篭壺漁
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
タコ壺漁
三重県神島
定置されているタコツボを左舷のローラーで引き揚げる。親子ならではの阿吽の呼吸は、鮮度にデリケートな真ダコ漁には欠かせない
青春文学作品の金字塔として、今も読み継がれる三島由紀夫原作の「潮騒」。その舞台となり、自然の厳しさと美しさが表裏一体であることを感じさせる神島は、古くから漁業の島として栄えてきました。 その神島に伝統漁として伝わるタコツボ漁を訪ねました。
伊勢湾、三河湾の内水と黒潮の支流がぶつかる神島周辺は、その潮流により豊富な魚種が集まる好漁場を形成しています。もちろんタコツボ漁もその例外ではありません。神島の伝統漁業として、今も行われているタコツボ漁は、その質の良い真ダコが取れることから、習わしとしてツボを仕掛ける場所の取り決めがあるといいます。
「現在、神島では11軒がタコツボ漁をやっているのですが、場所は半年ごとのくじ引きで決まっているんですよ。だいたい1軒あたりで4から5縄の割り当てがありますけど、当たりの場所はその時期になってみないと分からないから難しいですよ」
と話すのは神島でタコツボ漁を営んでいる藤原兵欣さん。近年は年毎に潮の流れや天候が大きく変化し、昔から『当たりの場所』と伝えられる所であっても必ずしも漁がいいとは限らないといいます。
神島のタコツボ漁は潮汐で出漁の時間が決まるそうで、漁に同行させていただいた日は日が昇る6時に出漁となりました。
「タコツボ漁に一番適しているのは、潮回りが大潮の日で、下げ潮から上げ潮に変わる時間です。ですから漁の時間としては一潮分(約6時間)以内には終わりますね。ツボ自体が定置ですし、特に朝出なければいけないということはないですし。本当に海まかせの漁です」
一縄の長さはおおよそ10尋分あり、ツボの数は100個程度。最初に揚げだしたのは港から2マイルのポイントでした。
「このあたりで水深が25mから26mぐらいです。だいたいツボを仕掛けてあるところは底が砂地の場所です。泥地に比べタコの餌が豊富ですし、タコにとってもツボに入りやすい条件が整っています」
作業は兵欣さんと父親の昭吾さんの阿吽の呼吸で手早く行われます。タコの大きさは冬場で3kgから5kg、夏は1kgというように季節によって個体の大きさが変わるそうです。この日の漁でも季節の変わり目ということで2kg前後のタコが大半でした。
「タコ漁でいい時期は12月前から正月にかけてと、梅雨が明ける頃ですね。大きい方がもちろん値が張って商売にはいいんですが、個人的には小ぶりのタコの方が好きですね。商品の価値はありませんが結構美味しいんですよ」
神島で獲れる真ダコは高級魚として流通しているため、鮮度の維持に最も気を遣うと兵欣さんはいいます。
これから年末にかけてが真ダコ漁の最盛期。昨年進水した冨士丸<DY-45G-0A>が藤原さん親子の真ダコ漁を力強くサポートします。
壺の大きさは2種類あり、時期によって使い分ける。ちなみにこちらは、大きい方の壺
冬場になれば5kgクラスの真ダコが獲れる
父、昭吾さん。漁に出てから55年。70歳になっても現役の大ベテラン
漁に出て22年になる兵欣さん
昨年進水した<DY-45G-0A>。潮流が激しい、外洋型の海況にあっても船の安定性は抜群だという