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Salty Life No.214

ソルティライフは海を愛する方々の日常生活に、潮の香りを毎月お届けするメールマガジンです。

ソルティライフ

昨年よりも早く訪れた桜前線。
すでにボートでお花見を楽しんだ方もたくさんいらっしゃるでしょう。
さて、お花見と言えば桜が当たり前になっていますが、思えば、春になると様々な植物が花を咲かせます。美しい花が世界中の水辺を彩ります。
そして心に安らぎを与え、明るくしてくれます。
桜は散っても「お花見」シーズンは続きます。
ボートで花を探しに行きませんか。
「Salty Life」No.214をお届けします。


Monthly Columnオール石巻!

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石巻の小渕浜のワカメの仕分け作業

 東北地方に住むあるSNSユーザーが「被災地に住む地元の人の多くはすでに復興が終わったと思っているが、東北に住んでいない人ほど復興は半ばだと感じているようだ」とつぶやいていた。言うまでもなく、10年前の東日本大震災のことである。もちろん被災者の感じ方には個人差がるだろう。実際に、ある建築関連企業が東日本大震災経験者(岩手・宮城・福島)20歳~69歳の男女600名を対象に行った調査によると、半数以上の人が「復興は完了している」と感じているとの結果が出ている。とはいえ、それはほとんどがインフラ面に対してのことであり雇用や経済に対しては厳しさを感じている方は多い。
 私が2月の終わりに訪れた宮城県の石巻市小渕浜のとある養殖漁師は、「ワカメについては完全復活といっていい」と胸を張っていた。
 小渕浜の名産である養殖ワカメの収穫は3月から4月が最盛期。ゴールデンウィーク前には全ての作業を終え、ワカメシーズンは終了する。コロナ禍による打撃はもちろんありそうだが、それでもワカメは今年も良く育ち、順調に収穫作業が続いている。
 10年前の3月、三陸地方を津波が襲ったとき、小渕浜で養殖を営んでいた漁師のほとんどは、かつて津波を経験した漁師たちから言い伝えられてきた教えを守り、フネを沖に出した。それをした漁師たちはフネを失わずにすんだが、ほとんどの港は壊滅し、戻る場所がなくなった。
 漁師たちは、流されてしまった養殖筏の、かろうじて残ったアンカーに付いていたロープを海中から探り出し、それをフネに繋いでしばらくの間、海の上にとどまっていた。ようやく陸に上がることができたとき、変わり果てた町並みや港を見て愕然とした。家々がなくなっていた。ホヤやカキ、ワカメなどの養殖が盛んな海だったが、その施設、沖に出せなかったフネも無くなっていた。これからどうしたらいいのか、何をすればいいのか、考える意欲さえをも失った。
 茫然自失とするなか、しばらくするとあちこちから集まってきたボランティアたちが、瓦礫の中に埋もれ壊れていた養殖資材を、高台にあって難を逃れたワカメの作業場が建つ土地の隅に集めてきた。まだ使えるものと、そうで無いものが振り分けられ整理されていく。そんな光景を最初はぼんやりと眺めていた漁師たちの心が動いた。
 「俺たちはどうする?」「俺たちもなんかすっぺか?」
 こうして少し時間はかかったが、ゆっくりと動き出す者が出始めた。
 種付けから出荷までに3年はかかるホヤ、早くても2年近くかかるカキに比べ、半年後には出荷ができるほど成長の早いワカメは、養殖の復興にはもってこいだった。少しだけ残った養殖資材を利用し、可能な資金援助も受けながら、小渕浜のワカメ養殖は復興へと歩みをはじめた。
 漁師に限らず、多くの人々が、周囲の人々の姿や何気ない言葉に励まされて「人間」を取り戻すことができたことに気づかされる。漁師たちに船やエンジンを供給してきた石巻市内のあるマリン店の社長もほぼ全てを失った。かろうじて津波の難を逃れた息子の軽自動車に社員たちと一緒に乗り込んで、廃墟と化した漁村の道なき道を走って回ったときのことを思い出す。実はやる気をなくして再興を諦めかけたともいう。それでも社長は「お客さんである漁師たちに励まされてここまで来られた」と、この10年間を振り返る。そしてどうせやるなら “オール石巻”で復興させようと決意した。関連する漁業機器メーカーなどあらゆる取引先を石巻の企業で固め、この10年を歩んできた。
 もともと名産だった石巻のワカメは、年々出荷量を増やしていく。いま、小渕浜では最新鋭の大型作業船や最新鋭の大型船外機が次々と導入されている。北米で注目され話題となったヤマハ最新式の大型船外機「F425A」もここ石巻に、日本で初めて導入された。
 寒さの中にも春の訪れを感じさせるあたたかな陽差しに包まれた小渕浜の港では、ワカメの仕分け作業が行われていた。人々の笑顔はそんな春の陽射しのようにあたたかく、朗らかだった。
 いまやワカメの水揚げは、震災前の水準を大きく上回っている。

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ワカメの養殖場へと向かう作業船
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小渕浜には最新鋭の船と船外機が目立つ
田尻 鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、本格的に海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界50カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。1963年東京生まれ。

キャビンの棚瀬戸内の日常を見つめた映画「港町」

 牛窓の港に近づくと、真っ先に見えるのは法蓮寺の三重塔だ。海辺に映えるこの塔もさることながら、室町時代に建造された本堂も素晴らしい。古来より東西の交通の要だった瀬戸内海には風待ちや潮待ち港として栄えた町が点在するが、なかでも牛窓は歴史情緒あふれる美しい町だ。
 本作「港町」は、牛窓を舞台にしたドキュメンタリー映画である。耳の遠い、腰の曲がった86歳の老漁師ワイちゃんは、夜の漁に向かう。そんなシーンから物語ははじまる。彼の魚は、朝には市場で競りにかけられ、魚屋に並び、町民だけでなく港の猫にまで行き渡る。この50年間、ずっと営まれてきた港町の生活を本作はとても細かく描写する。
 監督である想田和弘は、リサーチなし、台本を書かないという独特の手法で映画を数多く制作してきた。このことで先入観や固定観念を排除でき、目の前の現実に集中できるのだという。奥さんの実家である牛窓で、ワイちゃんに出会い、直感的に映像に残すことを決めた。
 牛窓は、近年西日本最大級のヨットハーバーや、斜面に広がるオリーブ畑などの新しい名物により「日本のエーゲ海」と呼ばれ、観光地として注目されている。旅行者にとって、異国情緒のある魅力的な港町に変貌したが、それにつれ、住民の日常は大切な何かが変わっているのかもしれない。
 島国・日本の外に開かれた窓、港町。ドイツをはじめ国外の映画祭で好評を得た本作は、牛窓という港町をどのように見せてくれるのだろうか。

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「港町」
(2018年/日本・アメリカ)
■監督・製作・撮影・編集:想田和弘
■販売元: 紀伊国屋書店
■価格:3,800円(税別)

船厨赤酒が引き立てる「ホタルイカの炊き込みご飯」

 春になると季節を感じる食材がいろいろと思い浮かべることができる。キャベツやブロッコリー、椎茸などの野菜は言うに及ばず、イチゴやキウイフルーツ、夏みかんも春らしい。魚介では何を思い浮かべるだろう。年に2回の旬があるカツオは一回目の旬を春に迎える。潮干狩りが楽しめるアサリやハマグリもまた春の風物詩といえるだろう。釣魚として少々ハードルが高いが金目鯛なども春の魚として人気である。
 そしてホタルイカも代表的な春の食材。富山湾では毎年春になるとホタルイカが大量に浜に打ち上げられる「ホタルイカの身投げ」が話題になる。浜辺が青い発光体で覆われるその現象の美しさは素晴らしいが、そんなホタルイカを掬おうと(身投げから救うわけではない)、網を持って浜辺に集まる食いしん坊たちの姿も目に浮かぶ。
 新鮮な刺身や、茹でたのを酢味噌でいただくなど、いくつかのホタルイカの食べ方が思い浮かぶが、それほどレパートリーが浮かばない。ぱっと思いつくのは、困ったときのシーフード料理の代表格「炊き込みご飯」。
 今回は九州・熊本出身の食いしん坊のアドバイスに従い、みりんの代わりに熊本の赤酒を使ってみた。赤酒は正月の屠蘇で知られるが、調理酒としての実力は相当なもので、煮物に使用すると魚などの身が締まりすぎない、甘さ控えめでキリッとさせる、素材のうま味を増すといった特徴がある。
 新鮮なホタルイカのせいか、初めて炊き込みご飯に使ってみた赤酒のせいか、炊きたてのホタルイカの炊き込みご飯は強烈に美味い。春にしか口にできないことを思うとなおさらである。

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「ホタルイカの炊き込みご飯」
■材料(米3合分)
米3合、茹でたホタルイカ200g、生姜30g、醤油大さじ3、赤酒大さじ3
■作り方
1)米をとぎ、水に浸して30分ほどおく。水は後から加える醤油、赤酒の分を差し引き通常の分量よりやや少なめに
2)その間に全てのホタルイカから目を取り除く
3)釜の米に分量分の醤油と赤酒を加え、千切りにした生姜を載せる
4)さらにホタルイカを載せ、土鍋、または電子炊飯器で炊き上げる
5)炊き上がったら杓文字でまぜて椀によそう

海の博物誌地球を横断するうねり

 秒速23センチメートルは、水面を伝わる波の最低速度である。つまり理論上、波はこれ以下の速度にならない。波は絶えず動くのだ。  
 海の波は、風によって起こる。波が、風のないところまで動き続けるなど、風による力の発達がなくなると「うねり」と呼ばれる。うねりは、浜辺に近づけば全体が砕けて巻波になるが、浜へ近づかずにそのまま進み続けた場合は延々と、遥か遠くまで伝わっていく。
 アメリカの西海岸に到達した「うねり」を調べた研究によると、南極付近から流れてきたものもあった。その距離は1万7000キロメートルで、平均約40キロメートルの速度で10日がかりで伝わっていた。「さざなみ」などの波とは異なり、「うねり」は内部の摩擦が少ないため、地球を横断できるほどエネルギーをキープできるのだ。また、ハワイでサーファーが乗る「うねり」のなかにも赤道付近から到達しているのがあるそうだ。
 波の研究が本格的にはじまって約100年。しかし、海がどのように風から力を受け取り、波を発生させるのか、その仕組みについては、わかっていない。まだまだ謎を秘めた「波」は多くの人を惹きつけるのである。

海の道具きれいにする快感「ボート洗浄剤」

 ボートのハルといえばこれはもう、圧倒的に白が多い。理由は諸説あるようだがここでは論じない。
 今回の話題は洗浄剤だ。じゃあなぜハルの色から入ったかというと、ボート洗浄剤の対象がハルに着いた黄ばみに関係するからだ。
 そもそも黄ばみとは何だろうか。
 一つには海洋生物のたんぱく質によるものがある。係留している船で、喫水の上あたりについているものだが、上架しているボートでも、上げたときによく水洗いをしてないと、海水が付着していて、黄ばんできてしまう。また、ボートや近くにある金属物の、俗にいう貰い錆なども黄ばみの原因となる。
 これらをあまり擦らずに落としてしまうのがボート洗浄剤の特徴だ。
 プラスチックなどは、同じ黄ばみでも、プラスチック自身に含まれる物質が化学変化を起こして黄ばんで見えるので、それと同じ黄ばみ除去をやっても効果は薄い。それに、コンパウンドのきついワックスや磨き剤で表面をこそげ落とすと、その時はきれいになるが、その後荒れた表面は海水などが留まりやすくなって一層黄ばみが進んでしまう結果となる。そんな理由から、家庭用の強酸性の黄ばみ除去剤もあまりお勧めできない。
 ボート洗浄剤の有難いところは、スプレーして数分したところでみるみる効果が表れ、後は水をぶっかけるだけで作業が終わってしまう所だと思っている。使用前、使用後の写真などが良く掲載されているが、あの効果が実感できるのは、作業者としてもやりがいがある。
 しかも作業は楽ちんとくれば、それじゃあ、すっかり黄ばみが行き渡ってからボート洗浄剤を使うか……って、それじゃ本末転倒だってば。

その他

編集航記

今年に入ってから、なかなか狙った魚が釣れずに、いわゆる「外道」ばかりが釣れます。といっても、その外道たちがなかなか優秀なものばかりで、それはそれで楽しかったりします。先日は、シーバスと間違えるほどの大きなマアジがジグに食らいついてくれました。これ一尾を刺身にして大人4人で楽しく食事ができました。各地には春を告げる様々な釣魚があると思います。楽しみはまだまだ続きそうです。


(編集部・ま)

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