本文へ進みます

Salty Life No.213

ソルティライフは海を愛する方々の日常生活に、潮の香りを毎月お届けするメールマガジンです。

ソルティライフ

各地であたたかな陽気も見られ、
春の訪れを感じさせる今日この頃です。
日本の最北部では流氷シーズンがまもなく終わりを告げることとなります。
各地の様々な春の知らせを聞きながら、
南北に長い日本列島の海辺には多彩な四季の表情があることに歓びを覚えます。
「Salty Life」No.213をお届けします。


Monthly Column海洋民族のコミュニティ

イメージ
ニュージーランドの北部。マオリが最初に定住したエリア「ベイオブアイランズ」を見おろす

 マオリの文化を背景に制作された映画に「クジラの島の少女」という佳作がある。(「クジラの島の少女」は小説が原作で日本でも翻訳されている)。先日、久しぶりにこの映画を観て、ストーリーと同時に、マオリの文化や海との関係を興味深く楽しんだ。そのなかで海洋民族とそのコミュニティについていろいろと想像を巡らせたりした。
 ポリネシアと呼ばれる島々の中でも最南部にあたるニュージーランドの先住民・マオリは、原住民ではなく、太平洋をカヌーでわたってやってきたポリネシアンである。マオリのコミュニティはニュージーランドの各地にあるが、その象徴的かつ中心的な建造物のひとつに「マラエ」がある。単純な日本語に訳せば「集会所」となるのだが、部族にとって大切な決め事をするための集会、祝い事から弔事など様々な行事に使用されている。我々が普段イメージする集会所よりは「神聖」な場所として存在しているようだ。「クジラの島の少女」でも頻繁に登場し、コミュニティにとって無くてはならない施設であり、大切にされていることがうかがわれるのである。
 マオリをはじめとするポリネシアンの大元の祖先は台湾に定住していたとされ、カヌーを漕いで太平洋を渡りながら、現在のミクロネシア、メラニシア、ポリネシアへと居住区を広げていった。そしてそれらの海洋民族が暮らす島々には、マラエと同様の「集会所」がある。
 ミクロネシアに属するパラオの集会所は「バイ(アバイ)」という。以前、私が訪れ、目にしたバイは、三角形をした草葺きの屋根、壁画にはパラオに伝わる物語が描かれ、柱などにも興味をそそる彫刻が施されていた。内部はひんやりとしていて、板の間の大きな部屋がひとつあるだけのシンプルなものだった。戦争などで多くが消失したというが、近年になって復元されたバイもあり、その数も増えつつある。
 そのことを通して、また、「クジラの島の少女」のような映画を通しても、海洋民族たちにとって、集会所が部族の結束や文化の継承に無くてはならない存在だということがおぼろげながらも理解できる。
 先日、あるヨットハーバーに足を運ぶ機会があった。そのハーバーのクラブハウスはいつも多くの人が集まり、談笑があふれていたが、このところの生活制限の影響だろうか、いつになく人もまばらで寂しさが募った。ヨットクラブや、ボートのオーナーズクラブ、シースタイルのようなクラブもまた、われら「海洋民族」にとって必要なコミュニティであり、集会所だ。マリンライフに潤いを与え、マリン文化の継承にも無くてはならない存在である。
 海辺のこうした施設に一日も早く賑わいが戻ることを期待してやまない。

イメージ
静かな海辺で遊ぶマオリの子どもたち
イメージ
壁画に特徴のあるパラオの集会所「バイ」
田尻 鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、本格的に海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界50カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。1963年東京生まれ。

キャビンの棚アンクル艦長、渾身の海洋ロマン「船旅と世界の港町」

 戦後間もなく、寿屋(現・サントリー)宣伝部には、才気あふれる若手が集い、斬新でクールな広告を生み出した。のちの芥川賞作家の開高健や直木賞作家の山口瞳は、「人間らしくやりたいナ」「トリスを飲んでHawaiiへ行こう!」といった名コピーや「洋酒天国」というPR誌を残した。また、本作の柳原良平は、酒類の広告キャラクターのなかで歴代もっとも地名度の高い、2頭身のおじさんキャラクター「アンクルトリス」を描き、ウイスキーを高度経済成長期の人々にいち早く伝えた。
 柳原は、昭和6年東京生まれ。京都の美大を卒業後、海運会社で画家になることを目指したが、あえなく断念し、寿屋に入社した。柳原は幼少期から好きな船を描き続けた。高校では船舶同好会を発足し、機関誌「船旅」を発行。人生の大半を船や海の魅力の探求に費やし、居を構えた横浜で、海洋事業のPRや市民活動に参加していた。
 本作は、柵原がお気に入りの船や港町をデッサンした画集である。ページをめくれば、水彩や切絵、油絵で描きわけた彼らしいタッチだけでなく、淡い色彩の写実的な異なる風合いも掲載。「白いタキシード」や「寄港地」の名のエッセイも収録し、著者の世界観を覗ける内容となっている。
 「アンクルトリス」や当時の寿屋の活躍を知る人だけなく、若い世代も楽しめる画集だ。

イメージ
「船旅と世界の港町」
著者:柳原良平
発行:講談社
定価:¥3,200(税込み)

船厨“奇跡”にだまされたつもりで「アボカドのアンチョビのせ」

 アボカドは中央アメリカ原産の果物だ。国内で流通しているアボカドはほとんどがメキシコ産。2018年の財務省の統計によると、果物の輸入量ではグレープフルーツを抜いて、4位のオレンジとほぼ同量で第5位の存在となっている(1位はダントツでバナナ、2位はパイナップル、3位はキウイフルーツ)。ところが、アボカドに対して「なじみが無い」という世代もあるのではないか。というのも、日本では80年代から輸入量が徐々に増え始め、2000年代に入って健康食として注目されてからは急激に増加し、いまのように当たり前にスーパーの店頭に並ぶようになったのは比較的最近のことだから。
 つまり2000年代に食の好みが固定化してしまっていた世代にとっては、手にとりにくいというジレンマだ。さらに他の果物に比べると甘味や果物特有のみずみずしさといったものに欠けるところ、さらに食べ方がディップの材料、サラダの具材といったところが主流で、果物として単体で食する事が少なく、なじむ前に遠ざけてしまうことも理由かもしれない。
 そんなアボカドだが、先日、あるスーパーの果物売り場で「奇跡の組み合わせと」と称して、「アボカドのアンチョビのせ」が写真入りで紹介されていた。このキャッチフレーズはなかなか好奇心をかき立てる。写真を見る限り「メロンと生ハム」に似ているが、思えばその組み合わせも、いったいだれが思いついたのか、「奇跡」といえるだろう。
 さっそく試してみたのだが、キャッチフレーズにうそ偽りは無く、かなり感動的な組み合わせ。アボカドを大いに見直すこととなる。
 気軽に海外旅行に出かけることがままならない日が続いている。そのせいもあってか、食を通して旅愁を感じる機会が増えた。今回はメキシコの陽気な海と、素朴なフィッシングボートが並ぶ地中海の美しい港を同時にイメージできたりして。まさに「奇跡」である。

イメージ
「アボカドのアンチョビのせ」
■材料(2〜3人分)
アボカド2〜3個、アンチョビ(塩漬け)、オリーブオイル
■作り方
1)ある程度、追熟させたアボカドの種を取り、一口サイズに切って皿に盛る
2)アボカドの上にアンチョビをのせ、オリーブオイルを適量かける

海の博物誌流氷の別れ「幻氷」

 オホーツク、海の流氷は、例年ならば1月中旬から3月下旬まで沿岸部を漂流する神秘的な現象だ。
 流氷が街から消えた4月や5月のよく晴れた日に、突如として水平線の彼方に巨大な流氷が浮ぶように見ることがある。まるで高層ビルが立ち並ぶようにも見えるこの現象は、「幻氷」と呼ばれる蜃気楼だ。
 流氷が融けた海の冷たい空気の上に暖かい空気が流れ込む。温度の違う空気の層は光を屈折させることで、水平線の彼方にある流氷を浮かび上がらせる。沿岸から遠く離れた流氷が、私たちに姿を見せる最期の機会となるのである。
 流氷は南の風に吹かれ海を漂い、やがてオホーツク海の一部になる。そして、冬になればまた北の海で流氷となり、オホーツク界を漂流するのだ。

海の道具一目瞭然「プッシュボタンスイッチラベル 」

 ボートには様々なスイッチがついていて、ドライバーズシートの周りに集中していることが多いが、それだけに、どのボタンが何のボタンかを一瞬で見極めたい。ましてやホリデードライバーならなおさらだ。
 そこで役立つのがピクトグラム。絵は万国共通の文字ということで、東京で開催予定の一大スポーツイベントなどでも新たなマークが考案されているが、ボートに付いてるスイッチのヘッドマークも特有のものがあって、見ていると興味深い。
 まずは船底に溜まった水を汲み出すビルジポンプのスイッチ。船を輪切りにした図の下に水がたまったと思われるところから管が伸びて、船の横から水滴が出ている。なるほど、排水だな。錨マークはアンカーウィンチだろう。魚マークから泡が昇っているのは、イケスの循環ポンプ。
 ボートを横から見た図の船首に上方向と下方向の矢印が付いている。これはトリムタブだろうな。
 シャワーのマークがあるが、恐らくボートの場合だったらデッキウォッシュのポンプの電源スイッチだと思われる。全周灯やアンカーライトなどはLEDへの交換が進んだ今でも電球をイメージしたものが使われている(そういえば、踏切の標識も蒸気機関車のシルエットをデザインしたものが今も残っている)。
 今はローマ字でAUTO PILOTが文字通りオートパイロットだけれど、ハンドルの左右斜め上に開いた手、なんてデザインではいかがだろう。
 きっと近い将来には、桟橋の横に船のマークで矢印が近づく方向が自動着岸、離れる矢印が自動離岸なんてスイッチが一般的になるかもしれない。離着岸が苦手な身としては、そんな時代が早く来ることを切望する次第である。図柄の心配より、離着岸の技術を磨け?ごもっとも。

その他

編集航記

昨年の春ごろからボート免許の取得者が増えているそうです。開放的な海での遊びが注目されたことが主な理由と分析されているようですが、自宅にいながら講習が受けられる「スマ免」の存在もこうした伸張にひと役買っていそうです。この機会にボート免許の取得やステップアップを目指してはいかがでしょう。すでに免許を取得している方は更新時期に気をつけて下さいね。


(編集部・ま)

ページ
先頭へ