11月の始めに、宮城県の塩釜を訪れた。ボートフィッシングのトーナメント「BOAT GAME FISHING 2011 in塩釜」を取材するためだった。大会前日の夕方に塩釜に入って、ホテルに荷物を放り込み、取材スタッフの仲間と雨の中、近くにある小さな小料理屋に駆け込んだ。客は僕ら以外になく、おばちゃんとの会話も弾んだが、そのうちに話しの内容はあの日の出来事にいきつく。こちらはもっぱら聞き役ではあったが、津波で兄を亡くしたというおばちゃんの話は身につまされる。
自分自身を冷たい人間だとか、他人に無関心な人間だと考えたことはないけれど、それでも大きな勘違いをしていたのかもしれない。3月に起きたあの地震は東日本に甚大な被害をもたらし、多くの日本人が悲しみ、そして「頑張ろう日本」との合い言葉を唱えた。でも、そんなことをいわれなくたっておばちゃんは生きて行かなくてはならない。その小料理屋にいた3人の中で頑張っているのはおばちゃんだけだ。僕はたいして頑張ってはいない。「頑張れ」といってはいけない「頑張ろう」といえ、そんな風潮が一時期はあった。いまもあるのか。でも実際のところ僕にいえるのは「頑張ってるんですね。これからも頑張ってください」だった。
塩釜での「BOAT GAME FISHING 」は今年で二回目を迎えたが、自粛ムードもあって大会の実行委員会では中止も検討されていた。それでも実施にこぎ着けたのは、このイベントを「宮城の、東北のプレジャーボート復興の第一歩にしたい」という強い思いがあったからだという。もちろん主催者達はマリンを商売にしている人たちだから、プレジャーボートの復興を願うのは当然といえば当然なのだろうけれど、それでも多くのプレジャーボートオーナーやスポーツアングラーがその思いに応えた。みんな海に出たい、海で遊びたい、釣りをこれからも楽しみたいと願ってやまない人たちだ。
大会は11月6日に開催された。この日エントリーした25チームのうち、多くは仙台の南南東・亘理沖の海域を目指した。メロウド(小女魚)が群れるポイントで、バーチカルジギングでメロウドを餌としているワラサを狙う。世界三大漁場とうたわれる仙台沖の海は今だってその名に恥じることなく豊饒だ。水中に躍るルアーに良サイズのイナダが無邪気にアタックしてくる。全ての参加艇はあっという間に検量分をキープし、時間をかけてサイズアップを狙っていった。