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Salty Life No.188

ソルティライフは海を愛する方々の日常生活に、潮の香りを毎月お届けするメールマガジンです。

ソルティライフ

「磯焚火(いそたきび)」という早春の季語があります。海に潜って仕事をする海女たちが、体を温めるために浜で起こす焚き火をそう呼ぶようです。
まだなお寒い日が続くものの、立春も過ぎ、海の景色のなかに、小さくとも暖かな春を見つけるのが楽しい季節を迎えました。
Salty Life No.188をお届けします。


Monthly Columnボートショーの季節がやってきた

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ジャパンインターナショナルボートショーの横浜ベイサイドマリーナ会場。セールボートのマストにたなびくバナーがショー気分を盛り上げてくれる(2018年撮影)

 まもなくアメリカのフロリダで「マイアミインターナショナルボートショー」が開幕する。世界最大規模といわれるこの国際ボートショーは日本にもファンが多く、読者の中にも訪れた方は少なくないのではないか。ところが筆者は行ったことがない。この時期、日本で行われるボートショーの準備に何かと忙しく、よほどの決意がない限り、訪米が困難なことになっている。
 というわけで、ここらからはいわゆる聞きかじりになるのだが、とにかく楽しいらしい。
 2019年のマイアミボートショーは2月14日から18日の5日間。コンベンションセンターやマリーナに分散した会場の規模は言うに及ばず、何しろ出展されるブランドはボートだけでも250近くに及ぶ。それに合わせてエンジンメーカーや用品・部品、もちろんセールボートなどを合わせるととても1日だけでは見て回ることはできないだろう。
 来場者向けに様々なセミナーも行われ、USコーストガードとボートドライビングテクニックを学ぶトレーニングなどはとても興味深い。安全指導だけでなく、コーストガードからドライビングテクニックを教えてもらえるところが「アメリカらしい」ではないか。
 筆者の数少ないアメリカのボートショー体験のひとつに、今はもうなくなってしまった「シカゴボートショー」が挙げられる。もう20年ほど前の、コンシューマーショーではなくビジネスショーであったが、マリン用品だけでひとつのコンベンションセンター1館分が埋まるほどの規模で、アメリカのマリン市場の大きさ、奥深さを思い知ったのであった。
 日本のボートショーといえば、なんといっても日本マリン事業協会が主催する「ジャパンインターナショナルボートショー」だろう。かつて晴海で「東京国際ボートショー」として開催されていた頃は、マイアミほどではないにしろ、すべてを見て回るにはクタクタになる程のボートやヨット、マリン関連用品が出展されていた。その後、バブル経済の崩壊とともに会場は縮小され、東京ビッグサイト、幕張メッセと会場を移し、いまは神奈川県のパシフィコ横浜と横浜ベイサイドマリーナへと会場を変え、名称も変わった。
 一時期は来場者数もかなり落ち込んだが、実はこのところかなり盛り返しているのである。やはりマリーナと屋内展示の2会場にしたことがひとつの要因と捉えているが、どうだろう。横浜ベイサイドマリーナ会場の特設桟橋に並ぶボートの数々を見ていると、その場にいるだけでもウキウキと楽しい気分になる。
 メイン会場となるパシフィコ横浜では前回より「海ゼミ」というイベントが行われている。様々なテーマで講師がマリンレジャーのあれこれを教えてくれるという、ビギナーにとっては嬉しい企画で、前回はすべてのプログラムがほぼ満席だったようだ。
 こうしたプログラムだけでなく、私が感じるボートショーの魅力はなんといってもボートを開発したメーカーのスタッフと直接話ができること、そして「四日間で数万人ものマリンファンが集う」ということ、そのものにある。前者はなかなか得られない機会で、モノづくりにかける人々の思いを直接伺い知ることができて有意義だ。後者はかつて海で出会った多くの人たち、これから海の仲間になる人々がこの4日間、横浜に集結することが嬉しい。素敵なことだと思っている。
 今年のジャパンインターナショナルボートショーは3月7日から10日までの4日間。多くの「海好き」の方々の顔を見るのが今から楽しみだ。

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昨年のヤマハブース。ボートはもちろん、スポーツボート、マリンジェットも展示。ヤマハの開発スタッフもいるので面白い話が聞けるかも(2018年撮影)
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ヤマハのフラッグシップ「EXULT43」。昨年、見逃した方はベイサイドマリーナ会場へ。おそらく展示されるはずです(2018年撮影)
田尻 鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、本格的に海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界45カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。1963年東京生まれ。

キャビンの棚無骨な漁師団に舞い込むビッグビジネス「鯖」

 「雑賀衆を味方にすれば必ず勝ち、敵にすれば必ず負ける」。戦国時代にそう謳われた「雑賀衆」は伝説的な射撃の名手である雑賀孫市の傭兵集団である。本作「鯖」は「海の雑賀衆」と呼ばれ、一本釣りにこだわり絶海の孤島を拠点にする無骨な漁師船団の物語。
 彼らはかったくりと呼ばれるばけ(疑似餌)を使う釣法を駆使し、獲物を釣り上げる。冬に一本釣りで獲るサバは脂がのって絶品、刺身で食べれば鯛やサワラに勝る滋味をもつと言われている。一本釣りの鯖の卸値は網ものに比べ倍以上をつける。なかでも彼らのサバは格別の美味さを誇る。
 船団のルーツは紀州の岬である雑賀崎。紀州は漁法の開発が盛んで「およそ明治以前の漁法で、紀州人が開発しなかった漁法を見つける方が難しい」とまでいわれた土地である。一本釣りも例外ではなく、紀州雑賀崎は昭和初期まで一本釣りの聖地と呼ばれていた。
 当時の紀州では一本釣りの漁場を受け継げるのは漁師の長男だけで、それ以外のものは船団を組んで新天地へ旅立つしかなかった。本来ならば徒党を組んで他の地域に乗りこむことは、地元の漁師から反発を買う。しかし行くさきざきで卓越した一本釣り技術を伝授することで歓迎を受け、戦国の世に実在した伝説的な傭兵集団になぞらえて「海の雑賀衆」と呼ばれた。
 それから時代は現代に流れ、船団の平均年齢は50歳を超えた。円熟した技術をもつ彼らだが、その暮らしぶりは厳しい。風呂なし、便所なしの臭く不潔な小屋で冬の厳しい寒さに耐えながら生活している。時に入るまとまった金は居酒屋チェーンで瞬く間に消える。船団には暴力事件を起こし故郷から追放されたものや精神を病み家族を失ったものなどさまざまな理由で一般社会と距離をとるものばかりが残った。栄光の「雑賀衆」は没落し、彼らの生活は貧困している。
 そんな彼らにIT長者によるビッグビジネスの話が舞い込む。船団のサバで発酵食品であるヘシコを製造して中国の富裕層に販売する。資本の投入で最新の魚探やGPS、AISを搭載した漁船が配備され、船団には大卒の新メンバーや若い女性スタッフが加わる。高級中国酒を酌交わす毎夜の宴席やメンバー間での恋愛で船団はかつてからは想像もできない姿に変貌をとげていく。
 作者は、昨年62歳で作家デビューを果たした赤松利市。新卒で入社したサラ金の会社を経てはじめたゴルフ場のビジネスに失敗し、路上生活も経験したという。異色の経歴をもつ作家が初の長編にて書く船団は伝説の雑賀衆に近づくのだろうか。

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「鯖」
著者:赤松利市
発行: 徳間書店
定価:¥1,700(税別)

船厨オールドソルトのこだわり「ドライマティーニ」

 1月、多くの海の男たちが敬愛していたであろう、田邊栄蔵さんが逝去された。93歳だった。ある時代、ヨット・ボートの専門誌「KAZI」にエッセイ「キャビン夜話」を書き続け、マリンファンに影響を与えてきた。インタビューの中で田邊さんがこんなことを語ってくれたことがある。
 「ドライマティーニを出せるバーがないところはヨットクラブとは言えない」
 こんな極端な話を疑問もなく納得してしまうのも、田邊さんに深く染み込んだ潮気のなせるところであった。
 ジンベースのカクテル「ドライマティーニ」は、ヘミングウェイも愛飲していたらしい。彼は自身が好きな酒を作品に描くことで知られている。
 彼の代表作「日はまた昇る」では、ラストシーンで主人公がこのカクテルを「マティーニにオリーブを入れてほしいんだけど」とオーダーしなおす。「武器よさらば」にも「サンドイッチが来て 、ぼくはそれを三きれ食べ 、マーティーニをもう二杯飲んだ。ぼくはそんなに冷たく爽やかなのを味わったことはなかった」という一文が出てくる。(いずれも高村勝治・訳/原文ママ)
 007のジェームス・ボンドは、ジンではなくウォッカを使い、さらにシェイクではなくステアされたたマティーニにこだわっていた。初めて映画化された「007ドクター・ノオ」はシリーズ6作目だが、後半で悪玉のドクター・ノオがボンドにマティーニをすすめるシーンが描かれている。

 ドクター・ノオがすすめる。
 「マティーニだ。シェイクしてある」
 「ウォッカか?」とボンドが聞く。
 「もちろん」とドクター・ノオ。

 ボンドの酒の好みまでを把握している悪役の狡猾さと同時にボンドのマティーニに対するこだわりがうかがえる。以降、ボンドの酒としてほとんどの作品にウォッカマティーニが登場することとなる。
 マティーニはシンプルなカクテルだが、男たちのこだわりによってさまざまなスタイルが生まれてきたのだ。
 なお、1962年に公開された「007ドクター・ノオ」はカリブ海のジャマイカが舞台となっている。改めて観てみると、音楽やダンス、素朴で美しい海、ボートの数々。酒を抜きにしても、海好きにはたまらない映画のひとつであることに気づかされる。

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「ドライマティーニ」
■材料
ドライジン45ml、ドライベルモット15ml、オリーブ
■作り方
ミキシンググラスに氷とジン、ベルモットを入れステアし、カクテルグラスに注ぎ、オリーブを入れる

海の博物誌流氷を最も南に運ぶ海

 オホーツク海の冬の風物詩である流氷。「流氷」は学術的には海の用語であり、川や湖を氷が流れても流氷とは呼べない。海を流れる氷こそが流氷だ。 
 一月中旬に北海道のオホーツク沿岸に姿をみせる流氷は、11月中旬にオホーツク海の北西に位置するシベリア付近のシャンタルスキー湾で誕生したものだ。それから約2ヶ月をかけて北極から吹く季節風と東カラフト海流に乗り、時速約0.7キロのスピードでロシアのサハリン島に沿って約1000キロを南下する。
 通常、海水は塩分を含むために、氷点下1.81℃から凍りはじめる。そして深さにより水温は異なり、絶えず動くので凍りにくい。しかし北海道に来る流氷を生むオホーツク海のシャンタルスキー湾は他の海に比べ塩分濃度が少ない。たくさんの真水がシベリアを流れるアムール川から流れ込むからだ。しかもアムール川の河口近くは浅くて穏やかなので、オホーツク海の表面が北風により急速に冷やされて凍りはじめる。オホーツクは北半球で最も南まで流氷を運ぶ海なのだ。
 北海道で行われてきたある祭りがこの数十年の間に流氷の早期退散を祈るものから早期到来を祈願するものに変わった。かつて流氷は港を塞ぐ厄介者と認識されていたが、近年では豊富なプランクトンを繁殖させることなどが判明した。網走のあるバーではウイスキーと流氷を削ったアイスでオン・ザ・ロックを味わうのが静かなブームとなっているという。流氷は厳しい冬の暮らしを少し明るくする冬の風物詩へとイメージを変えつつある。

Salty Log〜今月の海通い海の景色がいつもと違って見えた。

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マリーナから眺める東京湾。対岸は房総半島。わくわくします

 県道から住宅街の路地を通り抜けてマリーナへ向かう。下り坂に差し掛かると海が見える。その海は朝の光を受けてキラキラと輝いていた。もちろん曇りの日や雨の日もあって、海は毎回キラキラしているわけではないけれど、この道から見える海の景色はいい。心踊らせ、マリーナの駐車場に滑り込んだ。

三度目の正直というが

 神奈川県横須賀のサニーサイドマリーナ浦賀から、3回目のタイラバフィッシングである。初挑戦の時はホウボウが釣れた。2度目の挑戦では何も釣れなかったが、同乗していただいたマリーナスタッフがマダイを釣り上げてくれた。その時は改めて「東京湾」で「タイラバ」というこのヘンテコなルアーで本当にマダイが釣れるのだと実感することができた。あとは自分が釣るだけである。
 この日はついに「三度目の正直」が起きた。なんと編集子は63cmもの見事なマダイをタイラバで釣ってみせたのである。この出来事は想像以上に心躍らせた。
 風が少し強かった。それでもよく晴れた海は美しかった。ポイントについてはこれまでの釣行でもマリーナスタッフから大まかな情報は得ていた。それと机上で得た知識だが、マダイは岩礁地帯周り、砂地にときおり岩礁が点在するようなエリア、さらにカケ上がりなど海底に変化があり、プランクトンが滞留しやすく餌が豊富な場所に棲息することまでは理解している。あとはポイントとなるエリアとその海底の状況をGPS魚探で付けあわせていけば良いのだ。マダイさえそこに居れば釣れる、必ず釣れる。根拠はそれほどないが、釣れない時というのはたいていそこに魚がいない時だ。そう考えている。
 条件に合いそうな水深45mのポイントでタイラバを落とし込む。巻いては落とし、巻いては落とす。その繰り返し。ときおりポイントを変えながらひたすらそこにいるはずのマダイを誘った。
 仲間のタイラバに最初にかかったのは、おなじみのトラギスである。このあと何も釣れない可能性が高いような気がして写真に収めておいたが、なかなか美しい。そこで満足しそうになるが、粘った。が、それからかなり長い時間、あたりすら無い。心がくじけそうになる。

うっすらと見えてきた魚体の輝き

 釣りを始めて2時間ほど経ち、あたりが来た。ガツ、ガツ、ガツ。あわせずに巻き続ける。そして魚が乗った。この時点では何の魚かわからない。引きは強い。それなりにドラグは効いていたと思うが、それでもラインが引き出される。何しろタイを釣ったことがなかったのでこれがタイなのかさっぱりわからないが、ほとんど横に走らないことから青物でないことはわかった。
 ロッドとリールを慎重に扱いながら見えぬ獲物を手繰り寄せる。うっすらと姿が見えてきた。また、ホウボウか。さらに手繰り寄せるとなんと美しいピンク色をした「マダイ」ではないか。
 ここからはいくぶん冷静さを失い、かなり興奮した。イメージしていたものとは比べ物にならないそのサイズが興奮に輪をかけ、無事にネットに収めデッキに入れると「うぉー!やっちまったー」と声に出して叫んでいた。釣り慣れたアングラーから見たら大袈裟なリアクションかもしれないが、それほどに嬉しかったのである。そして、一匹の魚でこんなに喜べるとは想像すらしていなかったのも事実だ。タイラバファンの方には申し訳ないけど、この釣りをなめてました。
 その後、3時間ほど粘ったものの、マダイはついに釣れず。それでも興奮が収まらない。マリーナへ戻る時、気のせいか海の景色がいつもと違って見えた。

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ついに釣ることができたマダイは63cmのナイスサイズ
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こちらはトラギス。いわゆる「雑魚」ですが美しい。この日はタイラバでシーバスも釣れました
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マリーナオフィスの二階にあるお気に入りのパン屋さん。帰宅後、マダイのブイヤベースとともにいただきました

海の道具化粧上手な「レール」

 ボートをよく見てみると、あちらこちらにレールが張り巡らされていることに気づく。特にバウ、船の先方部分にはぐるりと取り囲むように設置されているものが多い。ボートのボディの堅強さからすると華奢に見えるかもしれないけれど、取り付け部分はしっかりと補強されていて、人が寄り掛かろうがぶら下がろうが、びくともしない。それもそのはず、元より乗船者の落水を防ぐのがその主たる役割なのだから頑丈なのは当たり前なのだ。
 とはいえ、やはりボートの外見上はスマートに、本体のフォルムを損なわないようにしなければならないから、そこは設計者の腕の見せ所だ。そんな設計者の苦労を思い浮かべながら改めてレールを眺めてみると結構興味深い。
 カジキ釣りなどで活躍する大型のスポーツフィッシャーマンなどはバウデッキでファイトすることなどほとんどないから、ステム(先端の波切り部分)のかけあがりの角度を意識しながら、横から見た時のイメージがシャープに見えるように前方に突き出すようにデザインされているものが多い。
 一方、最近流行のルアーフィッシングを想定したフィッシングボートは立ち上がったアングラーをしっかり支えられるように、腰骨辺りまで立ち上げたレールが取り付けられている。これはこれで、機能美というか、いかにもしっかり釣りをサポートしてくれそうな雰囲気を醸し出していて、頼もしい。
 大きく目立つレールばかりではなく、3〜40cm位の短いレールも船体のそこここに取り付けられている。何気なく取り付けられているように思えるが、実際乗船してみると、ボートが揺れた時に、「おっ」と手を伸ばすと不思議とそこにレールが設置されていることに小さな驚きを覚えるはずだ。
 どこにどんなレールを取り付けるか。それがデザインとどうマッチするか。まるで化粧上手な女優のナチュラルメイクのようなレール使いが、個人的には好みです。あなたはいかが?

その他

編集航記

毎年わかりきっているのに対応しきれない「2月問題」。ようするに、他の月に比べていつもより2〜3日、仕事の締め切りが前倒しになるという問題です。月末、油断しているといきなり3月1日がやってくる。ゴールデンウィークや夏休みなどの連休前はそれなりに対処できるのですが、なぜか2月はギリギリになって慌てふためくのが常です。それでも「2月は海に行く回数も減りがち」なんてことはまったくないのですけどね。

(編集部・ま)

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