第4章:止まっているものを、動かす
Liquid Engine Componentコンセプトに込められた思い

カスタマーエクスペリエンス事業部
マーケティング推進部
S.M.さん
バイク歴は約30年、仕事の守備範囲は主にマーケティングまたは企画系、ヤマハ発動機に入社して29年目になりますが、そのうち14年間は海外駐在で、タイ・オランダ・アメリカのグループ会社に出向していました。現在は本社で純正オイルブランドであるYAMALUBEの戦略立案を担当しています。愛車は2025年式TENERE700です。
巨大なからくり装置、YAMALUBEで奏でるクラシック音楽。その次に選んだ表現は、静止した造形物に「動き」を生み出すゾートロープでした。今回は、デジタルで緻密に設計しながら、最後は本物をつくって回す。そんな一見遠回りな映像制作を通して、「A Liquid Engine Component」を表現した第三作の舞台裏を振り返ります。
三作目は「動き」でいこう
“A Liquid Engine Component”を映像で表現するために、一作目では巨大な連鎖装置を作り、二作目ではYAMALUBEを入れたグラスハープで「新世界より」を奏でた。
ここまで来ると、三作目でありきたりなオイル広告に戻るわけにもいかない。
そこで出てきたのが、「ゾートロープ」だった。
ゾートロープは、少しずつ形の違う造形物を並べ、それを回転させることで、止まっているものが動いているように見える仕掛けである。
考えてみれば、エンジンも少し似ている。ピストン、クランク、バルブ、ギア、そしてオイル。
それぞれが正しく機能し、組み合わさって初めて、エンジンとして動く。

ピタゴラでは「連鎖」、グラスハープでは「音楽」。三作目では「動き」で液体パーツを見せようというわけだ。
完成した映像を見ると、ゾートロープの中には、砂漠、海、雪原、一般道、サーキットと、次々に違う世界が現れる。YAMALUBEはモーターサイクルだけのものではない。船外機もあれば、ATVもある。それなら、ヤマハ発動機の持つさまざまな世界を一台のゾートロープに入れてしまおう、ということになった。




デジタルを駆使して、
最後はアナログ
もちろん、CGで作る方法もあった。ピタゴラと同様に、その方がたぶん簡単だったと思う。
しかし、今回もまた本物のゾートロープを作って、本当に回して撮ることにした。
制作陣へのインタビューの中に、この作品の作り方をうまく表した言葉がある。
「アナログなものをデジタルで設計しました。そして、デジタルを駆使して、アナログなものを撮っています」
最終的にカメラの前で回るものは本物だが、造形物の形や位置、間隔などはデジタルで細かく設計する。適当に並べて回せば動いて見えるわけではない。
そして、さらに細かく作り込んだのが「音」である。
ゾートロープは、静止した造形物を一定の間隔で並べ、回転させることで連続した動きを生み出す。つまり、もともと「リズム」を持った装置でもある。そこで映像だけでなく、音もその動きにシンクロナイズして作り込んでいった。
モーターサイクルが加速する、ATVが砂漠を疾駆する、ボートが波を越える、そしてスノーモービルが雪原を踏破する。その一つひとつの動きに音を合わせ、ゾートロープの回転そのものが一つのビートを刻んでいるように見せている。
映像と音を別々に作るのではなく、二つを合わせて一つの「動き」にしているのである。
改めてヘッドホンで聞いてみると「ここまでこだわるか」というくらい音も作り込まれている。
一度見ただけでは、気づかないかもしれない。でも、実はそこまでやっている。
第一作から続いてきた「わざわざ手間のかかることを、本物でやる」という制作スタイルは、結局三作目まで変わらなかった。
そして、
YAMALUBEは60周年へ
制作陣へのヒアリングの中で、三作品を通して印象に残った言葉がある。
「途中で楽をしちゃうと一緒じゃん」
そして、
「誰も見たことがない、俺もまだ見てない、みたいなところまで探しに行く」
振り返ってみれば、このプロジェクトはずっとそんなことばかりやっていた。
最初は「品質がいい、という言葉では弱いんだよな」という担当者Mの呟きから始まった。
そこからヤマハ発動機のものづくりについて改めて調べ、「A Liquid Engine Component」という言葉を見つけた。
そして、それを見える形にするために、巨大なピタゴラ装置を作り、オイルでクラシック音楽を奏で、最後にはゾートロープを回した。



こうして並べてみると、やはり結構変なことをやっている。
でも、伝えたかったことは一つである。
YAMALUBEは、ヤマハ発動機のプロダクトの性能をつくる一つのパーツである。
そして来年2027年、YAMALUBEは1967年のブランド誕生から60周年を迎える。米国で生まれたブランドは今や世界へ広がり、多くの国と地域で親しまれるグローバルブランドになった。
60年の間に、製品も技術も市場も随分と変わった。そして、これから先も変わっていくだろう。
それでも、ヤマハ発動機の製品を愛用されるお客様に、もっと気持ちよく、もっと安心して、もっと長く楽しんでもらう。そのために、目に見えないところまで作り込む。
そこは、たぶん変わらない。
60周年は節目である。でも、まだただの通過点でもある。
YAMALUBEには、まだまだやれることがある。
60周年のその先に、どんな「新世界」が待っているのか。
我々自身もちょっと楽しみである。

この記事のまとめ
- 三作目では「動き」をテーマに、静止した造形物が回転によって動いて見えるゾートロープを採用した。
- ゾートロープには砂漠や海、雪原、一般道、サーキットなど、ヤマハ発動機が持つ多彩な世界を盛り込んだ。
- CGで作ることもできたが、今回も実物のゾートロープを制作し、本当に回転させて撮影する方法を選んだ。
- 造形物の形や位置などはデジタルで精密に設計し、最後は本物を撮影するデジタルとアナログの融合を実現した。
- モーターサイクルやATV、ボートなどの動きに音を合わせ、映像と音が一体となったリズムまで細かく作り込んだ。
- 三作品を通じて、楽な方法を選ばず「誰も見たことがない表現」を追求するYAMALUBE独自の制作姿勢を貫いた。
- ピタゴラ、グラスハープ、ゾートロープと表現は異なっても、YAMALUBEが性能をつくるパーツという思想は共通している。
- 2027年に60周年を迎えるYAMALUBEは、これからも見えない部分まで作り込み、より安心して楽しめる製品を支えていく。