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Vol.48 初夏の風とSR、蔵人の魂に触れる旅

モーターサイクル・デ・フレンチ ツーリングで全国食材探しの旅

2010年5月 取材

当日は、朝から気分が良かった。雲一つない青空と、朝の日差しに輝くディープレッドの新型『SR』。こいつとツーリングなのだと思うと、無意識に顔がニヤけてしまう♪F.I.(フューエルインジェクション)になった『SR』に乗るのは初体験。とても楽しみである!
今回目指す、静岡県掛川市大須賀(旧大須賀町)にある『栄醤油』さんは、寛政七年(江戸時代)の創業以来、古式木桶による丸大豆を使用した天然醸造で本物の醤油を造り続けている、ありがたいお店。大須賀は、徳川家康が築城した「横須賀城」を中心に栄えた城下町。徳川・武田両軍が天下をかけて戦った「高天神の合戦」、その最前線だった場所でもある。今では城跡が残るのみだが、300年もの間、南遠州の中心地として栄え、その歴史が息づいている。古い町並みには、歴史ある酒蔵・味噌蔵などが点在し、昭和レトロな看板などもあって、まるで屋根のない博物館のよう。そんな町にある『栄醤油』さんまでは、私のお店『カジュアルフレンチ・ヒルマン』からバイクで1時間ほどだから、今回は気軽なお散歩ツーリングといった感じ。さぁ身支度を整え、いざ出発!

『SR』と言えば、キックスタート!儀式のように一連の流れでキックを踏み込むと、やさしく、そして力強くエンジンは目覚めた。F.I.になりチョークを引く行為が消えたものの、
何も変わらない印象だ。
私にとって『SR』は想い入れのあるバイクで、いままで2台を乗り継いだ。'83 SR400SPは峠仕様、'85 SR400はほぼノーマルで、雨が降ろうが何だろうが、通勤からツーリングまで、『SR』を乗りたおした。その生活は実に楽しかったことを思い出す。それだけに、2008年30周年モデルを最後に生産が終了したときは、かなりのショックを受けた。そして2010年、新型『SR』が発表されると聞き、それはもううれしかった。どんな『SR』が登場するのか、私なりに新しいスタイルの『SR』を期待し、想像し、発売をワクワクして待っていた。そんな妄想がふくらむ中で、新型『SR』を見たものだから、正直、以前と変わらぬスタイルに、一瞬複雑な思いを抱いた。しかし、改めて “変わらぬ”『SR』の姿を見つめ直しているうち、「これって凄いことだよな。やっぱり『SR』はこの形なんだよ♪」と、じんわり安堵とうれしさがこみ上げて来たのだ。

そして今回のツーリングで初めて新型『SR』に触れてみて、何の違和感もなく走り出したことに、またうれしさを感じた。ファーストインプレッションは、クラッチが軽い、シフトがスムーズ、ニュートラルが出しやすいなど全体的にソフトになったなということ。F.I.のおかげか、低速域の力強さや安定感があり、トコトコ走ったり市街地での取り回しの良さは、今まで以上ではないだろうか。それプラス、ひとたびアクセルをひねればスムーズに力強く回るエンジン。今回は走れなかったが高速道路走行も期待できるね。

創業寛政7年。国産の原料で造る天然醸造醤油。皆で大切にしたいですね。

新型『SR』の魅力を存分に味わいながら『栄醤油』さんに無事到着。平入りの町家建築に歴史を感じる、素敵な佇まいにしばし見入ってしまった。
迎えてくれたのは主の深谷益弘さん。大須賀城が築城された際、三河地方から刀鍛冶の家としてこの地にやって来たのがルーツだという由緒あるお家柄。益弘さんは現在7代目にあたり、醤油を作るようになってからは5代目になるそうだ。

瓦が美しい、醤油が美味い!日本に生まれてよかった。

早速、蔵を案内していただいた。町家造りの建物を奥に奥に進むと、心が落ち着くような懐かしさを感じる香りに包まれた。もろみの香りだろうか?とても良い香りだ。その香りの中で、醤油づくりに関する一連の製造工程について説明を受ける。『栄醤油』さんは、江戸時代からほとんど変わらない国産の原料を使った昔ながらの木桶仕込みが特長。

国産丸大豆を見せてもらいました。

行程をカンタンに説明すると。
材料は至ってシンプル。丸大豆に小麦と塩だけなのだ!
1)丸大豆を蒸して、小麦を炒り砕いて大豆と混ぜ、麹(こうじ)をつくる。
2)塩水を加え、もろみにして木樽で熟成させる。途中、手作業で撹拌(かくはん)させ一年半ほど熟成させる。
3)熟成したものを布袋に入れ、圧搾すると醤油が完成!

圧搾したそのままのものを生醤油と言いますが、私たちが実際に使う多くは、加熱(火入れ)をして瓶詰めされ製品になったもの。至ってシンプルに感じるのだが、だからこそ、すべての行程において職人の長年の経験と勘が重要。もちろん緻密なデーターもあるのでしょうが。最終的には職人が自分の目で見、肌で感じ、舌で味わい判断する。一般の醸造醤油のように添加物(調味料、甘味料、酸味料、保存料など)で調整しない。だからこそ、微妙に味に変化が出るときもあるそうで、味見をして迷ったときは、潔く廃棄してしまうそうだ。これも、先祖から引き継いできた信用を大事にする想いがあるからこそ。
さらに奥に行くと大きな木桶が現れた!大きな木桶が30本以上あり、このなかで醤油はジックリ熟成されている。すべてが使い込まれ、時の流れを感じさせる。なんだかワクワクしてくるね。

店頭売りが一番多いそうだ。食の本質・本物は、人から人へと伝わるのですね。

日本人にとって醤油は欠かせない調味料なのだが、意外にもその歴史は浅く、一般に広く浸透して行ったのは江戸中期頃から。
ルーツは、醤(ひしお)。肉や魚、野菜などを塩や酒と共に発酵させたもので、それが日本人の嗜好や美味しさへの探究心で完成度を増し、世界に誇る今の醤油のスタイルが完成していったのである。
そして何と、私の分野であるフランス料理でも、古い宮廷料理のレシピの中でソースのベースや隠し味として醤油が出てくるのだ!面白いでしょ?日本が鎖国の時代に、出島からヨーロッパ諸国にかなりの量が輸出され、その品質の高さからとても珍重されていたようだ。
日本の気候風土の中、醤油や味噌、漬け物に納豆、日本酒などさまざまな発酵食品が、私たちの生活の中で進化し食生活を彩ってくれている。近代化の中で大量生産がもてはやされた時代には、『栄醤油』さんも「時代遅れ」と評価されてしまうことがあったそうだ。しかし利益重視で大量生産、多角経営をして利益を上げていった人たちは皆、廃業していったという。
『栄醤油』さんの場合、交通事情や諸々で取り残された感のある地域だけに、昔ながらのスタイルを変えるに変えられなかった経緯もあるようだが、結果的に「本物が残った」と言えるのではないだろうか。『栄醤油』さんは店頭販売が一番多いそうで、地域の人々に愛されているのがよく分かる。「大量に買ってもらうより、価値を感じて使ってくれるお客様を大切にしたい」という深谷さんの言葉が胸に沁みた。

店先に出ると、使い終わった一升瓶を持ったおばちゃんが醤油を買いに来た。そんな風景を見て、「家の醤油はコレだよ!これがあるべき姿なんだよね」と心の中で叫んだ私。日本の偉大なる万能ソース『醤油』を、皆さんも今一度見直してみては?

茶畑の中のワインディングが心地いい!いつまでも走っていたい気分だ。

さて、 『栄醤油』さんを後にして向かったのはJAの施設『香りの丘・茶ピア』。
お茶どころでもあるこの地域は、今まさに茶畑の緑が輝く時期。新茶の香りが漂ってきそうな茶畑を横目に、心地いいワインディングを新型『SR』で走り抜ける。『茶ピア』での目的は、お抹茶をいただくこと。ここではなんと500円でお抹茶とお菓子がいただけるのだ。以前一度伺ったことがあり今回は2度目なのだが、恥ずかしながら私“ヒルマン佐藤”、お茶のお作法をほとんど知りませ~ん。でも、「美味しいものを楽しむ気持ち」だけは有り余るほど持っております。
日本庭園を愛でながら美味しくお茶とお菓子をいただき、しばしのんびり。

150号線沿いで見つけた「XJR400R」の外国人のカップル。 ミャシル・グロリアさんとリヨリべーダ・ネルソンさん夫妻。 とてもバイクを大事にしていたよ。

まだ日も高い、海まで走ろう!ツーリングって、この気軽さ、行き当たりばったりなこともできちゃうところがいいよね!
海では風が強く吹いていた。今日は晴れて良い一日だったが、天気は徐々に下り坂のようだ。 しかし、これこそ遠州灘!遠州灘の砂浜には強風がよく似合う。全身に風を受けながら波打ち際まで歩いていく途中、堤防に置いた新型『SR』を何度も振り返って見てしまう。キレイなシルエットだ♪ニュートラルな乗り味、ビッグシングルの鼓動、すべてがナチュラルで気持ちが良かった。

金属素材の持つ味わいに徹底的にこだわり、 エンジン、フロントフォークアウターチューブ、リム、レバー類など、 随所にアルミバフ仕上げを施している。

新型『SR』は、そのままの『SR』だった。これこそ偉大なるスタンダード、価値のある存在なのだと私は思う。変える勇気もあれば、変えない勇気もある。変わりゆく物と変わらないもの。長く続けることの意味や真実。なんだか考えさせられる一日だったな。でも私が選択するなら、どうあれ、頑張れる方を選ぼう。バイクまで戻ってふとつぶやいた。

「おかえりなさい『SR』」。

“ヒルマン佐藤”シェフの、これは覚えておくベシ!

『浜名湖産 黒鯛(キビレ)のロティ 栄醤油のクリームソース』
ハーブでマリネしたキビレをニンニクとジャガイモと共にロティ。 煮詰めた醤油に生クリームバターで風味をつけカイエンペッパーを少々、 醤油の旨味がしっかりしてるからバッチリ味が決まります。

醤油とは?

日本固有の大豆を使った発酵調味料。麹(こうじ)菌や酵母菌などさまざまな微生物の働きで熟成されます。各地で生まれ、特色を持っていった醤油は、地域の食文化をかたちづけてゆき、長い時間をかけて私たち日本人の生活には欠かす事のできない万能調味料となりました。

醤油は、蒸した大豆に麹菌をつけ、炒った小麦を混ぜ、麹を造り、木樽に塩水と麹を入れて混ぜ合わせた“醤油もろみ”を、一年以上発酵熟成させ絞ったもの。さらに“醤油もろみ”の状態から加温や一切の添加物などを使用せず、長期自然熟成させた本醸造醤油をJASは“天然醸造醤油”と定めています。昔ながらの製法で時間をかけて造った醤油は、大豆のタンパク質が分解してできる20種類ものアミノ酸や、脂肪分が分解してできるアルコールなどで風味豊かな美味しい醤油になります。本醸造醤油と表記されていても“食品添加物等”と記載されている商品は速醸法という数ヶ月の短い熟成期間で製造され、添加物で味を調整している商品です。自然の力で旨味の増した天然醸造醤油とは全く別物ですので、選ぶポイントにすると良いでしょう。


◆醤油の歴史は、縄文時代に中国から朝鮮半島を伝わってきたと推定されています。それぞれ魚や肉、野菜などを潰して塩や酒と共に発酵させた醤(ひしお)とよばれる保存食がルーツと言われています。醤油が大衆に広まっていったのは江戸中期からで、高額な上方(関西)で造られた醤油が主流だった時期を経て、大豆と小麦を併用して作られた風味豊かで安価な、江戸の人々の嗜好に合う濃い口醤油(地回り醤油)が生まれたことにより、さらに江戸の食文化を形成していったようです。

◆醤油の種類は5種類

『こいくち醤油』
普通の醤油全体の8割以上を占め、風味豊かなオールマイティなタイプ。関東で生まれた。

『うすくち(淡口)醤油』
関西で発達し、色を淡く抑えるため塩分濃度を濃くして発酵を抑えたり、火入れの温度を低くし工夫された醤油。甘酒などを入れるのも特徴。関西のお料理には欠かせません。

『たまり醤油』
愛知・三重・岐阜県で愛用されている醤油。材料の小麦は少量で、ほぼ大豆のみで造られます。濃厚な味と濃度の濃さが特徴。

『再仕込み醤油』
一度できあがった醤油に再び麹を入れ、二度仕込む醸造法。“甘露醤油”とも呼ばれ、味が濃厚で香りが強い。山口県が発祥の地。

『しろ醤油』
琥珀色の醤油。材料は大豆が少量で小麦がほとんど。熟成時間も短く淡白な味わいと香りの高さが特徴。三河地方が主な生産地。

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