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第3章:オイルで音楽を奏でる

Liquid Engine Componentコンセプトに込められた思い

第1章 A Liquid Engine Component 誕生の裏側 第1章 A Liquid Engine Component 誕生の裏側

カスタマーエクスペリエンス事業部
マーケティング推進部

S.M.さん

YAMALUBEオイル担当

バイク歴は約30年、仕事の守備範囲は主にマーケティングまたは企画系、ヤマハ発動機に入社して29年目になりますが、そのうち14年間は海外駐在で、タイ・オランダ・アメリカのグループ会社に出向していました。現在は本社で純正オイルブランドであるYAMALUBEの戦略立案を担当しています。愛車は2025年式TENERE700です。

巨大なからくり装置の次に選んだのは、音楽でした。静岡県浜松市の中田島砂丘にグラスハープを持ち込み、水ではなくYAMALUBEを注いで奏でたドヴォルザークの「新世界より」。今回は、オイル広告らしくない表現を追い求めた制作チームが、YAMALUBEで音楽を奏でるまでの発想と舞台裏を振り返ります。

01

次は「音楽」でいこう

第一作の「ピタゴラ」で、A Liquid Engine Componentの考え方を、ひとまず映像化することができた。オイルが注入されることで装置が動き始め、さまざまな部品が連鎖していく。しかもAIやCGを一切使わず、本物のオイルを使い、巨大装置を実際に動かして撮るという、今考えてもかなり面倒なことをやっている。

そうなると、当然、次は何をやるか?という話になる。

一作目と同じことをもう一度やっても仕方がないし、一度あれだけのものを作ってしまうと、周囲の期待値も自然と上がってくる。インタビューでも、作品を重ねるにつれて期待されているものが少しずつ見えるようになり、「それを、なんとか超えられないか」という意識が出てきたと振り返っている。

そこで出てきたのが「音楽」だった。

ヤマハブランドの起源を考えれば、音楽とのつながりは自然である。当時の本部長からも「やっぱりヤマハだから音楽はどう?」という案が出ていたという。

ただ、音楽をBGMとして流すだけでは面白くない。そもそも我々が作ろうとしているのはオイルの映像だ。だったら、オイルそのものに音楽をやらせたらどうか。

そこで出てきたアイデアがグラスハープだった。

ワイングラスの縁を指でなぞると音が共鳴し、中に入れる液体の量によって音程が変わる。普通なら水を入れるところだが、これはYAMALUBEの映像なので、そこに入れるのはオイルだ。

工業製品の代表のようなエンジンオイルと、繊細な音を奏でるグラスハープ。その対極が面白いのでは、と思った。

第一作では金属と装置でYAMALUBEを見せた。二作目では、その反対側にある音楽の世界に持っていく。同じようなものをもう一度作るより、そのくらいの振れ幅があった方が面白い。この頃には、そんな感覚も制作メンバーの中にあったと思う。

02

なぜ「新世界より」だったのか

グラスハープでいくことは決まった。次は、何を演奏するか、である。

ここは意外に現実的な話から始まっている。

世界中で展開する映像なので、知名度の高い曲であること、そして著作権の問題がないこと。この二つは外せない条件だった。いくつか候補を出し、その中から最終的に選ばれたのが、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」である。制作メンバーのMによると、「著作権フリーで誰もが知っている」という条件で曲を探していたことが語られている。

この選曲、後から考えるとなかなかよくできている。

そもそもオイルを入れたグラスで音楽を奏でるという発想自体、普通のオイル広告ではない。第一作のピタゴラから始まったYAMALUBEの新しい映像表現を、さらに違う領域(世界)へ持っていこうとしていたところに「新世界より」という曲が来る。

最初からすべてを理詰めで計算して、この曲しかない、と決めたわけではなかった。世界で知られていること、著作権の問題がないこと、グラスハープで演奏できること。いくつかの条件から候補を絞っていったら「新世界より」にたどり着き、よく考えてみると、このプロジェクトがやろうとしていることにも妙に合っていた。オイルでグラスハープをやる。ヤマハだから音楽。そこで選んだ曲が、「新世界より」。

03

オイル音程をつくる

この映像を改めて見ると、グラスハープというアイデアの面白さは、オイルが単なる被写体ではないところにある。

グラスに入れる液体の量が変われば、グラスが奏でる音程も変わる。オイルはきれいに見せるためにグラスへ注がれているのではなく、それぞれのグラスの音を決めるために必要な存在である。

第一作では、オイルが入ることで機械が動いた。第二作では、オイルが入ることでグラスに音程が付与され、それぞれの音が重なって楽曲になる。

やっていることは全然違うのだが、A Liquid Engine Componentという考え方から見れば、実はそれほど遠い話ではないと思う。

グラスハープも、一つひとつのグラスだけでは曲にならない。液体の量によってそれぞれの音程が決まり、それらが音階をつくり、時には和音として重なりハーモニーをつくる。一つひとつは単なる「音」だが、それぞれが正しい役割を果たした時に、初めて「新世界より」になる。

考えてみればエンジンも同じで、ピストン、クランク、バルブ、そしてオイルが、それぞれ勝手に仕事をしているわけではない。それぞれが正しく機能し、組み合わさって初めて、ヤマハが狙った性能が実現できる。

もちろん、映像の中ではそんな理屈をいちいち説明していない。透明なグラスにYAMALUBEが注がれ、演奏が始まる。それを見てもらえばいい、という作りになっている。

ピタゴラの時から、YAMALUBEの映像ではあまり言葉で説明しない方がいい、という感覚があった。スペックを全部言葉にしてしまうのではなく、少し意外なものを見せて、何となく引っかかるものを残す。グラスハープは、その考え方をもう一歩進めた作品だったと思う。

そして映像を見ると、もう一つ印象に残るのが撮影ロケーションである。

整然と並べられたグラスの向こうに広がる砂地。どこか遠い異国の砂漠で撮影したようにも見える。

ところが、あれは海外ではない。実は、ヤマハ発動機の本社がある静岡県磐田市に隣接する、浜松市の中田島砂丘である。

世界中に展開するYAMALUBEの映像なので、どこの国とも特定できない、少し非日常的な場所に見せたい。一方で実際の撮影場所は、ヤマハ発動機の本社からそう遠くない中田島砂丘だった。

砂丘にグラスハープを持ち込み、そこにYAMALUBEを並べて、「新世界より」を奏でる。

こうやって文章にしてみると、やはり結構変なことをやっている。

出来上がった映像は結構スタイリッシュなのだが、裏側を知ると、第一作のピタゴラと同じように、やっていることは相当にアナログである。このギャップも当時のYAMALUBE映像の面白いところだった。

04

「油臭くない」が、
だんだん芸風になってきた

この作品について制作陣のインタビューを聞いていると、「グラスハープが一番好き」という話が出てくる。3作品の中でも人気が高かったという。

理由はいろいろあると思うが、やはりオイル広告っぽくないところが大きかったのではないかと思う。

第一作のピタゴラは、機械、装置、金属という意味ではまだエンジンの世界に近い。A Liquid Engine Componentを表現する映像としても比較的分かりやすい。

一方、グラスハープはかなり遠いところまで行っている。エンジンオイルとクラシック音楽という、本来あまり結びつかない二つを一緒にして、それでも最後はYAMALUBEの映像になっている。

この頃には、制作チームの中でも「YAMALUBEの芸風とは何だ?」という話が出始めていた。

油臭くないこと、ちょっと意外なことをやること、気の利いたギミックを入れること、映像としてきれいであること、そして説明し過ぎないこと。

第一作では巨大なピタゴラ装置を作り、第二作では浜松の砂丘にグラスハープを持ち込み、YAMALUBEでドヴォルザークの「新世界より」を奏でる。並べてみると随分違うことをやっているが、根っこの部分は意外と同じである。

そして、相変わらず制作メンバーの頭の片隅には、あのモービルの「バナナで釘」があった。

インタビューでは「モービルワンを超えたい」という話まで出ている。もちろん同じCMを作りたいという意味ではない。何十年経っても「あの映像」と思い出してもらえるようなものを、自分たちも作れないかということである。当時とは違い、テレビで大量にCMを流さなくても、人に見せたくなるようなものなら勝手に広がっていくのではないか、という考えもあった。

見終わった人が、細かい点まで覚えている必要はない。オイルを入れたグラスで「新世界より」を奏でていたあの映像、と覚えてもらえれば、それで十分である。

第一作で見つけた表現をそのまま繰り返さず、今度はまったく違う方向に振ってみる。A Liquid Engine Componentという一つの考え方を、機械の次は音楽で見せる。その結果として出来上がったグラスハープは、実は3作品の中でも人気の高い一本になった。

さて、YAMALUBEの入ったグラスが実際にどんな音を奏で、ドヴォルザークの「新世界より」がどんな映像になったのか。ここまであれこれ書いたが、最後はやはり見ていただくのが一番早い。

そして、砂漠のように見える背景にも注目してほしい。浜松の中田島砂丘だと知ってから見ると、またちょっと違って見えるかもしれない。

この記事のまとめ

  • 第一作「ピタゴラ」に続く新たな表現として、ヤマハらしい「音楽」をテーマにした映像制作が始まった。
  • 音楽をBGMとして使うのではなく、YAMALUBEそのものに音楽を奏でさせるグラスハープを採用した。
  • 演奏曲には、世界的な知名度と著作権などの条件から、ドヴォルザークの「新世界より」が選ばれた。
  • グラスに入れるYAMALUBEの量を変えることで音程を調整し、オイルそのものが楽曲を成立させる役割を担った。
  • 第一作ではオイルが機械を動かし、第二作ではオイルが音程を生み出すことで「液体パーツ」の思想を表現した。
  • 撮影は海外の砂漠ではなく浜松市の中田島砂丘で行われ、非日常的でスタイリッシュな世界観を作り上げた
  • 「油臭くない」「意外性がある」「説明しすぎない」というYAMALUBE映像ならではの芸風が次第に確立された。
  • 機械から音楽へ大きく表現を変えたグラスハープは、3作品の中でも特に人気の高い映像となった。
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