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Salty Life No.211

ソルティライフは海を愛する方々の日常生活に、潮の香りを毎月お届けするメールマガジンです。

ソルティライフ

あけましておめでとうございます。
暖かに身支度して、
穏やかな一日を見つけて海へ出かけてみませんか。
体は温かく、それでいて顔に当たる風の冷たさは心地よく感じられる─。
冬の海の魅力です。
「Salty Life」No.211をお届けします。


Monthly Column日はまた昇る

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早朝の館山・船形漁港。うっすらと朝靄がかかる美しい海もこの後、視界がまったくきかない海に変貌する

 昨年のある冬の日、友人に誘われて館山からボートで海に出た。早朝、ほんのりと東の空が明るくなり始めた頃、舫いを解いて沖に向かってゆっくりと走り出した。ところが一瞬にして霧が濃くなりはじめた。港口に建つ灯台すら視認できず、ぼんやりとした緑色の灯りがそこに防波堤の端があることを示している。出られないこともないように思えたが、賢明な友人は「ちょっと怖いですね。少し待ちましょう」といって広い港内で船足を落とし、霧が晴れるのを待った。10分ほどすると霧は晴れ、太陽の光が辺りを照らしだした。視界の良くなった海に出てみると、穏やかな海が広がっていた。思っていた以上に停泊している大型船があり、その中には甲板に乗組員の姿が見える潜水艦もあった。視界のない中、衝突でもしていたらえらいことになっていた。迂闊に急がないで良かったなと、友人の判断をたたえた。
 霧がいつまでも海を覆うことはない。どれほど時間がかかろうが、待てば必ず日が照り、晴れるのだ。「日はまた昇る」のだ。いいな、と思う。
 ところで、海を愛した作家、ヘミングウェイが書いた有名な小説に「日はまた昇る」というのがある。第一次大戦時に青年期にあった若者、つまりロストジェネレーション=失われた世代の自堕落な青年たちを主人公としたヘミングウェイにとっての出世作である。小説の内容から察せられるように、本来の「日はまた昇る」は、私が使ったポジティブな捉え方とは異なって「空しさ」を表す。ヘミングウェイがパリのシャルトル大聖堂を訪れた際、聖書をひもとき、その中にあった言葉からタイトルを決めたのだと伝わっている。特定の宗教の聖典の話で不快に感じた方がいらしたらごめんなさい。でも、ヘミングウェイにまつわる豆知識として話を続ける。
 件の聖書の言葉は「空の空、いっさいは空である」と始まる。その後には「日はいで、日は没し、その出た所に急ぎ行く。風は南に吹き、また転じて、北に向かい、めぐりにめぐって、またそのめぐる所に帰る。川はみな、海に流れ入る、しかし海は満ちることがない。川はその出てきた所にまた帰って行く。」と書かれている。いずれも海に出かけていくたびに出会ったり、感じたりすることだけど、私を含め、海の好きな人たちの多くはそれらの事象に空しさを感じたりはしない。むしろ「海っていいよな、自然って不思議だ、すごいな、素晴らしい!」などと、純粋に、脳天気に感動しているのが常のはずである。
 かようにして、人は置かれた立場や生き方によって、目に映るものに対する感じ方、受け取り方が千差万別だ。そもそもガルフストリームに船を出し、夢中でカジキを追っていたヘミングウェイが、太陽や風や青い潮流を見つめながらいつも空しさを感じていたとは思えない。たしかにそのときのヘミングウェイは、生きることに苦悩を抱えていたかもしれない。仮にそうだったとしても、海の上に身を置いていた間は、再び昇ってくる太陽の光に出会い、鳥の飛ぶ澄んだ空を仰ぎ、カジキが潜む潮流を見ることが嬉しくてたまらなかったはずだ。
 くどくど書いたけど、要するに少なくとも筆者=私は、海に出ていってまで落ち込んだり、暗い気持ちなったりはしたくないのだよね。
 誰にでも生きていれば暗黒のような時間はある。そして霧に覆われても、嵐に見舞われても、暗闇に包まれても、それでも分け隔て無く、人は、再び昇ってくる日を目撃し、光を浴びることができるのである。
 昨年いろいろなことがあって大変だった人にも、そうでなかった人にも、2021年が光り輝きますように。幸福な海での時間が訪れますように。

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日が昇り、霧が晴れ、海の全容が明らかになってきた
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館山湾には潜水艦も浮かんでいた。甲板に人影が見える
田尻 鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、本格的に海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界50カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。1963年東京生まれ。

キャビンの棚海のワルツ、ウィーン・フィル「ニューイヤー・コンサート 2019」

 元旦のニューイヤー・コンサートは、90ヵ国、5億人が視聴する世界的なイベントだ。この祭典で7度も演奏された、クラシック音楽で珍しい「海」をテーマにしたワルツがある。ヨハン・シュトラウス2世の「北海の絵」という曲だ。
 ヨハン・シュトラウス2世は、ウィンナ・ワルツの礎を築いた名門シュトラウス家の2代目で、その象徴的な人物である。代表作「美しく青きドナウ」を発表したのちに、舞台音楽に身を入れていた50歳代の頃の代表作が「北海の絵」だ。
 「北海の絵」は、病気の療養中に訪れた北海のドイツ北部のフェール島で生まれた。内陸都市ウイーンで育った彼にとって、海の干満や荒れた海が大きなインスピレーションとなった。美しい旋律や軽快なリズムといった彼らしい序盤から、後半にかけドラマチックに展開することで彼は海を表現したのだろう。国内の解説本によるところでは「北海の絵」は、メンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」に通じる色彩の豊かさを感じさせる作品だとされる。
 ところで、ドビュッシーの交響詩「海」は別格的として、海をテーマとするクラシックの曲は数少ない。とくに内陸都市ウイーンの代表的なクラシック音楽のワルツではことさら稀有な存在となる。そういった意味で「北海の絵」は貴重な存在だ。
 さて、今回のアルバムは、一昨年の「ニューイヤー・コンサート 2019」を作品化したものだ。指揮者は、カラヤンのアシスタントを務めていたクリスティアン・ティーレマン。20年近くウイーン・フィルと共演し、満を持して、4曲目の「北海の絵」をはじめとするウイーンワルツを美しく指揮した。ワルツは舞踏会など宮廷文化に取り入れられた格式高い音楽のようだが、本場ウイーンの人々にとっては馴染みのある自然を表現した大衆的な音楽だ。同様にこの海のワルツも現地の人々の馴染み深い調べとなっている。

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「ニューイヤー・コンサート2019」
レーベル:SMJ
アーティスト:クリスティアン・ティーレマン
参考価格:¥2,710(税込み)

船厨鍋の影の王者「石狩鍋」

 鍋が最も美味い季節である。新年号にふさわしい鍋は何かと考えていたら「石狩鍋」を思いついた。
 少し古い記事だったが、あるネットリサーチで約4000人の男女を対象とした調査に基づく好きな鍋のランキングが発表されていた。ところが、石狩鍋の名がベストテンどころか30位以内にも入っていない。その理由を考えてみたが、おそらく堂々たるランキング1位の「寄せ鍋」と「海鮮鍋」に吸収されてしまっているのではないか。石狩鍋よ、お前はそれでいいのか。酒が飲める大人の中に石狩鍋の名を知らぬ者などいないはずなのに。
 北海道は日本一飯の美味い処であると編集部内で認定されている。石狩鍋はその北海道・石狩地方の郷土料理である。出汁は北海道産の昆布。具材の中心は北海道産の鮭だ。さらに北海道産のホタテを添えてもいいかも。いっそのこと北海道産の蟹も入れてしまえ。北海道産の大豆で作った豆腐も入れよう。もちろん北海道産大豆で作った味噌で仕立てる。後になってみつけた石狩市の公式動画をみたところ、本場の石狩鍋は、野菜に北海道産のジャガイモ、特徴としては北海道産のキャベツも入れる。
 なるほど、納得した。やはり石狩鍋は鮭を中心とした北海道産の「寄せ鍋」なのかもしれない。
 贅沢をして、最後に北海道産のイクラを添えてみた。見栄えが華やかになったが、真っ先に食べないと、北海道産味噌バターコーンラーメンのコーンのようにバラバラになって鍋の底に沈んで食べにくくなってしまうのでご用心。

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「石狩鍋」
■材料(4人分)
鮭4切れ(カマが手に入れば加える)、イクラ1パック、春菊4〜6株、白菜4枚、キャベツ4枚、玉ねぎ1/2個、長ねぎ1本、木綿豆腐1丁、しらたき1パック、味噌80〜90g、酒大さじ2、みりん大さじ2、出し昆布1枚、だしの素(粉末)大さじ1程度
■作り方
1)鍋に昆布を敷き水を入れ、あればカマを入れて火にかける
2)鮭の切り身は半分に切る。野菜は食べやすい大きさにザク切り、豆腐は8等分に切る
3)1の鍋のアクを取り野菜を加えて煮る
4)鮭と豆腐、しらたきを加え火が通ったら、だしの素、酒、みりん、味噌を加え、味を整える
5)イクラを散らす(取り分けた後に乗せても良い)

海の博物誌日本の音風景「流氷鳴り」

 「耳を澄ませば聞こえてくる、目をとじれば浮かんでくる」ーそんな自然音を「残したい日本の音風景100選」として環境省が選定した。そのリストを開くと真っ先に「オホーツク海の流氷」が目に入る。
 流氷は、毎年1月下旬から3月中旬にかけて北海道の網走や知床のある道東エリアを中心に流れ着く自然現象だ。その港や浜辺で耳をすますと、「ギシギシ」、「ピシピシ」と様々な音が音色を変えて聞こえてくる。それが地元で「流氷鳴り」と親しまれる冬の風物詩だ。
 流氷が浮防波堤となり、波の音を抑えることで生まれる静寂さも特徴だという。その中を氷の間を吹き抜ける出し風の高い音や氷の塊同士がぶつかりあった低い音が響く。
 北海道は流氷が発生する南限となる。同じ緯度のイギリスでも流氷は見られない。流氷は、真水の割合が高く低塩度になるオホーツク海ならでは現象。そんな流氷鳴りは日本の音風景なのだ。

海の道具ケチらず満タン「ガソリン保存剤」

 最近、マリンジェットをはじめとする水上オートバイのメンテナンスケミカルの一つに、「ガソリン保存剤」なるものがあるのを知った。
 ガソリンなんか、なるべく空気に触れさせなけりゃ悪くならないものだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。確かにウォータービークルはシーズン性の強い乗り物で、多くは秋の終わりから春が熟すまでの半年位は艇庫やガレージに眠ったままであることが多い。
 これが同じ1シーズンしか使わない機器でも石油ストーブなら簡単に燃料も抜き取れるが、ウォータービークルともなると、そうそうガソリンをきれいに抜き取っておくことはできない。
 燃料が劣化すると何がいけないのかというと、イグニッションノズルという燃料の吹き出し口が小さいので、不純物が溜まって詰まってしまうのだ。軽度の詰まりならば燃料の噴出が続くことで除去されることもあるが、徐々に詰まっていって沖合でエンジンストップ、なんてことになったら泣くに泣けない。
 ガソリン保存剤の使い方としては、タンクにガソリンを満タンにしておいて、ガソリン容量に応じた分量のガソリン保存剤を注入するだけ。大体1リットルに対して1%程度のようだ。
 ガソリン保存剤を節約しようとして、保管時のガソリンを少なくするのは効果がないとの事。やはりガソリン劣化を防ぐ第1歩は空気に触れる面積が少ない事であるのは間違いないところのようだ。折角いいガソリン保存剤を使っても効果が出ないのでは本末転倒。
 シーズンスタート時にめいっぱいマリンジェットを堪能するためにも、ここはひとつ、きっちり満タンにしておこうじゃありませんか。

その他

編集航記

あけましておめでとうございます。皆さんの初日の出はいつでしょうか。「いつもと同じ太陽の周りを地球がぐるぐる回ってるだけだろ。いつ見ても同じじゃ無いか」なあんて、私のようなことは言っていてはだめです。まだ拝んでいない方は、ぜひ早起きして願でもかけてみて下さい。「初日の出」参拝は、古くから日本にあった行事のようですが、広まったのは江戸時代になってから。江戸の庶民の風習として盛んに行われるようになり、さらに明治以降、全国への普及していったようです。なお、日本でいちばん早く日の出を拝める場所は南鳥島です。一般人は上陸できませんので、来年は行ってみようなどとくれぐれも無謀なことはなさらぬよう。観光もできる父島へどうぞ。


(編集部・ま)

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