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開発担当者の苦労話 後編

企画はできた。でもどう作る?2つの大きな技術的課題をどのように乗り越えたか。開発者が取り組んだ課題解決の話。

開発担当者の苦労話 後編 開発担当者の苦労話 後編

カスタマーエクスペリエンス事業部
企画戦略部 ボルトオンアクセサリ開発グループ

さと31才さん

オートバイとは付かず離れず

ヤマハはバイクキチが多いので、とてもじゃないけどオートバイ好きは名乗れない。
オートバイユーザーのことは好きなので、開発はそこをモチベーションに持ちこたえ中。設計歴は、MC車体4年、アクセサリー6年。単気筒信者。

あの頃のヤマハらしさを、もう一度。そんな想いから始まったカラーリングへの挑戦。しかし、理想をカタチにする道のりは、決して平坦ではありませんでした。色づくりから細かなラインの表現まで、開発担当者がこだわり抜いたポイントと、その裏側に隠された苦労話をお届けします。

“カラーリング課題”解決に向けて “カラーリング課題”解決に向けて

今回の企画は車両の雰囲気をがらりと変えるアクセサリーというコンセプトであり、カウル単体ではなくタンクやフェンダーまで含めてのトータルカラーリングコーディネーションを行う商品開発となった。RZという向かうべき北極星を目指しつつ、この高価なアクセサリーを購入してもらう以上は、“少量生産”&“ヤマハの塗装技術”だからこそ実現できるギリギリを攻めて開発を行う必要があった。
ヤマハにはカラーリングを専門とする設計部隊が存在する。今回は、“既に廃盤となった塗装色の復活”、“塗り分け塗装とミリ単位のライングラフィック”、“水転写による旧音叉マーク&YAMAHAロゴ”と多くのトライがあり、1年以上をかけてカラーリング設計、アクセサリー設計、製造部門、デザイナーとスケッチや現物を前に何度も議論を重ね、作りこんだ。

企画イメージ図

当時のRZの白と赤の塗料はとっくに廃盤となっており、現代の材料で再現するために調色から再度行った。ABS樹脂用、鉄用、グラフィック用と、色味を合わせるためにそれぞれが違和感なく当時のカラーになるようプロの手によって作りこまれている。
もっとも苦戦したのは、グラフィックと塗装の細部の合わせについてだ。これがもし車体の量産を前提としていたなら、案にも上がらないような構成となっている。一つずつ解説していく。

基材レス水転写グラフィックの採用 基材レス水転写グラフィックの採用

タンクは、お客様が乗車中に常に目に入り、かつ触れる部分。そのため、質感と手で触れた時の鉄の素材感を残すことにこだわりたかった。オートバイの印象を決めるタンクサイドの一等地には、旧音叉マーク&ヤマハロゴが入っている。これには基材レス水転写グラフィックを採用した。通常のグラフィックは、基材と呼ばれるインクを載せるための0.05mmの厚さの透明層が存在するのだが、その厚さは近づいて横から見るとわずかに認識できる。特にタンクのような乗車中に常に視界に入る部分では、そのわずかな段差や境界線が質感の違和感として感じられてしまう。今回の企画では、本物の塗装で仕上げたかのような見え方を実現するため、基材レス水転写グラフィックに挑戦した。
しかし、基材が存在しないということは、位置決めや貼り付けの自由度が低くなるということで、さらに今回XSR900でロゴを入れる部分は、タンクの中でも曲率の強い肩の部分だ。製造難易度は飛躍的に高くなったが、なんとか実現することが出来た。

グラフィック基材有無比較

タンクカラーリング タンクカラーリング

タンク中央の太い赤ラインとその両脇を通る黒いグラフィックの部分には白、赤、黒の3色が存在するため、従来であれば、3色が入ったグラフィックを貼りたいところだ。ただ、グラフィックを使ってしまうとどうしてもタンクキャップの部分で車両中心を通る赤ラインが途切れてしまい、キャップ周りに白が残ってしまう。前述の通り、タンク天面は乗車中のライダーから常に見える部分である。こだわりたい。
結果的に、白と赤を塗り分け塗装にし、タンクキャップに潜り込む箇所まで赤ラインを通した。ただ、問題なのが両脇の黒いライン。手作業で赤ラインに沿ってグラフィックを貼るのだが、少しでもずれると平行でなくなったり、白い部分の幅が左右で異なったり、前のカバーとのつながりが失われたりと、完成度がガクンと落ちる。そのため、デザインデータだけでなく実際に部品を何度も試作し、設計者、デザイナー、生産技術、製造現場の担当者が現物を囲みながら0.1mm単位での細かな修正を繰り返した。

開発会議資料抜粋

特に難しかったのは、「2次元上で正しい」と「人の目で美しく見える」が一致しないことだった。タンクは3次元曲面で構成されているため、2次元上では左右対称であっても、実際に車両へ組み付けるとライダーからの見え方や光の当たり方によって印象が変わる。わずかにラインの位置を変えるだけで、タンクが細く見えたり、逆に重たく見えたりするのだ。さまざまな条件で検証を行った。RZらしさを追い求めながらも、ベースとなるXSR900の力強いタンク形状や現代的なプロポーションを損なわないラインを探し続けたのである。

全体カラーリングの調和 全体カラーリングの調和

今回のカラーリングはタンクだけでは完成しない。カウル、タンク、フロントフェンダー、シートカウルといった複数の部品で構成される。そして、部品ごとに樹脂だったり鉄だったりと材質も異なるため、同じ塗料を使っても見え方が変わる。単体で見れば正しい色でも、車両に組み付けると隣り合う部品との色差が気になることがある。そのため、各部品単位ではなく、常に車両全体で見ながら色味やライン位置の調整を行った。
また、今回復活させたYZR500の旧音叉マークやYAMAHAロゴも、単純に当時のデータを流用したわけではない。現代の塗装品質や車両サイズとのバランス、そしてライダーが受ける印象まで考慮しながら細かな調整を加えている。1980年代の雰囲気を持ちながらも、現代のヤマハ品質として成立させる。その絶妙な落としどころを見つけることも、今回のカラーリング開発における重要なテーマだった。

開発チームが目指したもの 開発チームが目指したもの

完成した車両を見ると、「RZ250Rのカラーリングを再現した」と感じる人が多いかもしれない。しかし開発チームが目指したのは単なる再現ではない。当時を知るお客様には懐かしさを感じてもらい、当時を知らない世代のお客様にも純粋に格好良いと思ってもらえること。そのために過去のデザインへの敬意を払いながら、現代の技術と品質で再構築することを目指した。
派手な性能向上があるわけではない。しかし車両に近づいた時、タンクに映り込む景色を見た時、手で触れた時、そして走行中にふと視界へ入った時、そうした瞬間に感じてもらえる特別感こそが、今回のカラーリング開発で追求した価値である。RZ250Rという北極星を見失うことなく、現代のヤマハだからこそ実現できる表現を積み重ねた結果が、この一台には詰め込まれている。

この記事のまとめ

  • 車両全体の印象を大きく変えるため、カウルだけでなくタンクやフェンダーまで含めた統一感あるカラーリングを追求した。
  • 廃盤となったRZ250R当時の白と赤を現代の塗料で再現し、異なる素材でも色味がそろうよう細かく調整した。
  • タンクの旧音叉マークとYAMAHAロゴには基材レス水転写を採用し、塗装のような自然な質感を実現した。
  • タンク中央の赤ラインは塗り分け塗装でキャップの内側まで通し、両脇の黒ラインも手作業で精密に仕上げた。
  • 塗装とグラフィックの位置を0.1mm単位で調整し、車体に組み付けた際の見え方や光の当たり方まで検証した。
  • カウルやタンク、フェンダーなど材質の異なる部品を実車で比較し、色味やラインが自然につながるよう調整した。
  • 旧音叉マークやYAMAHAロゴも当時のデータをそのまま使わず、現代の車体や塗装品質に合わせて再構築した。
  • 当時を知る世代には懐かしさを、若い世代には新鮮な格好良さを届けるため、現代の技術と品質を追求した。
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