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ヤマハ発動機株式会社 Revs Your Heart

Town eMotion 未来のまちとモビリティ

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インタビュー プロジェクトリーダーの想い

「モビリティの可能性を広げ、人々が賑わう豊かなまちづくりを」

「モビリティの可能性を広げ、人々が賑わう豊かなまちづくりを」

ヤマハ発動機株式会社
クリエイティブ本部 フロンティアデザイン部 榊原瑞穂

ヤマハ発動機株式会社
クリエイティブ本部
フロンティアデザイン部
榊原瑞穂

移動手段としてだけでない、
モビリティの新しい価値を。

――まず榊原さんが率いるフロンティアデザイン部について教えてください。

ヤマハ発動機が作り出すモビリティに、既成概念にとらわれない新しい価値を見出していく、そしてそれらを社会に実装をしていくというのがミッションの部門です。特に今は、地域が抱えるさまざまな社会課題を解決するべく、モビリティを活かしたまちづくりプロジェクト「Town eMotion(タウンイモーション)」に注力しています。世の中が絶えず変化する中で、「感動創造」という企業の目的を大切にしながら、ヤマハ発動機らしい解決の仕方とはどんなものだろうと考えながら取り組んでいますね。

――榊原さんは、現職に就く前はどのようなキャリアを積まれてきたんでしょうか。

はい。以前は電機メーカーで、医療や介護・福祉分野でのロボティクス事業や、スマートタウン開発における企画といった新規事業に関わっていました。ただ振り返ってみれば、学生時代の研究テーマがモビリティとまちづくりで。前職での幅広い分野での仕事も経て、改めてもともと関心があったモビリティの可能性を広げていくような仕事に絞ってできないかなと思い、縁があってヤマハ発動機で現在の業務に携わっています。

――今は、どのようなチーム体制でプロジェクトを前に進めているんですか。

チームの拠点は2つあります。私の所属するフロンティアハブグループが軸足を置いているのは、汐留の東京オフィス。他の企業や社会と積極的につながる窓口として、デザイナー、プランナー、宣伝広報など、多様なバックグラウンドをもつメンバーが揃っています。一方で静岡県の磐田市の本社にあるのがラボグループ。デザイナーのほか、心理学の博士号を持つメンバーもいて、企業の目的とも通じる人間研究や感動研究といったテーマで活動しています。

――とても幅広いメンバーが揃っていますね。では、まさにメインプロジェクトとして進めている「Town eMotion」が立ち上がった経緯を教えてください。

以前から社会課題にどう応えていくかというのは社内でも議論を重ねてきていました。また近年、さまざまな企業と仕事をする中で、単純に製品を提供するだけではなくて、今後のモビリティや移動そのものへの幅広い提案を求められることが多くなっていました。都市開発や再開発のプロジェクトで、デベロッパーや商社のお客様とコミュニケーションを図る中では、特にその要望が強くて。弊社としても、もう少し上位の概念で、一緒に課題解決していくことの必要性を痛感しました。そこで、まちづくりという切り口に焦点を当てて、課題解決に向き合おうということになったんです。

課題を解決するだけでなく、
もっと楽しく、ワクワクする地域に。

――取引先、ひいては社会からの要請も高まっていたと。

そうですね。その上で大切にしたのは、製品先行で考えるのではなく、地域と関わっていく中で現地の様々なステークホルダーの方々と一緒に課題を見つけながら、 “ヤマハ発動機らしく”解決策を考えるというプロセス。例えば、人の滞留を促し賑わいを生み出すためのツールとしてモビリティを活用する。移動の課題解決にしても、単純に手段として提案するのではなく、道路環境から見直したり、よりワクワクする方法を考えたり。そんなコンセプトを立て始めたのは、2020年頃のことです。

――まさに、モビリティの価値を拡張するような考え方ですね。

例えば、公道を時速20km未満で走行できるグリーンスローモビリティ(以下、GSM)という移動手段があり、これまでは全国的に、移動困難地域や交通空白地帯と呼ばれるような場所での新たな公共交通手段として価値検証がされてきました。もちろんその価値は当然あるのですが、それに加えて私たちとしては、移動だけでない滞留の価値や、GSM以外の多様なモビリティを組合せ、いろんな人が嬉しくなるような活用の可能性があるのではないかと考えています。

――なるほど。コンセプトを立ててからは、どのような流れでプロジェクトを進めてきたんですか。

スタートがコロナ禍だったこともあり、なかなか具体的な活動に移行しづらかった中、まず取り組んだのは提案の幅を広げることでした。都市開発の案件を題材にして、その中で、単にモビリティの提案に留まらない、その地域にフィットした解決策を提案していこうと。そして、2021年の後半頃からはようやくリアルに検証をしていくフェーズに移ることができました。地域の自治体や商店会などの、すでにまちづくりに積極的に携わってる方々と一緒に、実証実験を行いながら、価値の検証をするという共創活動を始めています。

――具体的には、どのような検証を行なっていますか。

昨年10月に世田谷公園で行ったのが、「三宿あおぞら図書館」。地域の図書館と連携し、絵本を積み込んだGSMを公園に停め、イベントのような形で図書スペースとして開放しました。人や物が移動するだけでなく、移動した先での滞留、そしてそれによって作られる賑わいには価値があるのではないかという仮説のもとで行った取り組みでした。実際に、親子連れなど多くの方が足を運んでくださって、新しい社会価値を証明する活動の一つになったように思います。

――他にも、同じ世田谷で「モバイルパークレット」も行ったそうですが、これはどんな取り組みなんでしょうか。

世田谷の三宿エリアはシニア世代がまちなかで休憩できる場所がないことが、かねてからの課題になっていました。そこで地域の商店会が中心となって、道路沿いにベンチを設置する取組みをされていました。そうした取組みに私たちも共感し、商店会理事でありインフラデザイナーでもある4FRAMESさんと一緒に今年の3月に取り組んだのが「モバイルパークレット」です。着想を得たのは、アメリカやヨーロッパなどでは定番になっているパークレットという空間。道路の一部を休憩スペースやお店などの人が集う空間に転用することで、賑わいや経済的な活動も生まれ、地域にとってもメリットがある手法です。しかし日本では規制に合わなかったり、道路の幅が狭かったりと、なかなかハードルが高く、まだ一般的には展開されていません。設置や撤去する手間もコストも課題になるのですが、GSMをうまく使えば、道端に止めるだけでパークレットを実現できるなと。それを、モバイルパークレットと名付けて行いました。

――当日は具体的にどんな場を提供しましたか。

当日はGSM2台とキッチンカーを活用し、休憩所を設置したり、歩道沿いのチョコレート屋さんに協力いただき、コーヒーを販売したりしました。普段通りがかっている場所が、特別な空間になり、楽しみながらくつろいでもらうという形を検証することができたと思います。

地域と深く関わることで、
移動の未来が見えてくる。

――モビリティを使って賑わいを作るような取り組みについては、すでにさまざまな可能性が見えているかと思います。今後はどのようなところに注力するのでしょうか。

二つあります。一つは、地域にリアルな場所を持ち、運用していくことです。そこでは我々の価値検証の取組みだけでなく、地域の文化的な活動の拠点としても活用していただく。そうした地域との接点を持ち続けることが必要なのではないかと思っています。現在も、鎌倉や別の地域で設置の検討をしているところです。

――なるほど、もう一つはどのようなことでしょうか?

賑わいを創り出すことと合わせて、改めて移動そのものを考えたいなとも思っています。それは、モビリティの形であり、移動を含むライフスタイルでもある。海外では、四輪のパーソナルビークルや魅力的なカーゴバイクなど、多様な乗り物がすでにあります。例えば、「三宿あおぞら図書館」を行った際に「三宿みちまちフェア」というイベントも同時に行い、「NeEMO(ニーモ)」という電動カートの試乗体験も行いました。電動カートというと、国内では高齢の方が日常の足として利用するカテゴリーに分けられるのですが、本来このモビリティが見据えていたのは、幅広い層への新しい移動体験の提供。誰もが使える便利なツールになってもいいはずなんです。地域との活動を進める中で、新たに開発すべきモビリティのあり方は絶えず模索していきたいですね。

――街全体の未来を考えながら移動の未来を考える。両輪で検討を進めていくということですね。

「Town eMotion」がやっている、社会の中にまず身を置いて、価値の検証をして、そこから新しいモビリティを生み出していく、という流れを、社内においても一つの当たり前にしたいんです。社会をより良くし、ワクワクさせられる製品を作るためには、社会に目を向けることができる「人」が育つ必要がある。こうした循環プロセスによって、結果的に新しいモビリティも生まれていくはずだと思っています。

自発的に、多様な取り組みが
生まれるまちづくりを。

――榊原さんは、今後このプロジェクトがどう成熟していくことを期待していますか。

最終的には、私たちが離れても、課題に対して自発的に取り組みが生まれるようなまちづくりに貢献できたらいいなと思っています。長く賑わう豊かな地域を作るために、ヤマハ発動機として課題を解決しながら、喜びや楽しさなどを提供し続けるのはもちろんなのですが、住んでいる方やその地域のステークホルダーの方々も含めて、互いに提案をしあう場があり、そこで常に何らかのチャレンジをする機会があるほうが、みんなワクワクするのではないでしょうか。そんな地域って素敵だなと。私たちも、利益だけでは計れないかけがえのない価値が得られると思います。そのためにも、自治体やまちづくりに関わるNPO団体の方々などとどんどん繋がって、まずは地域の中での取り組みの認知を広げていきたいですね。

――最後に、榊原さんご自身やチームとしては、この仕事にどんなふうに向き合っていきたいですか。

私自身は、この仕事にすごく面白さを感じています。そして社内を見ても、「ヤマハ」はそもそもオルガンの修理から始まった会社で、表現に携わってきたという出自からか、「楽しい・面白い」ということをモチベーションに仕事をしている社員が多いように思っています。だからこそ、より社会と関わりながら、やるべきことを見つける視点さえ見失わなければ、必要とされるブランドであり続けられるはず。プロジェクトはまだ立ち上がって2年の駆け出しの段階ですが、いまのチームメンバーを中心に、社内のいろんな人たちも巻き込みながら取り組んでいきたいですね。

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