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55mph - オートバイという体験価値。

「第44回 東京モーターサイクルショー」の会場でわれわれは何を見て、何を感じたのか。

文/佐藤旅宇 写真/井上六郎

 3月24日(金)から26日(日)までの3日間、東京ビッグサイトで「第44回東京モーターサイクルショー」が行われた。昨年よりも展示フロアを拡大して開催され、3日間の合計入場者数は何と14万6495人。最終日は冷たい雨が降っていたにも関わらず、過去最高を記録した昨年よりもさらに1万人以上も多くの人がオートバイの“いま”をひと目見ようと会場に訪れたのである。
 縮小傾向にあると言われて久しい国内オートバイ市場だが、日本人のオートバイへの関心は相変わらず高く、そして熱い。 
 今年も各メーカーのブースではカスタムやガレージ、ファッション、アウトドアといったライフスタイルを絡めた提案が目立った。「モノ」より「コト」を重視するといわれる近年の消費傾向を反映してのことだろう。
 これは日本のライダー、ひいてはマーケットが成熟した証拠ともいえる。マシンの優劣をカタログスペックや価格だけではなく、そのフィーリングや歴史、文化的価値、デザインといった複雑な概念にまで踏み込んで判断するということであり、そうするには消費者にも一定以上の見識が求められるからだ。

 開場と同時に「ファスター・サンズ」を前面に打ち出したヤマハ発動機ブースに黒山の人だかりができているのを見るにつけ、本邦でもオートバイという乗り物がまごうことなきカルチャーへと昇華したことを強く感じる。
 「FASTER SONS/ファスター・サンズ」とはオートバイをとりまく“スタイル”や“世界観”の提案だからである。これはまさしく数値化できないものであり、そこには上も下も、正義も悪もない。その魅力はあくまで受け取る側の感性に委ねられているのだ。現在のライダーたちがオートバイをパーソナリティの発露として捉えていなければ、こうした展示が大きな注目を集めることはないだろう。
 往年のグラフィックを現代に蘇らせた「オーセンティック・スポーツ」シリーズも同様である。周囲に集まった大勢の人々はモノではなく、ホワイト/レッドに彩られたマシンの背景に栄光の“物語”を読み取り、熱い視線を注いでいるのだ。ヤマハ・モーターサイクルの重層した歴史とそれをなぞることができる多くのファン、つまり文化としての厚みがあってこそである。

 だが、ヤマハがこうしたメッセージを発するようになったのは何も最近になってからのことではない。

 ヤマハが80年代に発行していた㏚誌、『55mph』がそれである。
 『55mph』では「人間にいちばん近い乗りものなんだ。」のコピーとともに、オートバイのパフォーマンスではなく、オートバイに乗ることで得られる“世界”を訴求することに多くのページが割かれた。カタログスペックがマシンの優劣を決める大きな基準となっていた当時ではさぞ異色だったことだろう。しかし、その誌面は30年以上が経過した現在でもまったく色あせない。目に刺さるような鮮やかな風景、強い陽射し、風、エンジンの鼓動、タイヤが巻き上げる土埃、そしてオートバイを愛する人々の姿。そこで描かれているものはオートバイの普遍的な魅力だからである。

 オートバイに乗ることの本質は今も昔も変わらない。それは「コト」、すなわち体験にほかならない。走って、笑って、感動して、泣いて、喜んで、語って、苛立って……そうした諸々のなかであなたとあなたのオートバイはいっそう輝きを増すのだ。

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前面ステージ上に展示されていたのは、XSR900をベースにしたカスタムコンセプトと、RZブラックのヘリテージ外装セットをまとったXSR900。どちらもレトロとモダンが融合するFASTER SONSの世界観を体現したモデルである。

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昨年の東京モーターサイクルショーで話題となった初期型RZをモチーフにしたXSR用外装セット。今年はホワイト/レッドに加え、ブラックも登場。7月に発売が予定されている。

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市販予定車として展示されたSCR950。スポークホイールやオフロードを考慮したタイヤ、アップハンドル、ゼッケンプレート風サイドカバーなど、往年のダートトラッカー風の意匠が随所に施されたボルトの派生モデルだ。

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「FASTER SONS」とは、ファッションやカスタムなど、オートバイをとりまくすべてにのモノ・コトに対しての提案である。ブースでは車両とともにオリジナルのウェアやヘルメット、グローブなどの小物なども一緒に展示された(一部販売予定)。

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往年のヤマハレーシングのグラフィックをモチーフにして好評を博している「オーセンティック外装セット」。すでにXSR900やMT-09(旧モデル)、YZF-R25/3、MT-25/3用がラインナップされているが、会場では参考出品ながら新たにSR400用とSCR950用、今年リリースとなった新型MT-09用も展示された。

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ワイズギア20周年記念としてリリースされた初期型RZ250(4L3)の復刻タンク。現代の高度な技術を用い、当時と同じ工場で製造されるというマニア垂涎の一品である。完全受注生産となっており、予約締切は6月30日。

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MTシリーズのフラッグシップとして登場したMT-10。R1譲りのクロスプレーン型クランクシャフトを採用する水冷直列4気筒エンジンをアルミデルタボックスフレームに搭載し、トラクションコントロールやクルーズコントロールといった電子デバイスも備える。R1のパフォーマンスをツーリングでも体感できるようになった。

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新型となったTMAX530。新設計のアルミダイキャストフレームや電子制御式スロットル「YCC-T」が採用されるなど、大幅な進化を果たしている。スタンダードな「SX」と快適性を重視した「DX」がラインナップされ、後者にはクルーズコントロールシステムや電動調整式スクリーンなどが標準装備されている。車体サイズが少し大きくなったように見えるが実際は軽量化されており、スポーティな走りにさらに磨きがかかった。

年齢や性別、時代を問わず、乗る者を夢中にしてやまないオートバイ。
その魅力の根源が実際に走ってみなければ得ることのできない唯一無二の「体験価値」にあるからだろう。

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