延縄
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
ソデイカ樽流し漁
福島県若狭湾
水面に揚がるソデイカをタモで掬い取り、墨を吐かせた後、イケスに移す
日本海の中でも松葉蟹や甘鯛などで有数の漁場して知られる福井県若狭湾は、晩夏から初冬にかけてはソデイカの樽流し漁が旬を迎えます。一尾がおおよそ10kg前後というソデイカを手繰りで捕まえる樽流し漁は一本釣りと似た独特の勝負感が求められます。
若狭湾の西部にある大島は、古くから半農半漁を営む家が軒を連ねていましたが、原子力発電所が開設されたことで島にも橋が架かり、現在では近畿圏の船宿として人気を博しています。金生丸も休日は釣り客を平日は漁にと休む暇もなく海に出ていきます。
「イカがいるのは水深が150m以上の場所。この時期だとだいたい、20マイル沖ぐらいかな」そう話すのは井ノ本晃一郎さん。漁は晃一郎さんと父、岩雄さんの二人で行います。
漁場に着いたのは午前5時前。陸には越前の街の灯りが輝いています。
「場所は夏の終わりから秋口にかけては、20マイルぐらいが目安。漁の後半はイカも産卵で陸に近くなるのでそれに合わせて場所を移動します。特にここという場所はないけど、大切なのは潮の流れ。早すぎても遅すぎてもいけない。ある程度流れの場所が一番イカの着くところだよ」
岩雄さんがそう話すなか、晃一郎さんが舵を握り、仲間と場所の連絡をしながら潮目を探していきます。
この樽流し漁はひとつの浮きに一本の疑似餌をつけて、一度に50個ほどの仕掛けを投入し、手で手繰りながらイカを揚げるというもの。
「昔は山立てと100尋の糸で場所を決めていたから、ガスがかかった日にはもうせつなくなっちゃったけど、今は魚探もGPSも付いているからね。時化ない限りは毎日出ていけるよ」(岩雄さん)
出航してから1時間半ほど。場所が決まり、おおよそ5~10m前後の間隔で、ほぼ直線に投入していきます。浮きを一通り入れ終わるまで約30分。最後の浮きを入れると、今度は逆戻りで最初の浮きを目指し船を方向転換させるとひとつひとつ当たりがないかを確認します。
「揚げるまでにだいたい3回はイカが潜るから、それに合わせて手繰るのがこつ」道糸を手に取った瞬間にイカの重さが分かる。そう話す岩雄さんの手さばきからは、これまでの漁の経験が滲み出ています。
水面に姿を現したイカはおおよそ5~7kgサイズで、晃一郎さんが素早くタモで回収し、スミを吐かせた後、イケスに入れていきます。
樽流し漁はこの繰り返しで、引き揚げた疑似餌を再び仕掛け直し海に入れる作業が延々と続きます。
「本当は獲れる分だけやっていたいんだけど、漁協が3時までには帰ってきてくれというからね(笑)。だいたい仕掛けのあいだを2往復ぐらいすると終わりです」
最後の仕掛けを入れたのは午前11時。真夏を思わせる太陽の下、井ノ本さん親子を乗せた金生丸が越前の海を軽快に走り出しました。
夜も明けきらない中から漁が始まる。岩雄さんがハリスに疑似餌を付け、晃一郎さんが番号が書かれた浮きを投げ入れる
ソデイカが食いつく疑似餌。無地と赤い線が入ったものを使っているが、漁が少ないときは無地の方が確率がよいという
この日は潮の流れが速いため、漁も普段と比べ少なめ。それでも9kgのソデイカが揚がるなど型の良いものが目立つ
井ノ本岩雄さん。ソデイカを手にすると思わず頬が緩んだ
晃一郎さん。水産学校を卒業後、底曳き船で経験を積む。ソデイカ漁の基本を教えていただいた
<DY-50B>金生丸。30ノットを超えるスピードが漁場を広げる