Salty Life No.210
ソルティライフは海を愛する方々の日常生活に、潮の香りを毎月お届けするメールマガジンです。
2020年もいよいよ師走に突入です。
この一年間、多くの人にとって激動の年となったかもしれません。
それでも海はそこに在り続けていて、私たちを出迎えてくれます。
海に出かければいつでも予想しなかったプレゼントを受け取ることができる、
そんな気になります。
この年末、皆さまのところにもすてきなプレゼントが届きますように。
「Salty Life」No.210をお届けします。
Column●セーリングチームの小さな感動創造
キャビンの棚●築地に生きる人々の哀歓をさわやかに描く人間ドラマ「魚河岸ものがたり」
船厨●おうちで贅沢な「勝手丼」
海の博物誌●100兆円が動く、洋上風力バブル
Salty Log●初冬の温かな海、一人で過ごす至福。
海の道具●単純こそ命「燃料フィルター」
Yamaha News●1年の終わりに。ヤマハマリン60年の歴史をどうぞ/使用後の船外機、どうすればいいの?お手入れ方法をチェック
今月の壁紙●「Salty Life」オリジナル壁紙
Monthly Column●セーリングチームの小さな感動創造
- 11月に開催された470級の全日本選手権。ヤマハの髙山/盛田ペアは4位という成績
2020年11月11日から15日にかけて、神奈川県の江ノ島ヨットハーバーにおいて「2020年第49回全日本470級ヨット選手権大会」が開催され、ヤマハセーリングチームの髙山大智/盛田冬華ペアが出場した。結果は総合4位。チームを結成したばかりの髙山/盛田にとって、この大会では失うものもなく、楽な気持ちでチャレンジできたようだ。世界ランキングの上位セーラーが3チーム、さらにこれまでの全日本選手権では常に好成績を残してきた女子チームなど、強豪セーラーが揃って参加していたなかで、結果を残したといえよう。
髙山大智は高校時代に420級世界選手権優勝のタイトルを獲得。2016年に日本大学への進学と同時にヤマハセーリングチームに加入し、東京五輪の男子470級の代表を目指してきた。代表経験のあるベテランクルーの今村公彦とのペアを組み、チームのエースとして目標に向かって邁進してきたが、惜しくも目標には手が届かなかった。ヤマハセーリングチームは3組のペア、男女併せて6名のチームで活動してきたが、2019年に代表の座を賭けて戦った最後の大会を終えた後、セーラーとして残ったのは髙山一人のみとなった。
2020年の春、髙山大智は日本大学を卒業し、ヤマハ発動機に入社、社会人セーラーとしての道を歩み始める。そして2024年のパリ五輪から採用されることとなった470級の「ミックス」(男女混合)という新たな種目に照準を定め、クルーに法政大学に在学中の4年生、盛田冬華を迎え入れた。
盛田は高校(千葉県立磯部高校)入学と同時にヨットを始めた。高校時代には420級世界選手権に出場、大学4年時には女子インカレ優勝を果たすなど、恵まれた体格を生かし、トラピーズディンギーのクルーとして活躍してきたセーラーだ。
「身長があるだけではなく、とても頭のいい選手だと思って見てきました。冷静そうに見えますが、常に挑戦的、そして船の動かし方の感覚に優れていると感じています」と髙山は期待を寄せている。
4年の間、ベテランの今村から多くを学んできた髙山だったが、これからは名実ともにスキッパー(艇長)としてレースに臨むこととなる。本人もそれを望み、クルーのスカウトは髙山本人が深く関わり、盛田に声をかけた。
全日本選手権大会は髙山/盛田のペアにとって初のビッグレガッタとなった。
「4位という成績は、今の僕たちにとっては上出来だと思っています。相手はみんな世界ランキング上位のセーラーでしたし、総合では4位でも、一つ一つのレースでは対等以上に走れました」と髙山は手応えをかみしめレースを振り返っていた。
一方、盛田は「最後のメダルレース(決勝レース)では実はものすごく緊張していたのですが、2レースを通して(今大会は変則的にメダルレースを2レース実施)ミスなく走りきることができました。ほっとしていますし、自信にもなりました」と大会を振り返る。
大会の終盤を迎えた週末、彼らが活動の拠点としている葉山マリーナでは、YMFSジュニアヨットスクール葉山(ヤマハスポーツ振興財団)の子どもたちがヨットを楽しんでいた。新型コロナウィルスの影響でいつもは4月から始まるスクールの開校は6月に延びたが、それでも例年の倍以上の子どもたちが新たに「ヨット」に挑戦することとなった。
自粛ムードが蔓延する中、やはり開放的なマリンスポーツが注目されたのかと思い、ヨットスクールの校長に尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
「いや、それよりも東京オリンピックに向け、メディアでセーリングが取り上げられる機会がとても増えました。その影響で自分もヨットに乗ってみたいと思う子どもたちが増えたのだと思います」
そういえば、こうした社会情勢にもかかわらず、今回の全日本選手権にはテレビや新聞社など多くのメディアが取材に訪れていた。もちろん彼らの目当ては代表選手の活躍だったが、さらに先を見据えてミックスで活動を開始した髙山と盛田のチームも取材を受けていた。
髙山らは主会場であった江の島ヨットハーバーでは子どもたちとの記念撮影にも応じていた。
セーリングは陸からの観戦もままならず、サッカーや野球のように日の目を見る機会がほとんどない。それでも、トップセーラーと一緒に写真に収まる子どもたちの姿や賑わうヨットスクールの様子を目の当たりにすると、彼らの活動がその成績だけにとどまらず、子どもたちに夢やチャレンジ精神、さらに「海で遊ぶこと」の楽しさを伝えてきたのだということが感じられ、じんわり、しみじみと感動するのである。
セーリングチームの「感動創造」にこれからも期待したい。
- 新たに髙山のクルーとして加入した盛田のセンスに期待
- 葉山でセーリングを楽しむ子どもたち。素晴らしい「海の記憶」を人生に刻んでいる(2020年2月撮影)
- 田尻 鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、本格的に海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界50カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。1963年東京生まれ。
キャビンの棚●築地に生きる人々の哀歓をさわやかに描く人間ドラマ「魚河岸ものがたり」
「マグロの解体ショーは投獄された仲間への魚屋の粋な計らいだった。」――魚河岸築地に伝わる小話である。魚は一匹までと決まりのあった江戸の刑務所に、「これも一匹の魚だ」と一人の魚屋が大きなマグロを抱えて現れた。その場で豪快にさばいて罪人や看守に振る舞った逸話が拡がったというもの。気風が良く情に厚い魚河岸築地らしい話として伝わった。
そんな魚河岸に、とある秘密を抱えたひとりの青年が密かに移り住んだ。彼と下町に生きる人々との交流を描いた人間ドラマが本作「魚河岸ものがたり」である。
魚屋や寿司屋をはじめ乾物屋、珍味屋、八百屋、ラーメン屋など様々な店が軒を連ねる。ここで大切なことは「どこの誰か」ではなく「どんな誰か」ということだ。青年は町に住む人々と打ち解けながら、秘密が解決する日を待っていた。
しかし親しくなればなるほど過去の秘密を隠すことは難しい。また青年も図らずも誰かの秘密を暴くことがあるのだ。意外な人々が家族や仕事に秘密の問題を抱えているのかもしれない。
著者は、森田誠吾。老舗の広告代理店で社長として経営に当たっていた60歳で2作目となる本作で直木賞を受賞した。「こんな巧い人がまだ残っていたのかと驚き、かつ、嬉しくなった。直木賞に要求されていた大人の目を再認識させられた」(山口瞳)、「登場人物も変化に富み、読後の後味もよかった」(池波正太郎)――直木賞の審査員からのコメントが寄せられている。これが古き良き時代の人間模様なのかと憧れてしまう昭和60年発行の心温まる一冊である。
- 「魚河岸ものがたり」
著者:森田 誠吾
発行:新潮社
参考価格:¥1,200(税込み)
船厨●おうちで贅沢な「勝手丼」
北海道・釧路の和商市場に勝手丼という食べ物がある。まず市場の中の惣菜屋さんでご飯を買う。そして、数多とある市場の魚介をばらで少量ずつ買い、ご飯に載せていく。文字通り、勝手に好きなものを載せていく。勝手と行っても、そこは財布の中身と相談しながら、ということになる。1000円ほど出せばそれなりの海鮮丼ができあがる。3000円もあれば相当な贅沢ができるだろう。想像しただけで北海道に脚を伸ばしたくなる。
考えてみれば消費者にとっては合理的なシステムで、なおかつ食事が魅力絶大のイベントとなる。和商市場だけでなく、他の地域でも同じようなシステムがあるが、おそらく和商市場が元祖と言って良いだろう。
知るところでは宮城県塩釜の市場にも同様のシステムがあって、ここでは「マイ海鮮丼」と呼ばれている。塩釜の市場の魅力はこのほかに炭火で魚介を焼くコーナーがあるところ。イカやサンマ、牡蠣など季節によって魅力的な食材を焼いてその場で食べることができる。
さて、お客様へのおもてなしに家庭で「勝手丼」を試してみた。魚屋で目に入った刺身類を片っ端から手に入れた。考えれば、いや、考えなくてもわかることだが、それなりの経費を要する。もともと貧乏旅行をする若者に美味い物を安く食べさせてやりたいと思った釧路の鮮魚店が考えたのが勝手丼の始まりというが、これではその主義からは大きくそれる。さらにへたをすると「いつもの手巻き寿司と変わらない」といった批判も出そうだ。
だがネタが違う、ご飯が温かいという点で、これはまごうこと無き「特別」な料理である。クリスマスや正月など特別な日に楽しんでみてもいい。
- 「勝手丼」
■材料
好みの鮮魚、魚卵、貝類を好きなだけ、醤油、わさびなど
■作り方
どんぶりに炊きたてのご飯をよそい、食卓に並んだ魚介を各自が載せてる
海の博物誌●100兆円が動く、洋上風力バブル
「洋上風力発電」が20年内に1兆ドル(約104兆円)規模の市場に到達すると見込まれている。洋上風力発電は陸上よりも風の乱れが少なく大型化が容易で安定的で効率的である。この分野で世界をリードする英国では、高さ約190メートルの風車85基からなる「ウォルニー・エクステンション」が完成し、60万戸以上に電力を供給している。欧州では2050年までに発電量を25倍にする予定だ。また、陸上の風力発電で、世界で最大の施設をもつ中国でも、洋上風力発電において10年以内に世界最大に達する計画があるという。世界が消費する約23兆kWhの電力で、洋上風力発電はまだ1%未満の供給率であり、今後急速な拡大が見込まれる。
一方で日本は施設の設置や撤去について統一ルールの整備が遅れたことなどで実用化はまだ少ない。昨年ようやく洋上風力発電を普及する法が施行され、2030年までに原発10基規模の電力を供給する予定である。約1兆kWhの電力を消費する世界4位の消費国(2016年調べ)である日本でも豊かな海洋資源を活かした「洋上風力発電」が身近なものになっていくはずである。
Salty Log〜今月の海通い●初冬の温かな海、一人で過ごす至福。
- 美しい朝。静かな海での一日の始まり
よく晴れた、静かな海でした。たったひとりになってボートを浮かべました。会話はないけれど、様々な言葉が常に頭の中を流れていきます。ひとりの海は、悪くありません。(編集部)
朝早く千葉県館山の船形漁港に到着。前日に雨が降り、かつ気温が上昇したため、ここまでやって来る途中の道路に霧がかかっていました、幸いなことに日が昇っても少し霧が残っていて、船形漁港から見える対岸の丘の中腹にうっすらと霧がたなびいていました。とても美しい朝です。
直前になって一緒に遊ぶことになっていたメンバーからキャンセルの連絡があり、この日は一人きりでの出港です。漁港の岸壁に舫われたSR-Xに釣り道具やら弁当を積み込むと、髪型と眼鏡を変えて雰囲気がかなりソフトになった高尾商会の高尾さんがいつものように舫いを解き、優しく見送ってくれました。
港の外には静かな館山の海が広がっています。
その静かな海にボートを走らせると、いつものように幸福感が込み上げてきます。おそらく多少の時化でも幸福に感じたでしょう。海とはそういうものです。友人が来られなくなったのは残念ではありますが、一人になったことで、その幸福感が何倍にも膨れ上がっていくような気がしました。
この日は真鯛を釣りたいと願い、タイラバのタックルと、アジやサバの群れに出会ったときのために小型のタングステンジグをセットしたスピニングロッドを持参してきました。高尾さんによると今年は夏に水温がかなり上がって、それが下がりきらず、例年通りの釣果は期待できないかも、とのこと。そもそも、このところ真鯛は小さいものしか釣れていません。ヘボだという自覚はあるし、それほどの期待もしていません。
それでもいくつかの根を回り、魚探をチェックしながらタイラバを落とし、海中の様子をあれこれ想像しながらルアーを巻き上げる作業は楽しくて仕方の無いものです。
魚のアタリはたくさんありました。雑魚フグが多いです。フグがタイラバにアタックしてくると十中八九、ネクタイ(タイラバに着いているヒラヒラしたラバー)が食いちぎられ、いくら用意していても足りません。散々な目に遭いました。それでもガシガシとルアーに食いついてそれなりに走り回ってくれるので楽しいのです。
この日はコンビニ弁当ではなく、家で作って持ってきた弁当がランチです。前号の船厨のコーナーにあった「焼きサバの棒寿司」を作りました。スタンレーの魔法瓶に入れたお茶はしっかりと熱々でした。波がほとんど無い、温かな日射しに包まれた海の上にぷかぷかとボートを浮かべながら焼きサバ寿司を頬張りました。この時間もまた幸せです。
フグがいないところではカンパチの幼魚(ショコ)とサバが釣れました。それほど多くはありませんが持ち帰って家族で食べるには充分な量です。
あまりに穏やかな海で少し眠くなってきたこともあって、陸に上がりました。午後の2時を過ぎた頃でしたが、日は傾き、影が伸び、港は夕方を感じさせる景色になっていました。暦の上では秋が過ぎ、冬が始まっているのですね。
- この日乗船したSR-X。新しいGARMINのGPS魚探に馴れるのはもう少し時間が必要そう
- 真鯛は予感もなく、結果はフグ&ショコ祭り。写真はショコ
- これまで気づかなかった景色を発見。船形の崖観音。養老元年(777年)に建立された
海の道具●単純こそ命「燃料フィルター」
石油ストーブに始まり、車など、およそ化石燃料を燃やして稼動する機器にはフィルターがセットされている。もちろんボートも例外ではない。それどころか、かなり凝った作りになっている。なぜなら燃料が途切れる、イコール漂流だからだ。
船外機用フィルターを例にとろう。
先ず取り除くものとしては燃料に混入したごみ類で、これは直接エンジンや気化器などを傷めるのでしっかり取り除きたいが、固体なので目の細かいフィルターを使うことで解決するのでわりに容易だ。
問題は燃料と同じ液体である水分。
どうして水分が燃料に混入するかというと、主に外気と燃料タンク内の温度差による結露が原因とみられる。
水分を取り除く方法は、撥水性フィルターでいったん油分と分離させた水分が比重の関係でフィルターの下のケースの底に溜まるといったやり方で、フィルターから先に水分がいかないようになっている。水分が溜まるケースは透明で、中にプラスチックのリングが入っていて、溜まった水の水面に浮かぶので、水の溜まり具合が判るようになっている。ケースの最下部にはコックがついていて、そこから溜まった水分だけを抜き取るというわけだ。こう書いてしまうとなんだか単純そうではあるが、単純にすることにこそポイントがあって、電気式にしたり複雑な機構を用いるとそれだけ故障になる要素が増えるわけで、壊れにくく扱い易く交換作業などメンテも手軽にできるためには、機構は極力単純にしなくてはならない。
そうそう、錆対策として、オール樹脂製にしているのも、マリンならではだろう。単純とみられるものほど、実は深謀遠慮の塊だったりするのだ。と、日ごろ単細胞呼ばわりされている身としては強く言いたいっ!
その他
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編集航記
2021年のマリンカレンダーが届きました。表紙はニューカレドニアの海への出港シーン。まだ薄暗い海の中で豪快な引き波の飛沫がひときわ白く輝き、船出の歓びや、興奮を想起させ、海への思いを募らせてくれます。この一年間でたいへんな世の中になりました。それでも毎月、このメールマガジンにお付き合いくださった読者の皆さまと海を想い、どんなときでも海へ出たいと願い続けてこられたことは、編集子にとってこの上ない歓びです。来年も皆さまにとってすてきな一年となりますように。
(編集部・ま)