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ファン・クルツは、二度勝つ

いかにして整備士を育成しているか。テクニシャン教育とワールドグランプリの話

World Technician Grand Prix

カスタマーエクスペリエンス事業部サービス部

ナイトさん

いつも18時過ぎたあたりから
調子が出てくる。
仕事には生かせない

バイクが好きで入社して気づけば7年、生涯購入したバイクは全部ヤマハ。5台所有、社員の鏡といっても過言ではない。あと、こういう記事を書いてみて分かったが、私は記事を書くのが得意ではない。

2017年にアルゼンチンTGPで優勝しながら、WTGPへの出場は叶わなかったファン・クルツさん。それでも再び地域大会へ挑み、二度目の優勝を果たして世界の舞台へ。そして2025年、ついにWTGPの頂点に立ちました。今回は、一人のメカニックが長い挑戦の先でつかんだ栄光と、その経験から始まった新たな挑戦を紹介します。

ファン・クルツは二度勝つ

こんにちは、ナイトです。
今回は、2025年優勝者のアルゼンチン代表ファン・クルツさんについての記事を書きます。
彼はTGPを通して面白い経緯をたどった選手です。

ファン・クルツさんにとってのWTGP ファン・クルツさんにとってのWTGP

日頃は販売店でお客さまの一台に向き合うメカニックたち。その日常を飛び出し、地域の大会を勝ち抜き日本へ渡り、地域の代表としての責任を負いながら、世界各地から集まったライバルたちと競い合う。WTGPはどんなメカニックにとっても特別な舞台です。
その中でも、アルゼンチンのファン・クルツさんにとって、この大会は最終的な結果以上に大きな意味を持つものでした。

WTGPへの出場者は、原則として各地域で開催されるTGP(Technician Grand Prix)の優勝者から選出されます。2027年に開催予定の大会で10回目を迎えるWTGP。その歴史と歩みを共にしてきた各地域のTGPにおいて、ファン・クルツさんは、おそらく唯一、二度の優勝を果たしたメカニックです。
実は、ファン・クルツさんは2017年にアルゼンチンTGPで優勝しています。しかし、やむを得ない事情により、2018年に開催されたWTGPへの出場は叶いませんでした。
2023年には、各地域のチャンピオンを称えるセレモニーへ出席するために来日。けれどもこのときは当時の情勢により、WTGP自体が開催されませんでした。ファン・クルツさんはセレモニーのための来日であることは理解しながらも、「なぜ今回は競技がないんだ?」という思いを隠しきれてはいませんでした。

二度目の挑戦 二度目の挑戦

2025年のWTGP開催に先立ち、複数の地域のメカニックから私たちのもとへ「2023年のセレモニーに出席したチャンピオンは日本で競技をしていないから、2025年のWTGPへ自動的に出場させてもいいか?」という相談が寄せられました。
基本的にはWTGPへの出場は生涯に一度です。
YMC(私の上司)はメカニックの思いも汲み、「すでに来日し、YMC社長から表彰を受けている。それでも、もう一度各地域のTGP(予選)に挑戦し、優勝することができたらWTGP2025への出場は可能」としました。
そういう指針を示したものの、私たちの中では、本当にもう一度TGPを勝ち抜いてくるメカニックが現れるとは想像していませんでした。
その予想を覆したのが、ファン・クルツさんです。
アルゼンチンTGPでは、いずれの種目でもトップの成績を収め、決勝の実技競技でも次々に課題を解いていきました。その姿は、他の参加者や関係者からの注目を一身に集めていました。現地で大会を視察していたYMCサービスのスタッフは、そのときの印象を出張報告書に次のように書き記しています。
「どんな問題が出されたとしても、アルゼンチンでチャンピオンになるのはファン・クルツさんだったろう」
それほどまでに圧倒的だったのです。

WTGPでの栄光 それから WTGPでの栄光 それから

「期待すれば何かを失うかもしれない。何が起きても良いように心を整えておく。世界大会に参加するという栄光はすでに受け取っている」
インタビューでそう語っていたファン・クルツさんは、明鏡止水の境地でWTGPに挑んでいました。日本での実技・接客競技でもその実力を遺憾なく発揮し、見事コミューター部門で優勝を果たしました。

WTGPを終えて数か月後、ファン・クルツさんは、YMARG(ヤマハのアルゼンチン拠点)のサービス教育担当スタッフ募集に自ら応募し、採用されました。今後は、アルゼンチン全国のメカニックを育成する立場という、新たなキャリアを歩むことになります。
販売店のメカニックからヤマハへの転職が、必ずしもキャリアアップを意味するものではありません。お客さまと向き合いながら整備を行う販売店の現場だからこそ、そこでしか味わえない大きなやりがいがあります。
YMARGへの転職を決断したファン・クルツさんに対し、あるYMCのスタッフがこんな質問を投げかけました。
「販売店で難しい車両を修理したり、お客さまから直接『ありがとう』を言われたりする機会がなくなるのは、寂しくないですか?」
それでもファン・クルツさんは、販売店のメカニックを離れ、YMARGの教育スタッフという道を選びました。ファン・クルツさんの胸の中には、次世代のメカニックを育てたいという熱い想いがありました。
今回、私はファン・クルツさんに直接話を聞く機会をいただきました。本人の言葉を通して、その情熱を少しでも感じ取っていただければと思います。

ファン・クルツさんに質問 ファン・クルツさんに質問

Q, ARG TGPで二度優勝したことは、あなたにとってどのような意味がありましたか?

1回目の優勝は2017年、2回目の優勝は2025年でした。その間に行われた大会には出場しておらず、2025年の挑戦は、思いがけない、特別な機会でした。
私は負けず嫌いな性格です。他の優れたメカニックたちと競い合うことは、自分の実力を試す素晴らしい機会だと考えています。これまでの経験と知識が自分を支えてくれる自信の源であり、集中力と積み重ねてきた努力が勝利への鍵になったと思っています。
その大会で再び優勝できたことは、言葉で言い表せないほどの大きな喜びでした。

Q, 他のメカニックの方々に伝えたいことはありますか?

まず伝えたいことは、私たちメカニックが担う役割は、整備工場で技術を提供するだけにとどまるものではないということです。実際、私が販売店からYMARGへ転職した主な理由は、次世代のメカニックを育成したいという思いが強く芽生えたからです。これからの未来を担うメカニックたちに、メカニックという職業、ヤマハ、そしてヤマハが大切にしている価値観への揺るぎない情熱を伝えていきます。
YTAの技術者としての私たちの究極の目標は、単にバイクを修理することだけではなく、できる限り最高の顧客体験をお客さまに提供することです。すべてのお客さまが、エンジンをかけて走り出すとき、ヤマハが提供する安心とサポートを感じられるようにすることです。私たちメカニックは、ヤマハが与え得るその信頼を、お客さまに直接伝えることができる象徴的な存在ではないでしょうか?
『自分の仕事がお客さまの暮らしや安全に直接つながっていることを理解すれば、メカニック一人ひとりの仕事への取り組み方は大きく変わる』私はそう信じています。
次世代のメカニックたちには、『私たちの仕事は診断や修理で終わるのではなく、お客さまとのあらゆる接点を通じて、最高の顧客体験を提供したときにこそ完成する』ことを伝えたいと思っています。そして、ヤマハのお客さまに『KANDO』体験を届けることを、心から楽しんでほしいと願っています。

Q, あなたにとってヤマハとは?

ヤマハは単なる職場以上の存在です。私の人生そのものであり、メカニックとしてのアイデンティティそのものです。常に一歩先の技術を追求し続けることへの私の情熱は、ヤマハブランドが掲げる高い基準と本質的に結びついていることを実感しています。
ヤマハの使命がお客様に『感動(Kando)』を届けることであるならば、ヤマハで働くことそのものが、私にとっての『感動』です。
それは、難易度の高い整備をやり遂げた瞬間や、お客さまから感謝の言葉をいただく瞬間に感じる、尽きることのない充実感と深い達成感です。
その思いは今、私がYTAで次世代の技術者を育成する原動力となっています。

Q, WTGPを通じて、どのような思い出や感情が残りましたか?

WTGPを振り返ってみると、私にとって3つの大きな意味があったと感じています。
一つ目は、個人としての成長です。世界最高レベルのメカニックたちと競い合う中で、自分の技術力が世界でも通用することを証明できたことにとても満足しています。大きな自信にもなりました。
二つ目は、組織への恩返しです。WTGPという晴れ舞台で優勝という成果を得たことは、これまで私を鍛え、支え、信じてくれたYMARGとMG Bikesへの最高の恩返しになったと感じています。
三つ目は、現在の役割へつながる財産を得たことです。WTGPでの経験を通じ、YTA(ヤマハ・テクニカル・アカデミー)で学ぶすべての技術者は、研鑽すれば誰であれWTGPの表彰台に立てると確信しました。今の私の目標は、アルゼンチンのメカニックが世界トップレベルの技術力を持っていること、そして適切な教育を受けて努力を怠らなければ誰もがWTGPの舞台を目指せることを、世界中のヤマハのメカニックたちに伝えることです。

最後に 最後に

ファン・クルツさんの確かな技術力、次世代のメカニックへの想い、そしてお客さまと向き合う姿勢は、今ではアルゼンチン中のメカニックだけではなく、世界中のヤマハメカニックにとっての目標となっているのではないでしょうか。
最後に一つだけ伝えたいことがあります。
WTGPで優勝するほどの卓越した技術力やお客さまに安心を届ける対応力は、ファン・クルツさんが努力を積み重ね、磨き上げてきた特別なものです。
けれども、ファン・クルツさんが語った、「お客さまの安心や安全を支えたい」というメカニックとしての想いは、ファン・クルツさんだけが持つ特別なものではありません。
それは、世界中のヤマハメカニック一人ひとりが、それぞれの現場で日々仕事に向き合いながら胸に抱いている想いでもあります。

この記事のまとめ

  • アルゼンチンのファン・クルツさんは、地域TGPで二度の優勝を果たした異例の経歴を持つメカニック。
  • 2017年に初優勝するもWTGP出場は叶わず、2023年も大会中止により世界大会で競技する機会を逃した。
  • 2025年、再びアルゼンチンTGPへ挑戦し、各競技で圧倒的な実力を発揮して二度目の優勝を果たした。
  • 念願のWTGP2025では実技・接客ともに実力を発揮し、コミューター部門で世界一の座を獲得した。
  • WTGP優勝後は販売店を離れ、YMARGのサービス教育担当として次世代のメカニックを育成する道を選んだ。
  • メカニックの役割は修理だけでなく、お客さまへ安心と最高の顧客体験を届けることだと語っている。
  • ファン・クルツさんにとってヤマハは人生やメカニックとしての自分そのものであり、成長を支える存在でもある。
  • WTGPで世界に通用する技術力を証明できた経験は、自信と組織への恩返し、次世代育成につながる財産となった。
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