浄水方式
浄水方式の特徴比較
当社が採用している緩速ろ過方式を世の中にある代表的な他の浄水方式と比較すると下の表のようになります。井戸は浄水方式ではありませんが、途上国の村落部では多くの地域で使われているので、一緒に比較してみました。必要面積と初期投資は同じ浄水生産量を見込む場合を想定しています。
緩速ろ過は、比較的きれいな表流水があり、土地が確保でき、自治がしっかりしている小規模村落には最適です。一方、原水の濁度が高い地域や人口が多く土地が確保しにくい都市部には、急速ろ過の方がより適しています。また、淡水がない場合やヒ素汚染などがある場合は、膜ろ過に頼るしかありません。小規模村落であっても、飲むのに適した、十分な水量のきれいな地下水があるのであれば、井戸という選択肢もあります。
浄水方式比較概要
項目/浄水方式 | 井戸 | 緩速ろ過 | 急速ろ過 | 膜ろ過 |
---|---|---|---|---|
適切な地域 | 飲むのに適した、十分な水量のきれいな地下水のある所 | 比較的きれいな表流水があり、土地が確保でき、自治がしっかりしている小規模村落 | 人口の多い都市部、原水濁度が高い地域 | 淡水が少なく、ヒ素汚染等がある所を含むどこでも。公的資金ではランニング費用を賄えない |
浄化性能 | ★ 浄化能力はない |
★★ 細かな粒子のない比較的きれいな水をきれいにできる |
★★★ ある程度細かい微粒子なら凝集沈殿させることできれいにできる |
★★★★ 塩水淡水化や重金属の除去など超微細な粒子まで除去できる |
必要面積 | ★★★ 小さい |
★ 大きい |
★★ 比較的小さい |
★★★ 小さい |
初期投資 | ★★ 比較的小さい |
★ 大きい |
★★★ 小さい |
★★★ 小さい |
メンテナンス性 | ★★★ 現地ユーザーで対応可能 |
★★★ 現地ユーザーで対応可能 |
★★ 専門技術者必要 |
★★ 専門技術者必要 |
環境適応性 | ★★★ 排出物はない |
★★ 排出物は原水 |
★ 排出物は凝集剤を含む汚泥 |
★★ 排出物は原水 |
ランニング費用 | ★★★ 安い |
★★★ 安い |
★ 高い(凝集剤) |
★ 高い(膜交換・電気など) |
不純物の粒子径と各浄水方式の適用範囲
図に、不純物の粒子径と各浄水方式の適用範囲を示します。いずれの方式も単独で使われることは少なく、前処理や後処理に複数の方式を組み合わせる場合がほとんどです。YCWも粗ろ過(砂の代わりに砂利を使うが砂ろ過の一種)、砂ろ過、生物ろ過を組み合わせています。
あなたに最適な浄水方式はどれか
緩速ろ過方式とは
1820年代後半に、英国で開発された、砂ろ過法で、ヨーロッパから世界へと普及しました。通常、表流水の処理に用いられ、流速は、2~5m/日と、後に述べる急速ろ過方式に比べ低速です。日本では、戦後、アメリカから入ってきた、急速ろ過方式が普及し、それまでの緩速ろ過法は激減しました。しかし、近年は、環境負荷・エネルギー消費量が小さいことから、日本でも、見直される動きがあります。
緩速ろ過方式では、砂ろ過による、物理ろ過だけでなく、微生物膜層の形成によって水を浄化します。この微生物の層は生物ろ過膜と呼ばれ、運用開始後2週間程度で、砂層の上層部、数~数十㎜に形成されます。生物ろ過膜は、細菌、菌類、原生動物などの微生物により形成され、時間がたつと、藻類が増え、より大きな水生生物が生息するようになります。水が、生物ろ過膜を通過する際、異物は粘性のある膜に捕捉され、溶解している有機物は吸着し、細菌、菌類、原生動物の代謝に使われます。
緩速ろ過方式の特徴
- 生物処理のため、間断なく低流速を保つことが必要である。
- 浄水生産速度が遅いため、通常は貯水タンクに浄水を貯めることが多い。
- また、同じ量の浄水生産には、急速ろ過方式と比べると広い設置面積が必要である。
- 薬品処理などの付属設備が必要なく、設備が簡略にできる。
- 水質浄化のために生物の浄化能力を使う。
- 浄化自体には、加圧、化学薬品や電気が必要ない。
- 濁度が低い原水の浄化に適する。
- 原水の濁度が高い条件下では、粗ろ過など前処理が必要な場合がある。
急速ろ過方式とは
1890年代後半に、米国で開発された、砂ろ過法で、世界の都市部に広く使われるようになりました。緩速ろ過方式と比べると、流速は、120~150m/日と、先に述べた緩速ろ過方式に比べ数十倍高速です。同じ浄水を生産するのに必要な土地面積が小さいため、人口密度が高く、用地が比較的得られにくい、都市の浄水場で広く使われます。
急速ろ過方式は、緩速ろ過方式と比べ、より粗い砂や砂利を使い、水中の不純物をろ過する方法です。ろ過処理の前に、硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウムなどの凝集剤を付加することで、細かい粒子を凝集させ、不純物の粒子を大きくさせることでろ過を容易にします。また、ろ過処理の後には、塩素やオゾンによる消毒処理をします。
急速ろ過方式の特徴
- 緩速ろ過方式と比べると流速が大きいので、比較的設置面積を小さくできる。
- 濁度が大きい水にも対応可能である。
- ろ過材としての砂の必要量が比較的少ない。
- 凝集剤付加や逆洗など管理技術とコストが必要である。
- 凝集剤を購入するための費用が継続的に必要である。
- 単独で細菌を取り除くことは難しい。
- 凝集沈殿物である汚泥の処理が必要である。
膜ろ過方式とは
有機もしくは無機の多孔質のフィルターに原水を通し、ふるい分けの原理により不純物を除去するろ過方式です。フィルターの孔よりも大きい不純物をフィルター内に残し、それより小さい物質、すなわち綺麗な水のみを通すことで水を浄化するものです。
使用する膜には、物質を通す孔の大きさにより粗い方から順に、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜膜、逆浸透膜の4種類があります。精密ろ過膜は、孔の大きさが0.1~1μm程度で、藻類や原虫類、細菌類を取り除くことができます。限外ろ過膜では、孔の大きさが2 nm~0.1μm程度となり、ウイルスや高分子のタンパク質レベルまでも取り除くことが可能です。逆浸透膜は最も孔が小さく、水に溶け込む、ほぼ全ての成分を取り除くことができます。塩分(塩化ナトリウム)のような小さい分子ですらブロックできるので、海水を淡水化する装置にも使われます。ナノろ過膜は、膜の孔の大きさが2 nm以下で、限外ろ過膜と逆浸透膜の中間の性質を持っています。
膜ろ過方式の特徴
- 除去可能な不純物サイズが明確であり、適切な膜を選択すれば、原水中の懸濁物質、コロイド、細菌類、クリプトスポリジウム等の一定以上の大きさの不純物を完全に除去することができる。
- 逆浸透膜のような微小な孔の膜を使えば、複数の処理を組み合わせることなく、ミネラル成分やかび臭の原因となる物質も完全に取り除くことができる。
- 前処理が軽減され、施設構成が簡潔でコンパクト、敷地面積が狭くできる。
- 濁度が高い原水では、すぐに膜が目詰まりするので、前処理が必要となる。
- 設備の建設工期も短く、自動運転が容易。
- 高圧力をかける必要があり、エネルギー消費が大きい。
- 膜やシステムのメンテナンスコストが高くなる可能性がある。
- 逆浸透膜では、膜自体のコストも高い上に、高い圧力を得るためのエネルギー消費も大きい。