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開発ストーリー:YZF-R1

YZF-R1の開発ストーリーをご紹介します。

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商品企画担当
小川 尊史さん

YZF-R1だけではなくYZF-Rシリーズ全般の商品企画を担当。

“YZF-R”ブランドは、ヤマハモーターサイクルの象徴[シンボル]である

YZF-Rブランドは、ヤマハの中で最もスポーティなブランドです。0.1秒を競うレースシーンでも活躍するYZF-Rシリーズ、その中のフラッグシップモデルである「YZF-R1」は、ヤマハの持つ技術・知識・経験が惜しみなく投入され、ある種ヤマハモーターサイクルを象徴する1台であるとも言えます。
従来、「ツイスティーロード最速」と山道や峠道などでの性能の高さを謳っていたYZF-R1ですが、2015年モデルから「サーキット最速マシン」へと軸足を大きく変更し、1を切るパワーウェイトレシオに加え、他社に先駆けて6軸センサーを使って車体を統合制御するなど、最新鋭のパフォーマンスで、スーパースポーツモデルファンのみなさまにご支持いただいてきました。

ヤマハらしさ「人機官能」に磨きをかける

今回、EURO5という時代に即した環境対応を求められました。新しい環境基準に対応するということは、これまで以上の制限がかかってしまうということですので、性能低下は避けられません。ですが、環境対応しながらも従来の性能は継承し、加えてヤマハとして何ができるのか、どのような進化がお客さまに求められているのかを開発メンバー皆で議論しながら進めました。
その答えは、「“人機官能”と言われるヤマハらしい性能をしっかり出していく」でした。人機官能の解釈は人によるところもありますが、私の中では、マシンを手足のように扱える“ヤマハのハンドリング”を深化させることがすごく大事だと思っています。

YZF-R1は、サーキット最速マシンとしてサーキットでご使用いただくお客さまも多いモデルです。サーキット走行やレース時に何が一番大事かというと、バイクがライダーを裏切らないこと。それは安心してマシンを走らせられること、つまりはライダーがコントロールできるマシンであることです。
例えば、サーキットで走行中にヒヤッとした瞬間があるとアクセルを戻してしまい、思ったタイムが出ません。安心してバイクを走らせるためには、ライダーがマシンと一体感を持ち、またマシンはライダーの手足のように動いて、その全ての挙動がライダーに伝わる=シンクロすることが重要です。その感覚に近づけていくために、今回の進化として電子制御を大きくアップデートし、安心しながらも制御の介入をライダーには感じさせない自然な作り込みを目指しました。

YZF-R1の魅力を感じてもらうために

まずは、「乗ってみてください」というのが私からのお願いです。スペックには決して現れない“コントロールする楽しさ”を味わってください。スーパースポーツモデルでこの“コントロールする楽しさ”を味わえるのがYZF-R1の最大の魅力だと思います。言葉ではうまく表現できない部分、実際に乗ってみないとわからない部分にもヤマハはこだわって開発しています。
乗っていただくとその瞬間にも感じてもらえるはずです。開けた分だけ、開けた以上には進まないアクセル、止まりたい時、止まりたい分だけしっかり止まってくれるブレーキ性能。ライダーの意思とマシンがリンクする感覚は、走り出しのアクセルを開けた瞬間、街中の信号待ちで止まるその瞬間にも直感的に感じていただけると思います。この気持ち良さは「乗ってみてください」としか言いようがありません。

そうしたYZF-R1の性能を最大限堪能していただくにはやはりサーキットを走っていただくのが一番だと思います。正直なところ、サーキットやマシンに慣れるまでは上手く乗れない方もいらっしゃると思いますが、乗れば乗るほどライダーとマシンが互いにシンクロし、上手く乗りこなせるようになるよう開発しています。ですので、オーナーになっていただいた方にはYZF-R1と共にライディングスキルを磨いていただきたいです。

ヤマハでは長期ビジョンに「ART for Human Possibilities」を掲げ、その中でTransforming Mobility、つまり誰もが「安心して乗れる」、「気持ちよく乗れる」という根幹的価値を改めて見直すことで「人の可能性を広げよう」という取り組みを進めています。ヤマハ製品は人がステップアップしていく、できなかったことができる、そして達成感を味わい成長する喜びを得られる商材が多く、YZF-R1もその1つです。

YZF-R3/R25のオーナーさんにも“ヤマハのハンドリング”を体感して欲しい

YZF-Rシリーズとして展開するYZF-R3/R25のオーナーさんは、免許を取り立てでこれからバイクに乗って楽しみ、バイクの面白さ・魅力を知っていく過程にある方々も多いのではないかと思います。
同じYZF-Rシリーズとして、排気量は違えどもYZF-R3/R25もバイクをコントロールする楽しさを知っていただくために、マシンが手足のように扱え、ヤマハの“人機官能”や“ヤマハのハンドリング”が体感できるようなマシンに作り込んでいます。ライディングが上達してくると、もう少しパワーのあるハイパフォーマンスのバイクに乗ってみたいという気持ちが芽生えてくるはずです。その時、YZF-R1にステップアップしてみたいと憧れてもらえたらすごく嬉しいです。また、さまざまなYZF-Rシリーズがありますが、いずれかのYZF-Rシリーズモデルに乗っていただいているお客さまには、一度はYZF-R1に乗って欲しいのです。なぜならヤマハが考える“ヤマハのハンドリング”を最も顕著に体現したモデルこそYZF-R1だからです。YZF-R3/R25のオーナーさんには、いつの日かYZF-R1に乗って「ヤマハのYZF-Rシリーズとはこういうものなのか」と改めて実感していただきたいです。

レース会場で輝くYZF-R1を観戦

YZF-R1のオーナーになっていただいた方には、ぜひレースの観戦にも来ていただきたいです。自身で所有しているバイクと同じモデルがレースで活躍しているのを観られるのもYZF-Rシリーズならではで、それも大きな魅力だと思います。
国内最高峰のレースである全日本ロードレースや鈴鹿8時間耐久レースなどでも、YZF-R1で参戦するライダーはたくさんいらっしゃいます。そういったレースに参戦するのは別世界のようにも感じますが、同じYZF-R1なのです。ご自身が乗られているのと同じバイクがレースで活躍しているのを見ると、レースの世界が身近に感じられ、レースの見方も変わってくるのではないでしょうか。
友達とツーリングをする。サーキットを走ってみる。レースを応援する。YZF-R1にはさまざまな楽しみ方があります。それぞれの遊び方でYZF-R1を満喫いただき、その魅力を多くの皆さんと共有できたら嬉しいです。


デザイン企画担当
多々良 涼さん

欧米向けスーパースポーツモデルなどのデザイン企画業務を担当。

デザインコンセプトは“纏う[まとう]

YZF-R1というモデルは、ヤマハモーターサイクルを象徴する1台です。2015年に従来のツイスティーロード最速からサーキット最速に方針を転換し、扱える高性能と“ヤマハのハンドリング”、そして無駄がなく引き締まったデザインが多くのご支持をいただいています。
今回、さらなる進化を遂げるにあたり、どのようなデザインがYZF-R1に相応しいのかを検討した際、200馬力ものマシンをコントロールするには、“自在にマシンを操縦できるデザイン”が必要だと考えました。ライダーとマシンの一体感を高め、ライダーがマシンと対話しながら一体感をもってコントロールできるデザインに重点をおき、デザインコンセプトは“纏う[まとう]”としました。“纏う”には4つの意味を持たせています。

1.“風”を纏う

走行時にライダー、マシンが受ける風による抵抗をいかに減らすか。空力性能の向上を主目的に車両前面部のカウルを新作し、空力抵抗特性を2015年海外モデル比で5.3%向上させました。フロントカウルに風が当たって、そこから風が舞い上がり、伏せたライダーのヘルメットの上部を抜け、背中に向けてきれいに風が抜けていく。こういったストリームラインをイメージしながら解析し、デザインに落とし込んでいます。アンダーカウルも前方からの風をきれいにいなして流す造形としています。また全体としては、スピード感を出すために水平基調のデザインを追求しYZF-Rシリーズとしてのスピード感、最速感を強調しています。そうした風への配慮によって、街中でも、高速道路でも、サーキットでもYZF-R1を取り巻く風の環境を制御することで、マシンをコントロールしやすくしています。
風をいなし、ライダーとマシンへの抵抗を低減するイメージから“風を纏う”という表現をしています。

2.“人”が纏う

新しいYZF-R1のデザインには二つの領域があります。それは、ライダーが触れるエルゴノミクスエリアと風が流れるエアロダイナミクスエリアです。スーパースポーツモデルである以上、ライダーはYZF-R1の上で積極的に体を動かしてマシンを操作していきます。
例えばサーキット走行する際、身体を前後左右に動かし、ストレートではタンクに顎を載せて伏せたりと0.1秒のタイムを削るためにマシンを操ります。そういった一連の動作をスムーズに行えるよう、コクピット周辺は可能な限り突起物をなくし、自由に動けるシームレスな造形としました。さらに幅をとりがちな直列4気筒のエンジンを包むカウルを極力コンパクトに造形することでエアロダイナミクスエリアを意識しました。
ライダーの一瞬一瞬の判断にあわせ、身体を瞬時に意のままに動かすことができる“人が(マシンを)纏う”形状は、ライダーとマシンとの一体感をより強く感じさせてくれるはずです。

3.“M1の魂”を纏う

ロードレースにおけるヤマハの最高峰モデルはMotoGPに参戦しているYZR-M1です。そのYZR-M1とYZF-R1の関係は切り離せないと考え、M1の魂をデザインとしていかにR1にフィードバックするかという点をとても重視しました。
YZR-M1の象徴的なポイントであるM字のセンターエアダクトの継承や、インテグレートされたカウリング、戦闘マシンとしての冷酷な佇まいはまさに“M1の魂”の表れです。

4.“R1の意思”を纏う

新世代のYZF-R1のデザインを検討するにあたり、これまでのYZF-R1の要素を継承しながらも異彩を放つ進化を目指しました。厚肉のアクリル樹脂レンズを使用した新作のポジションランプと、レンズカットを変更することで配光性能を向上させた新作のヘッドランプによって、冷酷な戦闘マシンとしての“R1の意思”をより表現しています。

さらにオーガニックな造形に進化したYZF-R1M

上級モデルであるYZF-R1Mは、フロントカウルの変更に合わせてテールカウルも新作。フロントカウルからサイドカウル、そしてタンクを経由しリアにかけてまで、有機的なつながりを意識した造形に進化しています。

YZF-Rブランドやモデルコンセプトを存分に反映したカラーリング

YZF-R1Mは1色、YZF-R1は2色で展開します。

ヤマハの技術力・素材の良さを活かした
ブルーイッシュホワイトメタリック2(カーボン)(YZF-R1M)

ヤマハスーパースポーツモデルの最高峰として、造形の狙いを十分に反映しつつ、素材の良さも十分に活かすカラーリングにしています。風をいなすエアロダイナミクスエリアはカーボン素材を活かし、ライダーが身体を動かすエルゴノミクスエリアはブルー・ブラック・シルバーの塗り分けを採用。なかでもフューエルタンクのシルバーはアルミタンクのバフがけ素材が見える表現としています。タンク前面のエアクリーナーカバーのシルバー部分も、高品質できめ細やかな光輝材を含む質感の高い塗装に仕上げています。
なおタンクカバーの天面には、シリアルナンバー入りのエンブレムを採用。世界共通の一貫したナンバリングによって、世界で1台の希少性を演出しています。

新世代のヤマハレーシングブルー 
ディープパープリッシュブルーメタリックC(ブルー)

ヤマハのレーシングカラーである青を採用したブルーカラーには、YZF-R1のために開発した新色のマットグレーを採用しました。このマットグレーは、高い技術力とハイパフォーマンス性を持つ戦闘機などをイメージしています。YZF-R1のブルーカラーを筆頭に、MTシリーズやTRACER900など他のモデルシリーズにおいてもブルーとマットグレーの組み合わせを展開しており、2020年のヤマハのカラーリング展開の礎とも言えます。

機能・造形を塗り分けた
ブラックメタリックX(ブラック)

ブラックカラーは、モデルの機能や造形の狙いをカラーリングで表現しようと、風が流れるエアロダイナミクスエリアとライダーが触れるエルゴノミクスエリアで、カラーリングを塗り分けました。
フロントからリアにかけてマシンが風を切り裂くエアロダイナミクスを考慮したカウリングエリアにはマットブラックを、ライダーが身体を動かす位置にあるタンクやサイドパネルにかけてのエルゴノミクスエリアにはシームレスな動きを表現するグロスのブラックを採用しています。また、よく見ていただくとフロントカウルのスクリーン下にゼッケンプレートのような黒いグラフィックを配しています。レースに起源を置くYZF-R1らしさをストイックなブラック・オン・ブラックで表現しています。

YZF-R1でしか体験できない爽快感を!

スーパースポーツであるYZF-R1には、格好よくするためのデザインは必要でないと考えます。むしろ速く走るため、楽しく走るために最高の機能・性能を織り込み、研ぎ澄ましていくことで機能美を纏ったのがYZF-R1のデザインです。
YZF-R1が持つすべての性能を味わっていただくには、サーキット走行が一番です。コーナーに進入しライダーが身体を存分に動かしてマシンの向きを変え、そこから安心して思い切ってアクセルを開けてコーナーを脱出、そしてすぐにフロントカウルの中に潜り込む。その一連の動作をぜひ体感していただきたいです。このようなライダーとマシンが一体となりシンクロすることで得られる爽快な乗り味こそ、YZF-R1でしか味わうことができない大きな魅力であり、その一翼としてYZF-R1のデザインは大きな役割を果たしています。


開発プロジェクトリーダー
津谷 晃司さん

トップカテゴリーのレース現場で主に車体設計を担当。MotoGPマシンの開発プロジェクトリーダーも担当。

サーキットでの性能を究めると公道でも楽しい

“R”とはヤマハのレーシングマシンに与えられる称号です。そのなかでもYZF-R1は、フラッグシップモデルであり、”Full control evolution of track master”(サーキット最速マシン)として、最先端の技術を存分に盛り込み、高性能でありながらお客さまが楽しく速く走ることができる特性に作りこむことを心がけました。
高性能を最大限に発揮する場としてはやはりサーキットが1番だと思います。レースやサーキット走行をするエキスパートなライダーやシチュエーションに向けて扱いやすいバイクに仕上げることで、結果的にあらゆるライダーに対しても扱いやすく乗りやすいバイクになると考えています。それがヤマハのスーパースポーツマシン創りの根幹の一つであり、「サーキットで高性能を使い切る」というところが開発目標となるわけです。

小さな変更、大きな進化

今回のYZF-R1は、新たな環境対応だけではなく、レースユースを視野にアクセルの開き始めから高回転までストレスなく加速する特性を得ることに注力、高性能を維持しながらそれを“扱うことができる”ように感じられる制御もターゲットに開発を進めました。
エンジンは、新たな環境へ配慮しながら出力を落とさないために、スロットルバルブの位置やインジェクターのレイアウトを変更し、低・中回転域の燃焼速度を最適化して良好な燃焼を実現しています。あわせてドライバビリティも、アクセルの開け始めから良くなっているので、アクセルを開けながらコーナーを“気持ちよく曲がる”ことができます。スロットルバルブ駆動を行うYCC-T(電子制御スロットル)も進化させ、機械式から電子式のAPSG(アクセル開度センサーグリップ)に変更。軽量化を図りながらドライバビリティをよりダイレクトに感じられるようになっています。
また、カムシャフトの回転をバルブに伝えるフィンガーロッカーアームの形状を変更することで、挙動の安定化を図っています。特にレースユースでの高回転領域の使用頻度増加を見据え、高回転域でも安定してスムーズにエンジンが回るようになっています。
さらにエンジンオイルをエンジン各部へ送るポンプのレイアウトやローター径、ベアリング幅を微細に変更するなど、潤滑系の細やかな変更を積み上げてロス馬力を低減しており、エンジンの回転数が上がれば上がるほどロス馬力を抑える効果は顕著になります。
997m3の水冷直列4気筒・不等間隔爆発・クロスプレーンクランクシャフトのエンジンで147kW(200PS) /13,500r/minという高性能な基本スペックは継承しながら、新たな環境対応を実現し、さらにコントロール性を高めたエンジンになっているのです。

“ヤマハのハンドリング”を支えるMotoGPで培った制御

2015年モデルのYZF-R1では、MotoGPで培った6軸センサー「IMU」(Inertial Measurement Unit)を他社に先駆けて搭載しさまざまな制御を行なってきました。その洗練された制御により磨きをかけるため、「BC(ブレーキコントロール)」と「EBM(エンジンブレーキマネージメント)」の2種の制御システムを新規に搭載。よりシームレスな制御が可能となりました。制御システムは、新たに加わった2種の制御システムを含むすべての制御項目を見直し、扱いやすさと速さを両立するYZR-M1に近い乗り味を目指しました。

BC(ブレーキコントロール)【NEW】

これは、マシンの挙動を安定させるために働く制御で、例えばコーナーリング中のバンクした状態でブレーキを掛け過ぎた際などに作動することで、車体の唐突な挙動を抑制し、安定性を保つことを助ける制御です。
バンク角や前後タイヤの回転速度差に加えて、従来装備のスライドコントロールシステム用のIMU信号を利用して制御性を高めることで、安心感を高めながら楽しく走っていただくことができます。

制御レベルとして「BC1」と「BC2」を設定しており、「BC1」は直進走行状態で緊急制動に対応する従来ABS相当のもので、「BC2」はコーナーリング中にブレーキをかけ過ぎて車体挙動が乱れそうな場面で安定性を高く保つようにブレーキ圧を制御するモードです。

EBM(エンジンブレーキマネージメント)【NEW】

ライダーの好みや走行状態にあわせてエンジンブレーキの強弱を3つのモードから選択できます。 「EBM1」をスタンダードとし、「EBM2」はグリップの良いタイヤを装着したサーキット走行時を想定して、エンジンブレーキの効き過ぎを緩和するサーキット走行に適したモードです。「EBM3」は、「EBM2」よりさらにエンジンブレーキの効きを弱くするので、よりエキスパートに向けた設定といえます。

LCS(ローンチコントロール)

レーススタート時に俊敏な発進を支援する制御で、従来のモデルと同じ設定の「LCS2」と、制御の介入を減らした「LCS1」から選択することができます。「LCS1」は、従来モデルより高回転域・高開度で介入するように調整してあり、扱うにはスキルを要しますが、エキスパートのライダーが上手く操ると、ウイリーするかしないかのそのギリギリのところで、より前にマシンを進めようという推進力を得られる走行が可能です。

推進力を強化したQSS(クイック・シフト・システム)

シフトアップ・ダウンするとき、駆動のカット量が大きく時間も長いと車両挙動は小さく抑えられるものの、カット中は加速力・減速力が低下しタイムロスに繋がります。駆動のカット量が小さけ短ければその逆となります。ライダーのシフト操作の負担を軽減しながら、シフトアップ・シフトダウン時のマシンの挙動と加減速力低下を最適化する機能としてQSSがあります。
2020年モデルのYZF-R1用QSSは、従来モデルよりも駆動をカットする時間を若干短めに設定し、車両の挙動が出やすくはなりますが、その分加減速力低下によるタイムロスを最小限に抑えられる、より上級者へ向けた設定としています。

新たに追加した制御はBC(ブレーキコントロール)EBM(エンジンブレーキマネージメント)の2つですが、従来の制御も適合をすべて見直し、よりシームレスで、より速く、よりライダーの意のままを反映する制御に熟成しています。

制約条件のなかで最大限に磨いた性能

車体は、基本的骨格は2015年モデルからの高性能な部分を継承しながら、フロントカウルの形状変更によりエアロダイナミクス性能に磨きをかけました。
サスペンションにも改良を施し、KYB製倒立式フロントサスペンションは減衰力発生構造の改良によりタイヤからのフィードバックが感じやすく、リアも大きな変更はないものの路面の感覚をより感じていただきやすいようなセッティングに見直しています。一方、オーリンズ製の電子制御サスペンションを搭載しているYZF-R1Mは、フロントのアクスルブラケット部にMotoGPマシンにも採用されているシリンダー内部へのガス加圧構造を追加、負圧によるオイルの泡立ちを抑制して安定した性能を発揮し、ブレーキングやコーナーリングでの作動性が安定することでヤマハならではのコーナーリング性能を向上させています。

さらに、ブレーキもコントロール性に優れた摩擦材をフロントブレーキに採用しブレーキ性能を向上させています。また2020年モデルのYZF-R1のブリヂストン製のタイヤは今回のYZF-R1とのマッチングも考慮して新たに開発されたものです。コンパウンドの調整と新作トレッドパターンを採用したタイヤは、高いグリップ力と耐久性でYZF-R1との相性は抜群です。

ヤマハのレースDNAを受け継ぐ、YZR-M1との関係性

MotoGPマシンYZR-M1からフィードバックした技術は、現在のYZF-R1にも存分に盛り込まれています。エンジン形式やファイヤリングオーダーをはじめ、ピストンやコンロッド周り、動弁系周りや潤滑・冷却方法などにもYZR-M1からたくさんフィードバックしています。そのため、YZF-R1のエンジン音はYZR-M1と非常に似た音がすると開発陣の中でも好評です。
性能面だけではなく、YZR-M1を思わせる全体のプロポーション、M字型のエアインテークダクト形状やタンク周りのスリットダクトの細部アイコンなど、デザインを一目見ていただくだけでその関係性は歴然だと思います。外観デザインだけでなく、YZF-R1のフレームは、YZR-M1と同じ思想をもって設計されています。ですので、自ずと似た形状となり特性も非常に近いものになっています。

制御面でも非常に強い関係性にあります。現在MotoGPでは全車統一ECUとソフトウエアが用いられていますが、統一化が行われる前に各社がオリジナルのソフトウエアを開発していた時のストラテジーを直接受け継いだ制御技術を2020年のYZF-R1にフィードバックしています。
YZR-M1とYZF-R1の開発チームは互いに交流があり、YZR-M1の開発を担当したメンバーが今回のYZF-R1の開発チーム内に何名もおりますので、ヤマハのレースDNAがダイレクトに注ぎ込まれているのです。
個人的な話ではありますが、1999年から最高峰カテゴリーのレース車開発に携わってきた中で、長年デザインとエアロダイナミクス開発も主導させていただいており、今回のYZF-R1も過去からのYZR-M1に外観がよく似ているため非常に親近感が湧き、まるでYZR-M1を目の前で見ているような気分になります。乗って楽しいバイクですが、見ていても楽しい、満たされるバイクだなということもお客さまにはアピールできると思っています。

ヤマハらしさに磨きをかけたモノ創りを

以前から「ハンドリングのヤマハ」ですとか「コーナーリングのヤマハ」などとコーナーリング性能を評価していただいておりますので、2020年モデルのYZF-R1の開発においても、速く、楽しく、気持ちよく走れるモデルを目指してMotoGPの開発で培った技術を存分にフィードバックし、ヤマハらしいハンドリング、ヤマハらしいドライバビリティを持つモデルに仕上げました。
私自身も今回のYZF-R1に乗ってテストコースを走っていますが、発着場に戻ってくると必ず笑顔になってしまうのです。私のライディングレベルでも十分に楽しさがわかるくらい、高性能なのに扱いやすいバイクに仕上がっています。
「高性能ながらも扱いやすい」ということは、現在のハイパワーマシンにとって非常に重要な高性能な制御システムの動作介入が自然で、いつ介入したのかわからないということでもあります。例えば、ライダーとしてはスロットルを全開にして気持ちよく走っているのですが、実際は制御が働いていてライダーが考えているよりも半分くらいしかトルクが出ていないということもあり得ます。しかし一番大切なことは、乗っているライダーが、安心して思いっきりアクセルを開け、イメージ通り気持ちよく走れていることであり、マシンをコントロールできていると感じられる[・・・・・]ことです。そういった高性能でありながら扱いやすいという数値化しにくい乗り味に、バイクが大好きな開発メンバーたち全員がこだわりをもって臨みました。

2020年のYZF-R1は、これまでのヤマハのハンドリングやヤマハのエンジンの良さを全面に押し出して、より向上させたモデルです。この性能は、ライダーとマシンの一体感を創りあげるためであり、これからもライダーを中心に見据えたヤマハらしいモノ創りに励み、お客さまと一緒に感動を共有していきたいと思います。

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