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Salty Life No.198

ソルティライフは海を愛する方々の日常生活に、潮の香りを毎月お届けするメールマガジンです。

ソルティライフ

クリスマスはイスラエルに起源を持つキリスト教の記念日の一つですが、いまや普遍的なお祭りとして世界中に広まっています。
ただし、宗教的な意味合いが薄まり、誰もが参加するイベントと化しても、変わらないものがあります。
それは世界中で人々が誰かに喜びを与え、そして誰かから喜びを受け取るべき日だということ。
みなさまにも海からの素晴らしい贈り物が届きますように。
「Salty Life」 No.198をお届けします。


Monthly Column映える水の色、空の色。

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勝ちどき近くの運河に架かる橋にて。「夕映え」の時間

 12月最初の日曜日の午後、船の上で行われた会合に出席した帰り道、船着き場のすぐ上に掛かる橋を歩いていたら、ビルの谷間から美しい空が見えた。空は下部が橙色に染まり、天の高いところに向かってだんだんと青みが濃くなり、しまいには紺色になっていく。運河の両脇を取り囲むビルの窓から漏れる灯りや、たまたま通りかかった屋形船の灯り、そして夕日の輝きが、日が落ちて色の無いはずの水面を見事に彩っていた。東京の下町を通り、東京湾へとつながっている見慣れた運河だが、普段はこの運河の「色」のことなど考えたことは無い。茶色っぽいのか、黒っぽいのか。濃い緑色のように見えるときもあるような気がする。それが時間によって本来の色を思い出せないほど美しく見せる。水は不思議である。
 本来、無色透明なはずの水は、さまざまな色を放つ。海の水の中には無数の微粒子が浮遊している。その水中に光が入ると、そのうちの短波長光が錯乱する。赤色から順に消えていき最後に残るのが青色である。さらに底質によって、空のコンディションによっても、地に湛えられた水は色を変える。その組み合わせの偶然性を考えると、同じ場所で見る海も、同じ色に見えることの方が少ないのではないかと思える。波が起こす飛沫は白く見えるがこれにももちろん理由がある。空が青いことにも理由がある。これらも海と同様、似てはいても正確に同じ色が再現されることはめったに無いことなのかも知れない。私たちが日々目にする水辺の景色は、奇跡的な出会いそのものなのだ。
 思いついては時折ひらく本に「色の名前」(角川書店)というのがあって、自分が撮った写真の海や空の色がどのように呼ばれてきたかを確かめては自己満足に浸ることがある。日没後の空はしばしば「夕映え」と称される。英語では「After Glow」。中国でも「夕映え」に該当する言葉はあって「落霞紅(ラオシアホン)」と呼ばれるらしい。万国で夕映えの美しさは愛でられているのである。また、夕映えを受けて輝く海面を「海映(うみばえ)」と呼ぶことがある。これは「海の名前」(東京書籍)で知った。
 もちろん海や空は誰しもが美しいと思える色を放っているばかりでは無い。せっかくの休日、海に出ても色を感じられない日がある。11月に江ノ島で行われていた470級ヨットの全日本選手権の撮影に1日だけ出かけたが、この日は15m/sほどの強風が雨交じりで吹き荒れた。鉛色の空の下、シャッターを押す気も失せそうだが、こうした海と空が織りなす色を英語では「Storm Blue(ストーム・ブルー)」と呼ばれることを「色の名前」で知った。こんな色気の無い海にさえ気の利いた名前をつける人間がいることを思うと、私も負けてはいられない、などと思う。水辺にいるとどんな色であれ、海象であれ、その中に美しさを見いだすことができて、それは実際に楽しい。
 いささか屁理屈が過ぎるだろうか。ならば最後に誰もが美しいと思える海の色。「碧空」の下に広がる「蒼海」について。同じ青でも海の色を表す日本語の青には「蒼」「紺」「碧」「紺」「藍」と、数多い。「蒼」は緑がかった青を言い表すのに用いる。でも南の島の海によく見られるエメラルドグリーンの海は「蒼」はなじまない気がする。慶良間諸島の海の写真を載せるが、誰がつけたかこの海には「ケラマ・ブルー」という異名があるらしい。「ブルー」は海そのものを表す言葉でもあるので、色を差したのか、その魅力的な海を指したものなのか定かではないが、なんだか響きがいい。でも「ブルー」はネガティブな意味を持つこともあるなあ。
 年が暮れ、まもなく新しい年を迎える。来年はどのような海で、どのような色と出会うのだろう。楽しみである。

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嵐のような海の表情にも人は名前をつける。雨と強風の中で行われるヨットレースは「ストーム・ブルー」の世界
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慶良間諸島の海。世界有数、自慢の「透明度」なのに色がある不思議
田尻 鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、本格的に海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界50カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。1963年東京生まれ。

キャビンの棚世界に誇るグレートウェーブ「北斎 富嶽三十六景」

 浮世絵に風景画というジャンルを確立したのは北斎の功績であろう。北斎は斬新な構図と鮮やかな色で、役者絵や美人画が中心だった浮世絵のイメージを一新した。浮世絵は、かけ蕎麦一杯程度の値段で買えた庶民的なアート。北斎は「富獄三十六景」で江戸の庶民の暮らしを美しく彩った。
 「富獄三十六景」は富士山を主題にした風景画のシリーズである。東は茨城県から西は愛知県までのさまざまな場所から富士山を描いた。富士山を聖なる山として信仰したり、旅することが流行した江戸の庶民から人気を博し、後に10点を追加した全46点からなるシリーズだ。発表時、北斎は既に70歳前半であったが、色彩のぼかしといった新しい表現方法を取り入れた。
 そのひとつは、プルシアンブルー(通称ベロ藍)による自然な青である。ベロ藍は、ドイツで生まれた舶来の合成顔料。元来の植物由来の顔料と比して、鮮やかで発色が良い透明感のある色である。水に溶けやすく、ぼかして塗るのも容易で、空や海のグラデーションを細やかに表現した。シリーズの代表作で本書の表紙である「神奈川沖浪裏」では波や富士山に配色しただけでなく、輪郭線にもベロ藍を用いた。波を裏から見るという大胆な構図でありながら不自然さを感じさせないことに、自然な青であるベロ藍が作用している。
 「富獄三十六景」は、風景画を浮世絵の人気ジャンルにしただけでなく、歌川広重の「東海道五十三次」など、のちの風景画の名作を生む足掛かりとなった。また、ドビュッシーは交響詩「海」のジャケットに神奈川沖浪裏を使用した。欧州の印象派の芸術家にも影響を与えた最も著名な日本画のシリーズである。
 本書は、そんな「富獄三十六景」の全46作品を見開きカラーで収録し、浮世絵をはじめ日本美術を研究する日野原健司さん(慶応義塾大学)の解説で紐解くもの。世界に誇る北斎の画風を知るだけでなく、富士山の美しさを再発見する楽しさも味わえるお得な一冊である。

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「北斎 富獄三十六景」
編集:日野原 健司
発行:岩波書店
参考価格:¥1,000(税別)

船厨洋食なのか和食なのか「牡蠣フライ」

 とんかつに代表される「フライ」は不思議な料理である。日本の「洋食」レストランに生まれ、発展を遂げたが、海外にこうした料理は実在しない。そしてフライ料理の代表格「とんかつ」を供する多くのレストランは「和食」の風情を前面に出している。フライに使うパン粉、フライにかけるソース、付け合わせのキャベツにかけるドレッシングは確かに「洋」モノだ。
 「牡蠣フライ」はというと、これもまた日本生まれの洋風和食である。そもそもオイスターに火を入れる文化は西洋にそれほど無い。彼らが愛する「生牡蠣」の素晴らしさは言うまでもないが、たとえば居酒屋のランチメニューに「牡蠣フライ」が登場すると「生牡蠣」以上に牡蠣の「旬」の訪れを感じる人も多いに違いない。
 2019年は猛烈な台風が日本列島を襲い、牡蠣養殖にも被害を与えた。養殖筏が破損したり流されたり、河川からの泥流の流入が牡蠣の育成に大きく悪影響を与えたとのニュースもあった。それでもこうして食卓に牡蠣が届く。熱いフライを口の中でハフハフしながら牡蠣の濃厚な味を楽しむ。秋から初春にかけて、季節限定の日本ならではの幸せである。

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「牡蠣フライの作り方」
■材料(3〜4人分)
牡蠣16〜20粒、卵1個、小麦粉大さじ3、水20cc、生パン粉食パン(8枚切り)2枚分、小麦粉適量、サラダ油適量、塩水
■作り方
1)水1000ccに塩大さじ2を加えた塩水で牡蠣を丁寧に洗い、ペーパータオルでしっかりと水気を取る
2)小麦粉大さじ3に水20ccを少しずつ加えてよく混ぜ、溶いた卵を3回に分けて加え、泡立て器でダマにならないようによく混ぜる
3)食パンをフードプロセッサーにかけ、生パン粉を作る
4)鍋にサラダ油を入れ、170℃に熱する
5)牡蠣に薄く小麦粉をまぶし、2にくぐらせ、生パン粉をまぶして4に入れ、一度に4〜5個ずつ3分ほど揚げる

海の博物誌冬の海で眠る水鳥

 水鳥は冬の季語である。それは鴨や雁といった水鳥の多くが、冬を越すために日本に来るからであろう。寒々しい冬で逞しく生きる水鳥は多くの名句で詠まれてきた。そんな水鳥は、寒さをしのぐ様々な特徴を備えている。
 そのひとつは胸のダウン(羽毛)であろう。ダウンはフェザー(羽根)とは異なり軸のない、タンポポの綿毛のような羽。ボール型の形状で空気を含みやすく保湿や笠高に富むために、水鳥は羽根の内側にダウンをもつことで人間が肌着を着るように暖かさを保つ。ちなみに人が着るダウンジャケットには食用の水鳥から副産物として取ったダウンを用いており、1羽につき1度限りで10~20gしか取れない。
 さらに、水鳥はゲル状の脂を分泌する尾脂腺という器官を腰にもつ。その脂をくちばしで全身の羽根に塗ることで、脂が水を弾き、ダウンの暖かい空気の層を守り、保温効果を高めている。
 冬の水辺で見られる、水に浮かんで頭を翼と胸の間に突っ込んでまるまって眠る水鳥を浮寝鳥と呼ぶ。浮寝鳥も冬の季語で、辛い心情を詠う詩歌に頻繁に登場してきた。しかし、気持ちよさそうにぐっすりと眠る水鳥たちには思わずホンワカしてしまう。水鳥は冬を超える暖かい特徴だけでなく、見るものの気持ちもほっと暖める稀有な存在なのだろう。

Salty Log〜今月の海通い広島でサワラに遊んでもらう

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アーキペラゴをボートで走るのは楽しい。瀬戸内海には周囲0.1Km以上の島が727、広島県には142もの島が浮かぶ

 岡山での「海苔養殖」の取材を終えてから、ボートフィッシングを楽しみたいと広島へ移動した。広島では毎年、ボートフィッシングの大会が行われており、これまでに何度か取材したことがある。そのときの釣果はいつも盛大だった。目を引くのはなんと言っても70cmを超える立派なマダイの姿である。そんなマダイとの出会いを求めての広島釣行である。

島影に満足、曳航中の養殖筏に注意。

 今回の遊びでお世話になったのはシースタイルのホームマリーナ「デルタマリン江波マリーナ」。マリーナの事務所を訪れると、同店の長濱有輝さんが出迎えてくれた。これまでにもボートフィッシングで取材してきたとはいえ、このエリアでロッドを振るのは初めての体験である。しかも、独りでの釣行である。まったく何も釣れないことは恥ずかしながらよくあることだが、それでも広島まで来たのだ。何とか魚に遊んで欲しい。メインのターゲットはマダイである。有力なポイントを数カ所教えてもらい、早速、フネにタックルを積み込み、長濱さんに見送られながら舫いを解いた。
 いくつもの島々が浮かぶ日本のアーキペラゴ「瀬戸内海」は世界でも注目されるクルージングエリアである。マリーナを出るとすぐに世界遺産登録されている宮島(厳島)の神々しい姿が目の前に現れる。天気が今ひとつ、そして海上は予報に反して寒かった。それでも引き波の向こうに遠く見えるいくつもの島影を眺めていると「広島だなあ」「瀬戸内海だなあ」との実感がわいてきて、かなりの満足感である。これで魚が釣れれば言うことは無い。
 景色の良さにうっとりしてばかりもいられない。絵の島という小さな島の近くに特に気をつけるべき暗礁帯が一カ所あると長濱さんから教わっていた。さらに瀬戸内海は船の交通量が多い。そして牡蠣養殖の筏。訪れた前日、筏に乗り上げる事故があったばかりだという。さらに航行中に気づいたことがある。養殖筏を曳航している船があることだ。筏自体、平坦で視認しにくい形状なので、ゆっくりと走っている養殖作業船に出会ったらその後方に十分気をつけたい。

あり合わせのタックルでサワラを狙う

 最初の目的地でマダイを狙った。60gのタイラバ、そしてタングステンジグを試した。タイラバにあたりがあった。タイラバをはじめた頃は、あたりがあってフッキングに成功すると何が釣れているのか最後までわからず、それが楽しみでもあった。ところが最近は、少なくとも掛かっているのがマダイで無いことぐらいは察しがつくようになってしまった。それでも魚信があるのは楽しい。最初に釣れたのはエソであった。エソを「かくれた高級魚」などという人がいるが、いや、それは本当なのかも知れないが、外道にはそのような肩書きがついていることが多い。残念な釣果の言い訳ではないのか。エソさんに申し訳ないが、「がっかり」な魚であることに違いは無い。その後もひたすらエソ。そしてなんとか釣れた唯一のマダイは手のひらサイズ。マダイ釣りとしては惨敗といっていい。
 昼過ぎになって潮が変わると、マダイを諦め、青物を狙うことにした。長濱さんによるとハイシーズンの休日には100隻近くが集まる有力ポイントがあるという。いまはサワラかハマチが釣れるはずだともいう。ルアーはスピンテールジグを勧めてくれた。ふだん東京湾で使っているボートシーバス用のスピニングロッドに、整理ができずにぐちゃぐちゃになったルアーケースから、これも東京の湾奥でシーバスに使用しているスピナーのついたバイブレーションを引っ張り出してセットした。どこか違うような気がするが、ルアーはともかく、少なくともこのシーバスロッドではまあまあのサイズのイナダやサワラを釣ってきた実績があった。
 ポイントは広島湾に流れ込む河川の河口沖。確かにベイトが集まりそうなエリアだ。なんどかルアーを投げてリトリーブしていると、“ゴツン”と言うあたり。慎重に寄せてネットに収める。メーター近いサワラである。ハマチに比べて走らないし、もっさりしていて釣趣は今ひとつの魚だが、このサイズが釣れるとなるとやはり楽しい。ルアーの小さなトレブルフックは伸びてしまっていた。
 鰆と書いてサワラ。春の魚であるように感じるが旬は秋から冬にかけてである。まだしばらくは楽しめるだろう。
 なお気軽にサワラを刺身で食べている人がいる。新鮮なサワラの刺身は確かに美味い。しかし、アニサキス(食中毒を引き起こす寄生虫)のいる可能性がそれなりに高い魚であることは忘れたくない。特に刺身で食する場合、調理は慎重にしたい。

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デルタマリンから出港。近辺には広島観音マリーナ、広島ボートパークといったシースタイルのホームマリーナがある
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マダイは残念ながらリリースサイズのみ。そう簡単は行かない
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サワラはメータークラス。ボートシーバス用のスピニング。PE1号に16lbのリーダーで。慎重に取り込んだ

海の道具代わりがきかない存在「ウインチハンドル」

 特殊なマリンアクセサリーの話で申し訳ないとあらかじめお断りしておく。ウインチの、さらににそのハンドルの話である。 ウインチとは巻き上げ機のことで、ボートにもウインチはついているけれど、ほとんどが電動式となっている。ボートの場合、ウインチはアンカーを巻き上げる時に使用する。
 一方、ウインチハンドルが必要となるのは、手動のウインチが活躍するヨット、セーリングクルーザーに限られる。
 自然を相手に航行するヨットは極力電力や動力を使わないようにしようと考える。それはもうストイックというくらい拘っているセーラーが多い。その考え方の根底には、動力や電力はなくなってしまうことがあるが、体力や自然の力(風や波)は無くなることはない、という思いがあるのではないだろうか。いや、体力こそ、すぐに消耗するだろ、といえばそうなのだが、食うなり寝さえすれば回復するだろうといった反論が飛んでくる気がする。
 ウインチで巻き上げるのは、主にセールだ。ウインチの頭の部分には*型の穴があり、そこにウインチハンドルの先端にある*凸型の突起を入れる。そうしておいて、ハンドルをぐるりぐるりと回していけば、ウインチに絡んだロープが巻き取られていくのだ。電動ウインチにも同じような機構がついているものもある。ウインチハンドル自体の機構は至極単純で、唯一メカニカルなのは、ラチェット式になっているものがあって、一方向にだけしか回らないようにすることができることくらいか。
 ヨットにはたいていアンカーウインチが複数本常備されている。もし航行中に落水させて予備がなかったら変わりが利かないからだ。
 地味で単純だが代わりがきかない存在、なんだかちょっと羨ましい気もする。

その他

編集航記

師走となり、いろいろなことが目まぐるしく動いています。殺気だった忙しさのなかで、ほっとさせてくれるのが手元に届いたばかりの2020年のヤマハマリンカレンダー「SEASCAPE」です。世界の様々な水辺の表情を切り取った写真の数々。一見して海の風景写真のようでも、その中には必ず、どんな小さくてもヤマハの製品が写っている。余裕とこだわりが同時に感じられる気持ちのいいカレンダーだなあと思います。気持ちを抑えられず、12月までめくりながら、来年の自身のマリンライフ思い描いています。カレンダーはただいま、ワイズギアのサイトで販売中。よろしかったら訪ねてみてください。


(編集部・ま)

〈ワイズギアカレンダー販売サイト〉https://www.ysgear.co.jp/e-shop/special/2020calendar/marine.html

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