55mph - 「人間にいちばん近い乗りものなんだ。」
意のままに走り、生命の脈動を感じさせる稀有な機械。ビッグシングルは語りかける、人間とオートバイの関係について。
モデル/落合恭子 写真/高柳健
「人間にいちばん近い乗りものなんだ。」
1980年代、ヤマハ発動機が展開していた広告のコピーである。
PRマガジンとして発行されていた『55mph』の誌面にも大きく掲載されていたので、印象に残っている方も多いだろう。
この「人間に近い」には恐らくふたつの意味がある。
ひとつはオートバイが乗り手の意志に忠実な乗り物であるということ。
そしてもうひとつは生物的な脈動を感じさせる乗り物ということだ。
80年代はメカトロニクスの発展により、マイコン制御が様々な機械製品に用いられるようなった時代でもある。無論、クルマやオートバイといった乗り物だってその例外ではなかった。
つまり乗り物が人間から“遠く”なりはじめたのである。
いま思えば、先述のコピーはそんな時代に対するアンチテーゼ的な響きも含んでいたからこそ、当時のライダーの心を強く惹きつけたのではなかったか。すなわち、オートバイは違うのだ、と。
ここに2台のマシンがある。
XT500、そしてSR400。
オートバイと人間との関係を示す格好のサンプルだ。
前者は1976年に登場したヤマハ初の4ストローク単気筒エンジン搭載車である。当時、4ストローク単気筒はすでに過去のメカニズムとなりつつあったが、その優れた耐久性や強力なトルクを発するエンジン、高いトラクション性能、軽量な車体は新時代のトレールバイクとしてメインマーケットの北米だけではなく欧州でも人気を集めた。
後者は皆様よくご存じの通り、そのXT500をベースに生まれた現役のロードスポーツモデル。40年前のエンジンを搭載するモデルがその古めかしさゆえに価値を認められ、いまなお現役という事実はオートバイが決して数値だけでは価値を測れない工業製品であることを如実に表している。
ビッグシングルのエンジンをかけるのにはちょっとした気遣いが必要である。もし、今朝の目玉焼きがオーバーミディアムじゃなかったことにうっかり腹を立て、妻との関係が軽い緊張状態にあったとしても、ビッグシングルのキックだけは迷いなく踏み降ろさなければならない。勢いが足らずペダルが途中で止まれば、圧縮上死点を越えられなかったピストンが圧縮力で反発し、あなたの足めがけて勢いよくキックペダルが跳ね上がることになる。
ひと汗かいてエンジンが始動し、無事に走りだすことができたなら、ビッグシングルはオートバイで走ることの気持ち良さ、その原点を教えてくれるだろう。タイトなコーナーをスリムな車体特有の切れ味鋭いハンドリングでクルリと旋回し、アクセルを大胆に開けて立ち上がるときの感覚は最高としか言いようがない。リアがグッと沈み込み、まさしく地面を蹴飛ばすように加速する。右手に伝う激しい振動が、見えないはずのエンジン内部の様子を脳内にありありと描き出す。
スポーティである、ここでいうスポーティとは乗り手の意に沿って走る、ということだ。前に行きたいと思ったら前に、右に行きたいと思ったら右に、それ以上でも以下でもない動きのことである。ビッグシングルは「乗りやすい」のではなく、すべての挙動が「分かりやすい」。好意をよせる女性と手を取り合い、目を見つめてダンスを踊るようなものだ。ものの10分も走れば乗り手のリズムは自然にマシンと同調する。
絶対的、客観的なスピードなど気にもならない。
ビッグシングルを駆るという行為は、つまるところマシンとの一対一のコミュニケーションに終始する。
振動、音、熱、トラクション、自由、風、旋回、キック、ケッチン……
そこには善も悪もない。善悪すべて内包して慈しむ高度なコミュニケーションなのである。
あの80年代から随分と長い時間が過ぎた。
いまもオートバイは人間にいちばん近い乗り物なのだろうか?
SR400はあの頃と同じだ。オイルタンク・イン・フレームに抱えられたボア87mmの空冷OHC2バルブはいまも昔と変わらず“生きて”いる。
ロケ地/阿蘇
XT500
70年代に北米で強化された自動車排出ガス規制や突如発生したオイルショックを受け、それまでの2ストロークに代わる新たな4ストロークトレールとして76年に誕生。79年に開催された第一回パリ・ダカールラリーで仏「ソノートヤマハチーム」が同車でワンツーフィニッシュを飾るなど、モータースポーツでも活躍し、北米のみならず欧州でも大人気となった。1978年にはこのXT500をベースにしたロードスポーツ、SR400/500が登場。いまも新車が販売される超ロングセラーモデルとなっている。
SR400
1976年発売のエンデューロモデル、XT500のフレームとパワーユニットをベースに開発されたロードスポーツバイクとして78年にデビュー。空冷単気筒エンジン特有の鼓動感と軽快感溢れる操縦性、普遍的なスタイリングが多くのファンを獲得。発売から約37年を経た現在でも新車が販売される超ロングセラーモデルとなっている。
「SRらしさ」は変えずに進化
1976年発売のエンデューロモデル、XT500のフレームとパワーユニットをベースに開発されたロードスポーツバイクとして78年にデビュー。空冷単気筒エンジン特有の鼓動感と軽快感溢れる操縦性、普遍的なスタイリングが多くのファンを獲得。発売から約37年を経た現在でも新車が販売される超ロングセラーモデルとなっている。
■ヤマハ発動機SR400製品ページ
自分だけの一台にカスタマイズ
SRが文化と呼べるほど多くのバイク乗りに愛された理由のひとつが「カスタム」。虚飾を配したSRの普遍的なスタイリングは様々なカスタムに対応できる懐の深さを備えているのだ。ワイズギアの純正アクセサリーを装着すればご覧のようなネオレトロカスタムだって可能。自分だけの一台を作り上げよう!
■ワイズギア SR用アクセサリーページ