Vol.37 食材探しツーリングスペシャル 第1話 ル・マン、MotoGP観戦
モーターサイクル・デ・フレンチ ツーリングで全国食材探しの旅

今回は欧州で発売されている『TMAX』に乗って中世の街並みとレースで有名なル・マンからお届けします。
さて今回の旅はどんな旅になるのやら。バイク乗りで料理人の私にどんな影響を与えてくれるのか?楽しみだ♪それから、今回の旅には雑誌『レタスクラブ』の編集長、土屋美和子さんも同行しています。レタスクラブのホームページでも女性の視点でみたこの旅を掲載しています、そちらも見てみて!
2008年5月 取材
【旅の始まり】
空港、パリの街並み、TGV乗車

成田空港からフランス、シャルル・ド・ゴール空港まで約12時間の空の旅。とうとうフランスに着いた!日本との時差は7時間だ。私“ヒルマン佐藤”は、実はフランスを訪れるのが初めてなのです。 シャルル・ド・ゴール空港はパリの北東約25キロに位置するヨーロッパを代表する空港。第2次大戦の国民的英雄で、1958年から69年まで大統領を務めたシャルル・ド・ゴールの名前にちなんで名付けられた。所在地の地名からロワシー空港とも呼ばれるそうだ。かなりの巨大空港で年間約4800万人が利用する。発着数世界一で、あまりに広くて複雑なため迷子にならないように注意だ。

空港からタクシーでモンパルナス駅まで、早朝のパリの町を走る。エッフェル塔や凱旋門が見えて少し気分が盛り上がってきたが、どうもバイク旅でないとリアルな感じがないんだよね。フランスと言えば華やかなイメージが強いが、長い歴史の中、さまざまな芸術と文化が生まれたこの国の一番の産業は『農業』なのだ。ヨーロッパ最大の農業国であるフランスの農業生産額は世界第6位、輸出額では世界第2位を誇る。また、GDP(国内総生産)は世界第5位、食文化を司る国内自給率も高く、経済的にも文化的にも実に力強い国なのです。

高層ビル、モンパルナスタワーが目印になるパリ、モンパルナス駅から世界最速の高速列車TGV『テジェヴェ(仏)』に乗り換える。 乗車した車両はTGV 第二世代に相当する、Atlantiqueの車両。鉄道マニアでなくてもグッと来るカッコイイ車両だ。 発車してしばらくすると景色はガラッと変わる。モンパルナス駅からル・マンまでは、TGVで一駅一時間ほど。次第に車窓は広大な農地へと移る。 どこまでも続く実りの大地。『農業国』である本当のフランスの顔か。
【MotoGP第5戦フランスGP】MotoGP、ホスピタリティーブース、V・ロッシ インタビュー

実は私“ヒルマン佐藤”は、MotoGPに関して、さほど詳しい方ではない。詳しくないという方は、私と一緒に少しお勉強を。 4輪の最高峰がF1(フォーミュラ・ワン)、2輪ロードレースの最高峰がMotoGP(ロードレース世界選手権)。 マシンは各メーカーがレース用に開発し、排気量により3クラスに分けられる。今年は、世界各地で全18戦が開催。 そのひとつが、今回旅するフランスで行われているわけ。さて、もうちょっと詳しく……。 MotoGPは排気量800ccの車両で行われる2輪ロードレースの最高峰。 このレースと同時に、250cc、125ccの各クラスもグランプリで行なわれる。 最高速が300kmを超えるMotoGPクラスには、ヤマハをはじめ各メーカーが参戦。メーカーの意地とプライドを賭けた熱い戦いが繰り広げられるのだ! ポイント獲得圏内となるのは15位まで。全クラスでライダーズとマニュファクチャラーズのタイトルを争うほか、 MotoGPクラスのみチーム選手権も存在している。1位には25ポイント、2位以下からはそれぞれ20、16、13、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1ポイントが与えられるシステムだ。 付け焼き刃的に勉強もしたところで、サーキットにゴー!想像以上にバイクの台数が多い!これだけのバイクが並ぶ景色は今まで経験がないぞ!歩く人も一目でそれと分かる“バイク乗り”ばかり。 かなり親近感が湧くね~。ここは“バイク乗り”の祭りだな。なんだか嬉しくなっちゃう。到着してすぐレース総監督を務めるフィアット・ヤマハ・チーム総監督 中島さんにパドックを案内してもらうことに。 残念ながら写真撮影は不可のため、皆さんにはご覧頂けませんが、世界最高峰の2輪レースのパドックは素晴らしかった~!良い経験をさせて頂いた♪ 今日はMotoGP決勝の日。天気は晴れているものの、季節的にとても不安定なのだ。このまま持てばいいが……。 しかしル・マンには、もの凄いバイクと“バイク乗り”の数。この人気、感心するばかりだ!そして会場には、V・ロッシのウエアーや帽子を身につけている人が多いこと! イタリアが生んだ世紀の天才ライダーバレンティーノ・ロッシ。 ライディング、パフォーマンス、キャラクター、そのすべてが際だち、ファンを全く飽きさせない圧倒的な人気を誇るカリスマ的存在なのだ。子供たちにも人気でミニ・ロッシがたくさんいた。

さあー、いよいよ決勝のスタート。否応なしに盛り上がる!全身を突き抜ける排気音が更に興奮させる! V・ロッシは4番スタート。周回するごとに順位を上げて7周目でトップに立つと、グングン差を広げてゆく。フランス語の場内放送は聞き取れないが、V・ロッシのことばかり言っているようだということだけは分かった。ことあれば「○×△■☆バレンティーノ~~~、ロッシ~~~!(バレンティーノ~のところでため、ロッシ~で叫ぶ)」てな、具合で何度も盛り上がる。 しかし中盤の16週目あたりにさしかかると、コースの一部で雨が降り出したらしく、ホワイトフラッグが振られる。ウェット宣言だ!ドキドキ。結局、ライダーたちはドライタイヤのまま走行を続け、5番手スタートで一時11番手まで順位を落としたJ・ロレンソ(ヤマハ)が、気づけば2番手にいた! さらに、さらに!テック3(ヤマハ)のC・エドワーズが3番手にいるじゃない!これは~?もしかしたら~!?鼻血が出そうなほど興奮!V・ロッシは首位独走、2位と10秒の差を着けて余裕のチェッカーフラッグ。続いてロレンソ、エドワーズと続く。これは凄いことになった。表彰台独占じゃん!スゲ~!やった~!ヤマハ、バンザ~イ! ロッシは先の中国GPに続いての優勝で、自己通算90勝目を達成。ランキングもトップに浮上した。同じく90勝の記録を持つアンヘル・ニエトと、ともにマシンにまたがり、「90+90」の旗を振りかざしながらコースを1周した。 実に夢のようなレースだった。初ル・マン、初MotoGPでヤマハが表彰台を独占した瞬間に立ち会えた。こういうのをビギナーズ・ラックと言うのか?(ちょっと違うか……)。しかし、本当に良いときに来たもんだ。こんなに楽しいなら、9月28日に日本(ツインリンクもてぎ)で開催される、MotoGPも行っちゃおうかな?日本でもっとMotoGPを盛り上げましょ~う!!

此処はヤマハのホスピタリティーブース。この施設は移動式で、ヨーロッパの各レース場で使用される。スポンサーやチームのスタッフもちろん、ロッシを含むライダーも、食事やミーティングを行う憩いの場所。 料理はイタリア料理。ヤマハブルーに統一されて明るくカジュアルな雰囲気にしてあるが、サービスのクオリティはもの凄く高い。スタッフの素晴らしいサービスと笑顔は、過酷なレースをこなすライダーやチームスタッフを癒してくれることだろう。世界一のタイトルを目指すべく戦う環境が整っているわけだ。流石だね。 リラックスムードでくつろいでいると、レストランのクロアチア人シェフ、ニキさんが挨拶に来てくれた。私たちのためにスペシャリテを作ってくれるという!贅沢に使ったパルメザンチーズのケースにサフランのクリームソースのタリアテッレ。見た目もとても美しい!とても美味そうだ!早速頂きます。お腹ペコペコだったし、ツルツルパクパク、食が進む。美味いのなんの!タリアテッレの麺のコシとモチモチ食感がたまらない。そしてサフランのクリームの風味が良いこと!パルメザンチーズのケースもパンチがあって大満足! 作り方も教えていただいたので、詳しいレシピが知りたい方は、『レタスクラブ』のHPで6月11日に公開される予定です。

ヤマハサポートチーム「テック3・ヤマハ」のホスピタリティーブースで、南仏の有名レストランがVIPのために料理を準備していると、スタッフの方からの情報。現場を見学できるということで、行ってみる。 メニューを見ると、白トリュフやらオマール海老、リードボー、鳩と高級食材がズラリ。その食材を前に、若きシェフが頑張って準備をしていた。ブリードモー(白カビのチーズ)を二分の一にカットし、白トリュフを挟む料理。かなり贅沢だ。忙しい中、とてもフレンドリーに対応してくれたシェフに、感謝。 フィアットヤマハのホスピタリティーブースに戻ると、ディナーの準備が整っていた。せっかく用意していただいたので、今夜はここで食べることに♪数多くの前菜、野菜がとても多く取り入れられていて、生野菜や加熱調理した野菜がたくさん。もちろんイタリア料理らしく生ハムやモッツァレッラも♪ しかし、前菜で欲張ると大変……。この後、パスタ数種類かリゾットをチョイス、さらにメインで数種類の肉料理をチョイスしていく。一人ひとりのオーダーを受けるシステムで、ニキさんをはじめとするシェフたちの作りたて、心のこもったお料理を楽しめるというわけ。さすがの私も、お腹がはち切れんばかりに……。
【Valentio Rossei スペシャルインタビュー】

V・ロッシとの対面にさすがの“ヒルマン佐藤”も緊張! レースに関しては、モータージャーナリストなどの専門家がさんざん聞いてるだろうから、普段あまり聞かれることがないであろう、 食の質問をいくつかしてみた♪ 質問内容はこんな感じ。 Q過酷なレースを闘う上で食生活で気を遣っていることはありますか?食生活の管理はどのようにされていますか?辛くはないですか? 現在、29歳の僕にとって食生活の管理はとても重要です。20歳くらいの若い頃よりも気を遣うようにしています。 だけど自分の体型をキープするために厳しいダイエットをする必要は無いから、一般的な軽めの食事をすることが多いよ。特にレースやマシンに乗る前は軽い食事をすることが多いかな。 特別なことをしなくても体型をキープできているし、辛いと思ったことは無いよ。 Q好きな食材、食べ物は? 日本食は大好きだよ。もちろんイタリアンが一番だけど。特にパスタが好きだね。ポモドーロやカルボナーラとか…肉料理や魚料理も好きだけどね。 日本食は本当に大好きなんだ。ロンドンやイタリアでも時々日本食のレストランに行くことがあるよ。だけど日本に行けばいつでも食べられるから毎回楽しみにしているよ。 Qイタリア人はどうしてどこに行ってもイタリアンばっかり食べてるのだと思いますか? 確かにそうだね。10年~15年くらい前は僕もそうだったけど。やっぱりイタリアンはとてもおいしいし、小さい頃からイタリアンを食べて育ったからじゃないかな? だけどここ数年は他の国の料理を食べるのが好きだね。 最近はイタリア以外の国でイタリアンを食べたいと思うことは無いかな。 Q好きな日本食は何ですか? 特にスシ、刺身、天ぷらが好きだね。 やっぱりスシが一番好きかな。 Q昨年、六本木で松坂牛の鉄板焼きを食べられたそうですね?如何でしたか? 松坂牛は最高だね。大好きだよ。とても柔らかいし、おいしいしね。 もてぎの近くや東京にある松阪牛が食べられるとてもいいレストランを知ってるよ。 Q世界を転戦する上でいままで心に残る、国のお料理はありますか? たくさんあって思い出すのが大変だけど…ミラノの素晴らしい日本食レストランに行ったことがあるんだけど名前を忘れてしまったよ。 親友が経営しているイタリアンレストランも大好きでよくランチを食べに行くんだよ。リストランテ・デ・ルーテミという名前なんだ。 Q昨日のメニューは何ですか? 昨日はビステカ・ア・ラ・フィオレンティーナ(Tボーンステーキ)だったよ。 Q気分転換に料理を作ることはありますか?その場合どんなものを作りますか? 自分ではコーヒーを淹れるくらいで、料理はほとんどしないんだよ。 Qチームのシェフにリクエストをすることはありますか?どんなものを? マシンに乗る前にはいつもパスタを食べるんだけど、ポモドーロとかトマトソースではなく、ソースの無いパスタをリクエストするよ。 こってりとしたものを食べるわけにはいかないからね。

ホスピタリティブースから外に出ると通路に、V・ロッシ仕様、J・ロレンソ仕様のVOXを発見!パドックからホスピタリティーブースの移動に様々なスクーターが大活躍しているのだ。 その中でも一番目立っているのが、他のスクーターとは一線を期したデザイン、大柄なボディのVOXだ!文字を書くスペースも大きいし車体のラインが垂直っぽい場所が多いから文字やイラストなどが非常に生きる、色使いで雰囲気も変えやすい、VOXはそんな楽しさまで考えてデザインされているのだろうね。 午前中にV・ロッシがパドックの方にVOXで走っていった。とてもフレンドリーに行き交ういろんな人たちと挨拶や会話をしながら、なんだかとても楽しそうだった。
【TMAXツーリング】リュド城、ラフレッシュの町

ロワール川沿いには、15世紀から16世紀にかけてフランス王家や貴族が建てた、多くの城館が残っている。初期に建てられたものは軍事目的の城“要塞”であるが、その後は王侯貴族が使う宮殿や館としての色合いが濃くなって、美しい建物となっている。 今回立ち寄ったのは10~11世紀に作られたというリュド城(Chateau du Lude)。ルイ16世調の上品な門構え。門を開ければ、噴水、花や木々、そして川のせせらぎまでもが見事に調和した庭園が広がり、その中に浮かび上がる美しい城が目に飛び込んできた。 『TMAX』は、こんなステキな城にもデザインがしっくり合うんだ。鎧を着けた中世の精悍な馬のようにね。さすれば私はナイト。すると『レタスクラブ』の土屋さんはクイーンだね。しかし、ホントに美しい。

第二帝政時代に作られた家庭菜園では、さまざまな野菜や果物が丁寧に育てられていた。 実際にこの城に住んでいるマダムに、城を案内して頂いたが、さすが本物の城は違う。全てに人の手が入った繊細さとデザインに、長い時間を経てなお伝わる、思いとプライドを感じた。 さらに地下にある大きな厨房も見学させてもらった。螺旋階段を下りてゆくと、映画や本でしか見たことのない風景が!日本人のフランス料理人として、これは感動だ!驚くほど大きな厨房。いったいどのくらいの数の料理人が、ここで料理をしたのだろうか……。 何時しかその技術は伝わり、私の技術となっているのかもしれない。そして更に広がってゆくのだろう。

ロワール地方アンジェ(Angers)とル・マン(Le Mans)の真ん中あたりにある小さな町、ラ・フレッシュ(La Fleche)。 町の中をロワール川の支流であるル・ロワール川が流れ、まさにここがフランスの田舎町だと感じさせる。建物も全体的に低く、2階3階建てが多い。 町の中心には教会と噴水のある広場があり、ヘンリー5世の銅像が建っていた。 旅先での楽しみのひとつ、早朝の散歩は今までにないほど感動の連続だった。石畳の道、大きな木のドア、細く入り組んだ路地、何軒ものパン屋からパンを焼く香りがたちこめ、モネの絵のような静かな川辺には野の幸や川の幸を売る店が軒を連ね……町全体がこんな感じなのだ。

3日間滞在したのだが、住みたいと思えるほど愛着が湧いてしまった。朝の散歩だけでなく、『TMAX』でも幾度となく町を走ったが、F.I.セッティングが絶妙で、中低速トルクがいいから、ヨーロッパでは良くある石畳の道でも細い路地でもギクシャクせず、とても扱いやすい。そんな『TMAX』は、かなりの注目度。町のカフェに立ち寄るたびに何人にも話しかけられたほど。 けれども、如何せん、言葉が……。単語だけで話すのにも限界があるね。次回はもう少し言葉を勉強してから来よう。 出発の日。『ラ・フレッシュ』の町が既に懐かしく感じるようになっていた。いつの日かもう一度立ち寄りたい場所が、またひとつ増えた。