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タイヤよ…お前もか… ー とあるサービス部社員が語る整備の世界

サービス部社員に歴史あり。個性派社員による整備の話などなど

タイヤよ…お前もか… タイヤよ…お前もか…

カスタマーエクスペリエンス事業部サービス部

ケニー筒井さん

とりあえず、気になる事は
自分でやってみる人(笑)

長いことサービス部門で働いています。原付から大型スポーツ、ATVにスノーモービルまで、ヤマハのサービス業務を手広くやってきました。バイクはオフロードからスーパースポーツまで乗り継いだ末に、今はネイキッドに落ち着いています。趣味はキャンプや料理、自宅での音声応答ローカルAI構築、EV自作までと節操がなく、「とりあえず自分でやってみる」の精神で大体なんでも手を出します。その結果、やめときゃ良かったと後悔することも多いです。

タイヤ交換は決して安いものではありません。まだ溝が残っているなら、もう少し使いたいと思うのも自然なこと。しかし、タイヤの状態は溝の深さだけで判断できるものではなく、時間とともに進むゴムの劣化にも注意が必要です。交換を先延ばしにしたくなる気持ちにも触れながら、タイヤの劣化の仕組みや点検のポイント、そして安心してバイクを楽しむために大切なことを考えます。

こんにちは。ヤマハ発動機のサービス部門のケニー筒井です。 前回エンジンオイルの記事を書いた後、同じ部門の同僚からこんなメッセージを頂きました。

「エンジンオイルは交換の必要性を実感できました。でもタイヤはまだ実感できない、溝があればタイヤ交換する気が起きない。こんな私をタイヤ交換させるような記事を書いてください。」(要約)

はい。正直で大変よろしい。「溝があったらまだ換えなくてもいいんじゃないか?だってまだ使えそうじゃん!」と言うのは正直なコメントだと思います。この記事を読んでくださっている方の中にも、ひょっとしたら同じ気持ちの人は多いんじゃないかなぁと思います。
エンジンオイルは分かりやすいですよね。サボると異音がするしチェックランプが点く。なにより、エンジンはヤバくなってきたら「やばいよ!やばいよー!」と悲鳴を上げてくれる。 でもタイヤは基本的に悲鳴を上げません。静かなまま、ある日、突然!信じていた仲間に裏切られるかの様に「ブルータス…お前もか!」という状況になります。
折角のいい機会ですので、「タイヤの劣化」と「なぜ交換する必要があるのか」について、今回も本音トークスタイルで、好き勝手にブログを書いてみたいと思います。

消しゴムとタイヤ

まず、タイヤがなぜ劣化するのかを理解するのに、一番分かりやすい例えを出します。消しゴムです。

新品の消しゴム…柔らかくて、よく消える。下ろし立ての消しゴムは使ってて気持ちいいですよね!

仮に、5年前から机の奥で行方不明になっていた消しゴムが発掘されたとします。 触ってみてください。もうね…カッチカチですよ! 曲げようとしたら折れるかもしれない。使ってみたら紙の上を滑るだけで全然消えもしない。光に当たる場所に放置された消しゴムは、劣化して何とも言えない黄ばんだ色になってたりもしますよね?

硬くなってしまうのは、消しゴムの一般的な材料であるPVCを柔らかくするための「可塑剤」と言う物質が、時間と共に揮発して飛んで行ってしまっているから。

実は、タイヤもこれと似たような事が起きています。タイヤのゴムにも、柔らかさを保つための成分である可塑剤(オイルや樹脂)や劣化防止剤等が含まれています。めちゃくちゃシンプルに表現すると以下の通りで、軟化剤・可塑剤や劣化防止剤は、製造直後から空気に触れている間、時間と共に少しずつ揮発して抜けていってる=硬くなってくるんです。

軟化剤・可塑剤(オイル等)

柔らかさをつくる成分。タイヤの中にある成分が揮発して抜けるとタイヤが硬くなります。
使い切ったら終わり。

劣化防止剤(アミン系、パラフィン等)

ゴムを劣化から守る成分。簡単に言うとタイヤの日焼け止め。
(皮膜は白か茶色)塗り直しは出来ません。使い切ったら終わり。
タイヤの中にある成分を使い切ると、ひび割れや硬化が加速します。

可塑剤、劣化防止剤のイメージ
可塑剤、劣化防止剤のイメージ

より正確に言うと、酸素による劣化でゴムの分子結合が増えると硬くなるという場合もありますが、そういうアカデミックな内容は、私の拗らせブログでは求められていないと思うので、華麗にスキップします。

みなさんも、部屋の隅の床に直置きしてたタイヤの下に「黒いタイヤの形をしたシミ」が出来てしまって、焦って拭いた事あるでしょう?(え!?無い?)あれ、タイヤの中の成分が外に滲み出た動かぬ証拠です。 ちなみにコレ、タイヤから色移りの様に床の材料の中にシッカリ浸み込んでしまっているので、何度拭いても消えません…。むかしむかし、それのせいでアパート退去時に床張り替え費用として、がっつりお金を取られたことを今でも覚えています。

空気に触れて劣化するなら、カバーを巻いて延命だ!

ところで、サーキットに行ったことがある読者の方は見覚えがあるかもしれませんが、走行前後にタイヤにフィルムやラップを巻いたり外しているシーン。もしくは、新品タイヤがアルミフィルムでぐるぐる巻きにされて保管されている光景。

あれ、なぜだか分かりますか?

タイヤの表面を空気や紫外線に触れさせないため です。もちろん汚れやほこりから守る為でもあるんですが、タイヤは空気や紫外線に触れると酸化が始まる。だから、少しでも劣化を減らしグリップ力を維持したいサーキットユーザーの「せめてもの抵抗」なんです。

ただ、材質によっては前述の床の様に、カバーしたビニール側に可塑剤が移ってしまったり、光を通す材料だと紫外線劣化を抑止できなかったり、隙間なく綺麗に巻かないと意味が無かったり…等の注意点はあります。効果のほどはプラシーボかもしれませんが、私も未だに、自作EVレーサーのタイヤにはラップを巻いてたりします。

ただ、私の経験から言わせてもらうと、サーキットで使うハイグリップタイヤは、ライフよりもグリップにパラメーターを全振りしてる為、大体1年以内に使い切ることが多いと思います。だから、短いスパンで消費されるタイヤをグルグル巻き保管して、ライダーがその恩恵をどこまで受けられるのかは未知数…と言うのが正直な印象です。 タイヤが劣化する原理は公道用タイヤも同じです。もちろんレースタイヤほどシビアではないけれど、 空気に触れて、紫外線に晒されて、雨に打たれて、少しずつ「鮮度」が落ちていく のは変わらない。

ダメになったタイヤでも、走れなくはないけど…

ここまで書いておいて今更感はありますが。ぶっちゃけて言うと…グリップ力が落ちた、カチカチの、溝が少ないタイヤでも、 走ろうと思えば…走れるんですよ。滑らない様にかなり気を使いながら、車体を出来る限り倒さずに、ゆっくりとなら。

でもね、コーナーの途中に出てくるマンホールや濡れた白線など。避けられないトラップをカッチカチの溝が無いタイヤで踏んだりすると、そっから先は、運と操作技術次第…。だから絶対におすすめは出来ないんですね。

仮に溝があっても、硬くなったタイヤは本来の仕事をできてないんです。ぱっと見だけでは、いかにも「溝あります!まだまだ行けます!」みたいな顔してますが、本来やるべき事をサボりまくってる見た目は合格、中身は不合格状態。これが硬化したタイヤの怖さです。

溝もシッカリあり、まだまだ使えそうだけど… このタイヤ…15年以上前のモノです。見た目は良くても、カッチカチです! 溝もシッカリあり、まだまだ使えそうだけど… このタイヤ…15年以上前のモノです。見た目は良くても、カッチカチです!

(この写真のタイヤ、ぱっと見では溝がシッカリあって、ひび割れもない。一見まだまだ使えそうだけど…製造年を見ると15年以上前の熟成されたカチカチタイヤ!ライダーの「普通に走れるだろう」という信頼を、いつ豹変してブルータスの様に裏切ってもおかしくない状況です。)

折角なので、もう少し想像してみてください。

グリップ力が落ちたタイヤで走るというのは、人間に例えるとツルッツルの濡れたタイル床の上を、溝のないカチカチのサンダルで小走りする様なもの。足の裏にだけ全神経を集中していれば、小走りは出来なくはない。

出来なくはないけど、バイクは常にバランスを取らなきゃいけない乗り物だし、公道は足の裏だけに集中していられる…なんてそんな優しい場所じゃないんですね。行楽地で前の車が急ブレーキを踏む。ピザデリバリーバイクの兄ちゃんが飛び出してくる…そういう「急に」が来た瞬間、小走り中の私たちは濡れたタイルの上で&滑りやすいサンダルで、回避行動が取れるでしょうか?と言う話。(多分、私ならコケますね)

つまり、タイヤのグリップに余裕がないということは、想定外の「急に」対応する余力がないということ です。

ちなみに車のタイヤは4本ありますが、1本が滑っても残りの3本が踏ん張ってくれる可能性があるし、基本的に車はコケない。ただ…私の知り合いに、ジムカーナの練習で自動車なのにコケるというミラクルを起こした人が一人いますが、それはまた別の話。(※安心してください。その人は今でも元気ですよ)

バイクのタイヤは2本。滑りやすい路面で急に何かを避けようとしたら、コケやすいのは二本足の人間と同じです。つまり、車とバイクでは、そもそもタイヤへの「依存度」も「滑った後に起こりえる状況」も異なるんですね。

じゃあ、いつ換えればいいんだ?

ここが一番聞きたいところだと思います。

正直に言いますと、バイクのタイヤには、自動車のような業界統一の年数基準がありません。

自動車のタイヤは、JATMAが「製造から10年で、溝が残ってても交換を推奨」という目安を出しています。でもバイクのタイヤには、それに相当する公式な数字が私の知る限り無い。これは悩ましいですよね。「換えなきゃいけない」事は分かってても「いつ?何年ぐらいで?」の基準がよく分からない中で「必要に応じて交換ヨロシク!」ってのは、実際問題どうしたらええんや?って思うのは当然です。

そもそも、なぜバイクには決まった基準がないのか?

同じバイクで、同じ10,000km走ったとしても、乗る人の環境や使い方で劣化の度合いや摩耗具合が全然違うからですね。屋根のあるガレージ保管なのか、雨ざらしなのか。ブレーキを多用するのか等。 条件が多すぎて、一律の数字が出せない。そして、バイクの場合はタイヤの真ん中だけが多くすり減る人もいるし、サイドが先にすり減っていく人もいる。だから、自分で確認するしかない。

タイヤの確認ポイントはざっくり3つです。

① 溝を見る。

タイヤにはスリップサインという目印があります。溝の中にある少し盛り上がった部分。タイヤが減ってこの盛り上がりと表面がツライチになったら使用限界。交換です。これは法的な基準でもあります。

② 触って見てみる。

指や爪で押してみて、弾力があるか?柔らかいタイヤは爪を立てて押すと、じわっと少し沈みますが、カチカチタイヤは爪が弾かれるor爪で押しても沈みにくい。判断に迷う場合はプロに聞いてみましょう。硬度測定器と言う機械を使えば、より正確に柔らかさを数字で知ることが出来たりします。

③ 製造年を見る。

タイヤの側面に4桁の数字が刻印されています。たとえば「1625」なら、2025年の第16週に製造されたという意味。 さて、あなたのタイヤは何歳くらいでしょうか?

スリップサイン
溝の付近を押すと柔らかさを感じやすい
製造年月日

年数の公式基準はないと書きましたが、整備の現場で何本もタイヤを触ってきた個人的な感覚として、大体製造から4年くらいまでが、一般道を不安なく走れる目安 だと私は思っています。もちろん保管状況や走行距離によって前後しますが、ひとつの参考にはなるかと。

ここで、尖った特殊工具が大好きな私から一つ宣伝させていただくと、タイヤの溝を測る専用特殊工具と言うものが売っていたりします。

こちら、「タイヤ・デプスゲージ」。タイヤの溝の深さを測る為だけに存在する、用途が尖り過ぎた特殊工具です!実は、デジタル版ゲージも存在していて、目視で、なんとなく「あと2-3ミリくらいかなぁ」というあやふやな状態から、「残り2.7ミリメートル!」と明確な数字をばっちり出してくれる物もあります。そのかわいらしい見た目から、デスクのオブジェにも最適だという声も…。

タイヤの頑張りと楽しさのバランス

ここまでいろいろと書いておいてアレですが、バイクのタイヤって結構高いんですよね。前後で2本しかないのに、下手すると軽自動車の4本セットより高いこともある。昔は「4本より2本の方が高いって…計算が合わないだろ!」と思ってましたし、若い時は大型バイクの前後タイヤセットなんて気楽に交換できる代物ではなかったので、節約してタイヤ代を捻出していたのを覚えています。

だから 「あと少しいけるだろ?根性みせろ!今月ピンチなんだよ!」 と心の中で語りかけながら、せめてボーナスまでは!…と引っ張りたくなる気持ちは、痛いほど分かります。

でもね、残念ながら劣化したタイヤは根性を見せてくれません。根性の原料である「柔らかさ、溝」が…もう残ってないから…。無いモノは絞り出せないんですね。

ここで、やたらとバイク歴だけは長い私から、タイヤをギリのギリまで使う事について、永い迷走の末にたどり着いた個人的な結論を一言だけ言わせてもらうと、「結局、タイヤ交換を引っ張ってバイクに乗っても、全然楽しくない」 ということです。

バイク歴が長くなればなるほど、公道での予想外の出来事をたくさん経験していると思います。飛び出し、落下物、濡れたマンホール…。そういう経験が積み重なっていくからこそ、脳みその危機管理ネットワークが発達し、いざという時にグリップを信じられないタイヤで走ること自体が、どこか「バイクに乗ることを楽しめない要因」になっちゃうんですね。

そして、そんなカチカチタイヤと悶々とした心理状態で、濡れた路面に遭遇なぞしてしまったら、もうバイクに乗ること自体が、我慢の作業になってくる…。

バイクを楽しむ為に乗っていたはずなのに、タイヤをケチって交換を先延ばしにした結果、楽しくない状況で我慢して乗るという大矛盾に陥っているではないか!?と気づくまで、私は多くの時間と心の余裕を無駄に浪費してしまいました…。

ブログの締めとして「だから、タイヤ換えてね!」とメーカーブログらしく美しく着地すべきかもしれません。ですが、上で自白した通り、私自身お金がない時は許容ギリギリまでタイヤを使ってた口ですし、何より、ライダーが既に「タイヤは減ってきたら換えなきゃ」と理解している話を、いちいち上から目線で説教されるのも、するのも嫌な人間なので、今すぐタイヤ換えろ!なんて言いませんよ。

ただ、せめて、今自分を乗せているバイクのタイヤが、どういう状態であるかは知っておいて欲しい。サイドウォールに製造年月日が書いてあるし、溝の測り方なんて動画を探せばいっぱいあります。

タイヤは安全に直結する部品ですし、折角バイクに乗るなら、不安なく安全に楽しんでほしい。このブログを読んだついでに、愛車のタイヤを、「まじまじと、じっくりと」見てください。改めて見てみると色々な発見があるかもしれません。

もし、タイヤの状態判断に自信がない場合は、バイクの販売店に行った際に「私のタイヤまだいける?」とプロの整備士に聞いてみてください。彼らプロの整備士は、拗らせたブログを書く私なんかより知識も経験もあるでしょうから、きっと「なぜ大丈夫なのか、なぜ換えた方が良いのか」を分かりやすく、納得できる形で教えてくれるはずです。

最後に

実は、このブログ…ライターさんや広報部のプロが入っている訳ではなく、何を書くか、どう書くかは、全て書き手の私に一任されています。自由に好き勝手に書ける代わりに、スベっても全て自己責任!書いた本人の味や文章がそのまま出て行くスタイルなので、100%ケニー筒井味でご提供。毎回ちょっとした綱渡り気分でキーボードを叩いています。

ただ、一つだけ困っていることがあって、読んでくれている方がどう思っているのか、書き手の私には分からないんですよね。整備について書くネタはまだまだあるんですが、どうせ書くなら、読者が「知りたいこと」「読みたいこと」を書きたい。

ブログの内容的に「整備の世界!」と言う、マニアックな内容であり、書き手の私がアクセルべた踏みで独特な文章を書くので、読んでくれている方はかなり限定されているのではないか…。コアなファンや販売店の方、元整備士の方…ひょっとしたら業界関係者の方あたりが読んでくれているのではないか?と思うんですが、最近は読者の感想や要望を聞く何かいい方法はないかな?と考えながら、仕事の合間にネタを捻り出し、ウンウン唸りながら執筆しているという裏側をこっそりお伝えして、今回のブログは締めたいと思います。

次のネタはまだ決めていませんが、偉い人に怒られない限り、次も本音トークで好き勝手に書いてみようと思います。

※このブログは「サービススタッフの個人的見解」であり、ヤマハ発動機の公式見解ではありません。正確な点検内容・時期についてはオーナーズマニュアルおよびお近くのヤマハ正規ディーラーにご確認ください。

この記事のまとめ

  • エンジンオイルに続き、溝が残っていてもタイヤ交換が必要な理由を身近な例えで解説した。
  • タイヤは時間とともに柔軟性を保つ成分が失われ、走行距離に関係なく硬化や劣化が進む。
  • タイヤは空気や紫外線、雨などの影響でも劣化し、走らなくてもグリップ力が低下していく。
  • 溝が残っていても硬化したタイヤは滑りやすく、濡れた路面や急な回避操作で転倒の危険が高まる。
  • タイヤには一律の交換年数基準がなく、走行距離や保管環境、乗り方によって劣化の進み方が異なる。
  • タイヤの状態を知るには、スリップサインによる溝の深さ、ゴムの硬さ、製造年週を確認する。
  • 筆者は製造から約4年を一つの目安とし、交換の先延ばしは走行時の安心感や楽しさも損なうと語る。
  • 安全にバイクを楽しむため、愛車のタイヤを確認し、判断に迷った場合は販売店の整備士への相談を勧める。
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