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復刻部品の紹介

絶版部品の復刻と、復刻を可能にした社員たちの激闘のウラばなし

Iconic Collection とは

ヤマハ発動機のエポックメイキングな1台をもう一度振り返り、その背景を紐解いて、
現代に続くルーツを再確認するコンテンツ。

Iconic Collection ラインナップ

当時の環境規制やマーケット動向(海外需要)を受け、あまたの二輪メーカーは4サイクル大排気量化を目指していた。
ヤマハでさえこれまでの共通設計思想から脱皮し、市販レーサーと公道用を分けた開発プロセスへ変化。すなわち2サイクルはレーストラック専用として進化させる流れを強めていた。しかし、そうした中で得られた最新のエンジニアリングで最高の走りを表現することを諦めきれない。その刹那な想いで生まれたRZ250が歴史を大きく変えていく。

復刻部品

純正部品としての供給を終了した部品を復刻する活動。
社内のモノづくり部門、サプライヤー様の協力の元、様々な可能性を探求しながら復刻に取り組んでいきます。

サイドカバー

当時の設計図面を解読しつつ、現存パーツを産業用CTでスキャンしてデータ化。お互いを突き合わせて最終化して試作造形した手の込んだ逸品。

テールカウル

サイドカバー同様のリバースエンジニアリングに加え、締結点周りのカラー保持寸法を微修正。 現代基準をハイブリッドさせる芸の細やかさ。

復刻担当者のつぶやき

序 章

復刻第1号に選ばれたRZ250

「レーサーレプリカブーム」の発端となった記憶すべき初代RZ250。昭和にオートバイに目覚めた現役ライダー世代なら知らない者は居らず、その後のヤマハの系譜を語る上でもRZは外せない。
その一方で、当時、樹脂部品化で軽量・コンパクト化を極めた車体構成は、まずは小さな成形型でパーツ復刻手法を学ぼうとする際に大変都合が良い。
ファーストトライアルを、長らく供給欠品していたサイドカバー・テールカバーで行うことの合意決定に、時間は掛からなかった。

第一部

復刻のはじまり

手順も手法も体当たり

まず取り掛かるべきは現物を知ること。復刻アイテムが決まってすぐに、豊岡技術センターにあるレストアチームの皆さんを訪ねました。ここはコミュニケーションプラザに展示する歴史車両をレストアし、動態保存する場所。ピカピカの歴史車両がずらっと並んでいる空間に入ったとき、「とんでもないところに来てしまった…!」と衝撃を受けたのを覚えています。
ここで、レストア前の車両から外したオリジナルパーツをいくつかお借りしました。これをベースとして、リバースエンジニアリングが始まりました。

金型技術の普段の仕事では、製品データを元に金型を製作するという業務がメインですので、組み付け後の車両に触れる機会は多くありません。 レストア済みの車両を見て、外装が組み付いた状態での見栄えや全体のプロフィールラインを確認。どういったポイントを抑えた上で製品を復刻していく必要があるのかを皆で話し合いました。 会話をしていく中で当時と同じ樹脂材料が手に入れられるのか、シボは再現できるのか、質感が再現できるのか等々、多くの課題も浮かび上がってきました。

第二部

復刻までの道のり

手順1. 図面と実物と比較する

次にRZ250のサイドカバー、テールカバーの図面を探しました。
当然3Dデータなどあるわけもなく、紙の図面のスキャンのみでしたが、ちゃんと図面が手に入りました。図面と実物を比較して見てみますが、正直形状に関してはこれではざっくりとしか分かりませんので確認するのは仕様についてなど。カラーや材質の指示など得られる情報は色々とありました。

手順2. 3Dデータ化する

今回は初めてのリバースエンジニアリングということで全くの手探り状態でした。
3D化の方法もいくつか検討して、最終的に使い勝手が良かったのが産業用CTによる3Dスキャンです。カメラを使ったスキャンとは異なり、X線断面画像を用いて裏面や内部形状まで再現した3Dモデルを作成可能な優れもの。出力されたデータはそのまま製品化に使えるわけではないですが、モデリングの参考材料としてとても有用に機能しました。
そしてさらに、プロダクトデザイン部の協力により外装の曲面形状に関しては3Dデータを作ってもらうことに。普段は製品のクレイからデータ化を行っている部門で、デザイン的観点からの3D化を実施いただきました。 得られた全体の3Dスキャンデータ、表面の曲線データ、そして目の前にある現物の外装品、これらをもとに本格的にモデリングがスタートしていきます。

手順3. 3Dスキャンデータをもとに、モデリングする

今回の外装復刻プロジェクトでは、3Dスキャンしたデータと自分で作ったデータを組み合わせながらモデリングするという、これまでに経験のない業務だったのでとても苦労しました。45年前の紙の図面とスキャンデータのどちらを基準にすべきか、都度みなさんと相談しながら進める必要がありましたね。

正直、現物と図面があれば簡単に復刻できると思ってたんですけど、全然そんなことなかったです(笑)。当時の図面は今のものと書き方が違っていて、試しに図面通りに締結座面を作ってみたら、強度が確保できないくらい薄肉になってしまったところもありました。 CTスキャンと後述の3Dプリンタ試作がなかったら、もっと苦労していたと思います。現代の技術って本当に偉大ですね。

手順4. 3Dプリントして実物と比較、実機に組付けて検証

今回は通常の開発とは異なるプロセスのため、モデリングと金型製作の間に3Dプリンタによる検証を挟みました。金型を作ってから問題が起こると、修正にお金も時間もかかってしまいますからね。

正直うまくはまらなかったらどうしようかとドキドキしていましたが、問題なく組付けができました。安心したのも束の間、メンバーの「ちょっと当時モノとプロフィールラインが違うように思うのですが…」という一言で場の空気が一変しました。
当時モノはシャープさが感じられる一方、3Dプリント品はややプロフィールが丸いような印象でした。

テールカバーの前端部と後端部、シャープエッジの箇所は、最初は角が鋭角にならないように作っていたんです。でも3Dプリンタで試作して現物と比べたら、全然違うんですよ。現物は角がシャープで、車両に組み付けたときの見栄えが圧倒的にかっこいい。
現在の新製品では安全性等の観点から鋭角形状ができないようにしているんですが、今回は「復刻」ということで、当時の形状をあえて忠実に再現することにしました。
全体を通して、最終的には図面に書かれていることよりも、実車との組付け性や製品としての強度、現物との見た目の一致感を重視して、締結位置や座面の大きさを調整していきました。

サイドカバーも同様に、Rライン曲面のエッジ部が現物ではつぶれておらずシャープな形状であるのに対し、3Dプリンタ品では線がぼやけてしまっていたため、その数ミリの違いをモデリングで修正しました。また、プリンタ品はリブの高さが数ミリ異なることに気づいた時は、なぜその差が生じているのか、どう修正すべきかをチーム総出で議論し、その差異まで正確にトレースしました。見落とされがちな細部にまでこだわることで、単なる形状の再現ではなく、当時の製品の質感や雰囲気まで、より精度の高い復刻ができたと思います。

Rの潰れ違い(左:現物部品、右:3Dデータによる試作品)

Rの潰れ違い(上:現物部品、下:3Dデータによる試作品)

普段は設計者からの指示を受けて動く立場なんですが、今回は設計者がいなかったので、初めて関わる部署とのやり取りでもみんなが設計者のような立場で意見を出し合って、形状を検討していく感じでした。部署間の壁を感じない、フラットな距離感で会話ができて楽しかったですね。今回得られた知見から、次にまた復刻するときはもっとスムーズに進められると思います。

手順5. 再度、3Dプリントして出来栄えを確認

修正したデータを再度3Dプリントして、車両への組付けをしました。多様な角度からなめるように車両と部品との確認を行った結果、無事に目指していたラインが得られ、ようやく一安心することができました。
車両を確認していく中で、車両側の状態(シートの浮きや、車両フレームの歪み)も個体差がありそうだと判明し、今市場に出ている車両がどのような状態なのか、どういった部品が求められているのかを知りたい気持ちが強くなりました。

手順6. 3Dモデルを元に金型検討

型検討を進めるうちに、金型成立性の確保のために形状修正したいところが出てくるのですが、「『当時の製品を再現する』というコンセプトと相反する、金型成立性の確保」。このせめぎ合いが部品復刻特有の事象であり、苦労したポイントでした。
やり取りを何度も重ねながら3Dモデルを仕上げていく中で、当時の製品を再現する上で妥協できなかった部分の一つが、今では採用できないギボシ形状です。
当時のフレームへの組付性を考えるとどうしてもこの形状が必要だったので、どのように金型を成立させるかを皆で議論しながら進めました。型データが完成したときは心からほっとして、成形する日が待ち遠しかったです。 終わってみればイレギュラーなことが多く、大変な制作ではありましたが、復刻という貴重で新鮮な仕事に関われたことは嬉しい体験でした。

手順7. 金型製作

復刻プロジェクトにおける金型技術部全体のコンセプト「普段の業務とは異なる工程を担当する事で、前後工程の人と繋がる」ことを意識して製作を進めました。通常の作業担当者は指導員にまわり、通常業務と異なる作業者が作業を行うということです。社員からは「他の人は普段どのような業務を行っているんだろう?」という不安や「この作業やってみたかったんだよね!」などの声があった一方で、指導員の側からも「人に教えるのは難しい」、「かっこ悪い部分は見せられない!」など様々な声がありました。
「設計は自動で何とかなる部分が多いんじゃない?」→「人が介在する部分が多い…!ピンの配置が難しい」
「加工なんて機械が勝手に加工してくれるんでしょう?」→「細かい寸法の調整が大変だ!」
「型の磨きなんてゴシゴシ削ればいいんでしょう?」→「バランスを見ながら形状を崩さずに磨き、部品を合わせていくのは職人芸すぎる」
などなど、実際に経験することで得られるものは多かったと思います。

今回の公開はここまで!
続きは本番サイトにて掲載予定です。お楽しみに!

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