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パフォーマー人財紹介 #06

社外留学でスキルを修得! 自己研鑽で実現した現場DX

パフォーマー人財紹介

社外留学でスキルを修得! 自己研鑽で実現した現場DX

#06 島田 幸久

熊本県八代市出身。2001年にヤマハ熊本プロダクツ(YKP)に入社し、生産管理課をはじめ複数の部署で業務を経験。生産管理システム、加工計画など多くのシステム構築に携わる。製造現場のDXを学ぶため、2023年10月からヤマハ発動機 生産技術本部 設備技術部 データセンシング技術開発グループに出向。そこで学んだ技術とノウハウをもとに、YKPで品質ロス低減に向けて鋳造データの自働収集システムを構築した。

システムづくりの原点は「現場とのコミュニケーション」

テミル:ラボでは現場の課題をDXで解決する人財を育成するため、技術スキルを教育する場を提供しています。そこではヤマハ発動機の製造部門だけでなく、社外からも幅広く人財を受け入れていることをご存知でしょうか。
今回は熊本県のグループ会社から社外留学してデータセンシング技術を学び、鋳造データを自働収集するシステムを構築した、島田幸久さんの事例をご紹介します。

熊本県八代市のヤマハ熊本プロダクツ株式会社(以下YKPと略称)は、ヤマハの小型・中型馬力帯の船外機を製造しています。鋳造・加工・塗装・組立から出荷まで一貫して行う高効率な体制を備えており、国内外のマリン市場を支える重要な生産拠点のひとつです。

八代市出身の島田さんは地元の工業高校で情報技術を学び、2001年にYKPに入社しました。配属された生産管理課で任されたのは、製造部品表のデータベース構築と管理。船外機の製造に使われる膨大な種類の部品を、各機種の製造工程ごとにデータベースに入力する作業でした。パソコンに向かう作業が中心と思われましたが、当時の上司や先輩は島田さんに「とにかくこまめに現場の人と状況を確認するように」と教えました。

「入力する部品を図面と突き合わせたり、製造工程を確認したりと、製造技術の担当者と何度もやり取りを重ねました。その部署では『システムや仕組みを作るには、現場で働く人としっかりコミュニケーションを取って連携することが何より大事』という意識が強く、それが今でも自分のなかに根付いています」

以降も所属部署を変えながら、加工計画、組立進捗管理/実績データ管理など、島田さんは複数の業務でシステム開発を担当してきました。そのなかで鋳造・加工・塗装・組立の各現場と連携してきた経験から、製造工程全体の業務を高い解像度で捉えられるようになっていきました。

「カン・コツ・経験」頼りの鋳造現場に、データの力を

2020年に技術部 技術戦略課に異動した島田さん。この部署では社内DXを推進しており、2030年に向けて中期的なビジョンの策定とデジタル化ロードマップが作成されました。その実現に向けて最初に取り組んだのが、今回紹介する鋳造データの自働収集システムです。

「YKPの鋳造工程では、現在11台のダイキャストマシン(*1)が稼働しています。そのうち数台は元々ヤマハ発動機で使われていて、YKPの設立時に移管されてきたものです。今回システムを入れた1-1号機もそのうちのひとつで、1981年製のかなり古い設備です。当社にとって鋳造工程の品質ロスが課題となっているなか、1-1号機は過去に大きな品質問題を引き起こした経緯があり、特に改善の優先度が高い設備と判断しました。そこで、この設備を対象として鋳造条件と品質ロスの関連を仮説・検証できる仕組みを構築することにしました」(島田さん)
*1:溶かした金属を高圧で金型に注入して成型する鋳造設備。精密部品の大量生産に用いられており、ここではアルミニウム合金の鋳造を行っています。

島田さんによれば、鋳造の品質には射出温度(*2)、金型温度、金型に充填する圧力、冷却水の温度と流量など、数十項目におよぶ条件が関与しているそうです。しかも夏と冬、朝と夕方など、季節や時間帯によって外気温や金型温度が変動するため、極めて複雑な制御が求められます。
*2:「射出」とは溶けた金属を金型に流し込むことで、その際の金属の温度を指しています。

それらを踏まえて鋳造条件をどのように設定するか決めていたのは、現場の作業者の「カン・コツ・経験」。そこから脱却するには「条件」と「品質」がどう相関しているか、データの分析が不可欠です。しかし、1-1号機は分析する以前にデータ収集そのものが困難を極めていました。

「旧式の設備なのでデータはマシン内に蓄積され、工場に行ってUSBメモリで物理的に収集する必要がありました。また設備内のセンサー数が少ないため、読み込んだデータは分析できるよう手作業で整形・加工し、そこからやっと原因を推測できます。1回データを収集・分析するまでの作業時間は、通算で480分もかかっていました。さらにこの一連の作業は設備に詳しいベテラン社員が1人で担当していたので、作業の属人化も課題でした」

この対策を検討していたころ、YKPとヤマハ発動機のDS(データセンシング)グループとの間で、毎月オンラインで技術交流会が開催されていました。そこで本社の取り組みに触れて、DXの進展ぶりに興味を持っていた島田さん。何かYKPで参考にできることはないだろうか…そう考えていた矢先、両社の間で人財交流を行う話が持ち上がります。

「まずは自分が本社に行って、技術やノウハウを学んでみよう。そこで得た知見をもとに、YKPでも導入できそうなDXに取り組んでいこう」
かくして島田さんは真っ先に手を上げて、2023年10月にYKPからヤマハ発動機へ出向。2年間の社外留学がスタートしたのです。

磐田・八代の2拠点体制で挑んだシステム構築

留学先では最初に3か月の基礎的なDX研修を受講します。その後はネットワーク研修、PLC研修、ラズパイ(Raspberry Pi)研修など、実践的なカリキュラムから必要な項目を選び、着実に学びを深めていきました。半年間ほど集中的に研修を受けたのち、島田さんは実務に基づく自主研究として、YKPのシステム開発に取り組むことになりました。そこで、かねてより懸念していた1-1号機の鋳造データ自働収集システムに着手することにしたのです。DSグループの協力を仰ぎながら、島田さんはシステムの要件を数カ月かけて設計に落とし込んでいきました。
注:受講内容や研修スケジュールは個人によって異なります。

「DSグループが提唱するDXは『廉価・汎用』がモットーで、高価な専用機器に頼らず、誰でも扱える汎用技術で課題解決を目指しています。そのため、YKPでも実現可能なスケールと予算でシステムを作るノウハウが豊富にありました。また、PLC(*3)やデータベースなど、各分野の専門家がフォローしてくれる支援体制が整っていたので非常に心強かったです」(島田さん)
*3:スイッチやセンサーの信号をもとに、工場の設備などをコントロールするための制御装置。近年はリアルタイムで生産データの収集を行うなど、PLCの高機能化が進んでいます。

鋳造品質の改善はYKPにとって喫緊の課題だったため、システム構築は留学中の島田さんがリモートで統括し、現場側の準備は八代にいる社員で進める体制を作りました。その実働部隊の中心となったのが、YKPの技術部 技術戦略グループの竹本佑介さん。設計を理解して現場の状況をスムーズに島田さんと共有できるように、彼と数名のメンバーはこのシステムの要となるPLCを基礎から学んだそうです。1-1号機の鋳造データ収集をたった一人で担当していたのが、じつはこの竹本さんです。

「製品の表面にある欠陥はその場で選別できますが、鋳巣(*4)などの内部欠陥は見た目でわからないので、加工して初めて見つかることが多いんです。発見された時点で鋳造から1週間ほど経過しているため、その時の鋳造条件を遡って分析するのは非常に困難でした。不良と鋳造条件との相関を探るために、ロットの全製品にシリアルナンバーを打刻して調査したこともありますが、詳細がつかめず歯がゆい思いをしていました」(竹本さん)
*4:鋳造された製品の内部に意図しない空洞が生じること。金属の収縮、ガスの発生、空気の巻き込みなどさまざまな原因で起こります。

新たなシステムではより詳細な鋳造データを取るために、島田さんはマシンにセンサーを増設することに。既存の制御用PLCの上位にデータ集積用PLCを新たに設置し、情報をサーバに自動送信する仕組みを設計しました。

その際に、製造技術の観点からセンシングする鋳造条件の選定やシステムと既存PLCの接続を担当したのが、製造部 生産1課の白石敬之さんです。これまでにLP鋳造やダイキャストマシンの生産準備を手がけるなど鋳造技術や設備に精通し、豊富な知見を持つメンバーのひとりでした。

「1-1号機は長年の運用で設備の増設を重ねてきました。それに伴ってPLCがどんどん追加されていて、物理的にも技術的にも非常に複雑な制御構成になっていたんです。それを紐解いて新システムにどう組み込むか、なかなか手ごわい難題でした」(白石さん)

最終的には従来4つ程度だったセンサーを10数個まで増設。取得可能な鋳造条件は8項目から26項目へと大幅に拡張されました。島田さんは各部門の要求を吸い上げながら、2024年6月にシステム全体の設計を完了。磐田・八代の2拠点で隔週の会議を重ねながら準備を進め、11月にネットワークを接続。ついに1-1号機で新システムの稼働が始まりました。

品質記録の電子化で、品質情報の「点」と「線」をつなぐ

島田さんはシステム構築と並行して、鋳造工程でもうひとつの取り組みを進めていました。それは紙の品質記録を電子化すること。鋳造工程では製品が出来上がると作業者がその場でチェックし、不良の有無や製品数をまとめて紙に記録していました。その内容は1日の製造実績にとどまり、不良の発生時間、欠陥内容や発生箇所など、詳細情報を把握できていなかったのです。

「1-1号機のサイクルタイムは非常に短く、最短で50数秒、長いもので120秒ごとに製品が流れてきます。作業者は製品のセキ折り(*5)と6面チェック(*6)をたった一人で行っているため、不良の詳細を記録する時間の余裕はありません。そこで導入したのが、本社で活用されているトレーサビリティシステム「クオリスタ」です。これはラインを流れてくる製品がOKかNGか、タッチパネルに触れるだけで記録してくれます。品質結果と発生時の鋳造条件を紐づけられるだけでなく、NGの場合は発生箇所を画面で特定するので製品のどこに不良が起きやすいか傾向を把握できるようになるんです」(島田さん)
*5:プラモデルのパーツを切り離すように、製品の周辺に付随する不要な部分を取り除く作業のこと。ここでは作業者がハンマーで叩いて、ゲート部分を除去しています。
*6:製品の上下、左右、前後の合計6面に欠陥がないか、目視で確認する工程のこと。

ただし、導入には現場の理解と協力が不可欠です。次々と流れてくる製品に対応する作業者にとって、画面にタッチする操作が1つ追加されるだけで大きな負担になることは明らかでした。そこで白石さんが現場との間に入って、職長にシステムの目的と状況を丁寧に説明することで了承を得ることができました。

また、導入当初は全製品に対してOK・NGのタッチ操作を行っていた標準仕様を、不良の発生時のみNGの操作を行い、操作しないものはOKとして扱う仕様にカスタマイズ。短時間に多くの作業をこなしている作業者の要望を受けて、負担を最小限にする工夫を重ねました。

可視化されたデータが示唆する、1-1号機の「現在地」

システムがスタートして約半年。YKPでは鋳造データが集まってきたことで、ソフトウェアを使ったデータの可視化や、鋳造条件と品質の相関分析など、データの活用が進んでいました。

「鋳造専用の分析アプリを使って、いろんな原因を推測できるようになりました。取得できるようになった26項目の条件が品質結果にどう影響しているのか、現在も検証しながら良品条件を探っています。『いまは夏だから、こういう条件がいいだろう』と話していたのが、データに基づいて説得力のある提案ができるようになり、現場の納得感を得やすくなりましたね」(竹本さん)

また鋳造条件と品質の相関だけでなく、データからはもっと大きな要因も見えてきました。それは老朽化や調整不良など、設備自体の安定性です。

「条件を設定しているにもかかわらず、意図しない温度変動や湯量(*7)の調整不良が起こっていました。これまで我々は『設備は条件通り動いている』と思い込んでいましたが、じつはそうではなく設備自体に調整・修繕が必要であることもわかりました。その他にも金型の摩耗が不良につながっていたケースもあり、想像以上に複合的な要因が不良の背景に見え始めています。これはデータを可視化して初めて気づけた事実でした」(白石さん)
*7:金型に流し込む湯(溶けた金属)の量

当初目的としていた品質ロスの削減・良品条件の確立に加えて、金型の更新や設備保全の必要性も浮き彫りにした今回の新システム。島田さんは秋に社外留学を終えて、YKPに復職予定です。今後の展望について、このように語ってくれました。

「今回のシステムは1-1号機が対象でしたが、他のダイキャストマシンにも横展開していきます。また設備や機種ごとにもっと大規模にデータを蓄積すれば、状態監視して異常傾向を早期発見できますし、将来的にはAIで異常を予測できるかもしれません。また鋳造だけでなく他の工程にも、データを見える化することで生産効率を高める余地がまだまだたくさんあります。留学で吸収した知見を現場に還元するために、ひとつずつ取り組んでいきたいです」

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