船体や艤装
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
『艫(とも)ひきはなぜ起こるのか?』
大漁ニュース 第14号掲載
いくつかの原因が考えられます。"艫ひき"が起きたときのことを考えてください。
ア)馬力の大きいエンジンに換装したとき。
イ)積載物が船の後方に集中したとき
大きく分けるとこの2つに代表されるでしょう。
船が水に浮かんで静止しているときは、船体の浮力の中心(浮心)と重力の中心は同一線上にあります。船が走り出すと、この重力と浮力のほかに、船底を流れる水流の変化による力が船体に作用してきます。この力は上向き(浮力と同じ方向)もあれば、下向き(重力とおなじ方向)の力もあります。
水の流れの変化で力の方向がどうなるのか、ひとつ簡単な実験をしてみましょう。
用意するのはスプーンとナイフです。水流には水道の水を利用します。図1のように、ナイフを水の流れに入れると、ナイフは流れからはじき出されるような、力を受けます。
次は図2のようにスプーンを入れてみましょう。(大きいスプーンを使って、柄の部分を軽く持ってください)するとスプーンは流れに引き込まれるように動きます。
さて船の形状、とくに船底の前後方向の形状を考えてください。漁船のような排水量型の船では、スプーンの形状と似た箇所があるわけです。従来の和船にもありましたが、FRPの和船ではスピードアップの目的から形を変化させています。
図1
図2
図3は、一般的な漁船の形状です。A印部分から後方がとくに"艫ひき"と関係します。
さきほどの実験でおわかりのように、図3のような漁船が走り出すと、A印付近に船底を水中に引き込もうとする力が発生します。この力は、低速のあいだは大きくありませんが、速度が増すに連れどんどん大きくなります。
馬力の大きいエンジンに換えた場合や、船底形状に対して過大な馬力で走ろうとする場合がこれに当たります。"艫ひき"の状態での走行は外観がわるいばかりか、抵抗も大きくて、馬力をうまくスピードに活用できないわけです。
図3
つぎに、イ)の場合は、計画した重心より後方での搭載物が増し、静止時から船の前後の傾き(トリム)が大きくなっている状態です。比較的直径の大きいプロペラを回す漁船では、船底のそり上がりとその後部の処理が難しく、後方における水流による上向きの力の発生が小さく、走り出しても船のバランスはよくならず、艫をひいてしまいます。
その他に、静止時と走行時のトリム変化は少ないのに、レールや防舷材のそり具合によって外観上、艫をひいて見えることがあります。図4のような場合です。このような場合は当然、船底形状や走行時のトリムの変更を試みてもスピードアップはできません。
和船について考えると、櫓や櫂で推進している時は、船底を後部でそり上げた方が抵抗は小さく軽く漕げたわけですが、現在のように船外機を推進機関に使い出すと、艫が下がるのは最初に説明したとおりです。これは、漁船と和船の重量当たりの馬力を比較すると、和船の方がはるかに大きいことで理解できるでしょう。
図4
※「設計室だより」は大漁ニュース掲載号の原稿を掲載している為、内容がお客様の船に合致しない場合がございます。漁船、エンジン、艤装品の詳細については必ず最寄りの販売店にてご確認をお願いします。