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日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。

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漁船設計者の浜ある記(8)おらの港の船が一番

大漁ニュース 第121号掲載

 限られた船体の大きさの中で、使い勝手や能力をいかに高めることができるか? こうした工夫は、全国各地の浜で目にすることができます。そして、そのひとつひとつから漁師さんの漁や船に対する自負や熱い想いが伝わってきます。今回は漁師さんの経験から生まれたその土地ならではの船の特徴をいくつかご紹介しましょう。

イカのような瀬戸内の底曳船
 出艫で甲板スペースを拡大している最も特徴的な例が瀬戸内海の底曳船ではないかと思います。
 FRPの底曳船を造るため、瀬戸内海各地を調査した当時は、一部の地域を除くほとんどの地区でエンジンルーム前方に網を揚げていました。その方式では、前部甲板の広さが必要なため、後甲板のスペースに対する要求はさほど無く、一般的な出艫の長さでした。しかし、艫に網とワイヤーを巻く大きなリールを設置し、網を艫に揚げるようになると、当然のなりゆきながら艫の長さも幅も変化していったのです。
 艫の幅は漁具がすっぽりと入るまでに広がりました。そのため、このような作業をする船の最大幅の位置は船尾となり、上から見るとイカの頭のような三角形になっています。また、ブリッジは少しずつ前方へ移り、リールの操作スペースやリール本体、網を揚げて魚を選別するスペースのそれぞれを確保するために、出艫の長さも次第に延長されるようになりました。やがて出艫とその上の重量物を支える必要から、出艫の下にはブラケットが追加されるようにもなりました。
 一方、他地域では“出艫が長すぎると不正改造につながる”との判断から、長さをある一定の枠内にとどめる指導が行われるようになってきました。
 各地の状況を見ると、昔から出艫が短い船を要求してきたところもあり、主として北陸や東北以北でその傾向が見られます、その背景には、荒々しい海況という自然環境がありました。十分な乾舷により、海水の打ち込みは防げるとは言え、これらの地域では追い波での船の挙動を含めた過去の事故例等から、出艫がほとんど無い形状に移行していったようです。

イメージ

“イカ型”と言われる瀬戸内底曳船の代表格DT-48

ズングリ型の北海漁船
 北海道の漁船は、魚種に関係することなく、大排水量に対応した船型が要求されています。特に船首近辺の太り具合は実にたくましいと言えます。
 ホタテの養殖船の例では、多量のホタテや養殖資材の運搬に耐え、なおかつ養殖作業の関係から、海面から舷端までを高くできないので、平たく浅い方向が好まれます。しかし養殖以外の兼業や専業の場合も中古で転売の事を配慮すれば、完全に幅広で浅い船にはせず、性能基準の枠の中で幅を広げ、深さを浅くするのが一般的となるのです。このような枠の中で、できるだけ大きな積載能力を持とうとすると、太ったたくましい船型にならざるを得ません。
 他の漁についても比較的似たような要求から、できる限り積載能力を稼ぎながら、エンジンの高馬力化に対応した船が建造され続けることで、北海道独特の漁船が生まれたのです。
 
 各地の港を廻っていると、どこの漁師のみなさんも「おらの港の船が一番だ」と話されます。これは漁法や海況、さらに作業条件などを加味しながら、よりよい船にと進化させていった 自負や熱い想いがその言葉に表れているのでしょう。
 そして、作業方法の改善とともに、船型や配置はこれからも最適な姿に変化していくのだと思います。


※「設計室だより」は大漁ニュース掲載号の原稿を掲載している為、内容がお客様の船に合致しない場合がございます。漁船、エンジン、艤装品の詳細については必ず最寄りの販売店にてご確認をお願いします。

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