブの全国組織SLSA(Surf Life Saving AUSTRALIA)が設立された。SLSAのグレッグ・ナンス会長は、「設立100年になろうとしているが、ボランティアたちの忠誠心、人々の命を守るという使命は、全く衰えてはいない。現代社会で自己犠牲を求めることは困難になりつつあるが、その中で活動し続けていることを誇りに思う」と語り、ライフセーバーの条件として健康であること、そして海が好きで、海を拠点にしたライフスタイルが好きなこと、ボランティアとしての義務を果たし自分の時間や週末を犠牲にし、自己啓発やトレーニングに取り組めることなどをあげている。
 広大な面積を持つオーストラリアは海岸線も長い。そして多くの人びとが海辺で過ごす時間の魅力を満喫してきた。その長い歴史のなかで、海辺で不慮の事故が起きた際にそれを救助し、または事故を未然に防ごうとする組織が生まれたことは、自然の成り行きであったのかもしれない。
 ボランティアを活動目的の一つにした伝統的なサーフクラブの存在とその活動、そしてメンバーが持つ誇りは、マリン大国の証ともとれる。  
 SLSAのポスターのキャッチフレーズに「僕のヒーローはマスクもマントもつけていない。赤と黄色のキャップをかぶっている」とあった。プロのライフセーバーは子供たちの憧れの的でもある。


田尻 鉄男●たじり てつお
外洋帆走部に所属しクルージングに明け暮れたの大学生活、1年間の業界紙記者生活を経て、88年、某プロダクションに入社。以来、日本のボーティングシーン、また沿岸漁業の現場を取材してきた。1963年、東京生まれ。



キャビンの棚
 以前、本欄でドビュッシーの「海」を取り上げたが、今回は「海」と並び称される傑作、「夜想曲」について触れてみたい。
 世紀末の最後の年1899年に作曲された「夜想曲」は、ドビュッシーがモネ、セザンヌ、ルノワールらフランス印象派の影響を受け、マラルメの詩に寄せた「牧神の午後への前奏曲」によって確立された管弦楽法を、さらに完成させた作品。これによって印象主義音楽が確立された記念碑的な作品でもある。
 「それは不動の空を雲が緩く、憂鬱に動いていく光景であって、柔らかな白色にぼかされた灰色の黄昏となって終る」(石田一志訳)。それはよくターナーの絵に見られる雲に比較される。あらゆる色彩を含みながら、輝きを吸収し尽したグレイ、輪郭がおぼろな雲は、はかなく黄昏の空に消えていく。
 雲のように、ただよう感覚の愉悦の深さには、深淵への墜落の不安が隠されている。日本の詩人が描いた雲の湧く明るい大空の闇の中へ。ドビュッシーが与えてくれる愉悦の深さの中には、いつもそれがある。「海」には底知れぬ深海の闇への恐れがあり、波の常に崩れ定まることのない形への不安がある。
 第三曲の“シレーヌ”も、あぶない愉悦に満ちている。航海する舟人たちの心を、その妖しい歌声で奪い、海深く引きずり込んだという人魚シレーヌ。波を表現するハープと弦によるトレモロにからみつく女性コーラス。メロディーらしきものも歌詞も持たない甘美な歌声は、恐怖しつつ恐怖にのめり込む心を誘う。
 第二曲の“祭り”は、他の2曲に比べて色彩に満ちている。リズム感あふれる祭りの印象、様々に着飾った人々の行列が近づき、祭りのきらめきの中に溶け入っていく。やがて祭りは最高潮に達し静かに終る。夜の闇だけが残る喪失感は深い。
 これまで数多くのディスクが発表されている。ミンシュ盤、テイルソン・トーマス盤、アシュケナージ盤、は“海”とのカップリング。写真のポール・パレー盤は「海」「イベリア」も収められている。またデュトワ盤(88年)、ハイティンク盤(79年)が録音に優れている。(K.H)
ドビュッシー
牧神の午後への前奏曲/海/
夜想曲/イベリア
パレー指揮 デトロイト交響楽団


ユニバーサルミュージック
定価/1,000円(税別)



船厨
「真鯛」

●日本人にとって鯛は特別な魚。古来から縁起のよい魚として祝い事には欠かせない存在であったようだ。●鯛を選ぶときはまず「目を見ろ」という。濁っていない、すっきりした目の鯛を選ぶのが目利きの技だ。そして美しい色、締まった身がポイント。さらに背中が黒光りしているものは上物中の上物。●ところで鯛の持ち方だが、間違っても尾を持ってぶら下げるような持ち方をしてはいけない。身がすぐに柔らかくなって味が落ちるのだとか。鯛を持つときは、背中を持つ。これが基本。
 「一に来島、二に鳴門、三にくだって馬関瀬戸」
 瀬戸内海・来島海峡は関門海峡や鳴門海峡に並ぶ潮の速い海として知られる。さらに一日に1000隻もの船舶が航行することから海の難所としても有名だ。四国の今治から尾道に至る「しまなみ海道」に架かる来島海峡大橋から瀬戸内海を見下ろすと、なるほど、その潮の速さが目にみえてわかる。
 16世紀を最盛期として、この海を根城とする海賊衆が実存した。村上一族である。能島、来島、因島の三島に分かれていたが、なかでも能島に城を構えた村上武吉は無法者の海賊社会に秩序を築き、水軍を組織。戦国時代の武将の勢力をも左右した海の大名として名を馳せた。彼らはこの複雑な潮流を逆手にとり、優れた戦術と航海術をもってこの海を縦横無尽に船を操り、制覇していた。
 来島海峡大橋の島側の袂に位置する宮窪町には村上水族博物館があって、当時を偲ぶことができる。
 さて、村上水軍の里として町おこしをする宮窪町のもう一つの名物は地場の海でとれる水産物だろうか。潮の速い海でとれる魚は旨いと相場が決まっている。関の鰺や鯖、明石や鳴門の鯛、下関の虎河豚。そして来島海峡の鯛もまた旨い。取材に対応してくださった宮窪町の方々が立派な鯛を用意してくださり、それを隣町の民宿で料理していただいた。
 贅沢な鯛飯。海賊たちも鯛をこんな風に食べていたのだろうか。



海の博物誌
 以前、『マグロは時速150キロで泳ぐ』という本が話題になったが、この本のタイトル通りほとんどの回遊魚は泳ぎが達者である。
 マグロを例にすると、体系は紡錘形で断面はほとんど円状になっている。そして身体の最も太い部分が中心よりやや後方に位置している。これは層流翼形といい、泳ぐ際に起こる乱流を防ぐ。また身体の対面はぬるぬるとした粘液に覆われている。これはより水の抵抗を減らすための工夫で、鱗がなく、疲労を抑えて長い距離を早く泳ぐのに適した身体を持っているのである。
 また、回遊魚は推進力のほとんどを尾鰭でまかない、背鰭は方向転換の時に使う程度だが、猛スピードで泳ぐような時はこれを使わず身体の中にしまい込んでしまう。バショウカジキはその名の通り、芭蕉の葉のような大きな背鰭を持つカジキだが、それでも泳ぐ際はそれを背中にある溝にしっかり畳み込む。
 また、よく見ると背鰭と尾鰭の間に小さなぎざぎざがある。これは尾鰭を激しく動かす時に生じる乱流を制御する働きがあるのだ。こうなるとまるで造船工学の最先端を地でいっているようなものである。神秘に満ちたものだといわざるを得ない。



ヤマハニュース

「東京国際ボートショー2006」スペシャルサイト公開。
1/10からチケットプレゼント受付開始!2006年2月9日(木)~12日(日)、幕張メッセで開催される国内最大のボートショーをご案内します。

「ネットTV」第4話「三陸沖のマーリンを追う~塩釜ビルフィッシュトーナメント」
マリンレジャーやマリン文化をテーマに最新の映像でレポートするネットTV「Captain’s World TV 」公開中!

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国内外の海洋文化や歴史、リゾートライフ、海と人の幸福な関係など、より豊かなマリンライフを過ごすための情報誌です。

「マリーナ百景」更新
保管だけでなく釣り場のポイントやクルージングコースのレクチャーなどマリンに関するさまざまな情報を持っている全国のマリーナをご紹介しています。今月は長崎サンセットマリーナが登場。


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【編集航記】
ヤマハでは毎年、マリンファンやジャーナリストを対象にアンケートを行い、マリン十大ニュースを発表しています。2005年の第一位はヨットマン、斉藤実さん(71歳)による「単独無寄港世界一周・最高齢記録達成」でした。斉藤さんのプロフィールを見て意外だったのは、ヨットを始めたのが38歳の時であったということ。子供の頃から海に親しみ、操船を覚え、、、というのは理想ではあるかもしれません。でも、人間、齢38から始めたことでも一流になれるものなのだなあと、改めて勇気をいただいた気がします。さて、2006年は、どんな海のニュースを聞くことができるでしょうか。(編集部・ま)

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