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55mph - そして、30台のRZがサーキットを駆けた。

マシンだけではなく、その当時の「空気」まで再現してしまった男たちがいる。Moto GPマシンが鎬を削る現代のシルバーストーンサーキットを30台のRZが走り抜けた。

マシンだけではなく、当時の「空気」まで再現してしまった男たちがいる。Moto GPマシンが鎬を削る現代のシルバーストーンを30台のRZが走り抜けた。

写真/Derek Freegard 文/後藤 武

 活気のあった80年代を懐かしみ、当時のマシンをレストアして元気に走らせている人達は世界中にいる。しかし、ここまでの規模で当時を再現してしまった例は過去にない。2015年、イギリスにあるバイクショップ「IDP MOTO」の社長、ダリル・ヤングは30台ものヤマハRZを新車同様にレストアし、80年代に行われていたレースを再現してしまったのである。

 Pro-Amシリーズは、当時大人気だったRZ250を使ったワンメイクレースだ。マシンは主催者が用意し、ライダー達は当日抽選でキーを受け取ってサーキットを走る。完全イコールコンディションであることに加え、実力のあるライダーたちがイギリス中から集まったために毎回大接戦が繰り広げらる。ついにはテレビ中継もされるほどの人気となった。GPレーサー、ニール・マッケンジーもこのレースから輩出されたライダーである。

 ダリル・ヤングもこのレースの大ファンだった一人。ある日、レース関係の知人達とPro-Amシリーズを復活させるのはどうかという話になった。しかもただ集めて走るだけではない。シルバーストーンサーキットで行われるMoto GPの前座として当時の様子をそっくり再現したらとても面白いイベントになるのではないかということになったのである。ヤングは自分がこのプロジェクトを進めることを決めた。Pro-Amシリーズをもう一度復活させたいという一心だった。

 とは言っても35年前のバイクを集めてレストアするなど簡単にできるはずがない。頓挫しそうになった話が一気に進んだのはイギリスにあるRDクラブのメンバーが協力を申し出てくれたからだった。ベースマシンやパーツなどを安価で譲ったり、提供したりしてくれたのである。幸いなことにイギリスではRZ350に比べRZ250の人気は高くないため、ガレージに寝ているマシンも多かったのだ。

 しかし、そこからが作業の本番だった。30台すべて外装をお揃いのカラーにペイントし、エンジン、足周り、ブレーキをオーバーホールする。改造されているマシンや部品のないマシンもあったため手配しなければならないパーツも膨大だった。レース直前まで準備が整わず、IDP MOTOとRDクラブのメンバーたちの必死の作業でなんとか30台のマシンが揃ったのである。

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 ただ、外観は新車同然でも整備が追いついていないマシンもあった。サーキットでエンジンを分解したりするようなトラブルも頻発した。そんなところにやってきたのがニール・マッケンジーだった。マッケンジーは、週の前半から現地入り。手伝いを買って出て、他のメンバーたちと一緒に油まみれになりながらマシンの整備をした。

 そしてレース本番。30台のRZが一斉にシルバーストーンのサーキットを走り出した。その様子は80年代をそのまま切り取ってきたかのようだった。2ストロークマシンの乾いた排気音とオイルの香りに観衆はしばし魅了された。当時と同じように激しい戦いが行われた末、優勝したのはなんとマッケンジーだった。このイベントをもっとも楽しんだのは間違いなく彼だっただろう。

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 今年もシルバーストーンにMoto GPがやってくる。それと同じタイミングでまたPro Amをやりたいという考えがあるようだが、話はそう簡単ではない。前回のレースではIDP MOTOのダリル・ヤングが費用の大半を負担した。スポンサーがつかなければ二度目の開催は難しい。そして、現行マシンでもなく改造パーツも使わないPro-Amのスタイルでは大口のスポンサーも簡単には見つからない。しかし、ヤングもRDクラブの面々も諦めていない。80年代のPro-Amは何年も継続して行われていたレースである。当時と同じように継続開催されてこそ、完璧な復活を遂げることになるのだ。30台のマシンの準備は整えられ、次に走り出す日を待っている。

ニール・マッケンジー

スコットランド出身のレーシングライダー。Pro Amカップで活躍したのちイギリス国内選手権に出場。GP500にステップアップしてから立て続けにポイント獲得。1987年にはワークスNSR500を駆った。ホンダ、ヤマハ、スズキのセミワークスチームで活躍。90年代後半は英国スーパーバイク選手権でタイトルを獲得している。

RZ250

1980年に登場したロードスポーツ。水冷2ストロークエンジン、モノクロスサスペンションなど、市販レーサーであるTZ譲りの技術が随所に詰め込まれ、それまでとはレベルの違う走りを可能にした。70年代から始まった排出ガス規制のあおりを受けて2ストロークが世界的に下火になる中、RZは大ヒットを記録。これを機に各メーカーはこぞってスパルタンな250の2ストマシンを投入。のちのレーサーレプリカブームを生むことになる。海外ではRD250LCという名前で発売された。

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