魚類
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
魚類養殖漁
愛媛県愛南町
マダイは自動給餌機を使用するが、ハマチ、カンパチは餌船による給餌となる。給餌は1回で生け簀二つ分を同時に行っていた
高知県との県境に近い愛媛県愛南町は古くから養殖を中心とした漁業が盛んに行われています。 その中のひとつ、山下水産さんも35年以上前からハマチ、マダイ、カンパチといった魚類養殖を営まれており、100台以上の生け簀を用いてそれらの魚を育成しています。
この日の出荷量は一万四千匹近く。マダイの出荷ではサイズごとに選別し出荷用の篭の中に入れられ、活魚の状態で市場へと送られます。手際よく出荷作業を行う若い従業員にまじって、山下幸一郎社長も検量作業を行っていました。
「今日の出荷は多い方ですね。一日だいたい一万匹が出荷の限度なんですが、どうしてもという注文にはできる範囲で答えていかなければいけない。安定した供給といざという時の対応力が、この商売には求められるんですよ」
山下水産さんでもきめ細やかなオーダーに対応するために12m四方の生け簀を100台以上設置しています。
「昔は魚を育てれば育てただけ販売することができたのですが、今は相場との読み合いですよね。市場がだぶついているときに卸しても値はつきませんし、かといって安定した供給ができなければ買い手が遠のくばかりです」
現在の主力商品はマダイ、カンパチ、ハマチで、このうちの約半数がマダイで占められています。
今回進水した第八十八錦丸で給餌作業を行う若松照喜さんは、この道20年のベテラン作業員で、休日以外は生け簀で給餌を行っています。
「マダイは自動給餌機を使っていますが、カンパチとハマチは給餌船での作業になります。この船以外に2隻の給餌船が成魚の餌を担当しています」
配合飼料とイワシの切り身などの生餌を給餌機で混合させ、生け簀に散布していきます。9時から始まる給餌作業はそのすべてが終わるのはお昼過ぎの2時頃。魚種により養殖期間は異なりますがおおよそ2年前後で出荷するまで、日々の管理が品質を左右するだけに、作業を行いながら生け簀を見つめる若松さんの視線も活発に捕食する魚へと注がれています。
「手塩にかける、といったら大げさかもしれませんが、毎日顔を合わせるだけに愛着もありますよ。やっぱり潮が良くなくて死んでしまったら残念だし、出荷の間まで順調に育つことが、なによりの励みになります」
ここ数年の大型量販店の台頭により、養殖もビジネスとしての趣が一層強まり、柔軟でスピーディーな対応が求められるそうです。
沿岸漁業が資源管理型漁業へ移行する中で、今後もその中心となる魚類養殖には、魚食文化の原動力としての期待が高まっています。
出荷作業は陸の作業員が全員揃った中で行われていた
給餌機は船倉に積まれている生餌を吸い上げ、配合飼料と混ぜ合わせる
2ミリ程度の固形にして生け簀へ蒔かれる
生餌と配合飼料は1:7程度で、これにビタミン剤が加わる。写真はカンパチの幼魚の生け簀で一台につき約350kgの餌が必要
山下孝一郎社長自ら検量作業を行い、最終確認を行う
荷受け性が抜群の<DX-53>。作業時の安定性も申し分ないという