 |
※お使いのブラウザでHTMLメールを表示できない場合は、こちらのサイトからもご覧いただけます。 |
|
 |
ここ数年、世界遺産の水辺を徘徊する機会が多々あって、幸福をかみしめている。ヘルシンキ(フィンランド)のスオメリンナ要塞、ベトナムのハロン湾、クロアチアのドブロブニク、日本の知床半島、瀬戸内海の厳島神社、ロシアのサンクトペテルブルグ、ブラジルのパンタナル大湿原、そして、トルコのイスタンブル歴史地区。世界遺産ブームは日本だけのモノというわけではないらしく、訪れたいずれの世界遺産は、多くの観光客で賑わっていた。
もっとも最近に訪れたのは、イスタンブル(「イスタンブール」と書かれることの方が多いようですが)。ご存じのように元は古代ギリシアの植民都市・ビザンティン、ローマ帝国末期の首都・コンスタンティノポリスのことで、このように支配者がめまぐるしく入れ替わる歴史的背景は、アジアとヨーロッパの中間に位置する地理的要素も相まって、さまざまな文化、宗教が入り乱れる結果を招いた。
見所はトプカプ宮殿、アヤソフィア、スルタンアフメト・モスクなどの歴史的建造物群。ビザンティン建築の最高傑作といわれるアヤソフィアなどは、その荘厳な美しさに固唾をのむばかり。オスマン帝国時代に塗られた漆喰仕上げ、大理石仕上げの内壁に、一部が剥がされ、東ローマ帝国時代のモザイク壁画が施されている様などは、この都市の歴史の複雑な変遷を物語っているかのようだ。
こうして筆者も歴史的建造物に人並みに感動したりするわけだが、ただ辟易するのは、その人の多さである。自分もその中の一部にいるわけだから、たいそうなことを言えた義理でないのは百も承知なのだけれど、暑い夏の盛り、この人混みの中を歩くのは、誠にしんどい。結果、こころの安らぎを求めてさまよい歩いていると、観光客の姿もまばらとなる水辺にたどり着くのである。
イスタンブルの歴史地区から北へ歩き、エミノニュ広場から北へ架かる橋を渡る。もちろん観光客はここにも多いが、団体ツアーの行列はほとんど見られなくなる。そして海辺に面した遊歩道のベンチに座り、行き交う人びとや、観光船の桟橋から海に飛び込みはしゃぐ子供たち、橋から海に向かってせり出す何本もの釣り竿を眺めるうちに、ようやく異国情緒がこころに染み渡ってくるのだ。
ドブロブニク、サンクトペテルブルグ、先に挙げたどの観光地に行っても、最後はこういう場所に行きつく。けれど、水辺に戯れる異国の人びとを眺めつつ安らぎを得ることのできる感性は、そこに職業的な目的が入り込んでいたとしても、ささやかな自慢となっている。
田尻 鉄男●たじり てつお
外洋帆走部に所属しクルージングに明け暮れた大学生活、1年間の業界紙記者生活を経て、88年、プロダクションに入社。以来、日本のボーティングシーン、また沿岸漁業の現場を取材してきた。1963年、東京生まれ。 |
|
|
|
 |
明治31年、漁業調査のために東京の大川口を出帆し、南方の新鳥島から小笠原諸島を目指した帆船「龍睡丸」が時化に遭遇し、座礁した。本書は救命ボートで珊瑚礁の小さな無人島にたどり着いた全乗組員16名の無人島での生活を、聞き書きとしてまとめたノンフィクションで、初刊は昭和23年である。
幼少時に「ロビンソン・クルーソー」や「十五少年漂流記」などの冒険物語に胸を躍らせ、海への思いを滾らせ、そんな思いを忘れずにいまも海へと駆り立てられている大人は多いことだろう。だが、大人になって、ある程度海や船のことを知ると、漂流することや無人島に流れ着くことがいかに恐ろしいことか、わかるようになる。「遭難しない」ということは海に出る上で大前提の戒めだ。そのためにシーマンシップを磨くことは、最重要事項なのだ。だがその反面、もしも遭難してしまったとき、いかに危機から脱することができるか、生き延びることができるかという技術も、またシーマンシップの一つの要素だ。
「無人島に生きる十六人」は、突き詰めれば海の男たちの失敗談といえる。けれど、飲み水や火の確保、見張り櫓や海亀牧場作り、海鳥やあざらしとの交流など、助け合い、日々工夫する十六人の明治の男たちもまた、シーマンシップに長けた真の海の男たちなのだ。
「日本は海の国であるのに、海国日本の少年たちの心に、海の息吹をほんとうに吹き込む読物のないのを、私はながいあいだ気にしていました」
本書の前書きで、この物語のモデルであり、実体験者の一人である中川倉吉氏は語っている。本コーナーで再三にわたって取り上げている作家・白石一郎も「海のサムライたち」で同じようなニュアンスの記述をしているが、このような使命を持った作家、表現者には敬意を抱かずにいられない。
|
明治の海の男たちに酔う
「無人島に生きる十六人」
著者/須川邦彦
発行/新潮文庫
定価:400円 (税別)
|
|
|
町を行く人の装いにも半袖姿が目立つようになると、本格的な夏もすぐそこでカツオ料理が恋しくなる季節だ。着物を質に入れてでも初鰹を食べないと気がすまなかったとかいう江戸っ子ほどではないにしても、マグロやアジとはまた違った独特の風味は、やはり夏を代表する味覚のひとつ。
食の対象としてももちろんだが、ゲームフィッシュとしてもアングラーたちに人気である。紡錘形のいかにもスピードが出そうな体型で、英名のスキップジャックとはよく名づけたものだ。
そのカツオ、刺身はもちろんタタキもいいが、たまには、こんな料理はどうだろう。フライパンにのせてミディアムレアで焼き、豆板醤を使ったオリジナルの中華風ソースをかけてみた。鰹は生臭てどうも……、という方にはおすすめの一品だ。
|
カツオのステーキ 中華風ソース |
●材料
鰹 刺身用 1さく、ショウガ 1かけ、にんにく 1片、長葱 7センチ程、赤だし味噌 大2、甜麺醤 大1、豆板醤 小1、醤油 大1、酒 大2、みりん 大2、ごま油 大3、塩、コショウ、白ゴマ、各適宜
●作り方
1)鰹は1センチくらいの厚さに切り、塩コショウする
2)しょうが、にんにく、長葱はみじん切りにする
3)小鍋でごま油を中火で熱し、2)を加え香りを出す
4)赤だし味噌、甜麺醤、豆板醤、酒、みりん、醤油、水を加えひと煮立ちさせる
5)フライパンにごま油をひき鰹を両面こんがりと焼く
6)皿に盛り、4)のソースをかけ白ゴマと万能葱の小口切りを振りかける |
|
 |
「Let the cat out of the bag」……。これは猫をカバンの外に出す? ではなく、帆船時代の習慣から生まれた熟語である。英和辞典のcatの項の終わりのほうに「秘密をもらす」意味だと書いてある。
catは「猫」のほかに (2)意地悪女 (3)9本のひもつきムチ=cat-o’-nine-tails (4)六脚器 (5)一枚帆の小舟 (6)なまず (7)棒飛ばし (8)ジャズ狂という意味があり、この熟語のcatは3番目のムチのこと。騎手が使うようなスマートなものではなく、短い棒の先に何本かのロープがついていて、先端には結び目が作ってある。
帆船の船上で、主に水夫に対する罰として、このムチによるムチ打ちの刑が行われた。上半身を裸にして縛り、容赦なく打つので、事実上は死刑のようなものだったという。
bagはこのムチを入れる赤いウールの袋のこと。「出してはいけない恐ろしいものを所定の場所から出す」から「秘密をもらす」ことを指すようになった。
|
|
 |
東京の夏。アスファルトの照り返しや室外機の熱風溜まりによる熱さに、身体が拒否反応を起こす。夏は嫌いではないが、都会のそれは尋常ではない。そんな暑さをボートが受ける風で払いとばしてしまおう。江戸川放水路にある「ニューポート江戸川」へシースタイルの予約を入れた。
●江戸の関所
「やっぱり夏はクルージングですね!」
ニューポート江戸川のシンリさんにドライバーの同行をお願いして、運河クルーズをスタート。
相変わらず「夏日」が続いていたが、水の上の暑さは、心地よい。今日のコースは、荒川ロックゲートを抜け、日本橋川を往復し、築地、芝浦、お台場を廻るというもの。水上目線から東京を眺めるのが目的だ。その他、「水の都・東京」復活を望む私としては、東京湾や運河の状況がどのように変化しているかも見てみたくなった。
その昔、江戸時代の運河は活気にあふれていた。
人々は舟で物を運び、移動し、生活にかかせない物資はすべて水路上から陸へと揚げられた。「水」中心の都が東京、江戸だった。東京都による「運河ルネッサンス」は、まさにその時代の運河を現代版としてよみがえらせ、かつ、観光資源としての魅力も付加しようとする試み。水面利用に関する規制も幾分緩和されつつある。たとえば推進地区でもある品川浦・天王洲地区には、ボートを係留できるマンションや水上レストランができ、注目されている。
さて、江戸川放水路を出て左手に浦安のディズニーランドを見ながら葛西臨海公園方面へと大きく旋回し、荒川へと入った。荒川ロックゲートが左手に聳える。ロックゲート(=閘門)とは、水面の高さが違う2つの川のあいだを船が通行出来るようにするための施設。川と川の間に水門をつくり、水位を調節して、水面の高さを同じにしてから船を通す。入り口は荒川側と墨田川側にあり、間を流れる小名木川が水路となっている。
目の前で停船するとどこからともなく声が聞こえ、5分ぐらいでゲートが開いた。
●夏の桜
ロックゲートを抜けると、目の前には一直線の水路。両岸は整備され、遊歩道のようになっている。その脇を固めるように下町風情たっぷりの住宅が並び、ぽつぽつとマンションもある。
「ここにポンツーンでもあれば便利なのに。いっそ、家ごとにボート置き場があればいいなあ」などと、大きな独り言を言ってみた。
ロックゲートから15分ほどでクローバー橋に到着した。交差する川の四隅を結ぶように橋が架けられている。
クローバー橋周辺はハゼ釣りポイントとして人気らしい。多くの人が釣りを楽しんでいた。昔ながらの竹竿を手に、はぜ釣りをしている人の脇をすり抜け、水路クルーズを満喫。しばらく進むと夏葉に覆われた桜の木が川岸に何本も立ち並ぶエリアに出た。春の桜が果無気(はかなげ)ならば、夏の桜は頼もしい。両手でいっぱいの日差しを受け、その下に涼をもたらしてくれる。水面に映る葉の隙間に見え隠れする日差しが眩い。
「ここは春になると花見の人が大勢集まる桜の名所なのですよ」
シンリさんがガイドしてくれた。
●「水の都」の復活を願う
扇橋閘門を抜け、隅田川を左に入る。さらに湾岸エリアを代表する「佃島マンション群」をかわし今度は大きく右側に旋回し、目的の「日本橋」へ向けて日本橋川に入った。いくつもの橋の下をくぐる。川の両脇には稼働していなさそうなプレジャーボートや釣り船が多く係留されていた。
そして目的地の日本橋。世界に名だたる江戸の町人文化は、ここから生まれたといっても過言ではない。江戸開府の年に架けられた木造の橋は、水路と陸路を備えた交通の要衝となり、ここを中心に、魚河岸、商店が立ち並んだ。そして訪れた人々が立ち寄る芝居小屋ができ、歌舞伎や浮世絵等の芸術をはじめとした流行の発信地にもなった。
この辺りこそ『運河ルネッサンス』に相応しいのではないか。水路流通の利便性をはじめ、観光資源にも事欠かない。まだまだ大きな変化は起こらないかもしれないが、水の都の一日も早い完全復活を願うばかりだ。
■東京都「運河ルネッサンス」
http://www.kouwan.metro.tokyo.jp/yakuwari/unga-renaissance/
取材協力
ニューポート江戸川
●〒134-0084 東京都 江戸川区 東葛西3-17-16
●TEL: 03-3675-4701/FAX: 03-3675-4703
●ホームページ: http://www.newportmarine.co.jp/
■ニューポート江戸川は会員制のマリンクラブ「Sea-Style」のホームマリーナのひとつ。「Sea-Style」は全国約130ケ所のホームマリーナで気軽にボートをレンタルし、楽しむことができます。

●Sea-Styleホームページ
http://sea-style.yamaha-motor.co.jp/
|
レポート:菊地眞弓(きくちまゆみ)
今は無き伝説のアウトドア雑誌「アウトドア・イクイップメント」編集員を経て、フリーライターに。趣味は旅・食・酒。魚釣りときのこ狩りに費やす時間は人生の宝。東京生まれ。
|
 |
 |
司令官がどこにいるのかとても気になる「荒川ロックゲート」 |
 |
クローバー橋の下は真ハゼのポイント。交差する橋の下は釣りを楽しむ人で賑わっていた |
 |
桜並木下でくつろいでいた鵜。ボートが近づくと面倒くさそうにゆっくりと飛び立った |
 |
緑が美しく、覆い茂る夏の桜は頼もしい |
 |
隅田川から日本橋川に入った日本橋手前の風景。入り乱れる高速を下から観察。4in1の技を見た! |
 |
現在の日本橋は明治44年(1911年)に架けられた20代目の橋 |
 |
「日本橋」と「レインボーブリッジ」を見比べる。月への架け橋もそう遠くない気がしてしまう |
|
|
|
● |
「海の思い出アルバム2008」海で見つけた思い出のシーンを大募集!
皆さんの応募作品をアルバムにして、もれなくプレゼントします。
|
● |
マリンクラブ・シースタイル「Web入会サマーキャンペーン」 5人に1人入会金無料!
期間中ご入会頂いた方の中から抽選で5人に1人の方の入会金が無料です。
|
● |
「マリーナ百景」 備讃瀬戸の多島海を楽しむ倉敷のオバタマリーナ
全国に点在するさまざまなマリーナを紹介します。
|
● |
漁船や沿岸漁業の情報「大漁ネット」今月は設計室便り 操舵装置について
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
|
|
■ |
今月の壁紙
『SALTY LIFE』読者限定
8月の壁紙カレンダーはこちらからダウンロードできます。 |
|
|
■ |
バックナンバー
『SALTY LIFE』のバックナンバーはこちらからご覧になれます。 |
|
【編集航記】
池波正太郎ファンの方ならよく存じていると思うが、「鬼平犯科帳」や「剣客商売」などにはよく大川(隅田川)や江戸の水路を船で行き来するシーンが出てくる。鬼平では捕り物にも使われるが、船遊びのシーンもよく出てくる。剣客商売の秋山小兵は自宅から江戸市中に出かけるときは若い女房に船をこがせる。いまの時代になって、陸を歩いているとなかなか実感できないのだが、ボートで都内の運河を巡っていると改めて思う。東京は間違いなく「水の都」である。(編集部・ま) |
■ 『SALTY LIFE 』について
メールマガジン配信サービスにご登録いただいているお客様に定期的に配信するマリン情報マガジンです。 |
■ お問い合わせに関するご案内
『SALTY LIFE』は送信専用のアドレスより配信しております。
「配信の停止」についてはhttps://www2.yamaha-motor.co.jp/Mail/Saltylife/をご参照下さい。 |
※お使いのブラウザでHTMLメールを表示できない場合は、こちらのサイトからもご覧いただけます。 |

『SALTY LIFE』
〒438-8501 静岡県磐田市新貝2500
発行:ヤマハ発動機株式会社
Copyright(C) 2008 Yamaha Motor CO.,LTD. All rights reserved.
掲載文章および写真の無断転載を禁じます。 |
|