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開発ストーリー:YZ450F

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プロローグ

ヤマハはオフロードの世界においても、ナンバーワンブランドであり続けたいと考えています。それはレースで強いだけではなく、オフロード・マニアたちに支持されるブランドであり、またオフロード・ファンを生み出し、そして育てるブランドであること。そのためにヤマハは、キッズからトップライダー、モトクロスからエンデューロ、そしてファンライドまで、オフロードにかかわるあらゆる世代とキャリアのライダーたちへ、さまざまなヤマハモデルをラインナップしています。そしてそれらブルーのマシンは憧れの存在であり、生涯にわたって付き合うことができる信頼のブランドでありたいと考えています。

今回、フルモデルチェンジした「YZ450F」は、そのヤマハ・オフロードワールドのフラッグシップモデルです。

1997年に4ストロークエンジンを搭載する初代「YZ400F」を発表。オフロードレース・シーンにおける4ストローク化を牽引しました。2010年モデルでは前方吸気・後方排気・後傾シリンダーヘッドという独自のレイアウトを持つ新型エンジンを搭載した「YZ450F」を投入。その後、熟成を重ねた「YZ450F」はモトクロスシーンで高く評価され、モトクロスの本場であるアメリカでは、その高いパフォーマンスと扱いやすさで、販売台数もシェアもナンバーワンになりました。

新しくなった、2018年モデルの「YZ450F」は、ハイパワーと扱いやすい出力特性を持つエンジンと、トラクション性能が良く、そして吸収性の高いシャシーをさらに進化させました。

いま持てるすべての技術と、あらゆるレースで培ってきたノウハウを結集して造り上げた新しい「YZ450F」は、とにかくパワフルで、今まで以上に軽く、扱いやすくなりました。ここでは、その秘密をお話ししたいと思います。

エンジン

エンジン周りの大きなトピックスは、やはりセルフスターターの装備です。これは大きな決断でした。しかしそれは、あくまでもレースに必要な機能として標準装備することを決めました。またエンジンは、シリンダーヘッド、シリンダー、クランクケース、ピストン、カムなどあらゆるパーツを新設計しました。したがって、概念としては熟成なのですが、結果としてはその枠を飛び越え、新規エンジンを造ったと言っても過言ではありません。

そのエンジンに求めたのは、圧倒的なパワーと扱いやすさです。

2010年モデル以降、「YZ450F」のユニークなエンジンレアウトは他の追従を許さず、エンジン性能においてもライバルたちに対してアドバンテージを持ち続けています。そのエンジン性能をさらに高め、同時に扱いやすさも追求しました。この扱いやすさには、アクセル操作に対するエンジンの反応、そしてその反応したエンジンの出力特性がポイントになります。同時に、そのエンジンを受け止め、パワーを後輪に伝達するフレームを含めたシャシーとの連動がとても重要です。今回、「YZ450F」の特徴である後傾シリンダーの後傾角度を8.2度から6.2度へと変更し、いわゆるシリンダーを起こしたのも、コーナーに進入する際のブレーキング時にフロント荷重を増やし、車体の安定感を増すという効果を狙ったものです。車体に関しては後ほど詳しく話しますが、こういったエンジンと車体をより高いレベルで連動させることも、今回のモデルチェンジの大きなテーマとなりました。

シリンダーヘッドは吸排気のポート形状を変更。カムをハイリフト化し、バルブのオーバーラップを現行の68度から76度へと変更。高回転域でのパフォーマンスと扱いやすさを向上させました。また新設計のピストンは、裏側のピストンピンホルダー周りのリブ形状をチューニングすることで強度をアップ。それによってピストン上部に掛かる応力を減らすことができ、結果的にピストントップの肉厚を下げ、ピストン自体の軽量化が実現しています。わずか6gの軽量化ですが、1万回転以上で回るエンジンでは、その数字以上の効果を得ることができます。

クラッチはプレッシャープレートを大幅に肉抜きしました。剛性はしっかり残しながら、肉抜きする場所を厳選することでクラッチ操作時にプレッシャープレートを絶妙にしならせ、それによってクラッチフィーリング、具体的には半クラッチ時のフィーリングを向上させています。これまでの開発でプレッシャープレートの摺動面の精度を上げるとことでクラッチフィーリング向上に効果があることが分かっていたので、今回は精度を上げることにくわえプレッシャープレートの形状を変更することで、より一層のフィーリング向上を目指しました。

力強くなったエンジンに合わせ、ミッション周りにも手を加えました。ギアレシオやミッションユニットの大きさに変更はありませんが、そのなかで使用頻度の高い2速から4速までの歯車を1mm厚くし、またシフターストローク量を1mm減らし、ドッグ形状をチューニングすることで信頼性とともにシフトタッチも向上させています。

またフューエルインジェクションは、サプライヤーをMIKUNI(ミクニ)社に変更。スロットルボディ単体で約60gの軽量化が実現しました。また「YZ450F」用に開発した、ヤマハ製バイクとしては初となるリチウムイオンバッテリーを搭載。従来品と比べ約1.4kgの軽量化が実現しました。リチウムイオンバッテリーは軽量コンパクトでありながらパワフルで、自己放電が少ないという特徴がある一方、メンテナンス方法などは鉛のバッテリーとは異なります。そのためバッテリーの状態を常に監視し、安全に使用できるバッテリーマネージメントシステムを搭載しています。

そしてセルフスターターの装着です。もちろん、その装着にはさまざまな議論を重ねました。「YZ450F」はオフロードのフラッグシップモデルですから、存在感を高めることもさることながら、レースで“勝てる”車両であることが重要です。そこでセルフスターターを装備することは重量的にもスペース的にも容易ではありません。しかし転倒から素早く復帰することも、レースにとっては重要な要素です。ならばエンジンストールから容易に復帰できるセルフスターターは、レーシングイクイップメントであると判断。装着を決断しました。

セルフスターターの機能は、クロスカントリーモデルである「YZ450FX」のセルフスターターと同じです。しかしセルフスターター自体は、この「YZ450F」用に新規開発したもの。小型ですが高い出力を持っているのが特徴です。また小型になったとはいえセルモーター自体はどうしても重い。だからマスの集中化を求めてシリンダーの後ろにレイアウトしました。スペースが狭いだけでなく、そこにはエキパイも通っているので熱的にも厳しい。でも設置場所はそこしかないと、設計担当者と何度も協議を重ね、ベストな場所と搭載方法を決めました。

そしてエンジンの出力特性を変化させられる「パワーチューナー」も新しくしました。これまでは専用端末を車体にケーブルで繋ぎセッティングを行ってきましたが、新型「パワーチューナー」はスマートフォン用のアプリケーションとして開発。お手持ちのスマートフォンのWi-Fi機能を通じて、ケーブル無しでセッティングが可能になりました。もちろんそのアプリケーションは、iPhone版とアンドロイド版を開発し、無料でダウンロード頂けます。

アプリケーション化に伴い「パワーチューナー」の基本性能は大幅に向上させました。燃料噴射量と点火時期のマップはそれぞれ、縦軸のスロットル開度と、横軸のエンジン回転数を、従来の3×3=9ブロックから4×4=16ブロックへと細分化。これまで固定だったスロットル開度とエンジン回転数の目盛りも自由に変更できるようになりました。そうやって造ったマップは3Dグラフで表示することができ、それを拡大したり360度ビューで確認したりすることができるほか、セッティングを変更すればその内容は3Dマップにリアルタイムで反映され、セッティングを視覚的に確認することもできます。

アイドリングのエンジン回転数や油温および水温、アクセル開度のログが見られる機能は従来から受け継ぎ、さらにはメンテナンスタイマー機能を装備し、ピストンやエンジンオイルなど、その項目も任意で設定できるようになりました。また電話回線などを利用し、セッティングデータを共有することも可能。その機能を利用して、トップライダーたちのセッティングデータ配信ができないか、という楽しい企画も現在画策中です。

シャシー

フレームも、すべて新しくしました。

2010年モデルで、前方吸気後方排気・後傾シリンダーエンジンとともに初採用したバイラテラルビームフレームは、特性の異なるアルミ素材を相互に溶接してひとつのユニットとしたもの。強度と剛性、しなりのバランスを最適化することでエンジンパワーを無駄なく後輪に伝えるトラクション性能、ギャップの吸収性の高さ、高い直進安定性と軽快なハンドリング、そしてコンパクトさを追求しました。

新型フレームも、その基本コンセプトに変わりはありませんが、今回は特にギャップの吸収性を高めることに重きを置き、開発を進めました。コーナーの進入で減速するとフロントに荷重が掛かります。しかし重心がフロントに移動するためバランスが崩れ、車体が不安定になります。このときフロントに掛かった荷重をしっかりと受け止め、なおかつそこでギャップにぶつかっても、サスペンションとフレームでそれをうまく吸収できれば車体は安定したままコーナーに進入することができます。またオンロードバイク同様、オフロードバイクもしっかりとフロントに荷重を掛けることで車体の向きが変わり、コーナーを素早くクリアすることができます。新しくなった「YZ450F」は積極的にフロントに加重する走り方を目指しました。そのフロント荷重を増やすためにシリンダーの後傾角を立てたり、フレームの剛性バランスを再構築したりしたというわけです。

具体的には、これまでサイドシルエットでS字を描いていた、ステアリングヘッドからスイングアームへと伸びるタンクレール部分を直線的に結びました。またそのタンクレールとダウンチューブを結ぶサブフレームの位置や形状を変更。そのサブフレームにセットしていたエンジン懸架を取りやめ、タンクレール後部から新形状のブラケットを伸ばし、ミッション上部を新たに懸架しています。エンジン懸架位置の間隔を広く取ることでよりしなやかにフレームをしならせ、それによりフレーム全体を使いギャップの吸収性を高めることができました。じつはこの新エンジン懸架位置は、2016年に全日本モトクロス選手権IA1クラスを戦ったファクトリー仕様の「YZ450FM」も採用しています。そして、その狙いも同じなのです。

またサスペンションも、サプライヤーであるKYB社とともに開発を進め、そのポテンシャルを大幅に高めました。フロントフォークはシリンダー径を24mmから25mmに拡大。より高い減衰力を得ることができました。同時に中速域での減衰発生を受け持つマッシブスピードバルブは、これまでのコイルスプリングからシムタイプに変更。それにより圧から伸びへ、伸びから圧へと減衰が切り替わるときの追従性が格段に向上しています。

リアサスペンションはリザーバータンク容量を増やし減衰力の安定化を図りました。また新開発した軽量バネを使用。線径を細くすることで約300gの軽量化を実現しています。サスペンションスプリングは、バネレートを合わせても、スプリングの材質を変えると乗り味が変わってしまいます。そこで何種類もバネを造り、それを乗り比べながら軽量化と乗り味を造り込んでいきました。

さらにはハンドルバーの肉厚を調整することで、操作性とダイレクト感を損なうことなく100gの軽量化を実現したり、形状を変更して前後で約100gの軽量化を実現しながらトラクション感やギャップの吸収力の向上を図ったDID製新型軽量リムを採用したり、製造法や形状を考慮しながらコマの肉厚を落とし、軽量化を図ったDID製新型軽量ドライブチェーンを採用したり、モトクロスレースに特化することで容量を減らし、それによって軽量化が実現した新型フューエルタンクを採用したりと、あらゆるところに妥協なく手を入れ、徹底的な軽量化を実現しました。

デザイン

車体デザインも新しくしました。開発陣全員が格好いいと唸った、自慢のデザインです。

一番の特徴は、YZのシンボルである水平基調/ホリゾンタルラインを強調できたこと。近年のオフロードレースは、マシンのポテンシャルとともにライダーの技量も格段と上がり、それによってマシンもライダーも、その動きはアグレッシブさを増しています。三次元に動くライダーやマシンの中だからこそ、「YZ450F」の持つ水平基調が際立ち、それによってマシンの軽さやフットワークの良さ、さらにはパフォーマンスの高さをアピールすることができるのです。今回シート中央のもっともシート高が低い部分で約8mm、シート最後部で約20mm、前モデルよりも低くすることで、視覚的にも感覚的にも水平基調を強調することができました。

またシート前方のシート幅を、左右それぞれ9mm細くしたことに加え、シュラウドの形状を変更したことで、シート着座時の内腿から膝周りを大幅にスリム化しました。スリムになった車体は、それだけでライダーのイマジネーションを掻き立てます。実際に身体を動かしたときにも、ブーツやニーブレイスが引っかかりにくい凹凸の少ない表面を造り上げました。とくにサイレンサーを覆うサイドカバーを、耐熱性と強度に優れるポリアミド樹脂製に変更することで、サイドカバーを車体内側に追い込むことができました。

ライダーの膝がフィットするシュラウド面は反り返るように、そしてスリムにデザインし、しかし車体前方のシュラウド開口面積を広げることで走行風をより多く取り込み、さらにはラジエーターのレイアウトを変更し冷却効果を高めています。外装類をコンパクトにデザインすることと同時に、構造体を思わせる新デザインのフロントフェンダーやリブを入れたリアフェンダーによって、軽さと強さも強調しました。

エピローグ

YZシリーズは、その誕生以来、目指すべき姿は変わっていません。パワフルで、軽量コンパクトで、扱いやすい出力特性とシャシーバランスを持っていること。4ストロークエンジンを抱く「YZ400F」が誕生したときも、排気量を拡大し「YZ450F」となったときも、バイラテラルフレームに前方吸気後方排気・後傾シリンダーエンジンを抱く2010年モデルの「YZ450F」を生み出したときも、目指した姿は同じでした。

しかし振り返れば、ライバルたちが進化し、また自分たちも進化したことでより高みを目指す必要があり、技術的にもそれが可能になりました。そしていま持てる最高の技術とレースで培ったノウハウ、そしてオフロードを走り続けるという思想の集大成によって造り上げたのが、2018年モデルの「YZ450F」です。

引き締まった車体は、それだけでライダーの意識に、そのポテンシャルの高さを潜在的に訴えかけることができるし、セルスターターを回し、ギアを入れて走り出した瞬間に新しくなったエンジンと車体が、パワフルかつ扱いやすいことを理解できるでしょう。

ぜひ「YZ450F」を走らせ、その進化を体感してみて下さい。450モトクロッサーの異次元のパフォーマンスとともに、圧倒的な乗りやすさをご理解頂けると思います。

櫻井 太輔

さくらい たいすけ

2018年モデル「YZ450F」開発プロジェクトリーダー。2010年モデル以降、「YZ450F」の開発プロジェクトリーダーとして開発の指揮を執ると同時に、現在は「YZシリーズ」全体の開発をとりまとめている

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