kmの無軌道⾃動搬送で、
FAの⼤きな⽣態系をつくりたい。
ヤマハ発動機とティアフォーの合弁会社eve autonomyは、これまで自動化の谷間にあった、工場や倉庫などクローズド環境における建屋内・建屋間での自動搬送ソリューションの事業化を目指している。ヤマハ発動機浜北工場の現場の力で磨かれた、お客様の現場で明日からでも役立つシステムだ。2022年7月の一般販売開始を前に、その大きな可能性をCEO・米光正典が語る。
30年手つかずだった建屋間自動搬送の課題に取り組む
――まずは屋外自動搬送システムの開発に至った経緯をお聞かせください。
米光:はじまりは、ヤマハ発動機浜北工場の現場課題を解決するためでした。浜北工場内にはエンジン部品の加工職場と熱処理職場があるのですが、製品は500m離れた両建屋間を何度も往復させる必要があります。それを、30年前から何も変わらずフォークリフトで搬送していたのです。ここにいる鈴木は、もともと製造技術開発の担当で、以前からAutoware株式会社ティアフォーが立ち上げた国際業界団体AWFが提供するオープンソースの自動運転用ソフトウェア。も研究していて、お客様の現場にも詳しいので来てもらいました。
鈴木:はい。フォークリフトについては、どちらのお客様の現場でも決してこのままでいいとは思っていませんが、代替手段がないのが現状です。浜北工場の場合は、夜間作業の危険性や人材不足から1直「直」は交替勤務の1グループを指す。24時間稼働には4直2交替などの制度が必要。で運営していました。そのため夜間に作る製品の在庫が朝まで積み上がり、コスト高につながっていました。
米光:品種・生産量の変更や改善などで工場の中は日々変化しているのに、屋外の物流は何も変わっていなかった。そこで最初に試したのが、ヤマハ発動機のランドカー国内シェア8割のゴルフカートから展開しているヤマハの軽車両シリーズ。でした。これがパワフルで不整地走行にも適していて、ぴったりだったのです。それから自動運転技術を持つ会社を探し、ティアフォーに出会ったわけです。それで彼らが来たら、午前中に調整して午後には実際に自動運転で走れました(笑)。それから約1年の共同開発を経て、これを一緒に事業にしようということでeve autonomyを設立し、現在に至ります。
――合弁会社を設立したのはどのような理由からですか?
米光:屋内も屋外も無軌道で走れる自動搬送ソリューションはこれまでなかったので、社外へ販売しようということになったのですが、社内にいては今回のようなアジャイルな開発はなかなかできません。構想1年、市場調査に1年、開発に3年なんてやっていたら、5年後にはもうお客様がいないかもしれない。当初から2年でできなければ終了すると決めて、合弁でベンチャーを設立することにしました。ティアフォーの持つ優れた自動運転システムと、浜北工場の現場の強さが、理想的な相互補完関係にあったのです。
開発に大きく寄与した浜北工場の現場力
――浜北工場の現場の強さとは?
米光:現場で使いながらどんどん作り込めたところです。ヤマハ発動機が宣言している新規事業づくりの方針が浸透していて、みんなが自発的に協力してくれましたから。ティアフォーのスタッフは最初に来たときからヤマハの「やらまいか精神」遠州人・浜松人の起業家精神や技術者魂を象徴する言葉として知られる。「やろうじゃないか」の意。に感激してくれましたし、ヤマハのメンバーもティアフォーのAutowareを「すごい」とリスペクトしてくれました。スタートからそうでしたから、現場でかかわったメンバーには「自分たちが作った」という自負があって、お客様が視察に来られると、職長がわざわざ出てきて説明してくれたりしています。
――浜北工場のスタッフが寄与した具体的なポイントは?
米光:初期の車両やソフトの完成度が低いうちは、しょっちゅう止まっていました。普通は嫌になるものですが、すごく前向きに運行や調査にも協力していただいて、どんどん良くなっていきました。eve autoにはタブレット対応のアプリがあるのですが、そのGUI、インターフェースについても開発段階から現場で評価・提案してくれたので、現実的に使い勝手のいいものにできました。
――安全面ではどうなのでしょう?
米光:これまで事故はありません。なぜなら3~8km/hという低速な上、自動運転システムは注意散漫になったりしませんから(笑)。360度のLiDARセンサーで人よりもずっと視野が広く、夜でも逆光でもよく見えます。認知・判断・行動ともに人より優れているので、逆に人より安全だといえます。24時間疲れることなく働いてくれますし。
磐田南工場で、パイロット導入のお客様の現場で
――浜北工場での実証実験は完了した?
米光:はい、浜北工場では既に実運用していただいています。次の磐田南工場では、建屋の外周を走るルートと建屋内を走るルートで2台の自動搬送EVが実運用されています。浜北工場は時刻表どおりに運行する「バス型」でしたが、こちらは「タクシー型」で、タブレット操作で必要なときに車両を呼んだり、行き先を指定して車両を送ったりしています。今はさらに、外部のお客様にパイロット導入していただいているフェーズで、多くの業種のお客様にご検討いただいています。もう、第一次産業以外は全部という感じですが、手ごたえはいいです。
鈴木:当社がアピールしていてお客様も評価してくださる特長の一つに、「お手軽」があります。「今日から自動化」ともうたっています。eveはハード、ソフト、システム、アプリまで、すべてワンストップで導入できるので、「すごいね!」と喜んでいただいています。
米光:導入にあたって特別なスキルが不要で、誰もが直感的に作業できますから。現場と一緒に一番考えてきたことがこれです。
――販売はどのようにするのですか?
米光:eve autoは月々定額のサブスクリプションで提供します。投資案件ではなく、必要なときに始めていつでも増減していただける。「eve auto One」という、1デイお試しパックも提供しています。実際に使ってみていただければ、「これが欲しかったんだ!」と言っていただけるはずですから。
いよいよ一般販売、そしてその先のビジョンは
――一般販売開始以降はどのような計画を持っていますか?
鈴木:私は先のことより目の前のお客様にフォーカスして、「よかった」と言っていただきたいです。ヤマハ社内の運用では、資金面でもサポート面でも下駄をはいている状態です。一般販売にはその下駄がありませんから、コストフォーバリューを追求して、クレームを大切に、丁寧に対応していきたいですね。
米光:運用や車両改造は自分でやります、というお客様が多いことを歓迎しています。それを前提に考えていけば、世の中が変わります。「おたくはまだ導入していないの?」「物を運ぶのは自動化してあたりまえ」と言える時代に早くしたいです。
――屋外自動搬送で工場はどう変わっていくのでしょう?
米光:eve autoが走ることで、製造と物流・荷役という別々だったプロセスが情報で一つにつながり、大きな生態系が構築できると思います。コンベアと車両を連携させることもできます。フリートマネジメントシステムもパッケージで提供して、その情報をFAシステムにつなげば、これは「走るカンバン」として使えます。これからの課題ですが、つなぐ口までは準備できているので、当社はオープンにパートナーと手を組んで、さまざまなシステムとつなげていきたいと思っています。
鈴木:という社名には、アダムとイヴの「イヴ」のように、物流自動搬送でものつくり現場の変革を起こす最初のひとりになる、というメッセージが込められています。
米光:10年後がどうなっているかはわかりません。だから身軽に変化できるよう、フットワーク軽くやっていこうと思います。そして工場のその先に、人を乗せるラストマイルのモビリティ物流網や長距離交通の最終拠点から自宅までを結ぶモビリティ。も考えています。それには社会の変容も必要ですが、その先鋒になりたい。ヤマハビジョンの「Human Possibility」とは、人の可能性を拡げて、世の中をよくすることですから。
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