一本釣り
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
イナダ・ヒラマサ一本釣り
福岡県玄界島
最高で29ノット強出るという「一心丸」。奥は玄界島で写真に写っているのがほぼ全建造物
博多湾の入り口に浮かぶ玄界島。周囲4km、最高海抜218km、お椀を伏せたような形の島には、860人に島民が暮らし、その8割近くが何らかの形で漁業に関わっています。 玄界島と言えば手釣りの一本釣り。今回は一新丸を建造した伊藤一若さんを訪ねました。
玄界島に生まれ育った伊藤一若さんは、小学生の頃から海に出て、中学を出ると同時に父親の木船に乗り、32歳で<DY-52B-0A>を購入して一人立ちしました。
「DY-52は本当によく走った。12年間乗ったけど、エンジンは一度も故障したことはなかった。(エンジンが)当たりだったんだろうね。エンジンはどこの誰が造ったって当たり外れがあるといわれるけれど、ヤマハの場合は当たり外れの差がスゴク小さいんだ」
というように、伊藤さんは根っからのヤマハ党。伊藤さんに限らず、ここ玄界島では8割近い漁船がヤマハで占められています。
養殖が皆無で、網を使った漁法もほとんど行われない玄界島では、専ら手釣りの一本釣り。漁師として根元的な技量が試される厳しいロケーションは、同時に漁船にも「船」本来のポテンシャルが要求される場でもあります。玄界島の漁師さんたちは、ヤマハの漁船に船としての底力を見たのです。
「一本釣りでも網でも、経験がモノを言うことにかわりはないよ。入れ食いの時は手さばきの速さだし、食いの悪いときは微妙なポイントをいかに見つけ出すか」
夜明けとともに出港した20~30隻もの船団は、まず一本釣りの針に付ける生き餌を捕ります。大小様々な船でチームを組んで網を引く作業。ここで各船に餌を分けた後は、それぞれのポイントへ散っていきます。それまで共同作業をしていた相手が、その瞬間からライバルに変わるのです。
「すぐ隣の船は釣れるのに、こっちは全然ダメってこともあるくらい、ポイントは微妙だよね。だから、いかに早くいいポイントを確保するかにかかってくる」
この1月、乗り慣れたDY-52Bから<DY-57A-0A>に乗り換えたのも、スピードを求めてのこと。
「もうカタログの写真見て一発で決めちゃった。弟(源太さん)はキャンペーンで試乗したんだけど、そのキャンペーン艇だから本当の1号艇だね」
「前の船は24ノットくらいだったのが、これは30ノット近く出るからね。玄界島で一番速いって書いといてよ(笑)」
「52は乗り心地は最高だったけど、こいつはサイズが大きい分さらにいい。特に追い波の時の安定性がスゴクいいね。意外だったのは黒煙がほとんど出ないこと、船尾も全然汚れてないでしょ」
シーズン直前に進水したこともあって、艤装はまだ半分も終わっていないとのこと。これから6月中旬までヤズ(=イナダ)、ヒラス(=ヒラマサ)、タイ、スズキなどの一本釣りのシーズン。伊藤さんと「一心丸」も休む間もなく、フル稼働の季節が続きます。
バウデッキには生け簀6つ。様々な漁法に対応できるよう、集魚灯用のステーも配した
後部デッキには生け簀2つを配した。アルミ枠の屋根部分は、今後FRPで作る予定
操舵室。航海計器は左から魚探、GPS、レーダー。前方、側方とも視認性はよい
左から義弟の中村文美さん、船主の伊藤一若さん、右端が実弟の玉川源太さん。一本釣りはこの3人が『一心丸』の乗組員となる
船主の伊藤一若さん。玄界島に生まれ、小学生のころから海に出てきた、玄界灘を知り尽くした男
進水がシーズン直前だったこともあって艤装は半ば。後部デッキのオーニングやスパンカーもまだ装備されていない。奥に見える陸地は糸島半島