枠を超え、街を変える。みなとみらいで異業種4社が語る「いい共創」への道筋
みなとみらいの共創スペース「リジェラボ」で行われたMEET UPイベントでは、異なる業種・立場をもつ4社が集まり、「いい共創」について本音で語り合いました。メーカーとインフラ、それぞれが感じた手応えと、これからの街づくりに必要な視点をレポートします。
目次
近年、みなとみらいエリアには新しい共創スペースが次々と誕生し、組織や企業の枠を超えた価値創造への挑戦が始まっています。一方で「共創」という言葉が一人歩きしがちな現在、「いい共創」の実現にはまだまだ多くの課題や伸びしろがあるのではないでしょうか。
2025年1月31日(金)、ヤマハ発動機が運営する共創スペース「リジェラボ」で開催した「リジェラボMEET UP」では、みなとみらいエリアを中心に共創スペースを構える運営者が一堂に会し、「いい共創とは?」をテーマに、現在時点の課題や展望からその解を探りました。
メーカー系とインフラ系、それぞれの立場から見える景色や、その先にある可能性について、4名のリーダーが語り合った内容を交えて、レポートします。
「いい共創」を考える、異なる4つの拠点からの視点
会場となったリジェラボは、ヤマハ発動機の横浜オフィスにオープンしたコクリエーションスペース。「共感がめぐり、共創が生まれ続ける拠点」をコンセプトに、ワークショップやセミナーを行うスペース、キッチン、コワーキングエリアを備えています。
特徴的なのは「生成と再生」という考え方を体現した空間づくり。廃材をアップサイクルしたアートワークや家具を設置し、来場者が資源循環の面白さを実感できるよう工夫を凝らしています。資源の循環という課題に、デザインから応える姿勢を示しています。

この日のミートアップ参加者は約30名。事業づくりを担当する方が最も多く、業務責任者や担当者レイヤーの参加が目立ちました。地方創生や経済活動と自然環境の調和といったテーマへ関心が深く、リジェラボやヤマハ発動機の取り組みとも親和性が高いようです。中には「みなとみらいを一緒に盛り上げたい!」と考えるプレイヤーも来場し、良い出会いの場としても機能していました。
ミートアップの中心となったのは、みなとみらいを中心に共創スペースを運営する4社のリーダーたちによるトークセッション。「みなとみらいリサーチセンター」から京セラの大崎哲広さん、「Vlag yokohama」から東急の武井駿さん、「Regenerative Community Tokyo」から三菱地所の村野修二さん、そして会場となった「リジェラボ」からヤマハ発動機の福田晋平が参加し、それぞれの視点から意見を交わしました。

4社の中で、最も長い運営実績を持つのが京セラのみなとみらいリサーチセンターです。2019年から運営を開始し、みなとみらいという国際的な港町のロケーションにちなんで、全ての部屋に「船」をテーマにした名前を付けるなど、オープンイノベーション拠点としての独自性を打ち出しています。
一方、Vlag yokohamaは、横浜駅西口・相鉄線沿線を中心に街づくりを推進してきた相鉄アーバンクリエイツと、渋谷エリアにおける事業共創施設などの運営を生かして新たな挑戦を行う東急がタッグを組んで生まれました。横浜駅直結の複合ビル「THE YOKOHAMA FRONT」の最上階という立地を活かし、「未来の兆し(Vlag)溢れる共創の場」をコンセプトに、多様な人々や情報、コミュニティをつなぐハブとしての役割を担っています。
そして三菱地所のRegenerative Community Tokyoは、「日本初のサステナブル領域のナレッジ・インスティテュート」として、国内外で都市課題に挑戦するイノベーティブプレイヤーの集積を推進中。持続可能な都市創造に向けた知の拠点を目指しています。

このように異なるアプローチを持つ施設が一堂に会し、知見を共有する機会は珍しく、参加者からも「共創スペース運営者との“横のつながり”をつくれる貴重な場」との声が聞かれました。
メーカーとインフラ、それぞれのアプローチの違い
この日のトークセッションで特に印象的だったのは、施設の運営形態の違いから見える各社の姿勢でした。京セラとヤマハ発動機といったメーカー企業は「無料」で場を提供する一方、東急と三菱地所というインフラ企業は「有料」で運営しています。一見、相反するようなアプローチの違いからは、共創に向き合う各社の試行錯誤が垣間見えました。
「メーカーとしては無料で皆さんに使ってもらい、企業との関わりを考えざるを得ない」と語る京セラの大崎さん。京セラの主軸はBtoBビジネスであり、一般の人々への知名度が比較的高くないことから、「お客様以外の方々との接点を増やしていく必要性を感じていた」といいます。

「京セラと直接関係なくとも、交わる可能性があれば使って構わない」という柔軟な姿勢で運営を続けてきた結果、メルマガ会員は1.7万人にまで成長。5年の運営実績を重ねるなかで、みなとみらいホールでの子供向け音楽イベントなど、地域に根差したイベントも積極的に受け入れています。一方で、大崎さんは「このスタンスは社としての余裕の有無にも関わる」と語るように、無料運営の継続性には社内での理解醸成という課題もついて回ります。
対して、三菱地所の村野さんは「自分たちの事業に直結するというよりは、街でプレイヤーが事業を伸ばしていくお手伝いができれば」と、異なる視点を提示。「海外のコミュニティやナレッジ・インスティテュートと連携し、お互いのナレッジを共有する」といった独自の価値提供を模索しています。

東急の武井さんは、Vlag yokohamaが相鉄アーバンクリエイツやUDSなど3社で共同運営されていることから、スペース自体が協業事例となることを紹介。「横浜駅のプレゼンス向上を目標に、という目線合わせから始めました」と振り返ります。
「収益事業の一つではありますが、この拠点だけで大きく稼げるものではない。会員数の増加も目指しつつ、まずは関係人口を増やすことが大切」と、目線合わせの苦労も語りつつ、長期的な視点での価値創出を重視しています。

それぞれの立場で異なる課題を抱えながらも、ここで共通して見えてきたのは「一社では大きくできるコミュニティに限界がある」という認識でした。
京セラの大崎さんは「社内にも『我が社は積極的にオープンイノベーションを推進する企業なのだ』と広めていく必要がある」と語り、三菱地所の村野さんも「まだ我々はコミュニティが小さい。会員企業のサポートだけに閉じ込めようとは思っていない」と、より開かれた展開への意欲を見せます。
体験を通じた「共感づくり」が、本業へ活きる価値を生む
各社が独自の工夫を重ねるなかで、特に注目すべきは体験を通じた『共感づくり』の事例です。
「打ち合わせをするなら、まずは1階のe-Bikeショールームで試乗してみませんか?」……ヤマハ発動機の福田は、そんな誘い方から顧客との対話を始めると言います。「みなとみらいを一周して、赤レンガまで行って、帰ってきて30分くらい。普段見るみなとみらいと違って見えてから会議室に入るといい」というエピソードからは、製品体験を通じて共創への理解を深めてもらおうという工夫が感じられました。
それと同様に、東急も偶発的な体験価値を重視しています。横浜駅直結の複合ビル最上階という立地を活かし、天井高7.5メートル、135人収容可能なホールを備えた空間で、週2回程度のペースでイベントやワークショップを開催。武井さん個人としては「敷地に価値なし、エリアに価値あり」という考えのもと、横浜という街で働くことの価値を高めることを目指しているといいます。また、Vlag yokohamaとしても、会員やイベントの参加者が「新たな事業のヒントを得て仲間を見つけられる」ような場づくりを通じて、持続的なまちづくりへとつなげていく構想を描いています。

一方で三菱地所は、地方のプレイヤーとの連携にも力を入れています。自社の特徴的な取り組みが「地方だからできている、と思われることが悔しい」という地方発のイノベーターたちの声に応え、丸の内という都心でも同様の取り組みができることを示しています。
たとえば、ゼロ・ウェイスト宣言で知られる徳島県上勝町を代表するプレイヤーと連携し、丸の内エリアから出る食料残渣を液体肥料に変えて、都市型の資源循環実現に向けた取り組みを展開するなど、具体的なプロジェクトも動き始めています。
こうした各社の独自アプローチがある中、京セラは場所を貸す条件として「事業紹介の時間をもらう」など、新しい接点を探る工夫を重ねています。「自社とは一見関係なさそうでも、自治体による地域課題の討論会などには積極的に場所を提供し、京セラの社員が『横浜市にこんな課題があったのか』と気付けるフックにしている」という大崎さんの言葉からは、自社へ学びを還流させるメリットも見えてきました。
参加者たちが描く、これからの「いい共創」とは?
イベント会場には「課題感ボード」が設置され、共創スペースを運営する上での悩みや期待が参加者から共有されました。寄せられた声は「経営」「共創パートナー」「イベント」「ゴール設計」の大きく4つに分類できます。
まず「経営」の観点では、「多くの人に使ってもらいたいが収益とのバランスをどうとるか」「会社と共創スペースのアライン」「役員との目線合わせをどうするか」といった、運営の根幹に関わる課題が挙げられました。
また「共創パートナー」という視点では、「共創によって関係会社にどんなメリットを与えられるか」「適切なパートナーをどう選ぶか」など、より具体的な悩みが共有され、「イベント」の観点では、「コミュニティが小さいとイベント集客が大変」という実務的な課題も。
そして「ゴール設計」の観点においては、「サステナブル実現までの道のりが長い」「共創のゴールが遠い」といった、長期的な視座からの悩みも挙がりました。

そして、トークセッション中には「共創が進まない理由」として「各社の“思惑”を一致させるのが難しい」という意見も。各社の方針が違うなかで、共創を進めるための工夫の必要性が浮き彫りになってきました。
改めて「一社では大きくできるコミュニティに限界がある」という京セラの大崎さんの言葉に、他の登壇者も深く同意。みなとみらいの各施設が持つプレイヤーや協業候補者のネットワークを「交換していけること」への可能性にも期待が集まりました。
トークセッションの締めくくりに、ヤマハ発動機の福田は「往々にして会社が求める成果が近視眼的なところもあるのも事実。共創スペースも連携して、『自然回帰』など何社かで挑むべきテーマを見つけていけたら」と展望を語りました。

トークセッション終了後、リジェラボでは懇親会が開かれました。会場のあちこちで活発な意見交換やディスカッションが行われる様子を見て、「この交流の時間こそが、ミートアップの目的だ!」という実感が湧きます。
「いい共創」は一日で形になるものではなく、対話と実践の積み重ねを通じて徐々に育まれていくもの。社内では得られない知見と学びが交わるこの場から、きっと新たな可能性が生まれていくのでしょう。
執筆:長谷川賢人 /撮影:村上大輔・長谷川賢人 /編集:日向コイケ(Huuuu)
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