採貝藻
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
モズク漁
長崎県大村湾
仕訳作業後に出荷するため、大村湾でのモズク漁は二人組で行うのが主流
世界初の海上空港として大村湾内に浮かぶ長崎空港。その周辺ではディーゼル船での底曳き網漁に加え、テンマ船と呼ばれている小型和船を用いた漁が盛んに行われています。今回は昔ながらの漁具を使ったテンマ船でのモズク漁に同行しました。
20尺のテンマ船、恒進丸上で出漁の準備を続けるのは、16歳で漁を始め今年で34年めになるという二嶋富寛さん。
新城でのモズク漁の主な漁場は、長崎空港の設置されている簑島周辺。遠浅の地形が続くこの地域は大村湾の中でも良好な漁場として知られており、兼業や廃業など漁業離れが進むなかあって、いまなお80名近くの専業者が操業を続けています。
水深2~4mほどの岸寄りの浅場では、夫婦2人で乗り組んだ夫婦船が操業する姿があちこちで見受けられます。
漁場に到着すると、竿先にブラシ状の部品が付いた"モズク採り"と呼ばれる漁具を用いて、箱メガネをのぞきながら藻に付着したモズクをていねいに掻き採っていきます。
「テンマ船での漁はどうしても腹ばいでの作業が多くなるんで、吃水の浅い船がいいんだ。船外機はやっぱりヤマハだね。4年前から4ストロークに換えたんだけど、燃費の良さには驚かされますよ。エンジン音も静かだから、走りながらでも話しができる」
二嶋さんが所有する2隻のテンマ船には50馬力と25馬力のいずれもヤマハ4ストローク船外機を用いています。当日の漁に用いた〈恒進丸〉にはF-50Aが装備されていて、風や潮に流される船を巧みに操りながら、2時間ほどの操業で15キロほどのモズクを水揚げしました。
「このあたりでは、年輩者などにはモズクを専門にやっている人もまだ多いんですよ。値段もひと頃に比べて下がったとはいえ、天然ものなので1キロが700~800円で取り引きされているし、多い人だと1日に30キロ近く水揚げするからね」
モズク漁の本場・沖縄で水揚げされるモズクに比べ、細めというのが大村湾のモズクの特徴。歯応えはあまりないのですが、その滑らかさには定評があり、秋のナマコとともに大村湾を代表する味覚として県内外の市場でも高値で取り引きされているようです。
昨今の健康食ブームで栄養価の高い食材として注目されているモズク。そのモズク漁を続ける二嶋さんは、忙しい漁の疲労を片時も見せず、まさにモズクパワーとでもいえるような俊敏な動きで次々とモズクを採っていきます。
今も古来の方法で漁が行われる大村湾のモズク漁は初夏の陽気を告げる5月まで行われます。
箱メガネを口で支えて海底をのぞきながら、海草に付着したモズクを竿先のブラシで掻き採っていく
水深に合せて数本用意された竹竿の先には、ヘアブラシによく似たブラシが取り付けられる
細やかさが特徴の大村産モズク
大村湾で漁をはじめて34年のベテラン・二嶋富寛さん。生まれ育った新城でモズク漁をはじめ季節ごとに様々な漁に取り組んでいる
水揚げしたモズクは、港や自宅に持ち帰り、出荷時間までに不純物を取り除く仕分け作業が施される
当日水揚げされたモズクは、午後2時に大村市漁協に隣接する出荷場で計量され、各地の市場へと運ばれる