本文へ進みます

Salty Life No.205

ソルティライフは海を愛する方々の日常生活に、潮の香りを毎月お届けするメールマガジンです。

ソルティライフ

7月はアーネスト・ヘミングウェイが生まれた月であり、
また亡くなった月でもあります。
老漁師と巨大なカジキとの格闘をモチーフに、自然の中で生きる人間の尊厳を描いた「老人と海」は、ヘミングウェイの最後の作品。
列島のほとんどが梅雨のただ中ですが、ファンである人もそうでない人もこの機会に一読されてはいかがでしょうか。
海の色、雲の姿、空飛ぶ鳥。
次に出会う夏の海の景色が変わって見えるかもしれません。
「Salty Life」No.205をお届けします。


Monthly Column特別な夏を謳歌する

イメージ
ノルウェーのアーレンダール周辺はいくつもの小島が海に自然の運河を造る

 6月も後半になって、ようやく海に出た。よく晴れた、穏やかな日で、海の上にフネを浮かべているだけで幸せいっぱいの一日となった。スケジュール表を調べてみたら、最後にフネに乗ったのは3月26日のことだから、ほぼ3ヶ月ぶりである。18になってヨットに出会ってから、これほど長い間、海に出なかったのは初めてのことだった。その時間が歓びを増幅させたような気もする。そして、そんな歓びに浸りながら、長い冬を終え、初夏に海へと踊り出すようにフネを出して楽しむ北欧のボーターたちに思いを馳せることとなった。
 スカンジナビア半島の西に国土を有するノルウェーというと、フィヨルドを抱く荘厳な海を思い浮かべがちだが、南部はスウェーデンやフィンランドと同じく、無数の小さな島々が浮かぶアーキペラゴの海があり、このあたりは人々にとって生活と密着したボーティングワールドとなっている。ところが、言うに及ばず、北欧の冬は長い。北欧の人々にとってはベテランのボーターでさえ、フネに乗るのが半年ぶりかそれ以上、なんてことはざらなのである。
 首都のオスロから南へ直線で250キロほどに位置するアーレンダールという小さな港町を訪れたのは3年前、2017年の6月のはじめのことだった。ようやく「海が動き始めた」ところであり、日が陰るとまだまだ肌寒く厚着が必要な季候で、日本の初夏とは比べようもないが、それでも海辺は新緑とかわいらしい花に彩られつつある。
 周辺は島がとにかく多いので、海というよりいくつもの運河が町と町とをつなげているように錯覚する。その運河のような海を、多くのボートが行き来する。老若男女という言葉は、たくさんの人々を指すのにどこか抽象的な用い方をするが、ここでは文字通り、老人と若者、男性、女性の区別無く、それどころか中学生ぐらいの少年少女までが自ら舵を取り、ボートを走らせ、わずか3ヶ月ほどの「ボートシーズン」を謳歌しているのだ。何せこの季節になると太陽がいつまでも空にある。馴れぬと、いつベッドに入ればいいのか戸惑ってしまう。季節は短いが、遊ぶ時間はたっぷりあるのだ。船上に見える人々の表情からは、長い冬のおかげで悦び、愉しみが格別になっていることがひしひしと伝わってくる。

 予期せぬ制約を受け、なかなか思うように海を楽しめない日々が続いてはいるが、我々の大好きな真夏は、もうそこまで来ている。そして久しぶりに海に出たとき、きっと知ることになる。自分がどれほど海を好きだったかを。少々の時間は奪われたが、我々の海は決して無くならない。いつまでもそこにある。

イメージ
今日はどこに行こうか。舫いを放つ、心躍るひととき
イメージ
待ちに待った、短い夏。フネに乗ることの悦びを実感する
田尻 鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、本格的に海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界50カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。1963年東京生まれ。

キャビンの棚冒険し続ける男たちの頼れるパートナー「無人島売ります」

 多くの人は無人島での暮らしに憧れたことがあるだろう。それなのに日本で無人島を専門にする不動産屋はたったの一つだ。「理由は儲からないから」と一笑しながらも、唯一無二のビジネスを営む敏腕社長の佐藤ノブさんによる無人島売買のガイド本がこの「無人島売ります」。
 海上保安庁によると日本列島は6852の島からなる。そのうち無人島は6432島を占めるが、販売対象はわずか10島前後しかない。数億円を超す高額な島が多数派であるが、なかには600万円程で手に入る掘り出し物的な島もある。また、売買できる島というのは誰かが一度所有し登記を済ませたもので、陸からさほど遠くない島がほとんど。そのため、物資の運搬や、真水の湧く水脈を突き当てることはさほど難しくない。また、不動産評価額は概ね低いので、固定資産税や相続税といった税金を低く抑ることができ、大きな島でも維持費は10万円ほどだという。
 そんな無人島の売買であるが、「実は購入を決めてからが大変」と佐藤さんは言う。島周辺での釣りや桟橋の建設には、海を仕切る漁師さんや漁協との折衝が必要だ。また銀行による融資は難しいので、基本現金での支払いになる。実際佐藤さんは創業してから初の契約まで15年を要しており、当初はかなり苦難した。
 「無人島を狙う楽しい人々のおかげで乗り越えられた」と苦難の日々を振り返る佐藤さん。少し前になるが、尖閣諸島を個人が所有し、政府に20億円あまりで売却したというニュースがあった。その後投資の一環で無人島を探す人も増えたのだが、佐藤さんはそういった人々にではなくあくまで純粋に無人島を探す人々に仲介してきた。それは「冒険心あふれる人々と理想の無人島を探すのが楽しくてしょうがない」から。
 無人島での暮らしに少しでも興味をもった人に有益な売買方法から物件情報まで網羅する、夢のある一冊である。

イメージ
「無人島売ります」
著者:佐藤ノブ
発行:主婦の友社
参考価格:¥1,320(税別)

船厨日本のホタテは無敵。北海道の「ホタテチャウダー」

 クラムチャウダーはアメリカ東北部の海辺から生まれたアメリカ家庭料理の最高傑作だ。由来は諸説あるが、フランス語で大鍋を表す「ショーディエール」から派生したとの説が有力だ。主な材料は二枚貝。日本では比較的手に入りやすいアサリを使うことが多いが、本場ではホンビノス貝を使う。
 ソルティライフお気に入りのアメリカの絵本作家、ロバート・マックロスキーの「うみべのあさ」では、父親と娘が貝掘りを楽しむシーンが描かれているが、それもお母さんにクラムチャウダー(和訳ではハマグリのスープ)を作ってもらうためだった。というわけで、クラムチャウダー作りは、本来、家族で貝掘りからはじめるのがソルティスタイルだ。
 ただし、チャウダーはクラムチャウダーだけでなく、様々な材料を使ったものがある。材料としてはホタテもなかなかいける。さすがにこれを自力で捕まえてくるのは至難の業だろう。迷わず買ってこよう。日本の養殖ホタテは世界最高レベルである。
 この日は北海道産のベビーホタテとジャガイモを使ってチャウダーを作った。ちなみに「うみべのあさ」の舞台となっているアメリカのメイン州は北海道の稚内とほぼ同緯度である。

イメージ
「ホタテチャウダー」
■材料(3〜4人分)
ホタテ300g、タマネギ1個、ジャガイモ2個、牛乳400cc、小麦粉少々、コンソメ2コ、白ワイン150cc、水600cc、バター20g、ローリエ1枚、塩、胡椒、タイム、イタリアンパセリ少々
■作り方
1)タマネギ、ジャガイモは1cm程の角切りにする
2)鍋にバターを熱し、1)をしんなりするまで炒め、白ワイン、水、コンソメ、ローリエを入れて煮る
3)小麦粉をダマにならないように牛乳に混ぜたら、少しずつ鍋に入れる
4)ホタテを加えて煮込み、塩と胡椒、タイムで味を整える
5)器に取り、イタリアンパセリを振る

海の博物誌風吹けば沖つ白波

 白波や白馬といった海の言葉は、文字通りに沖合の美しい光景を表したものだ。ともに砕波(さいは)と呼ばれる水面波の現象のうち、沖合で起こるものを指し、高低差などの要因で不安定になった波が砕けて気泡や水滴を出して生まれる。
 白波は古来より新古今和歌集や伊勢物語で詠まれてきた古い言葉で、海の波が崩れて生まれた気泡により白くなった様を指す。有名な鹿児島の芋焼酎のひとつ「白波」は、蒸留所に吹いた風で湧き水の気泡が動いているのと薩摩半島にむかって東シナ海の沖合から押し寄せる白波が似ていたことで名付けられた。
 また、白馬は、波の峰に連なって気泡が動く様を、「まるで馬がたてがみをなびかせて颯爽と駆けているようだ」と表現したもの。英語では砕波をホワイトホースと呼んでおり、この躍動感のある光景は世界で親しまれている。

海の道具有用なキセル「アンカーチェーン」

 わざわざアンカーチェーンなんて言わずとも、別に街中で見かけるチェーンと何も変わらないじゃないかと思われるかもしれないが、これが厄介なことに違いがあるところがマリンのマリンたる所以。
 重要なのは当然ながら錆対策。錆で固着したチェーンはフレキシブルに動かず、チェーンとして役に立たない。そのために亜鉛をコーティングするか、ステンレスを使って作るなどする。
 ところで、アンカーチェーンには大きく分けて2つの役割がある。
 一つはアンカーをウィンドラスという特殊なウィンチで巻き上げる時に、ロープの代わりにチェーンを使い、チェーンのリング穴にウィンドラスの歯を噛ませて引き上げるという使い方。この場合、チェーンのリングの大きさに規定があって、使用するウィンチによってその大きさが異なる。
 ほら、タンカーや貨物船なんかは船首にアンカーを固定していて、巨大なチェーンをガラガラと海中に落としているのを目にしたことがないだろうか。ボートだと、やはり大型のクルーザーなどはステンレスのピカピカ光ったチェーンを使っている場合が多い。
 もう一つの役割が、アンカーの重量を補完する役割だ。アンカーをむやみに重くすることは取り扱い上不便だし、かといって停泊するにはアンカーは重いに越したことはない。そこで、小型のボートなどは、アンカーにチェーンをつけ、その先にロープを結び付けてボートにロープを固定するといった方法をとる。こうすれば、軽いロープで距離を稼ぎ、アンカーとアンカーチェーンで重量を確保することができるというわけ。
 本物の煙管(キセル)のように先端と元だけカネを使っているわけで、不正乗車の煙管とは違ってとても有用なのだ。えっ?不正乗車の煙管って何かって? 善良なる市民は知らなくて当たり前です。

その他

編集航記

久しぶりに海に出ました。海に出る前に、久しぶりに海を見ました。小高い丘から見た海は、きらきらと輝いていました。これまで見てきた海と変わらないはずなのに、それでもいつもより輝いているように感じました。思わずかけだしてそのまま海に飛び込みたくなりました。まもなく梅雨が明けます。すべてが開けてくれるといいのだがなあ。


(編集部・ま)

ページ
先頭へ