レポート&コラム
日本沿岸で行われるビルフィッシュトーナメントレポートと海外の釣行記です。
釣行記:ハンニバル・バンクの余韻 中米パナマ紀行
中米パナマ紀行 写真/文 浜中せつお
チリキ川は緩やかに蛇行し、両岸に熱帯林が迫る。タックルを満載した27ftのセンターコンソールタイプのボートは浅瀬を避けながら河口へと下っていく。コスタリカ国境に近い街ダビのマリーナから、巡航で20分ほど走るとチリキ湾に出る。太平洋に面したその湾内を、さらに南東へ走ればハンニバル・バンクだ。
メキシコからエクアドルにかけての太平洋には、有名なマーリンスポットが連なる。沿岸にはバハのカボサンルーカスやコスタリカのロススエーニョスといった豪華なリゾートもあるが、小さなマリーナも数多い。パナマのダビもそのひとつ。
首都パナマシティから空路で1時間。ダビ空港からマリーナへは、塗装も内装パネルもはがれた日本車のタクシーで数分だ。暑くてほこりっぽい駐車場の脇に平屋のレストランが一軒と倉庫。細い浮き桟橋の先には漁船やヨット、クルーズ母船など大小の船がひとかたまりになっていた。
マリーナを出るとすぐに川幅が広くなる。岸際に時折見かけるカニ捕り漁師は腰まで泥に潜っているが、干潮なので引き波も心配ない。
河口に近づくと二軒のフィッシングロッジがあった。建物は古く看板も錆びているが、営業はしているようだ。船中泊が苦手な人はこちらを選ぶのだろう。
砂州の向こうに海が見えてから、再び大きく迂回してチリキ湾に飛び出した。湾内は宮城の松島湾のような浸食地形で島が多く、根魚やヒラアジ類も多く釣れる。チャーターのスキッパーには地元漁民もいて、もともと手釣りで底物を捕っていたからポイントの知識も豊富だ。もちろんトローリングに関しても十分経験を積んでいる。ボートが目指すハンニバル・バンクは世界でも有数の漁場だからだ。
クルーザーがずらりと並ぶリゾートは、優雅な気分にはなれる。しかし寂れた風情の街に着き実戦的な釣り船を見ると、無垢な巨大魚の棲む辺境にやって来たようで、アングラーの意気を高めてくれる。そしてパナマの海は、本当に魚が一杯だ。
チリキ川を下る私たちのチャーター母船
古びた看板がビッグゲームの歴史を語る
ジャングルに囲まれたダビのマリーナ
私たちのボートが釣り場を目指してマリーナを出ると、すぐにチャーター母船もチリキ川を下り始める。平底のハウスボートで船足は遅いが、夕方までに釣り場近くの島影にたどり着けばいいのだ。客はその日の釣りを日没間近まで楽しんでも帰路はわずか。翌日以降、最終日の朝までは母船を基地にして、短い移動時間で釣りに没頭出来る。
ボートはチリキ湾をプレーニングで進み続けた。湾内はどこも水深200m以下で、島が多く波静かだ。時折船底で水面を大きくたたくが間隔は長い。
しばらくすると左前方に大きな島影が見えてくる。中米の太平洋岸で最大の島、コイバ島だ。この島の南側もハンニバル・バンクと並ぶ好漁場だが、コイバ島とその周辺の島々は国立公園と海洋保護区になっている。島の公園事務所でフィッシングライセンスを取得すれば、ここでのフィッシングも可能だ。
コイバ島を左に見ながら南下すると、行く手に荒々しい海面の盛り上がりが見えてきた。ついに念願の釣り場、ハンニバル・バンクに到着だ。
スキッパーがスロットルを絞り、クルーがあわただしく働き始める。三人の客は興奮気味で言葉を交わし、一人がスタンディング用のハーネスを身に着けた。狙う魚はクロカジキにシロカジキ。キハダマグロやバショウカジキも出る。Tバールーフ上のアウトリガーでルアーを4本流し、スタートフィッシングだ。
波間に見える僚艇はすでにファイトを始めていた。ラインの方向を見ると、水面が割れて魚が飛び出した。どうやらクロカジキだ。魚との間合いが狭まるとボートの回頭も忙しい。釣り人の後ろに付いていたクルーが横に出たとき、魚が再び反撃を開始した。そして5分、残念にもラインのテンションは失われた。
バンクの周辺ではキャスティングやジギングでもキハダを狙える。ワフーやシイラもいる。島周りならカンパチやハタ類だ。河口へ近づけばライトタックルでルースターフィッシュも釣れる。焦ることはない。
僚艇でのファイトシーンを見届けた後、私たちもカジキをランディングすべくボートを走らせた。そしてヒットもあったが結果はノーランディング。魚影の濃さを目の当たりにしているだけに、もう一度来いと言わんばかりの結果だ。
母船に戻って熱いシャワーを浴びた。夜はうまいラム酒を仲間と飲み交わし、釣りの話で盛り上がるのは世界共通だ。このチャーター母船のバーでも魚の話で途切れる暇がない。ハンニバルバンクでのビッグフィッシュゲームは、釣り人としてのプリミティブな気持ちを確かめる最高の環境が整っている。
ハンニバル・バンクでのマーリンとの格闘
チリキ湾で一番の腕前と言われるボート
手釣りでノンビリと底物を狙う地元漁船
湾内ではこのサイズのカンパチが釣れる