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55mph - EICMA 2017 ミラノショー バイクの新時代を予感させる「NIKEN」の市販モデルを発表

2017年11月、イタリア・ミラノでEICMA2017が開催されました。

プレスカンファレンス終了時のカット。「NIKEN」に跨がるバレンティーノ・ロッシの左隣はヤマハ発動機代表取締役社長の柳弘之 (2018年から代表取締役会長)。その後ろはヤマハ・モーター・ヨーロッパの首脳陣。

文・写真/河野正士

世界最大級のモーターサイクルショーであるEICMA(エイクマ)ミラノショーが、今年も開催されました。一般公開日は11月9日から12日までの4日間。その前の2日間は各メーカーが新製品などを発表するプレスデイとなります。今年は世界中から60万人を越える来場者が集まるなど、その規模はまさに世界最大級です。

ヤマハは毎年、そのプレスデイの前日、EICMAウィークの月曜日にEICMA会場とは別会場でプレスカンファレンスを開催します。ここではそのプレスカンファレンスを含めたヤマハブースの模様と、そこから感じたヤマハの2018年をライター河野正士がレポートします。

ヤマハは今年のEICMAで、ヨーロッパのバイクファンと交わした約束を果たすとともに、大いに驚かせました。それが市販予定車としての「NIKEN(ナイケン)」の発表でした。

ヤマハは東京モーターショーが開催される奇数年のEICMAでは、東京モーターショーと同様、これからの企業姿勢や新技術をコンセプトモデルとともにプレスカンファレンスでプレゼンテーションします。しかし、それらはあくまでプレスカンファレンスのみでの発表で、コンセプトモデルなどがEICMA本会場のブースに展示されることはほとんどありません。なぜなら会場に集まるイタリアのバイクファンたち、ひいては欧州のバイクファンたちというのはコンセプトモデルにあまり興味を示さないからです。僕らがあんなに感動した「MOTOBOT」や「MOTOROiD」についても、あまり話が盛り上がらないというのが現状です。

プレスカンファレンスのトリで登場したLMW機構を持つ新型バイクNIKEN(ナイケン)。

このことを友人の欧州人ジャーナリスト数人に聞くと「走らせない、売らない技術なんて何とでも言うことができる。その技術を携えたモデルがラインナップされれば評価する」とおおよそ似たような返答が返ってきました。なんともドライなのです。その反面、新しい技術や思想を引っ提げたニューモデルが発表されると大いに興味を示し、自らのバイクライフにハマると絶賛します。

NIKENはそんな彼らの前に、2018年の市場投入予定モデルとしていきなり現れたのです。日本人的には2015年の東京モーターショーあたりから、コンセプトモデルとして実車を目にする機会も多く、徐々に精度を増していく情報によって“発売されるかも”的な予兆がありました。しかし欧州のバイクファンはこれまでNIKEN(2015年発表時は「MWT-9」)を実際に目にする機会は無く、まさに“絵に描いた餅”が“購入可能なアイテム”として突然目の前に置かれたのです。

面白かったのはプレスカンファレンスでNIKENのゲストプレゼンターを務めたMotoGPのヤマハ・ファクトリーライダー、バレンティーノ・ロッシが、プレゼン進行中にもかかわらず、自分のお喋りパート以外はNIKENのディテールを、角度を変えながら凝視していたこと。この反応は、一般公開日以降のヤマハブースでも多く見ることができました。

EICMA本会場、ヤマハブースに展示したNIKEN。

NIKENは、LMW(リーニング・マルチ・ホイール)機構がよく分かるよう、下り斜面のディスプレイ台に、車体を大きく右に傾けた状態で展示されました。来場者の多くは、身を屈めてLMW機構を覗き込み、仲間たちと喧々囂々意見を交わしながらディスプレイ台をグルッと一周する感じ。イタリアでは「トリシティ125/155」は好セールスを記録し、多くのバイクファンがLMW機構の優位性を深く理解しています。そんなイタリア人ですら、モーターサイクルにLMW機構を搭載すること、そのバイクが900ccの大排気量&ハイパワーのエンジンを有することで、どんなフィーリングを造り出すのか興味津々な表情でした。

欧州バイクファンを知り尽くしたヤマハは、興味と不安が入り交じった、こんなファーストインプレッションが生まれることを十分承知していたはず。それでもなお自らが思い描く未来の二輪の姿を信じて突き進み、いきなり市販予定車としてNIKENを発表したのではないでしょうか。もちろん欧州バイクファンも、コンセプトモデルとしての「MWT-9」の存在は知っていたはず。しかしコンセプトモデルをチラ見せするのではなく、市販車として現車をプレゼンすることで、“やると決めたら、やる”というヤマハの姿勢を見せつけた気がしました。
耳当たりの良い“未来”の話に終始することなく、未来を届けるヤマハ。NIKENの市場投入からは、そんな姿勢が伺えます。市場投入後のユーザーやメディアの反応も大いに楽しみです。

一方、MTシリーズは、前後オーリンズ製サスペンションやクイックシフター、スペシャルカラーを採用した「MT-09SP」と、ボディデザインを一新した「MT-07」を発表しました。MTシリーズはいまや、欧州ヤマハのラインナップのなかで、販売台数の約50%を占める屋台骨的存在。MT-07もMT-09とともにMTシリーズの主役と言えるでしょう。新しいMT-07は、スタイリングにおいてMT-09とのシンクロ率を高め、ビジュアル的によりファミリー感を強めたほか、前後サスペンションをよりスポーティにセッティングしています。軽量コンパクトなMT-07は初心者に優しい存在ですが、それ以上にライトウェイトスポーツとしても人気が高く、体格の良い欧州ライダーに向けてよりスポーティな足周りを採用したのではと想像しました。

プレスカンファレンスの冒頭に登場したMT-09SP。
MT-09SPに続き、プレスカンファレンスの冒頭に登場したMT-07。

欧州ヤマハにおけるスポーツツーリングカテゴリーは、ここ5年で約5倍の規模に成長し、販売台数の約20%を占めていると発表がありました。その急成長を後押ししているのが「トレーサー900」です。今回、そのトレーサー900のマイナーチェンジとともに、より豪華な装備を搭載した「トレーサー900GT」も発表されました。

ヤマハは2013年から中期経営計画として「基本プラットフォームをベースにしたバリエーション展開の拡大」を進めており、トレーサー900はMTー09と基本骨格を共有しています。同様に欧州ではMT-07と基本骨格を共有するトレーサー700がラインナップされています。パワフルなエンジンと最新のエレクトロニクスを搭載するMT-09と、シンプルであることを前提に軽量コンパクトというバイクの基本性能を磨いたMT-07がMTファミリーのなかで対称的であるように、トレーサーシリーズにおいても900と700は対極の存在。ユーザーたちもそのことをよく理解していて、またがることのできた新型トレーサー900、トレーサー900GTの展示車には、細部を吟味するファンが後を絶ちませんでした。

スタイリングの変更とともにアルミスイングアームを採用したトレーサー900(右)とサイドケースなど装備を充実したトレーサー900GT。

昨年のEICMAでコンセプトモデルを発表し、今年はその市販バージョンが発表されるのではないかと大いに期待されていた「T7コンセプト」。しかしその発表はならず、代わりにコンセプトモデルからプロトタイプへと進化した「テネレ700ワールドレイド」が発表されました。CP2エンジン、いわゆるMT-07系の直列2気筒700ccエンジンを搭載するアドベンチャーモデルという基本ディテールは変わっていませんでしたが、フレームやタンクといった車体を構成する主要パーツはブラッシュアップされ、市販車と見紛うクオリティでした。アルミの地肌そのままのタンクに、モトクロッサーをアレンジしたような樹脂製フェンダー、市販車とは異なる溶接痕があるフレームなど、コンセプトモデル「T7」の荒々しさに好感を持っていた自分としては、製品然とした立ち姿のテネレ700ワールドレイドに若干の寂しさを感じつつも、世界各地の砂漠やラフロードで、ラリーレジェンドたちとともに開発を進めていると聞けば、それはもう待つしかありません。

プロトタイプへと進化したテネレ700ワールドレイド。

ヤマハブースに展示されていた、その他の最新モデルも紹介します。

EICMAはイタリアで開催されるモーターサイクルショーであるがゆえ、欧州メーカーが毎年大きなトピックスを用意して挑んできます。しかしここ数年、会場では日本メーカーの勢いを感じます。モノ造りに優れ、コト造りが苦手とされてきた日本メーカーですが、そのステレオタイプな図式もいまや過去のものとなっています。そんな日本メーカーの新しいカタチを率先して提案してきたのがヤマハです。そして「NIKEN」などの新しい試みと情熱が詰まった製品は、日本メーカーそのもののカタチを、さらに進化させるのではないか。そんなことを感じた、今年のEICMAでした。

河野 正士 (こうの・ただし)

二輪専門誌の編集部員を経てフリーランスのライター&エディターに。現在は雑誌やWEBメディアで活動するほか、二輪および二輪関連メーカーのプロモーションサポートなども行っている。ロードレースからオフロード、ニューモデルからクラシック、カスタムバイクまで好きなモノが多すぎて的が絞れないのが悩みのタネ

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