「Concert by the sea」
レーベル:Colum
参考価格:927円(輸入盤参考価格)
「ブロックコード」という、両手を同時に使い和音を弾く、ピアノの演奏テクニックがある。鍵盤上で両手が近づき、同じ方向に動くさまは、観客からは腕が固定されて同時に動くように見える。ジャズではブロックコードを奏でるピアニストのテクニックは「ロックド・ハンズ」とも呼んだりもする。メロディラインやスイングを強調させる効果で、ビル・エバンスやデイヴ・ブルーベックはソロ終盤に用いた。ブロックコードはジャズバラードの代表的なスタンダード「Misty」で知られるエロル・ガーナーの代表的なテクニックだ。
エロル・ガーナーは、独創的で、印象派を連想させる美しい旋律を奏でるジャズピアニストだが、生涯に渡り、まったく楽譜を読めなかった。一度聞いた音を即座に再現する類まれな耳コピ能力で、楽譜や音楽を学ぶことに必要性や興味を感じなかったそう。NYでチャーリー・パーカーとの共演を経て、ビハインド・ザ・ビートと呼ばれる独自の演奏スタイルを確立し、エンターテインメント・ピアニストの道を歩んだ。現存する映像の中では、観客に笑顔をたやさず、軽々と演奏する彼の姿を見ることができる。エロルガーナーは、観客を巻き込むエンターテイナーでありながら、後世のジャズピアニストへ影響を与えるスタンダートを生みだした。そんな彼の代表作である「Concert by the sea」。
西海岸モントレー半島に位置する、芸術家や詩人が集まる風変わりな海辺の街として知られるカーメル。この作品はカーメルのサンセットスクールで、1955年9月に開催されたコンサートの演奏を録音したものだ。序盤からブロックコードを駆使し、スイングのあるメロディラインをアップテンポに奏で、時に鍵盤を叩いて情熱的な演奏を展開する。毎夏カーメルのビーチサンセットにはとても多くの人々が詰めかける。そんな人々を盛りあげるかのように、トレモロやオクターブ奏法などの多彩なテクニックで、とても賑やかでドラマチックな演奏をする。彼とほぼ同世代のモダンジャズアーティスト達とは一線を画した、楽しさ、が彼の演奏にはある。じっくりと聞くというよりも、にぎやかな場所で誰かと聞けば一層に楽しめそうだ。