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持続から再生へ。ヤマハ発動機・リジェラボ、官民で「地球がよろこぶ遊び」を考える

共創スペース「リジェラボ」のオープン記念イベントをレポート。各分野の専門家が集い、持続可能性を超えた「再生」の視点から、「地球がよろこぶ遊び」を考えました。

2025年2月20日


2024年秋、ヤマハ発動機株式会社は横浜オフィスに共創スペース「YAMAHA MOTOR Regenerative Lab(通称:リジェラボ)」をオープンしました。その開設を記念し、12月上旬に「生成と再生」をコンセプトとした「リジェネ・インビテーション―プレイフルな自然再生論―」を開催。

イベントでは、さまざまな分野の専門家をゲストに迎え、トークセッション、ワークショップ、ラジオ収録など多彩なプログラムを展開しました。今回は、活気あふれるイベントの様子をレポートします。

ヤマハの遊びのDNAから生まれた「リジェラボ」とは?

ヤマハ発動機は、創業以来、オートバイやボートといった輸送用機器の製造を主力事業としてきました。だからこそCO2排出や排気ガスによる環境負荷への対応は、より強い責任感を持って取り組むべき課題となっています。

このような背景のもと、2024年に新設された「共創・新ビジネス開発部 共創推進グループ」では、社外パートナーとの連携をこれまで以上に深め、社会課題の解決に向けた取り組みを推進することが目標として掲げられました。

近年、気候変動といった地球規模の諸問題が深刻化するなかで、マイナスの状態をゼロに戻して地球を維持していく「サステナビリティ(持続可能性)」の考え方だけでは、もはや限界があります。そこで提唱されているのが、マイナスをプラスに変換していく「リジェネラティブ(再生)」という概念です。

この考え方は当初、再生農業を起点に浸透していきましたが、現在では環境保全に留まらず、経済や社会構造、都市など、多岐に渡る領域で活用される考え方となっています。これまで「遊び」を通じて暮らしの豊かさを提案してきたヤマハ発動機にとっては、「遊び」を再生的な視点から捉え直すことが、より追求すべきテーマになっているのです。

このビジョンを実現するため、ヤマハ発動機は「共感がめぐり、共創が生まれ続ける拠点」をコンセプトとした共創施設「リジェラボ」を設立しました。ワークショップやコワーキングスペースを備えた本施設の最初の目的について、ヤマハ発動機の福田晋平は「まずはお互いを知ることから始めたい」と、語ります。

ヤマハ発動機 共創・新ビジネス開発部 共創推進グループリーダー・福田晋平

「私たちは『地球がよろこぶ、遊びをつくる』というミッションを掲げています。それを実現していくには、同じ志を持つ仲間の存在が不可欠ですが、初対面の人々が協業する際には、コミュニケーションの壁に直面することもしばしばです。そこでリジェラボには、まず『お互いのやりたいこと』に共感し合える場所になってほしいと思います。

また、施設名にも使用している『リジェネラティブ(Regenerative)』という言葉は『再生させる』という意味を持ちますが、これは地球や自然の再生だけでなく、人やコミュニティを再生しポジティブな変化を生み出していきたいという私たちの願いも表現しています」

福田は、今回のオープニングイベントの目的についても語ります。

「まずリジェラボの存在を広く知っていただくこと。また、このイベントを契機に、ヤマハ発動機内部の人間だけでなく参加者の方々もリジェネラティブという概念を自分ごと化し、ともに考えるきっかけになればと考えています」

リジェラボには、ヤマハ発動機がモノやサービスをつくる際に常に大切にしてきた「遊び心」を体感できるコーナーを設けています。その一例が、同社の製品製造や輸送過程で生じた廃棄物や廃材をアップサイクルして創作したアートワークや家具。訪れた人が資源循環の面白さを実感できる工夫を施しています。

廃棄された競技用プールの一部を再利用したテーブル
船や材料を保管するための台車とボートなどを輸送する際の梱包材で作ったクッションカバー

ほかにも、広々としたキッチンやアート作品などを展示するギャラリースペースなど、ヤマハの遊びのDNAを至る所で感じさせつつ、訪れた方々が「自分ごと化」するための仕掛けを盛り込んでいます。

人は動物の中で唯一、環境に影響を与えることができる

イベント冒頭を飾った基調講演では環境省の大澤隆文さんが登壇。海外の自然環境保全の事例などもふまえて、現在の世界を取り巻く環境変化や課題、そして私たちがいかにアプローチしていくべきかが語られました。

「日本は周囲を海に囲まれ、国土面積の67%が森林に覆われている自然豊かな国です。現在、2030年までに世界の陸と海の30%を健全な生態系として効果的に保全する国際目標『30by30』が掲げられています。この目標を達成するには、企業が保有する緑地を保護地域外であっても自然と共生・保全に資する用地として認定するなど、官民一体の協力が必要不可欠です。こうした施策を通じて企業の環境保全活動が評価され、ネイチャーポジティブ(自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること)な社会の実現に近づいていくと考えています」

環境省生物多様性主流化室の大澤隆文さん

その後のメインセッションでは、一般社団法人長良川カンパニー代表理事の岡野春樹さんがモデレーターを務め、ヤマハ発動機の福田晋平に加えて、天籟株式会社 代表取締役医師の桐村里紗さん、環境省生物多様性主流化室の大澤隆文さんと服部優樹さんが登壇。「地球がよろこぶ遊びはどうつくる?」と題し、官民を超えたトークセッションが実施されました。

環境問題や社会課題においては、「ネイチャーポジティブ」や「カーボンニュートラル」など、さまざまなキーワードで語られます。しかし、言葉だけが普及し、多様に存在する解釈やアプローチを特定の言葉でひとくくりにするのではなく、「身体性」をもって理解を深めていくこと。その重要性が、岐阜県郡上市で源流体験を提供する、岡野さんならではの視点で語られていきます。

「言葉だけではなく、ハイキングや川遊びなど身体性をもって自然を理解し、かつそれを同じ場所で他者と共有することで深いコミュニケーションが生まれる。それによって、ある現象や気づきが、より解像度高い状態で共通の問題になっていく。つまりみんなのものになっていくのだと思います」

長良川カンパニー代表理事の岡野春樹さん

また議論の中盤では、岡野さんから「それぞれが思う地球の喜ばせ方とは?」という問いが投げかけられます。地球環境と人間の健康が相互に影響し合うメカニズムを探求する「プラネタリーヘルス」の第一人者である桐村さんは、「土の再生」について紹介。健全な生態系を備える土壌環境下ではさまざまな微生物が育つことができ、結果的に人間の健康にもつながると指摘します。劣化した畑や森の土壌の再生が、ネイチャーポジティブの一つの解決策であると提示しました。

続いて、リジェラボの核である「共創」について触れる場面も。「それぞれの立場からの共創がなぜ必要なのか?」という岡野さんの質問に対し、福田は「複数人でぶつかることで新しい定義ができるため」と回答。個人の多様な価値観や常識を掛け合わせることで、自分たちにあったリジェネラティブな実践を模索していくことが求められると語ります。

「人によってまったく異なる人生を歩むわけですから、常識もそれぞれ違います。対話の過程で相手と意見がぶつかることもありますが、そのプロセスを経て、お互いに変化していくことが大事なのではないでしょうか」

左から大澤隆文さん、服部優樹さん、桐村里紗さん

また環境問題においては、人間が地球に与えてきたネガティブな影響にフォーカスすることがほとんどでしょう。そこで桐村さんは、研究テーマである「プラネタリーヘルス」について説明しながら、人間が地球に存在することで生まれるポジティブな可能性を投げかけます。

人は環境に影響を与えることができる唯一の動物であるといえます。ゆえに、これまで人間は経済成長を追求しすぎる過程で、地球環境を脅かし続けてきました。しかし逆に言えば、ポジティブな影響を意図的に生み出すことができる存在でもあります。地球が本来的によろこぶ経済活動を人間が行うことで、人も地球も健康で居続けられると思うのです」

人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼす「人新世」の時代にあって、例えば「手付かずの自然」を再現しようとする、つまり自然環境の再生に人間が介入せず「保全」するアプローチでは、もはや地球の回復は望めないケースが増えています。

私たち人間は地球の破壊を促した存在であったと同時に、再生を促すにあたっても欠かすことのできない種になっている。人間がそんな存在であるために、今後さまざまな分野での共創を生み出しながら役割をまっとうしていく必要があります。

幼少期の記憶を語り合うワークショップ

トークセッションの終了後はワークショップも開催。参加者が複数のグループに分かれ、「自然との触れ合いの中で、特に心に残る楽しい思い出」をテーマに議論を交わしました。テーマにまつわる事柄やアイデアなどを書き出し、それらを起点に「新しい遊び」を考案。なかには幼少期の自然との思い出を互いに熱く語り合うチームもありました。最後は、グループ内の皆さんの遊び体験の共通項を活かした新しい自然遊びプランが各グループから発表され、人気投票が行われました。以前、同じ課題に取り組んだ岡野さんはワークショップの様子を見て、次のように感想を述べます。

「初対面同士で信頼関係を築こうとする際、始めはどうしてもぎこちなくなりがちです。そこで『遊び』をテーマに据えたのは、非常にヤマハ発動機さんらしいアプローチだと感じました。実際に、参加者の方も非常にリラックスしてワークショップに臨むことができていましたね」

また別会場では、ビジネスメディア「NewsPicks Re:gion」編集長の呉琢磨さんがホストを務める、地域の課題と未来に向き合うポッドキャスト番組「 Re:gion Radio」の公開収録を実施。エリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉さんとフリーアナウンサーの瀧川奈津希さんを迎え、ヤマハの本拠地である静岡県磐田市の課題をはじめ、全国の地域経済活性化について活発な議論が交わされました。

呉琢磨さん(左)
右から瀧川奈津希さん、木下斉さん

全プログラムの終了後に開かれた懇親会では、参加者たちが食事を楽しみながら交流を深めました。トークセッションやワークショップで得た気づきについて、テーブルを囲んでさらに議論を深め合う姿も見られ、閉会まで終始活況を呈していました。

リジェラボで公開収録を行った「地域経済がわかる Re:gion Radio」は以下よりご視聴いただけます。

地域の自然資本は大企業と「共創」できるか?(リジェラボ特別回:前編)

地域に新たな「遊び×産業」を生み出せるか?(リジェラボ特別回:後編)

おわりに

家具やイベント内容など約300坪あるスペースの至る所に散りばめられたヤマハの遊び心、そして私たちが考える「リジェネラティブ」のあり方を実感していただいたリジェラボのオープン記念イベント。

環境問題について自身の考えを他者に共有することに、私たちは抵抗感を覚えがちです。今回のイベントでは、参加者のみなさんが積極的に自身の考えを発し、ダイナミックに議論が展開していくさまが印象的でした。

初対面同士がリジェラボをきっかけに出会い、語り、関わっていくことで、人々のつながりをリジェネラティブ(再生)する可能性が生まれていく。リジェラボがそんな空間に育つよう、これからもさまざまな取り組みを仕掛けていきたいと考えています。



文:吉野舞 写真/編集:和田拓也

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