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日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
漁船設計者の浜ある記(5)イケスの位置にもワケがある。その(1)
大漁ニュース 第118号掲載
イケスの位置にもいろいろあります。それぞれの漁法によって、最も便利なイケスの位置というものがあるのです。でも、ただ単純に使いやすいからと位置を決める訳でもありません。船体の姿勢や喫水との関係など、イケスの位置もなかなか奥が深いのです。
「底曳船では、艫甲板が主流に」
イケスと言えばエンジンルームの前方に四間ほど設置されているケースが一般的かと思います。瀬戸内海の底曳船もエンジンルーム前に設置されていました。この地区の漁法としては網の袋の部分の揚げ方がそれぞれの船で異なります。ある船ではエンジンルームの前方に一本マストがあり、このマストを利用してエンジンルーム前に網を掲げ、漁獲を取り出し選別作業をするという方法と、艫にあるA型マストを使って艫甲板に揚げる方法があります。現在では作業が合理的な後者の方法を進化させ、ワイヤー、ロープ、網、すべてをドラムに巻き取る方式になってきました。
さて、このような方法の漁法が中心になってきたとなると、イケスの位置は、従来のエンジンルームの前のままでいいのか? といった疑問が湧いてきます。
山口県の宇部を訪ねた時でした。アリマシタ! 漁獲を艫甲板に揚げて選別しながらすぐ側のイケスに放り込んでいるレイアウトが。ネットリールの後方にイケスを設け、沖では漁獲をこのイケスに入れておきます。帰港後の水揚げの際はそのイケスから直接行っていました。このイケスのレイアウトだと、沖で漁獲をいちいち船首のイケスに運ぶという手間が省けるというわけです。
「スペースを有効活用した浦神の釣り漁船」
底曳船の他にも艫にイケスを備えている船があります。最近では、その数も地域も増えてきましたが、間取りの方法で特に面白かったのが、和歌山県勝浦町の浦神地区で教えてもらったものです。イセエビの刺し網、曳き釣り、一本釣りを行う33〜35尺の船でした。この船はプロペラの開口部に蓋をして、プロペラの真上を通常はイケスに使用しているのです。釣り作業のメインスペースは艫ですし、もともと水が入る区画として計画されている場所なので問題ありません。さらに船体姿勢への悪影響もまったく起こりません。うまくスペースを活用していることに感心したものです。
港に十分な水深がある場合、プロペラを引き揚げるスペースは無駄なもの。また、プロペラの真上に蓋をするので、周囲との抵抗減少やプロペラのエアドローも防止できます。イケスとしての広さは十分すぎるほどあり、唯一の難点と言えばイケスがやや浅くなることでしょうか。しかし一石何鳥もの名案だと思いました。
「船中イケスだらけのモジャコ船」
これらの傾向とは逆に船首のイケスを思い切り使ったのがモジャコ船ではないでしょうか。少なくとも大きな寸法のイケスが六間はあります。モジャコ採捕の大きな船では、大きな馬力のエンジンと航海日数に応じた多量の燃料を積み、さらにオーバーに加えれば、船中をイケスだらけにしているため、かなり浮力を失います。従って港から出て行くときも帰ってくるときも喫水が大変深くなっています。
通常、どのような船でもイケスの位置を決め、イケスとして使用するとき、船体と水面との関係を十分に考慮する必要があるのです。次号ではそのことについて語ってみたいと思います。
(つづく)
※「設計室だより」は大漁ニュース掲載号の原稿を掲載している為、内容がお客様の船に合致しない場合がございます。漁船、エンジン、艤装品の詳細については必ず最寄りの販売店にてご確認をお願いします。