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そもそも、なんでバイクには整備が必要なのか? ー とあるサービス部社員が語る整備の世界

サービス部社員に歴史あり。個性派社員による整備の話などなど

そもそも、なんでバイクには整備が必要なのか? そもそも、なんでバイクには整備が必要なのか?

カスタマーエクスペリエンス事業部サービス部

ケニー筒井さん

とりあえず、気になる事は
自分でやってみる人(笑)

長いことサービス部門で働いています。原付から大型スポーツ、ATVにスノーモービルまで、ヤマハのサービス業務を手広くやってきました。バイクはオフロードからスーパースポーツまで乗り継いだ末に、今はネイキッドに落ち着いています。趣味はキャンプや料理、自宅での音声応答ローカルAI構築、EV自作までと節操がなく、「とりあえず自分でやってみる」の精神で大体なんでも手を出します。その結果、やめときゃ良かったと後悔することも多いです。

バイクに乗るなら、定期的な点検や整備は欠かせない。そう分かってはいても、「そもそも、なぜバイクには整備が必要なのか?」と聞かれると、意外とうまく説明できないものです。今回は、ヤマハ発動機のサービス部社員が、家電との違いや部品の摩耗・劣化を例に挙げながら、バイクを長く安全に楽しむために整備が果たしている役割を、あらためて“そもそも”から考えます。

こんにちは。ヤマハ発動機のサービス部門のケニー筒井です。
これまで、このブログでは定期点検の話、オイル交換の話、整備士の話、特殊工具の話と、いろいろ書いてきましたが、ネタ探しのために自分のブログを読み返してみて、ふと気づいてしまいました。私はバイクの整備に関する、そもそもの大前提を書いてなかった… と。
これまで何度も整備について話をしていましたが、そもそも論なぜバイクには整備が必要なのか?という一番最初の大前提をスルーした状態で、定期点検とはと言う講釈を垂れていたと… ああ、なんと恥ずかしい。
と言うわけで、今回は「そもそも、なんでバイクには整備が必要なのか?」と言うブログを書いていこうと思います。
これを読んでくれている方は「いや、そりゃ機械だから整備するでしょ?」と思うかもしれません。でも考えてみてください。世の中には、整備しなくても使い続けられる機械がたくさんあります。

たとえば冷蔵庫。買ってから一度でもネジの緩みを確認したことありますか?

半年ごと、1年ごとに冷蔵庫の消耗品を交換してますか? していないですよね。基本的に家電系は定期点検整備などの手のかからないモノが多いです。
そんな中、もし仮に、「業界最高峰の冷却性能!製氷もあっと言う間!」という最強冷蔵庫が新発売されたとしたら、私はかなり興味が湧くと思います。だけど「※毎月オイル交換とフィルター清掃が必要です」と注釈があったら、私は絶対に買わない。そんなの面倒じゃないですか。やらない理由を捻り出して、オイル交換をサボるのが目に見えてます。冷蔵庫に限らず、テレビもスマホも電子レンジも、壊れるまで基本的にノーメンテで使える。家電って、そういうものですよね。
「いやいや、掃除機とか、定期的に紙パックを変えたり、ブラシを変えたりしなきゃいけない物もありますが?」と言うコメントもあるかもしれませんが、家電によっては簡易なお手入れはあれど、バイクのように法律で定められた「掃除機の法定点検!」などは無いというのが実情です。

※法定点検については、こちらに詳しく書いてあります。
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/yamaha-motor-life/2015/11/post-5.html

じゃあ、なんでバイクは定期的にオイルを換えて、チェーンに油をさして、タイヤの溝を確認するというケアをしなきゃいけないのか…?
丁度良い機会なので、家電とバイクのメンテに関する差を例に、今回も好き勝手に書いてみたいと思います。

バイクは「使えば使うほど消耗する部品の集合体」

いきなり結論を言っちゃいますが、現時点では、残念ながらこれがバイクの正体なんです。
バイクは、乗るたびに少しずつ、しかし確実に「どこかが削られながら/汚れながら」健気に走っています。より正確に言うと、乗らなくてもそこにあるだけで、プラスチックやゴム部品は時間と共に劣化してたりもします。
エンジンの中では金属部品が毎分数千回、高回転なら1万回以上のスピードで動いている。タイヤは地面に擦りつけられて少しずつ削れている。サスペンションは路面の凸凹を受けて何万回も伸び縮みしている。
一方、冷蔵庫はどうかというと、コンプレッサーは回っていますが、基本的に密閉された空間で安定した負荷で動いている。外部からの衝撃もなければ、地面との摩擦もない。鉄が真っ赤になるほどの熱にも、雨にも晒されないし、毎分1万回転もしない。
つまりバイクと冷蔵庫の違いは、 使われる環境やコンディションの差、そして「使うたびにどれだけ部品が摺動して摩耗するか?」のスピードと摺動する部品数の差です。もちろん、冷蔵庫もいつか寿命が来ますよ。ただ、その寿命まで家電は基本的に大掛かりな定期点検等をしなくても、天寿を全うできる様に作られているんです。

減った分を補い、劣化した部品を交換し、各部に問題がないか点検する。バイクの整備とは、走ることで失われていくものを定期的に回復させる作業なんです。

もう一つ忘れてはいけないのが、法律上の理由です。バイクは摩耗するから整備が必要…これは機械としての宿命です。それに加えて、公道を走る乗り物である以上、道路運送車両法などによって点検や整備を行い、安全な状態を維持することも使用者の責任として求められています。

さて、あんまりド正論な話ばかりではつまらないと思うので、想像力を総動員して、整備不良のバイクを人間の身近な状況に例えるとどうなるだろう?と考えてみました。
オイルやエアフィルター、タイヤやチェーン、ブレーキなどがギリギリまで消耗/摩耗している状況を、人間に例えると…
「いつもの朝の通勤路…だけど、徹夜明けで二日酔い状態、大雨の中、すり減って溝の無いペラペラのツルツルサンダルで、濡れたマスクを付けて、駅から会社までハァハァ言いながら全力疾走!」
みたいな感じでしょうか。
うん…これは辛いですね。テキストの文字だけで、もうお腹いっぱいです。あまりに過酷で悲惨すぎるし、駅から10歩目あたりで盛大にコケて、会社をズル休みする未来しか見えません。

摩耗したカムシャフト

体調も装備も万全であれば無事に会社までゴールできるかもしれませんが、私の場合、上記の様なコンディションでは、仮に会社に着いたところで仕事どころではありません。
整備をスルーされ続けたバイクは、毎日この状態で駅から会社までハアハア全力疾走させられているようなもの…なのかもしれません。

メンテが必要ないバイクを作ればいいんじゃないか!

バイクが、使えば使うほどすり減る部品の集合体であるならば、「じゃあ、すり減らない部品でバイクを作ればいいじゃーないか!」と思いますよね。私もそう思いますし、自分のアフターサービスに関連する仕事が無くなる可能性を差し引いても、そんな素敵なバイクがあればぜひ欲しい!
メーカーだって当然、耐久性を上げる努力はしています。素材を良くし、設計を改良し、テストを重ねて、少しでも良い物をと、莫大なお金をつぎ込んで新型車を開発しています。
でも…流石に、この世の摂理・原理原則には勝てないんですね。
オイルは酸化する。ゴムはそこにあるだけで硬化する。金属は摩耗・酸化する。タイヤは減る。これは素材の宿命であり、どんなに技術が進歩しても、現時点では摩擦と酸化と経年劣化はゼロにできない。
だからメーカーは、良いバイクを作る努力だけでなく、 そのバイクを長く安全に使い続けるために、摩耗する部品の集合体であるバイクの整備が出来る様に、整備修理体制も一緒に提供しているんです。
以前、ブログでYTA(ヤマハ・テクニカル・アカデミー)の話を書きましたが、あれがまさにそれです。このブログを宣伝っぽくはしたくないので早めに切り上げますが、バイクを売る仕事と、整備できる環境を作る仕事は実はセットなんですね。
メーカーとして「良いバイクを作りました。この子…可愛がってあげてください!あとの事は各自でよろしく!」ではお話にならない。お客様が安全に乗り続けられる環境まで含めて、はじめて「バイクを届けた」と言える…と私は思っています。

整備は「当たり前に動く安心」?

ここで一つ、大事な話をさせてください。
「コスパ視点で、壊れたら直せばいいじゃん」と思う人もいるかもしれません。たしかにそれもコスパ視点の考え方では一理あるかもしれない。スマホの画面が割れたら修理に出す。冷蔵庫が動かなくなったらメーカーに電話する。壊れてから対処しても、困るのは「しばらく使えない」くらいです。
でもバイクは違います。
バイクのエンジンが高速道路で突然止まったら?タイヤのグリップが雨の日の交差点で突然失われたら?「困る」じゃ済まない安全に関わるケースもあるんです。
バイクにおける故障は、スマホや冷蔵庫の故障とは次元が違い、 移動中に、人が乗った状態で、公道で起きる。 だから「壊れてから直す」では、いろんな意味で間に合わない場合がある。
整備って、実は「修理」とは少し違うんですよ。シンプルに言うと 「壊れる前に手を打つこと」。 いわば、車両の健康診断みたいなものです。
そして、これも私は嫌と言うほど経験していますが、壊れてから直すのは費用が高い!だいたい、何かが壊れる時に「トラップカード」が発動されるから、巻き込まれたパーツが道連れにされて、二次被害の追加ダメージを頂戴する羽目になる。その修理見積もりの金額を見て、何度も泣いた記憶があります。
走れているうちは全部「正常」に見える。 私も覚えがありますが、チェーンが少しずつ伸びていても、少しずつブレーキが甘くなっていても、毎日乗っている本人は継続される微細な変化に慣れてしまうから気づきにくいですね。
「昨日までは大丈夫だった」が時々通用しないのがバイクの怖さです。トラブルの多くは、ある日突然起きたように見えて、小さな劣化が長い時間をかけて積み重なった結果と言う事も、実は多いんだと思います。

最後に、一つだけ。

整備って、目に見える変化が少ないんですよね。オイルを換えても、パッと見は何も変わらない。ブレーキパッドを交換しても、見た目は同じ。タイヤを新品にしたら見た目で分かりますが、それだって走り出せばすぐ忘れる。
だから「何に金を払ってるんだ?」と感じることもあると思いますが、整備や点検って、「明日も当たり前に動く安心」に対してお金を払うようなもの。キラッキラのカスタムパーツと違って目に見えないし、形もない。でも次の信号で止まれることも、次のツーリングで帰ってこれることも、全部その「当たり前に動く安心」の上に乗っかってます。
まぁ、このブログをきっかけに、たまには愛車のことも気にかけてあげてもらえたら、サービス部門の人間としては嬉しい限りです。なんせ、冷蔵庫よりは手がかかる子なので…。

※このブログは「サービススタッフの個人的見解」であり、ヤマハ発動機の公式見解ではありません。正確な点検内容・時期についてはオーナーズマニュアルおよびお近くのヤマハ正規ディーラーにご確認ください。

この記事のまとめ

  • バイク整備の大前提として、そもそもなぜ定期的な点検やメンテナンスが必要なのかを改めて解説する。
  • 家電とは異なり、バイクは走るたびに多くの部品が摩耗・劣化する「消耗する部品の集合体」である。
  • エンジンやタイヤ、サスペンションなどは過酷な環境で動き続け、乗らなくてもゴムや樹脂は経年劣化していく。
  • バイクの整備とは、減ったものを補い、劣化した部品を交換して、走行で失われた状態を回復させる作業である。
  • 公道を走る乗り物だからこそ、安全な状態を維持するため、法律上も使用者には点検や整備が求められている。
  • 技術が進歩しても摩擦や酸化、経年劣化はなくせないため、メーカーは車両と整備できる環境をセットで提供している。
  • バイクは走行中の故障が安全に直結するため、「壊れてから直す」のではなく、壊れる前の整備が重要になる。
  • 点検や整備にかける費用は、目に見える変化ではなく「明日も当たり前に動く安心」を維持するためのものと伝えている。
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